羊と鋼の森

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 7462
レビュー : 1236
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902944

作品紹介・あらすじ

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭──────
     森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
     問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が下りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
    ─────────

    また小説を読んで泣いてしまった……。
    自分が涙もろくなったのか、それとも作家の方々が素敵な作品を書くようになったのか。

    “枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、美しいものであると同時に、あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。あたりまえであって、奇跡でもある。きっと僕がきづいていないだけで、ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。”(P20)

    “ピアノの基準となるラの音は四百四十ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。(中略)日本では、戦後になるまで四百三十五ヘルツだった。もっと遡れば、モーツァルトの時代のヨーロッパは四百二十二ヘルツだったらしい。(中略)最近はオーケストラの基準となるオーボエのラの音が四百四十四ヘルツになってきている(中略) 変わらないはずの基準音が、時代とともに少しずつ高くなっているのは、明るい音を求めるようになったからではないか。わざわざ求めるのは、きっと、それが足りないからだ。”(P97~98)

    北海道の山間の集落、大自然の森の中で中学まで暮らしていた少年、外村君。
    中学時代、体育館にあるピアノの調律のためにやって来た男性が出した不思議なまでの音色に心を動かされ、彼は調律師を志す。
    調律師の学校を卒業した彼は、自分を魅了した調律師、板鳥さんと同じ職場に就職し、調律師の仕事を始める。

    その過程で感じる多くの疑問と苦悩。
    調律とはなにか? 
    ピアノとはなにか? 
    音楽とはなにか? 
    自分はどういう調律師を目指せばよいのか? 
    自分は本当に調律師になれるのか?

    それとともに、
    どんな目標を持って生きるべきなのか? 
    自分の人生に夢や希望などあるのだろうか?

    “才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”(P224)

    周囲の人たちの温かい目に見守られ、彼は日常の調律の仕事で出会う様々な光景から、それらの答えを模索し続け、探し当てる。
    彼の前に現れた可愛い高校生のふたごのピアニストが抱く葛藤と絡み合わせながら。

    “もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。”(242P)

    随所に現れる珠玉の言葉が胸に沁みわたる。
    優しい言葉、優しい心の持ち主によって綴られた美しい話。

    様々な場面、主人公の語り、ふたごの女子高生の思い、その他登場人物の台詞などが透き通るように真っ直ぐで、何故か何度も涙が零れる。

    広大で、でも静謐な森の中の澄んだ空気を深く吸い込みながらゆっくり散策しているような、心に沁みわたる優しい物語。

    胸に刻んでおきたいような言葉がありすぎて、引用が多くなりましたが、素晴らしい小説。
    これまで読んだ宮下さんの作品の中でも最高傑作。
    お薦めです。

    2015年下半期直木賞候補作。
    何故に受賞に至らなかったのか、選評者の意見を読みたいと思ったが、「文藝春秋」が貸し出し中で読めず。その選評を読んで後日追記したいと考えています。

    • koshoujiさん
      私も宮下さんの作品の中では一番です。
      私も宮下さんの作品の中では一番です。
      2016/03/24
    • koshoujiさん
      本屋大賞受賞しましたね。
      宮下さん、おめでとうございます。
      本屋大賞受賞しましたね。
      宮下さん、おめでとうございます。
      2016/04/13
    • vilureefさん
      koshoujiさん、こんにちは。
      すっかりご無沙汰しておりました。
      頂いたコメントにも返信できずごめんなさい。

      色々バタバタとし...
      koshoujiさん、こんにちは。
      すっかりご無沙汰しておりました。
      頂いたコメントにも返信できずごめんなさい。

      色々バタバタとしていてそのせいなのか、良本に出会いせいなのか読書スランプ気味で・・・。
      またボチボチと再会していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

      本屋大賞、やりましたね。
      地味な作家さんで実力の割に日の目を見ない宮下さんだっただけに、嬉しいです♪
      2016/06/20
  • じんわりとあったかくて優しくて、この物語の森の中から抜け出てしまうのが哀しい。ずっと羊と鋼の森の中にいたいのに、いられない辛さ。
    ぽつりぽつりとしか宮下奈都さんの作品は読んでいないけれど間違いなく一番好き。
    淡々とした静けさに一本の光がやわらかく差しているような感覚がたまらなかった。

    物語は一人の少年がピアノ調律師の世界に魅せられるところから始まり、一人前の調律師へ一歩一歩近づいていく様が描かれている。
    彼の夢を目指すひたむきさ純朴さに胸を打たれ彼を励まし続ける周囲の人々に癒され、大きな展開はないもの物語の森へすっかり迷い込んでしまった。

    才能とは何なのか、努力とは何なのか。
    ここで描かれるのはピアノ調律師ではあるけれど、夢に向かって頑張っている人、頑張りつつも迷いがある人、そんな人が読んだら絶対に励みになると思う。

    調律師が主人公の小説は前にも読んだけれど、今回ほど調律師の世界に魅了されてしまうことはなかった。この物語は脇役であるピアノ調律師の奥深い世界を余すことなく描いていて自分自身がピアノの世界を知らないことに歯がゆくなった。

    物語そのものももちろん、タイトル『羊と鋼の森』、それから装丁もすばらしい。全てが一体となって宮下さんの新しい世界を作り出している。
    タイトル初見で、「何、このタイトル?」と思った自分が恥ずかしい。

    • koshoujiさん
      ご無沙汰しております。<(_ _)>
      この本、最高でしたね。最近読んだ本ではベスト。何度も涙が零れました。
      宮下さんの最高傑作と思ってい...
      ご無沙汰しております。<(_ _)>
      この本、最高でしたね。最近読んだ本ではベスト。何度も涙が零れました。
      宮下さんの最高傑作と思っていましたが、何故か直木賞は落選。
      しかし、その代わりに昨日「本屋大賞」を獲得。
      いつも優しく温かい筆致の宮下さんの作品が
      これをきっかけに脚光を浴びることを願っています。
      2016/04/14
  • もしかしたら、
    すごい世界に生まれついたのかもしれない。

    何もかもを与えられているんだ。
    ただ私が見つけられていないだけ…。

    そんな幸福感の中で、本を閉じました。

    高校生の時、学校のピアノの調律に偶然立ち会い
    衝撃をうけてその道をすすむことになる
    新米調律師のお話。

    フォローさせていただいている方々のレビューで
    ずっとずっと気になっていた作品ですが
    ピアノや音楽と縁遠い生活の私が理解できるのかと
    ちょっと不安が大きかったもので。
    (宮下奈都さんの作品も初読みでしたし)

    なんのなんの。全く問題ありませんでした。
    ピアノの調律の話であるのに、
    主人公の苦悩や、先輩調律師たち、
    調律してもらうピアノの所有者たちの話は
    私にも通じるものが沢山沢山あるんです。

    調律されて共鳴し連なっていくピアノたちのように
    私の心も自然と整えられて、いい状態のどこかへ
    繋がった感覚があり、とても気持ち良かったです。

    私自身…だいぶ歪んでいましたね。
    でもそれもピアノと一緒で
    生きていればここに居続けるだけで
    自然と起こってしまうこと。

    いい本を見つけました。
    歪んでもまたこの本に調律してもらえば
    いいんですから☆

    羊ってすごいんですね。素敵な字の元だなんて。
    …できれば未年の間に読みたかったなぁ…なんて。

    ピアノもすごい。
    調和のとれた森に会いに行きたくなります。

    コツコツコツコツやって、
    今年どれだけ溶けている「美しい」を取り出せるか。
    なんだか楽しみになってきました。

    • kanegon69 さん
      私も宮下さんの作品初でしたが、こんなに美しい小説自体、初めてでした。そうですね、人間もいい本や映画に出逢えればきっと素敵な音をまた奏でますよ...
      私も宮下さんの作品初でしたが、こんなに美しい小説自体、初めてでした。そうですね、人間もいい本や映画に出逢えればきっと素敵な音をまた奏でますよ!
      2019/02/11
  • 静謐で、崇高なまでの音の世界にひたることができました。

    才能があるとかないとか、そんなことは問題ではなく、
    一人の調律師の”音”に憧れ、
    迷いながらも信じる道をひたすら進む外村。
    その純粋さが羨ましくなるほどでした。

    不器用な人が、自分なりに模索しつつ成長していく話って、好きなんですよね。

    そして表紙が可愛い~♪
    読んでいくうちに楽譜の上の羊たちが
    ピアノの音にあわせて、ぴょんぴょん跳ねそうに見えてね。

    最後に鍵盤に触れたのがいつだったか、思い出せない私ですら、
    無性にピアノが弾きたくなってしまいました。

    いや、弾くというより、ぽーん。ぽーん。と鍵盤をたたいて、
    その響きを感じてみたくなった、と言った方がいいのかな。

    今まで読んだ宮下さんの作品の中でも、
    特に好きな一冊になりました。

    • けいたんさん
      こんばんは(^-^)/

      私もこの作品早く読まなくちゃ!
      杜のうさこさんのレビュー読んでますます読みたくなっちゃった。
      伊坂さんと...
      こんばんは(^-^)/

      私もこの作品早く読まなくちゃ!
      杜のうさこさんのレビュー読んでますます読みたくなっちゃった。
      伊坂さんとどちらを先にしようか迷うわ。

      宮下さんの作品でも特に好きな作品だと書いてあるのがこの作品の素晴らしさを表していていいわぁ(^o^)v

      こちらも待っててね〜♪
      2015/12/05
    • 杜のうさこさん
      けいたんさん、こんばんは~♪

      この本、ほんとに良かったよ~。
      けいたんさんも、きっと感動してくれるんじゃないかなって。

      それと...
      けいたんさん、こんばんは~♪

      この本、ほんとに良かったよ~。
      けいたんさんも、きっと感動してくれるんじゃないかなって。

      それとお返事に書いてくれた『あなたへ』読んでみた~い。
      凛…楽しみ♪
      お互い読みたい本が次々とできて、困ってしまうね。
      嬉しい悲鳴だわ(#^^#)

      オカマさんも一緒♡
      私たち好きなものが似ている「ゆかいな仲間♪」って感じだね!

      それと今日見てたドラマに、
      主演の天海さんが『ナオミとカナコ』読んでるシーンがあって、
      けいたんさんも今頃…って思っちゃった。

      いつも優しくしてくれてありがとう♪
      こちらこそ、これからもずっと仲良くしてね(*^-^*)
      2015/12/07
    • けいたんさん
      私もとても嬉しいよ!
      これからもよろしくね♪

      うさちゃん、頭いいねぇヾ(≧∪≦*)ノ〃
      レビュー書いてないのなんてあったんだ、私(...
      私もとても嬉しいよ!
      これからもよろしくね♪

      うさちゃん、頭いいねぇヾ(≧∪≦*)ノ〃
      レビュー書いてないのなんてあったんだ、私(笑)
      では、お互い消し消ししましょう。
      2018/06/27
  • 最近、活字の細かい本のピントが合いづらくなってきた。
    (げ。これが老眼、というものだろうか?!)
    私は不安になった。
    老い、に対するソレでは無く、
    将来、本が読めなくなる事への不安が、だ。

    目の機能の衰えのせいで
    本が読めなくなるのなら、
    その先の人生に何の意味があるだろう?
    ちょっと前に
    「まだ来ぬ不安に対する心配など、何の意味も無い。」
    と、枡野住職の本で学んだばかりだと言うのに、
    全く私の学習能力の低さには
    自分自身あきれるばかりである。

    そんな私を見捨てずに
    この物語には
    「物語」が活字の中にばかり存在しているのではない事、
    どうしても、と求めるものは
    宝箱の中ばかりでは無く、
    本の中ばかりでは無く、
    どこにでも存在している事に気がつく感性をほおっておくべきではない事。を、教えてもらった。

    物語の中に綺麗なメロディーが流れる。
    目を閉じて、
    私は見た事も、行った事も無い場所の風景を思い浮かべる。
    音を捉えていない耳でも、
    活字を捉えきれない目でも、
    不思議とコロコロ、物語は(聞きたい)と言う欲求が拵えた道を見つけて必ずやって来てくれる。

    物語の主人公であるピアノの新米調律師の外村には、
    板鳥さんの様な天才的な感性も才能も無いかも知れない。
    でも、それがなんだと言うんだ。
    …と、突っ走る頑固な勇気が人生にもたらしてくれるものは大きいんだなぁ、としみじみ感じた。

  • 外村君という山奥で自然と共に暮らす高校生が、先生に頼まれて案内した板鳥さんが体育館でつくり響かせた森にいるような音に魅せられて、おなじ道を選び、ピアノの調律師になって江島楽器の後輩として成長してゆく物語。

    「また、桜の国で」もネタバレしています。↓

    この本の前に読んでいた「また、桜の国で 」では、森は悲しみの象徴でした。
    カディンの森でポーランド将校達22000人を1940年にソ連兵が殺害した事件や、パルミーリの森で聖職者や教育者、影響のある人物をナチスがひそかに繰り返し殺害していた事件、ナチスが待ち伏せしていて慎を死に追いやったのもワルシャワ郊外の森。森って聞くと苦しかった。
    流れてくるのはショパンのエチュードでリンクしているのですが、森は、この作品では輝きが集う場所です。
    森は世界であり許しと調和の象徴であり、重なりあう響きがひとつに帰る場所。モーツァルトの時代なら422hz、今は440に整えられた美しい個が響きあう場所。その優しく美しい森に響く音を紡ぎたいなぁ。羊と鋼の森のこの森に、私もそっと小さく座っていられたらどんなにかステキだなぁって思いました。

    傷んだ気持ちが、ところどころにちょこんと咲く優しい言葉の森にも慰められました。

    そのなかで、調律に正解はない、正しいという言葉に気をつけなさい、とイタドリさんに諭された主人公が、ありふれた、でもそこにあったものに「美しい」をみつけた、気づいたところで、ユンディ・リーのピアノやパールマンのバイオリンに出会った時のことを思い出しました。その曲が聞きたい、じゃなくて、この音が聞きたいという気持ち。好きのこだわりという我はそのまま個性なのだから大切に磨くべきものです。そのために彼が伸ばし広げた枝や葉、磨く努力は、いつか森の輝きの一部になってゆくのかなぁって思います。

    ギリシャ時代は、天文学と音楽が文学だった。そして、星座と鍵盤の数は、おんなじ88っていうところは、
    空と大地が溶けあうようなドキドキを想いました。

  • 久しぶりに、なんて美しい小説なんだろうと、鳥肌がたちました。小説中に出てくるいくつもの表現が実に繊細で美しい、まるで最上質なベルベットのような表現で囲まれています。

    物語は山の村から町に降りてきた純朴な17才の高校生が、一人の天才的な調律師と講堂で調律している場面に遭遇し、自分の目指すべき道と直感して進路を決めていくところから始まります。

    登場人物が皆なんと穏やかで優しさに包まれていることか、読む者を暖かさが包み込みます。

    主人公が調律師として葛藤していく姿、なかなか上手くいかずキャンセル続きの中で、自分探しをしていく心理描写が見事です。

    最後のシーンはもう感動して鳥肌が立ってしまいました。あぁ、なんていいエンディングなんだろう、、余韻に浸れる秀作です。

    • mariさん
      kanegon69さん、こんにちは。
      この作品、私にとっては 想い入れが強すぎて、実は
      映画化されても、大好きなのに観ることができなかっ...
      kanegon69さん、こんにちは。
      この作品、私にとっては 想い入れが強すぎて、実は
      映画化されても、大好きなのに観ることができなかったのです。

      でも、レビューを読ませて頂き、
      やっぱり この世界観と作品が大好きだったこと、想いだしました。

      ありがとうございました。
      「マチネの終わりに」のレビューも、楽しみにしています☆
      2019/02/10
    • koshoujiさん
      初めまして。フォローありがとうございます。リフォローさせていただきました。この作品はまさに”美しい”というしか表現しようがない小説だと思いま...
      初めまして。フォローありがとうございます。リフォローさせていただきました。この作品はまさに”美しい”というしか表現しようがない小説だと思います。宮下さんの最高傑作ですね。これからのレビュー楽しみにしております。<(_ _)>
      2019/02/10
  • 読み終わったのは一週間くらい前だけど、この世界観に浸っていたくてなかなか感想をかけなかった笑

    『ピアノに出会うまで、美しいものにきづかすにいた。知らなかった、というのとは少し違う。僕はたくさん知っていた。ただ、知っていることに気づかずにいたのだ。』
    この文章から、一気にこの美しい世界にググッと引き込まれました。
    宮下さんの何気ない風景の描写や、心情描写、大好きです。

    仕事の中に「美しさ」を感じられるって、なんて幸せなんだろう。そこから繋がっていく世界は、なんて美しいんだろう。

    好きで選んだ仕事だけど、才能はない気がする…。
    はい、それ、私です。
    好きだし、もっと学びたいし、もっと知りたい。
    でも怖いし、迷うし、上手く出来ない時もある。
    でもこの道で生きていきたい。
    仕事への向き合い方へのヒントをくれた本でした。

  • 宮下奈都さんの本は3冊目。
    「明るく静かに澄んで懐かしい」「少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている」「夢のように美しいが現実のようにたしかな」これらは主人公がつくりたいと願うピアノの音をあらわす言葉だけれど、宮下さんの文体はまさにこのような形容詞があてはまると思う。流れるようなのにちゃんと心に残る物語。

    世界に溢れている美しいものを取りだして音楽にすることができるピアノ。そのささやかでダイナミックな作業に関わることへの喜びや畏れ、迷いが丁寧に描かれていた。
    こつこつ、こつこつ。目指す場所を探しながら、一歩ずつ森の中を歩く。最後にたどり着けるとしても、たどり着けないとしても、それでも歩き続けるという確固たる意志が胸を打った。

    そして、主人公にとってはピアノであり調律であったのだけど、世界にかくされた美しいものと繋がれる媒体ってピアノのほかにもきっと私たちの周りに溢れている。そう思わせてくれた。
    なかなか時間がなくてずっと弾けていないけど、家のピアノの蓋をまたあけてみたいと思う。

  • 2016年、本屋大賞受賞作品。

    こころを揺さぶられる、何かに 出会う。
    理由なんてなくても、これだ、と感じてしまう。

    自分の心に正直に生きるほど、
    人生には、そのような瞬間が、たくさんあるのかもしれません。

    才能も、特別な素養もないのに、
    ピアノの調律師になることを決意した 主人公・外村くん。

    その道を選んだ理由が、常識や理屈ではなく
    本能的であればあるほど
    きっと 心に 多くの葛藤を 生むのだと思います。

    けれど いちばん 大切なのは、
    才能があるとかないとかじゃなく、

    そこにかける 想いと
    日々のすべてを 丁寧に、コツコツと生きること

    そのなかで見えてくる、自分らしいやり方
    自分だけの 確かなものを 手にすること。

    そういう、全うな 生き方が
    実は、人生を左右する 大きな要素であることを、この本は、教えてくれている 気がします。

    私の心にずっと残っているのは、原民喜の文章の一節。
    「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」

    この文章は、私の憧れです。

    そして、和音のピアノが 響くように
    調律に情熱を注ぐ 外村くんと

    それらに支えられて、光のような音を奏でる和音が

    その関係性と、想いと 現してゆくものが
    とても、美しいです。

    これから仕事に就く人、今 仕事で迷っている人、そして、人生をしあわせに 生きたいと願うすべての人に 読んでいただきたい一冊です。

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著者プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。
代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月に映画公開される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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