水死人の帰還

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902753

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  • じいじい、ばあばあばかりが残った、浦を抱く小さな漁村。いたずらものの猿たちや、えびすさんまで登場し、まるで日本昔話の世界。なのにそこは、むせかえるほどに濃厚な血とセックスと汚物の匂いに包まれていて読む者をたじろがせる。
    しかし考えてみれば、かちかち山にせよ猿蟹合戦にせよ、おとぎ話というものは最初から生臭いものであった。それを、せっせと消毒液を吹きかけて無味無臭のものにしてきたのは近代社会の方であったのだ。
    無害な年寄り、のどかな田舎町の表皮の下で、暗く淀んだ隠微な衝動は消えずうごめいているのだが、村の伝説に伝わる娘殺しと、出征したオジイが戦地で犯したレイプと殺害が絡み合い混じり合うように、この再生産される性と暴力は、近代化と二分化されるような異質な前近代的ムラの神話に還元されることもなく、不穏な脅威の力を発揮し続ける。『にぎやかな湾』ではまだ穏やかだった「浦」の世界、小野正嗣が本当に描きたかった部分とはこれだったか。

著者プロフィール

1970年大分生まれ。東京大学大学院単位取得退学。パリ第8大学文学博士、現在、明治学院大学文学部フランス文学科専任講師(現代フランス語圏文学)
著書に『水に埋もれる墓』(朝日新聞社、2001年、第12回朝日新文学賞)
『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞社、2002年、第15回三島由紀夫賞)

「2007年 『多様なるものの詩学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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