長いお別れ

著者 :
  • 文藝春秋
4.02
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本棚登録 : 903
レビュー : 170
  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902654

作品紹介・あらすじ

帰り道は忘れても、難読漢字はすらすらわかる。妻の名前を言えなくても、顔を見れば、安心しきった顔をする――。東家の大黒柱、東昇平はかつて区立中学の校長や公立図書館の館長をつとめたが、十年ほど前から認知症を患っている。長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし、娘が三人。孫もいる。“少しずつ記憶をなくして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行く”といわれる認知症。ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう、迷子になって遊園地へまよいこむ、入れ歯の頻繁な紛失と出現、記憶の混濁--日々起きる不測の事態に右往左往するひとつの家族の姿を通じて、終末のひとつの幸福が描き出される。著者独特のやわらかなユーモアが光る傑作連作集。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は認知症を患っている昇平と介護をする妻の曜子、そして3人の娘たちの10年間を描いた連作短編集。中島京子さんらしいユーモアと優しさにあふれたあったかい介護小説だった。介護と言うと途端に暗くなりがちで読んでいるだけで疲労感が押し寄せてくるものもあるけれど、この小説はあくまでも明るい。

    現実はこんなもんじゃないと心の中で思う一方で、羨ましいと思うのも正直な気持ち。折れることなく夫をまっすぐに思い続ける妻の覚悟もあっぱれだし、なんだかんだと言いつつも3人も娘がいることで気持ちに余裕が出てくるのだと思う。
    これが父ではなく母が認知症になってしまったら、3人の娘ではなく3人の息子だたらそうはいかないだろう・・・、なんて意地悪な思いを抱きつつ読むのもまた楽しかった。

    特筆すべきは一つ一つのエピソードの描き方の巧さ。冒頭の遊園地の場面、同級生のお葬式に参列した時のこと、入れ歯をめぐる冒険、妻の入院などなど・・・。どれもこれもどこかしらほっこりとさせて、深刻なテーマを深刻にさせない作者のさじ加減の妙が素晴らしい。
    さすが中島京子さん。

    まだほんの数冊しか作者の作品は読んでいないけれど、もっともっと読みたくなった。
    とりあえず、「かたづの!」かなぁ。

    • だいさん
      認知症
      介護

      これから(の時代)は、こんなテーマの小説が増えそうですね?
      どちらも、医療ではHOTな話題だから。
      認知症
      介護

      これから(の時代)は、こんなテーマの小説が増えそうですね?
      どちらも、医療ではHOTな話題だから。
      2015/09/04
    • vilureefさん
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      そうですよね、増えそうですよね。
      おまけに私の親も認知症を患っているので、...
      だいさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。

      そうですよね、増えそうですよね。
      おまけに私の親も認知症を患っているので、余計に目についてしまいますね。
      2015/09/04
  • 文句無しに星5つです♪ まさに今風の「恍惚の人」ですね。元中学校長や公立図書館長まで務めた東昇平氏を縦糸にして、徐々に認知症が進行して行く10年間が支え続ける妻や3人の娘や周りの人々の様子を横糸に語られていく、しかも全体にユーモアをまぶしながら。両親の介護体験がある私には何度も頷きながら時に反省しながら読み進めることができました♪ 長いお別れをこんな風に軽く深刻にならずに著していてとても良かったです。介護等が分かる人 通じる人にはオススメの本でした。

  • アットホームな雰囲気な東家。文章や描写がユーモラスでついつい笑ってしまう場面が多かった。とても微笑ましい家族の雰囲気。


    アルツハイマーの東昇平、妻・東曜子、長女・茉莉、次女・菜奈、三女・芙美の10年間の物語。3姉妹が力を合わせて両親をフォローするというのは、恵まれたしあわせなケースだと思う。これが3兄弟だったら…こうはならなかっただろう。きっと嫁たちが出てきて押し付け合い…大変だと想像してしまった。


    不思議な切り口で…まるでアルバムや東家の思い出のショートムービーを見ているかのようで、葬儀の式場で東昇平さんをお見送りする場面が浮かんできました。最後は少ししんみりと切なかった。先日読んだ『ストーナー』みたいに静かに幕が降りる物語だった。




    妻の曜子さんが素敵で面白い。こういうスタンス好き。ふっ切れた明るい介護。よい夫婦関係だからこそだと思う。

    “「自宅で介護するってね、そりゃ簡単なことじゃないのよね」”=179ページ=

    “「だって自宅でぼけっとしてるってわけじゃないんだもの。しょっちゅう他人が出入りするってことなの。そりゃ、いい方たちなのよ。恵まれてると思うの、そこんとこ。でもね、他人が来るとなれば掃除だってしないわけに行かないし、あー、今日は寝坊したいと思ってもできないでしょ」”=179ページ=

    ここすごくよくわかる。激しく共感した。響いた箇所です。


    あと芙美のシーンでも笑ってしまった。
    「結婚とは、そういうものです」=116ページ=


    昔はこういう結婚観を受け付けなかったけど、この歳になってよくわかる。ある種、そういうもんなんだよね…。中島さん書く物語は隅々まで味があっておもしろい!うちに積んでる本も読んでみよう。

  • 老々介護だぁ。
    わが家はまだ両親も元気にしていてくれているので具体的に考えたことはないが、この先あるかもしれない設定にむむむと考えながら読んだ。
    父が認知症、その介護を母が……。
    夫婦ならお互いの面倒をみようと強く思うだろうけれど、近所に住んでいない娘たちにはどうしていいものか。
    本人、介護をしている人の希望も聞かなければならないし。
    元気なうちにあれこれ話し合っておくのが1番かもね〜。
    父親には、いい暮らしだったと思う。

  • じんわりあたためる、炬燵のようないい物語だった。

    中学校の校長や図書館長を勤めあげ
    退任後に認知症になった、
    東昇平さんと家族の十年間の物語。

    だんだんと症状がすすんでいく様子を
    丁寧な物語に包んでありました。

    結構な分量の大変なことも書かれているのに
    ギスギス感が全くないんです。
    入れ歯騒動や、お父さんの椅子ボタン騒動や
    寝室排泄物騒動なども、クスクス笑ってしまいました。

    妻の曜子さん、すごいです。
    曜子さんのように寄り添ってあげることができれば…。

    昇平さん自身もすごいです。
    今あるもの出来ることを駆使して、
    感覚で相手に伝えていきます。

    三女の芙美と父との電話での会話、
    とっても温かかったです。
    そんなこと言われたら…号泣ですよね。
    言葉って意味を超えて、添えた気持ちを届けたり
    できるんですねぇ。

    それと「家へ帰る」とか「嫌だ」とかの発言は
    そういうこともあるのかも知れないなぁと
    色んな場面で考えさせられました。

    このラストの描き方も、本の題名もすごく好みです。
    「くりまらない」で「ゆーっと」する一冊です。

    GPSの名称って、すごいんですね。
    私も地球防衛軍を連想してしまいました。

  • 期待を裏切らない読み応え。二人暮らしの老夫婦と三人の娘たちの話。長女は既婚で子供あり、夫の仕事の都合で渡米中、次女も既婚で子供あり、割合近くに住んでいる、三女は独身でフリーランスで働いており忙しい。父がアルツハイマー型認知症を患っており、母がなんとかかんとか介護しながら暮らしている。少しずつ進行してゆく認知症の症状と介護している母を慮りながらも、自分たちの生活の事情もありつつあれこれ悩みつつ寄り添う家族の様子が、もの悲しいだけでなくユーモアというか暖かみのある筆致で描かれており読み終わるのが勿体なかったです。大変良い本でした。

  • 図書館で予約、結構待たされて、ようやく手元にきました。


    今は亡き義父を思い出しました。

    義母は大変な呆け方をしたのですが、義父は品性を保った認知症だったというか、
    認知症であることを、「悟られないようにするのが上手」で、まさにこの本の中の父親のようで、
    「思ったよりずっとしっかりしてて安心しました」
    なんて会いに来た友人親戚に言われた時期もありました。
    (もうすでにかなりすすんでましたけど)
    ・・・品性を保っていてくれたことは、当時、
    介護する側として本当に救われました。
    (品性を保つこととシモのことはモチロン別です。
    この本も品性を保つこととシモは別になってますね。)

    義父もとても不安だったんだろうな。
    あのときのことを、心の整理をしながら読みました。
    ・・・もしやこの方、親の介護されたことあるか、
    兄弟姉妹が介護していて、ちょこっとだけでも手伝っていたのかな。
    という印象を受けました。しっかり取材されてるんですね。
    便秘になるとあっというまに不穏になるとか、
    そうそう、そうだよねえ・・・。としみじみしたり。
    キレイにまとめてあるけど、
    「介護はこんなモンじゃない、もっと壮絶。こんなの真実じゃない」ってことはないです。
    ハタからみたら、こういう形にみえる介護もあると思います。

    親の介護をする、とは少し離れて、
    「主人を看取る」ことも考えたりしました。
    (ウチは15才近く、夫と年が離れているので)
    もし私が「妻」だったら、こんな風に介護できただろうか。
    とか。
    ・・・この奥さんみたいになりたいものです。

  • 認知症を患ってしまった「先生」の奥さんと、3人の娘と、その家族やらとのかかわりの中で描かれる、ユーモラスで、しあわせな、ちょっぴり切ない、最後の10年の日々。

  • 何か覚えのあるタイトルで既読だ思っていたのですが、レイモンド・チャンドラーの同名小説ですね。

    認知症になった中学の元校長とその介護に明け暮れる妻、そして3人の娘たちの話。
    亡くなった私の祖父や父母の時の思い出や、将来の自分達夫婦のこともあって、少々身につまされて、むしろ暗澹たる気分で読み始め。でも途中から面白くなってきました。何なんでしょうね、この中島さん特有のユーモアは。真面目にシリアスな話題を取り上げても、妙な可笑しみがにじみ出てくる。
    さらりとしたエンディングで心地よく読了。

  • 定年退職し、3人の娘も独立、妻と平穏な隠居生活を送っていた元教師。認知症と診断された彼を中心とする妻や娘たちとの家族ドラマを描いた連作短編集。認知症家族の介護という現代の重いテーマをとりあげているが、深刻さはなく、どことなくユーモラス。10年間もの介護の時間を「長いお別れ」と称して、皆が楽しんでいる風。

    作者の言いたいことは、介護老人を抱える家族にだって、介護以外にそれぞれの人生があるってことなんだろう。高齢出産や子供の不登校、海外生活、失恋、自身の病気、そして「3・11」、家族の中心話題は常に認知症老人じゃない。妻や娘、義理の息子たちはそれぞれ人生の問題を抱えつつ、その時々で介護に向き合いながら生きている。

    夫が家族のことを忘れていくことに周囲は同情するが、妻は「それがどうした」と言い放ち、世話を続ける。そんな割り切りができる強さが、介護には必要なんだろう。

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著者プロフィール

中島京子(なかじま きょうこ)
1964年東京都生まれの作家。『FUTON』でデビュー。著書に『小さいおうち』(直木賞)、『かたづの!』(河合隼雄物語賞・柴田錬三郎賞)、『長いお別れ』(中央公論文芸賞)等。2019年5月15日、新刊『夢見る帝国図書館』を刊行。

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