原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902692

作品紹介・あらすじ

広島の平和記念公園の片隅に、小山のような塚がある。「原爆供養塔」だ。地下には引き取り手のない原爆被害者の遺骨が収められている。その数、七万柱。訪れる人もまばらなこの塚を、半世紀にわたって守ってきた「ヒロシマの大母さん」と呼ばれる女性がいた。95歳の佐伯敏子さんは供養塔に日参し、塚の掃除をし、訪れる人に語り部として原爆の話をしてきた。佐伯さんも被爆者のひとりで、母を探しに投下直後の広島市内に入って放射能を浴び、原爆症に苦しむことになった。佐伯さんと供養塔との関わりは、養父母の遺骨が供養塔で見つかったことがきっかけだった。納骨名簿を調べ、骨壺を一つ一つ点検し、遺骨を家族のもとへ返していく作業を、佐伯さんは一人で続けてきた。その姿勢が行政を動かし、多くの遺骨の身元が判明した。しかし、1998年に佐伯さんは病に倒れ、寝たきりになってしまう。著者が佐伯さんと出会ったのは、そんな矢先だった。佐伯さんの意志を継ぐかのように、供養塔の中の、名前が判明している「816」の遺骨の行方を追う作業を始める。名前、年齢、住所まで書かれているのに、なぜ引き取り手が現れないのか? そんな疑問から始まった取材は、行政のお役所的対応やプライバシーの問題、そして70年の歳月という分厚い壁に突き当たる。しかし、著者は持ち前の粘り強さを発揮し、遺骨の行方を一つ一つ追っていく。すると、存在しないはずの「番地」や「名前」が現れ、祭られたはずの死者が「実は生きていた」など、まるで推理小説のような展開を見せる。また、名簿のなかの朝鮮人労働者の存在や、遺骨をめぐる遺族間の争いといった生臭い現実にも直面することになる。さらに、あの劫火の中、死者たちの名前を記録した少年特攻兵たちの存在も分かった。あの日、広島で何が起きたのか? 我々は戦後70年、その事実と本当に向き合ってきたのか。これまで語られることのなかった、これはもう一つのヒロシマ、死者たちの物語だ。目次序 章第1章 慰霊の場1さまよう遺骨/2原爆供養塔の建立/3迷惑施設になった死者の塚/4漁協ボスの涙第2章 佐伯敏子の足跡1シャギリの音/2置屋からの脱走/3道場荒らし/4結婚そして母との和解第3章 運命の日1八月五日/2八月六日/3八月七日/4一族一三人の死/5母の首/6再会した家族/7原爆症の日々/8原爆供養塔第4章 原爆供養塔とともに1義父母の遺骨/2原爆供養塔の地下室/3遺骨を家族のもとへ/4自分の言葉を持つ/5姉たちとの和解第5章 遺骨をめぐる旅1二〇〇四年夏、似島/2二〇一三年、広島/3納骨名簿/4運命をわけた二人/5過去帳の中の戦死者/6ある弁護士の足跡/7製鐵所のある町で第6章 納骨名簿の謎1「おうとる方が不思議よね」/2少年特特攻兵の記憶/3似島の少年兵/4動かなかった海軍兵学校/5無縁仏七万柱の根拠/6父をさがして第7章 二つの名前1成岡のヤマモトさん/2名簿の中の朝鮮半島出身者/3朴さんの長い旅第8章 生きていた“死者”1従軍看護婦の遺骨?/2運命のいたずら/3戦争の不条理は非力な人々に/4まだあった納骨名簿の生存者/5課長の覚悟/6語られなかった戦後第9章 魂は故郷に1沖縄から来た兵士/2返っていた遺骨/3黒い雨』の里で/4家族の記憶終章

感想・レビュー・書評

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  • 原爆によって悲惨な家族の変遷を経験された佐伯さんの、「強ければ相手に優しくできるでしょ」という言葉の数々。丹念に記録を精査し調査に動き、その一文字に、文章に、力を込めた著者の伝えなければという思い。
    そしてあの日、広島に存在して、亡くならなければならなかった方々の無念。その肉親を失った家族の慟哭。

    2021年7月、1945年8月6日のその日に思いを馳せる。

  • その人 佐伯敏子さんを突き動かしたもの。かぞえきれない人が殺されたとき、一人一人の人生が突然終わらせられたはずなのに、一人一人の痛ましい死はどこかに取り残されてしまう。
    それが佐伯さんに突き動かされる書き手によって明らかにされて行く。

  • 広島がヒロシマになった日のこと。70年経っても80年経っても次の世代に手渡していかなければ、とそう思う。
    広島の人にとっては8月6日が終戦だ、という言葉に、あの一発の爆弾によってもたらされた想像を絶する苦しみと悲しみが込められている。

    あの日まで、たくさんの人がそこで普通に生きていた。明日もきっと同じ日が続くと信じて。
    なのに、その明日はもう二度と来ない。一瞬で奪われた多くの命をひとまとめにして語ることはできない。そこにはひとりひとりの人生があったのだから。

    子どものころから何冊も原爆の本を読んできた。読むたびに苦しくて悲しくてそして怖くて。もう二度とその苦しみを現実のものとして感じることがないように、佐伯さんたちの言葉を次の世代に手渡していかねば。あと数十年で戦争を知っている世代がいなくなってしまう。そうなる前に、私たちにできることを、考える。

  • 2015年7月、広島市は氏名が判明しながら引き取り手のない遺骨
    815柱について、遺族やゆかりのある人を探す作業をすると発表
    した。

    人類初の原子爆弾の実験場になった広島。強烈な熱線と放射能を
    浴び、犠牲になった方々の遺骨が納められているのが平和記念
    片隅にある原爆供養塔だ。

    ある時から、そこに毎日姿を見せる小さなおばあさんがいた。佐伯
    敏子さん。自らも被爆し、内臓のあらゆるところにがんを発症した。
    しかし、彼女は原爆供養塔を掃除すると共に、その地下に安置され
    た引き取り手のない遺骨の遺族を探し続けた。それも、ほぼ独力で。

    現在、原爆供養塔の前に彼女の姿はない。雨の日も、風の日も、
    原爆供養塔に通い、修学旅行で訪れた生徒たちに被爆体験を
    語った佐伯さんは高齢者向けの施設に入所している。

    著者は佐伯さんの想いを引き継ぐ。遺族を探す過程とその顛末、
    そして遺骨になったであろう人の歩んだろう道筋を丹念に描いて
    いる。

    広島と長崎の原爆投下については、本も読み、写真も見、映像も
    観て、テレビニュースやドキュメンタリーを通じて知っているつもり
    になっていた。

    だが、それはあくまでも「つもり」だった。何も分かっちゃいなかった。
    そもそも原爆供養塔の地下に、多くの遺骨が眠っていることを
    まったく知らなかった。

    そして、その遺骨となった人、ひとりひとりに1945年8月6日8時15分
    まで、それぞれの人生があったことに思い至らなかった。

    膨大な数の死者数。数字として表せばなんとも味気ない。だが、そこ
    には生きた人の証しがあり、家族があった。今まで、ひとりひとりの
    背景にまで考え及ばなかった浅はかさに気づかされた。

    原爆供養塔を守り続け、死者と生者を繋ごうとした女性の執念、
    そしてその女性に対する著者の誠実さ。濃密で緻密なノンフィ
    クション作品だ。

    あまりの濃さに、この作品をうまく語れない。とにかく読んで欲しい。
    戦争を、原爆を、知りたいと思っている人すべてに読んで欲しい。

    「戦争という現場では、決断を下す者と、その結果を引き受ける
    者はいつも異なる。彼らの存在は記録に残されていないどころか、
    あまりに膨大な日本人の犠牲によって上塗りされてしまったよう
    にさえ思えるのである。」

    「戦争がもたらす不条理は、いつも非力な立場にある人たちへと
    押し寄せる。究極の戦乱におかれた時、戦争指導者は国民の命
    を最優先するだろうか──。そんな疑問を、現代へと照射しない
    ではいられない。」

    著者の言葉を噛みしめる。そうだ、この供養塔に眠る人々は
    原爆で「死んだ」のではない。「殺された」のだ。

    尚、原爆供養塔の地下には氏名の分かっていない多くの人の
    遺骨も眠っている。

  • 原爆納骨安置所に眠る七万人もの遺骨。
    〈ここに眠るのは『神』でも『仏』でもなく『人間』である〉
    骨箱には遺骨と一緒に遺品が添えられているものもある。
    広島の大母さんと呼ばれる佐伯敏子さんは、そのわずかな手掛かりを元に遺骨を遺族に届けてきた。
    原爆が投下され亡くなった方は14万人。
    ひとり、ひとりに名前があり、生きていれば違った人生があったはずだ。
    〈死者の時間はそのまんま。あの日から何にも変わってはおらんのよ。〉と、佐伯さんの言葉。
    ジャーナリスト、堀川さんの粘り強い取材に頭が下がる思いでいっぱい。

  • 原爆慰霊碑の奥に遺骨を納めた供養塔がある。慰霊碑の他になぜこのような場所があるのか、不思議に感じたことを思い出した。
    その答えをこの本で知った。
    供養塔ができた経緯、供養塔を守る主人公の女性の半生。そしてその後を継ぐような著者の行動。そして、その中で語られる被爆者の物語。
    題材の切り口、取材力、文章力が相まった、素晴らしいノンフクションの一冊。迷わず5つ★。

  • 遺骨や位牌の数え方が「柱」と言う事をここで初めて知る(恥)。
    引き取り手のない遺骨だけに、当時

  • 永山則夫といい、本書といい、重いテーマをどうしたら書き続けることができるのだろう。評価をすることはできない。

  • (7/8一読、7/11二読)

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著者プロフィール

1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。

「2021年 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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