革命前夜

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 356
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902319

作品紹介・あらすじ

1989年、日本の喧騒を逃れ、ピアノに打ち込むために東ドイツに渡った眞山柊史。彼が留学したドレスデンの音楽大学には、学内の誰もが認める二人の天才ヴァイオリニストがいた。正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。冷戦下の東ドイツを舞台に、一人の音楽家の成長を描いた、著者渾身の歴史エンターテイメント。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和が終わった日。
    重く垂れ込める雲も、並ぶ糸杉も、積み木のような団地も、すべてが黒ずんでいる灰色の国、東ドイツ。敬愛するバッハが今なお息づく国。日本からピアノを学ぶために留学してきた眞山柊史がこの国で初めて出会ったデモは、控えめに紙を掲げているだけの静かなものでした。学生ですら声高に叫ぶことをためらうほど、共産圏では反体制と見なされることは、恐ろしいことなのです。季節が巡り、沈黙のデモは形を変えました。自由を、解放を求め数千の群集は口々に我々こそが人民であると想いの丈を叫んだのです。彼らの熱気が歴史のうねりを生み出したのでしょう。ベルリンの壁が崩壊したのです。

    あぁ、この物語自体が音楽なんだ。
    そう感じました。人々が音符となって音楽を作っているのではないか。
    密告するもの、されるもの。自由を求め亡命するもの、国に残って国を変えると決意するもの。音楽に愛されるもの、復讐されるもの。結局どんな選択をしても選ばなかった道を思えば、苦しみからは逃れることは出来ないのでしょう。
    その人々の想いや叫びが音となり、ひとつの旋律となって響き渡るようでした。それは、この国のこの歴史を生きた人々にしか作り出せない音楽。この『革命前夜』なんだと思いました。

    国に残る者、国を去る者。どちらが正しく、どちらが卑劣か。国の中から見れば、この2つしか答えはないのかもしれません。でも、それをこの国でピアノを学ぶことが夢だった、遠い国からきたひとりの留学生から見れば答えは2つではないのかもしれません。柊史がこの物語を語ることで、偏った考えに陥ることなく読むことが出来ました。

  • 東西に分断されていた時代の東ドイツに、ピアノ留学をした男子学生が主人公。共産主義国での特殊な暮らしをとおして、音楽的にも人間的にも成長していく。

    『また、桜の国で』に次いで手に取った本作も、少し前の欧州を舞台に重みのあるテーマを扱った一冊だった。
    例えばオリンピックで東ドイツの選手は強いなどという具合に、東西ドイツの事情には曖昧な記憶しかなく、テレビでは見ていたものの国を分断するベルリンの壁についての知識もいい加減だったことに気づいた。
    留学先に東ドイツを選んだ理由は弱いが、その国の当事者ではなく無知な日本人を主人公にしたことで、共産圏の様子を内外から客観視できたのが効を奏している。

    12月の忙しさを口実に、本は読んでもレビューは後回し。結局年が明けてから、遡って何冊分もまとめて書く始末。いい作品ほど記憶の鮮明なうちに書かないとね…。

  • 『革命前夜』で第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補。
    冷戦下の東ドイツを舞台に、一人の音楽家の成長を描く。
    厚みのあるストーリーでした、教会や街並みをネットで観たり、曲をユーチューブで聴きながら読みました。
    ドイツの街並み、クラシック音楽、歴史がクロスして
    素晴らしかった。

  • 舞台は1980年代末期の東ドイツ。
    ある日本人留学生の目を通して、ドレスデンを中心に描かれるドラマは、実際には書き込まれていない周辺東欧諸国の熱気も含め、まさに革命前夜たる当時の生々しい空気をヴィヴィッドに読者に投げ掛けてくる。
    そして文字通り重く暗雲が垂れ込めているかのような物語中のモノクロームの世界を、明確な映像として見事に表現しており、そこに絡んでくる主題の一つ、旧東欧世界で生き生きと躍動した音楽の存在が、また得も言われぬ素晴らしい役割を果たしている。
    いくつか、主人公の言動がリアリティーに欠けて浅薄に感じられるところがあるものの、今の我々とは異なる時空に生きた人々が大きくて理不尽なうねりに翻弄されていったという事実に思いを馳せるきっかけを作り出してくれる、意義ある一冊だと思う。

  • 音楽の知識が全くなく、音が流れてくるどころか難しい専門用語に突っかかってしまったのが残念だが、面白かった。
    東ドイツの話は何度か映画で見たことがあったが、音楽学校の学生にこんなにも影を落とす監視社会の日常に、より入り込んでしまった。
    イェンツがなぜ最後は李たちをかばったのか。罪に対する罰だとしたら、あれほどまで悪びれもせず身内を監視していた人が、どうして罪を感じているのか。西への憧れがありそうなそぶりは全てパフォーマンスだったのか、それともイェンツの中にも葛藤があったのか。後半にいろんなことがわかるあまり、特にイェンツについてよくわからないまま突然終わってしまった感はある。
    あと、眞山はDDRで色んなことを感じ考えていくようになるが、物語においては水のような感じがした。他の人を引き立たせているが、なぜだかあまり印象に残らない。私だけかな、、?

  • ドイツが東西に分かれ、共産主義と資本主義が世界を二分していた1989年。
    バッハに憧れ、音の純化を目的に東ドイツ(DDR)に留学した日本人ピアニストの眞山は、自由に国境を行き来できず、監視社会である異質な国情に、怯え、精神を削られながらも自身の音を求めてピアノに向かい続ける。

    東西分断の時代、こんな社会だったのかと驚く。
    日本人留学生という異分子の眼を通して、ドイツの、共産圏の歪みや革命へ向かうささやかな波動が描かれていて、引き込まれるように読んだ。

    須賀さん、遠いところまで来たなぁ、と本当に勝手に感慨深く思う。この人がコバルト文庫の雑誌でデビューした作品から知っているけれど、ここまで骨がありながら繊細で美しい話を描くようになるなんて思いもしなかった。

    緑褐色の瞳、という表記に少女小説時代の面影を感じる。
    面白かった。

  • 東ドイツの陰鬱な空気、日本人留学生の寄る辺なさ、降り注ぐ音の煌めき…。趣ある比喩と怒濤の展開から最後まで目が離せない。
    国を捨てるか、それとも留まるか。10代のニナの答えが一際輝いて見えた。
    まさかあの人がスパイだったなんて! 残されていた一欠片の人間性が哀しすぎるなぁ。
    平気で友の信頼を裏切る人が、聴衆の心を揺さぶるすばらしい演奏をする。そんな矛盾したところに、音楽の持つ奥深さと底知れぬ魔力を感じました。

  • 途中で音楽小説から歴史小説へと変貌する。
    前半は読み手に負担をかなり強いる小説だと感じた。専門用語が多すぎる、単純な描写で風景のイメージがしづらい、など。
    読んでいくうちに、あの時代のDDRの閉塞感が伝わり、制約のなかでささやかに抵抗しようとしていた登場人物たちの描写に心情を重ねることができた。
    歴史小説としては満足できるものだと感じた。

  • #読了。2015年大藪春彦賞受賞作品。初読み作家。
    1989年、日本では昭和から平成へと移る際に、眞山柊史はピアノ留学のため東ドイツに渡る。東欧自由化へのうねりの中で、自らの音楽、国に縛られた人間関係に悩みながらも成長していく姿を描く。
    時代が変化する圧倒的な人間の力とともに、音楽の繊細さと力強さが圧倒的な強さで伝わってきた。暗い国・街の中で奏でられる音楽との協調や対比も素晴らしかった。クラシックに造詣が深ければなおよかったのだろうが、面白かった。

  • 一気に読破した。時間のあるときに読むのがおすすめ。

    筆者の筆に乗せられて、作品世界を「駆け抜けた」印象が強い。
    時代が、歴史が、など苦手意識を持っててもするする読めます。というより否応なしに頭の中に入り込んでくる感じ。
    読んでよかった一冊。

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著者プロフィール

須賀しのぶ(すが・しのぶ)
1972年11月生まれ。埼玉県出身、上智大学文学部史学科卒。
1994年『惑星童話』」でコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞し1995年デビュー。2010年『神の棘』で第13回大藪春彦賞候補。2012年『芙蓉千里』三部作によって第12回センス・オブ・ジェンダー大賞受賞。2015年『革命前夜』第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補。2017年、『また、桜の国で』で第156回直木賞候補、第4回高校生直木賞受賞。同年、『夏の祈りは』で「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」1位、「2017オリジナル文庫大賞」受賞。
第100回高校野球記念大会が開催されるメモリアルイヤーの2018年、『夏空白花』が刊行された。

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