羊と鋼の森

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 7599
レビュー : 1258
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902944

感想・レビュー・書評

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  • 初読みの作家さん。本屋大賞で話題に登らなければ、手に取ることはなかっただろうと思う。
    ページ数243枚。決して長くないこの本で、特に主要人物の誰かが亡くなるという悲劇もない中で、心を動かされ涙した数少ない本の一つとなった。
    読了後再度読み返すと、心に余裕ができたのか、文章の美しさや表現の巧みさにも感心する。
    グランドピアノの蓋を開けるのを、大きな黒い羽根を持ち上げるようだ、と表現したところ(ああ、わかるわかる!)と思いながら読んだ。
    主人公、板鳥さん、柳さん、秋野さん、登場人物の誰もがそれぞれに前向きで、調律師という仕事が本当に好きなんだ、と羨ましく思えた。
    羊と鋼…!タイトルも秀逸。私も、幼いころから調律の時傍でじっと眺めていたので!
    すばらしい本に出会えた事を感謝する。宮下奈都さん、ありがとうございました。

  • 内容の豊かなお話しの展開で、私的に、今の自分の気持ちに刺さる、外村くんが感じている気持ちの描写がたくさんあって
    グサっグサっときて、今までつかえていたいくつかのことが通ったような…
    とても心に刺さった作品でした。
    調律師さんの世界は、深い、豊かで深い、世界。
    宮下奈都さんの作品は、
    『窓の向こうのガーシュウィン』と2冊目でしたが、
    もっともっと読んでみたいと思いました。

  • (羊の森はわかるけれど、鋼の森ってなんだか工場みたい)と思って手に取った本。
    でも羊は牧場か高山にいるもので、森にはいないはず。
    宗教的な比喩か、心理小説かと思いましたが、実際はそのどちらでもありませんでした。

    茫漠とした空虚感を抱える少年が、学校にやってきたピアノ調律師との出会いを経て、自分もその道に進む決心をします。
    このファーストインプレッションの描写がとても印象的。形のない音楽を文章にするのはとても難しいことだと思っていますが、それまでのモノトーンの世界に色がついたような主人公の感激がはっきりと伝わってきます。

    そうして調律師としての道を歩み出した主人公。
    自分の耳と勘を頼りに正確な音に直していく仕事の重圧にさらされ、自分の資質を疑いながらも、彼は愚直なほどにその道を邁進していきます。

    様々に悩み迷う彼の思考の中に、羊と鋼の森は登場します。
    彼の中に常に存在している、出口の見えない深い森。
    その森はどれくらい深いのか、出口があるのか、正しい道を歩いているのかと考えながら、彼はこつこつと経験を重ねていきます。

    挫折がきっかけだったり救いを求めた結果だったり。
    同じ調律師仲間でも、抱えるバックグラウンドとこの職に就いたきっかけは、それぞれに違っています。
    でも誰もがプロ意識が高く、一音一音に対してすこぶる真剣。
    真面目だからこそのプライドと、理想と現実との妥協点が必要な職業なのだと知ります。

    こうした専門性の高い職業は、経験がものをいうため、新人は壁を乗り越えるのが大変。
    主人公が思いつく限りの勉強をして、生活のほとんどを調律の技術向上に捧げているのは、学生の時に知った果てしのない羊と鋼の森に、もっと深く分け入りたいと考えているから。

    彼が強い感銘を受けた瞬間は、作品内でニ度訪れますが、もう一つのシーンもまた、印象深く語られます。
    それは、顧客である双子の少女の片方の演奏を聴いた時。
    一般的にはもう一人の華やかな演奏の方が好まれるのですが、静かな方の演奏を糧に、主人公の仕事へかける熱はさらに高まります。

    依頼をする客も、それぞれの背景を持っています。
    ひと昔前の日本では、音楽のたしなみとして大勢の子どもたちがピアノレッスンを受けていましたが、そうした子どもたちも大人になると、忙しさに追われてなかなか続けられなくなってしまうもの。
    そうしたノスタルジーと共に、シビアな現実も織り込みつつ、物語は進んでいきます。

    依頼者によって、細かく音を聴きとれる人や、全く分からない人がいます。
    調律とは、正確な音に直すことだと思っていましたが、そうではなく、ピアノを弾く人に適した合わせ方をするのだと、初めて知りました。
    弾き手が違うピアノが10台のあれば、10通りの調律がされるということ。
    調律師はトータルバランスをみる、プライベートな職人さんだというわけです。

    ピアノ経験が全くない主人公であるため、演奏面での薀蓄いっぱいの専門的な記述がないのが読みやすい点。
    初心者の気持ちのままでピアノに向き合っている、ワクワク感と新鮮さが伝わってきます。
    その分、調律のシーンには専門的な記載がありますが、それでも大まかに説明されているため、わからないまま話の流れに取り残されることはありません。

    「昔のピアノは、いい羊を使っていたのでいい音がする」のだそう。
    いい時代とは、ビルが立ち並ぶ便利な現代ではなく、上質な羊が草をはんでいた昔だとする彼ら。
    音楽は、演奏者が奏でた時に生まれるものではなく、その楽器が出来上がるより前の、素材がまだ生きていた頃から、既に始まっているものだと気づきました。
    うーん、思っていたよりもずっとスケールが大きいわ。

    ひたむきな努力を続ける主人公と、ピアノを弾く側の依頼者たち、そして主人公を取り巻く楽器店スタッフの面々。
    数多くの人が登場しますが、それぞれにピアノが好きで大切にしているという点で共通しており、ピアノを挟んで、時に喜び、時に悲しみ、感謝に満ちた思いを抱えているのが伝わってきました。

    内容にドラマチックな華やかさはありませんが、彼らと一緒に森の中をさまよいながら読み進み、道なき道を探し続ける懸命さに、何度も涙しました。
    美しい、ひたむきな物語。埃をかぶっている実家のピアノを、久しぶりにまた弾きたくなりました。

  • 山村で生まれ育ち、音楽の世界から縁遠かった主人公は、高校生の時に心を撃ち抜かれるような出会いをし、「調律師」という道を選ぶ。ピアノの才能があるわけでも、人より並外れてよい聴力を持っているわけでもない。ただそこにあるのは、仕事への情熱とピアノへの愛。調律師の仕事というのはこんなにも奥が深いのか、とただただ感じ入るばかり。

    私など、中学校で部活が忙しくなったのを機に、早々にピアノをやめてしまったクチなのだが、うちのピアノは調律師さんにはどう評価されていたのだろうか。もう、確かめる術もないが。遣り甲斐、なかっただろうなぁ。

    基本的に良い人しか出てこない小説ではあるが「出会いに恵まれるのもその人の才能」。確かに、単なる毒舌家のレッテルを貼って終わりそうな同僚も出てきた。でも主人公は、純粋に気構えることなく懐に入り、調律師人生にとって貴重な話をその人からいくつも聞かせてもらうのだ。
    仕事道具を磨く、ノートを取る、丁寧に仕事開始までの準備をする。仕事人として、忘れていたことを改めて気づかせてくれた。心が洗われるような小説だった。

  • 本屋大賞受賞おめでとうございます!

    …それがきっかけで読んだわけではないですが、受賞して多くの人が読んでくれるなら良いな、と素直に思えた作品です。

    小川洋子さんの「博士の愛した数式」と似た静謐さを感じる、とどなたかが言われていましたが、確かにそんなひそやかな空気感の漂う、調律師の物語です。

    高校の体育館で出会ったピアノの調律の世界へいっしんに取り組む青年はあやういほど純真で、どこかはらはらする風情があるのですが、周りの手厳しかったり優しかったりする支えのおかげで、少しずつ前進していきます。この先輩たちの取り巻き方も甘く厳しく良いなあと思えました。うらやましよこんな職場…

    そして彼がけして天才、才能に満ちている、という風に描かれていないのがどこか新鮮でした。ただただ彼のいじましい努力と経験を重ねたことによって、調律を少しずつ上達させていくので、その平凡さ(というには彼は浮き世だった感じですが)がどこかいとおしく感じられましたね。それゆえのジレンマを抱く姿とか、がんばれ、って握りこぶしを作りたくなります。

    大いなる森のたもとで生まれ育った彼が、羊と鋼の世界で、これから少しずつ確実に羽ばたいていってくれることを願うばかりでした。

  • 些細なきっかけ。だけれども、人生を変えるほどの邂逅。
    ピアノの調律師、外村のこれまでとこれから。
    「ピアノの音」を、こんなにも鮮やかに文字で彩ることが出来るのか、と、まずはそのことにびっくりした。音を、そのイメージを言葉にすること。受け取った言葉のイメージを音にすること。きっと、果てのない挑戦。正解はなく、ゴールもない。それでも諦めない。挑み続ける。努力を努力と自覚しないのはそれだけで才能なのだ。ピアニストを目指す少女に外村は才能を見る。読者は同じものを外村に見る。
    今はうまく行かなくても、きっと。
    言葉のチョイスが抜群に好みでやさしい読後感の本でした。

  • #読了。2016年本屋大賞受賞作品。
    特に音楽に興味があったわけではない外村。ある日体育館のピアノを調律師が調律した音色を聞き、自らも調律師なつことを決意する。戸惑いながらも、成長していく姿を描く。
    淡々と静かに、とても丁寧に描かれている。ピアノの音の描写では音色が伝わってくるような気持ちになる。調律師の仕事というものを実際に見たことは1~2回しかないが、今度じっくりと見たくなった。

  • 羊と鋼の森・は本当に素敵な素敵すぎる1冊でした。
    ピアノの調律師の道を選ぶも才能のなさに落胆し、それを埋めるために努力し足りないものはなにかを静かに自問自答しながら成長していく物語。共感できる部分も多く、登場人物も少なく2ヶ月くらいかけて空き時間に少しずつ読み進めてもすぐにその世界に入れるほど読みやすい本でした。

    でもこの本はその内容よりも何よりもとにかく宮下さんの表現力が美しすぎるのです!

    実は北海道に1年間住んでいた宮下さん。
    しかもトムラウシ…え?どこ?(笑)あ…新得町なのね(笑)
    そんなTHE北海道の壮大な風景が目の前に現れるように表現されているのです。あ、わかるわかる!それの風景わかるよ!共感できる道民でちょっと自慢したい!って思うくらい(◍′◡‵◍)

    【雪の降る日は暖かい。道民には共通の感覚だろう。ほんとうに冷え込んだ日に雪はふらない。空はぬけるように晴れ渡り、青さが目に刺さる。】
    【五月の連休が明けたあたりに一度雪が積もり、それが溶けるとようやく本当の春が来るのだった。まだ降るまだ降ると警戒しながら三月を過ごし、四月を乗り切り、やっと五月。最後の雪が解けて暖かさとのタイミングが合って初めて桜が咲く】

    北海道ならではの季節の表現が本当にその通りで嬉しくなりました。
    正しい北海道なまりを聞いた時のような気持ち(笑)になる表現があちこちに
    (◍′◡‵◍)
    音に対する表現もとても美しいので、付箋でいっぱいになってしまいました。凛とした気持ちになりたいときに読みたい1冊です。

  • 瑞々しく、爽やかな筆致で、調律師の青年の成長を描く。
    音に関する描写も素晴らしい。
    読んでいる間中音に包まれていた。
    同時に感じるのは光。
    風景の中の光はもちろん、調律師や、まだ幼いピアニストの放つ光が物語全体をキラキラ包み込んでいる。
    音と光に包まれた、幸福な読書がここにある。

  • 初めて読む作家さんです。ブランチで注目してたので図書館で予約してました。

    高校生の時にピアノの調律という仕事に魅せられ、調律師になった外村くんの成長物語です。

    お仕事小説、とも言えますが、それよりは青春小説、といったほうが似合うかも。
    それは主人公の、こつこつ、仕事と向き合う真摯な姿に胸を打たれたからですかね。

    目指すべき場所を見つけたことも、そこに向かうと覚悟を決めたことも、今出来る仕事を精一杯やってきた成果です。
    そうやって一歩一歩進むことで少しづつ見えてくるものがあり、その積み重ねが気が付いたら「一流」と呼ばれ「才能」になるんだろうな、と思いました。

    後半、双子ちゃんの事件を通し、外村くんがあらたな覚悟を決めてからは、ずっと涙腺がゆるみっぱなしでした。
    号泣するような涙ではなく、胸にじんときて、涙がうるうる溜まる感じの感動がずっと続くのです。。
    読んでよかった。

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著者プロフィール

宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月映画化。『静かな雨』が2020年新春映画化が決まり、2019年6月6日文庫化される。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。

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