羊と鋼の森

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902944

作品紹介・あらすじ

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • とても美しい物語でした。
    作品全体に静謐さや深さや煌めきや、そういったものが感じられました。
    それはきっと、ピアノと北海道の自然がもたらすものなんだと思います。
    でも一番美しいのは若い登場人物たちの心だと思いました。ピアノの調律師二年目の外村とピアノが大好きなふたごの高校生の和音と由仁。
    この三人のピアノや調律に向けるまっすぐな思い、迷い、覚悟。そこに静かに深いものが感じられて、最後は本当にキラキラ輝いて見えました。
    覚悟が決まった三人のラストには、心が震えてしまって涙がこぼれました。
    この若い三人、これからどんな風に成長していくのか、と期待に胸が膨らみます。

  •  私が本書の中で最も魅力的だと感じたのは独特なのになぜか共感できる表現や比喩です。山育ちの主人公外村は音を森に例えます。しかし、別の登場人物は同じ音を聴いて透き通った水の様だと語ります。
     「音」に対する価値観が本書を読み進める中で大きく変わった様に感じました。様々な表現が述べられている中でもピアニストを目指す決意をした和音「ピアノで食べていこうなんて思ってない。ピアノを食べて生きていくんだよ」という言葉です。好きなことで生活できるのは確かに魅力的ですが、好きなことを食べて生きていくのも素晴らしい人生であると私は感じました。 

     これまでは台詞について感想を述べてきましたが、本書はストーリー展開も美しいと感じました。劇的なことは起らない、当たり前のように失敗し、たまに褒められる。調律師という少し特殊な仕事をしていますが、外村はただの若手サラリーマンです。そんなただのサラリーマンでも感じ方によっては感動できるストーリーになるのだなと感じ、これからの人生に自信がつきました。

    • りまのさん
      nikaku1.1さん、フォロー、ありがとうございます。今 チャコールペンシルを、見つめていました。
      nikaku1.1さん、フォロー、ありがとうございます。今 チャコールペンシルを、見つめていました。
      2020/08/01
    • mayutochibu9さん
      nikaku1.1さん、フォロー、ありがとうございます。
      私の備忘録はちょっと冴えませんが、ピアノのコンサートに行ったときは調律師ことを注...
      nikaku1.1さん、フォロー、ありがとうございます。
      私の備忘録はちょっと冴えませんが、ピアノのコンサートに行ったときは調律師ことを注視するようになりました。音を文章で喩えるのは難しいですよね。本物の本棚にもこの本が置いてあります。
      2020/08/24
  • 一人の青年のピアノ調律師としての成長物語。

    ストーリー全体に大きな起伏がなく、3分の1くらいから失速してしまい、途中で国家試験の勉強が入ったりして、気づけば2ヶ月経過…。試験後すぐに再開し、本日なんとか読了。

    個人的に宮下さんは、紳士服のお話に続いて2作目。2作に共通しているのは、物語や登場人物が穏やかで、感情の波風があまり立たず、さらりとしているところ。ストーリーも起伏が少なく、"凪"という感じ。

    本作については、ピアノが題材だったが、どんな分野も、専門的な技術を極めていくのは、ひたすら地道な作業、訓練の積み重ねであり、まさに忍耐との勝負なのだなと思った。
    小2〜6までピアノを習っていたが、その後はほぼ触れる機会もないままここまできてしまったけれど、本作を読んで単純にピアノに触れたい、と思ったし、中をのぞいてみたい気持ちになった。

  • 冒頭──────
     森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
     問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が下りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
    ─────────

    また小説を読んで泣いてしまった……。
    自分が涙もろくなったのか、それとも作家の方々が素敵な作品を書くようになったのか。

    “枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、美しいものであると同時に、あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。あたりまえであって、奇跡でもある。きっと僕がきづいていないだけで、ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。”(P20)

    “ピアノの基準となるラの音は四百四十ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。(中略)日本では、戦後になるまで四百三十五ヘルツだった。もっと遡れば、モーツァルトの時代のヨーロッパは四百二十二ヘルツだったらしい。(中略)最近はオーケストラの基準となるオーボエのラの音が四百四十四ヘルツになってきている(中略) 変わらないはずの基準音が、時代とともに少しずつ高くなっているのは、明るい音を求めるようになったからではないか。わざわざ求めるのは、きっと、それが足りないからだ。”(P97~98)

    北海道の山間の集落、大自然の森の中で中学まで暮らしていた少年、外村君。
    中学時代、体育館にあるピアノの調律のためにやって来た男性が出した不思議なまでの音色に心を動かされ、彼は調律師を志す。
    調律師の学校を卒業した彼は、自分を魅了した調律師、板鳥さんと同じ職場に就職し、調律師の仕事を始める。

    その過程で感じる多くの疑問と苦悩。
    調律とはなにか? 
    ピアノとはなにか? 
    音楽とはなにか? 
    自分はどういう調律師を目指せばよいのか? 
    自分は本当に調律師になれるのか?

    それとともに、
    どんな目標を持って生きるべきなのか? 
    自分の人生に夢や希望などあるのだろうか?

    “才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”(P224)

    周囲の人たちの温かい目に見守られ、彼は日常の調律の仕事で出会う様々な光景から、それらの答えを模索し続け、探し当てる。
    彼の前に現れた可愛い高校生のふたごのピアニストが抱く葛藤と絡み合わせながら。

    “もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。”(242P)

    随所に現れる珠玉の言葉が胸に沁みわたる。
    優しい言葉、優しい心の持ち主によって綴られた美しい話。

    様々な場面、主人公の語り、ふたごの女子高生の思い、その他登場人物の台詞などが透き通るように真っ直ぐで、何故か何度も涙が零れる。

    広大で、でも静謐な森の中の澄んだ空気を深く吸い込みながらゆっくり散策しているような、心に沁みわたる優しい物語。

    胸に刻んでおきたいような言葉がありすぎて、引用が多くなりましたが、素晴らしい小説。
    これまで読んだ宮下さんの作品の中でも最高傑作。
    お薦めです。

    2015年下半期直木賞候補作。
    何故に受賞に至らなかったのか、選評者の意見を読みたいと思ったが、「文藝春秋」が貸し出し中で読めず。その選評を読んで後日追記したいと考えています。

    • koshoujiさん
      私も宮下さんの作品の中では一番です。
      私も宮下さんの作品の中では一番です。
      2016/03/24
    • koshoujiさん
      本屋大賞受賞しましたね。
      宮下さん、おめでとうございます。
      本屋大賞受賞しましたね。
      宮下さん、おめでとうございます。
      2016/04/13
    • vilureefさん
      koshoujiさん、こんにちは。
      すっかりご無沙汰しておりました。
      頂いたコメントにも返信できずごめんなさい。

      色々バタバタとし...
      koshoujiさん、こんにちは。
      すっかりご無沙汰しておりました。
      頂いたコメントにも返信できずごめんなさい。

      色々バタバタとしていてそのせいなのか、良本に出会いせいなのか読書スランプ気味で・・・。
      またボチボチと再会していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

      本屋大賞、やりましたね。
      地味な作家さんで実力の割に日の目を見ない宮下さんだっただけに、嬉しいです♪
      2016/06/20
  • 音楽という才能果てない世界で、ピアノの調律師を志す戸村。深い森の静謐で語られるような文章が心地よいです。
    「何ひとつ無駄なことなどないような気がすることもあれば、何もかもが壮大な無駄のような気もするのだ。」
    「一歩ずつ、一足ずつ、確かめながら近づいていく。」
    「努力しているとも思わずに努力していることに意味があると思った。」
    迷いながら歩みを進める戸村に、思わず自分を重ね合わせ共感や感動をします。宮下さんは、こんな気持ちを文章化できるんだからすごいなと何度も思いました。そして、物語に引き込まれました。
    誰しも人生の中で、自分が一体何者で、何を目指しているのか考えるときがあります。
    今、目標に向かって進んでいる人、目指したことがある人の心に刺さる内容だと思います。
    前向きな気持ち、あたたかな気持ちになれました。

  • じんわりとあったかくて優しくて、この物語の森の中から抜け出てしまうのが哀しい。ずっと羊と鋼の森の中にいたいのに、いられない辛さ。
    ぽつりぽつりとしか宮下奈都さんの作品は読んでいないけれど間違いなく一番好き。
    淡々とした静けさに一本の光がやわらかく差しているような感覚がたまらなかった。

    物語は一人の少年がピアノ調律師の世界に魅せられるところから始まり、一人前の調律師へ一歩一歩近づいていく様が描かれている。
    彼の夢を目指すひたむきさ純朴さに胸を打たれ彼を励まし続ける周囲の人々に癒され、大きな展開はないもの物語の森へすっかり迷い込んでしまった。

    才能とは何なのか、努力とは何なのか。
    ここで描かれるのはピアノ調律師ではあるけれど、夢に向かって頑張っている人、頑張りつつも迷いがある人、そんな人が読んだら絶対に励みになると思う。

    調律師が主人公の小説は前にも読んだけれど、今回ほど調律師の世界に魅了されてしまうことはなかった。この物語は脇役であるピアノ調律師の奥深い世界を余すことなく描いていて自分自身がピアノの世界を知らないことに歯がゆくなった。

    物語そのものももちろん、タイトル『羊と鋼の森』、それから装丁もすばらしい。全てが一体となって宮下さんの新しい世界を作り出している。
    タイトル初見で、「何、このタイトル?」と思った自分が恥ずかしい。

    • koshoujiさん
      ご無沙汰しております。<(_ _)>
      この本、最高でしたね。最近読んだ本ではベスト。何度も涙が零れました。
      宮下さんの最高傑作と思ってい...
      ご無沙汰しております。<(_ _)>
      この本、最高でしたね。最近読んだ本ではベスト。何度も涙が零れました。
      宮下さんの最高傑作と思っていましたが、何故か直木賞は落選。
      しかし、その代わりに昨日「本屋大賞」を獲得。
      いつも優しく温かい筆致の宮下さんの作品が
      これをきっかけに脚光を浴びることを願っています。
      2016/04/14
  • 心が澄んでいくような心地良さがあった。
    前を向く力を与えてくれる。

  • 外村君という山奥で自然と共に暮らす高校生が、先生に頼まれて案内した板鳥さんが体育館でつくり響かせた森にいるような音に魅せられて、おなじ道を選び、ピアノの調律師になって江島楽器の後輩として成長してゆく物語。

    「また、桜の国で」もネタバレしています。↓

    この本の前に読んでいた「また、桜の国で 」では、森は悲しみの象徴でした。
    カディンの森でポーランド将校達22000人を1940年にソ連兵が殺害した事件や、パルミーリの森で聖職者や教育者、影響のある人物をナチスがひそかに繰り返し殺害していた事件、ナチスが待ち伏せしていて慎を死に追いやったのもワルシャワ郊外の森。森って聞くと苦しかった。
    流れてくるのはショパンのエチュードでリンクしているのですが、森は、この作品では輝きが集う場所です。
    森は世界であり許しと調和の象徴であり、重なりあう響きがひとつに帰る場所。モーツァルトの時代なら422hz、今は440に整えられた美しい個が響きあう場所。その優しく美しい森に響く音を紡ぎたいなぁ。羊と鋼の森のこの森に、私もそっと小さく座っていられたらどんなにかステキだなぁって思いました。

    傷んだ気持ちが、ところどころにちょこんと咲く優しい言葉の森にも慰められました。

    そのなかで、調律に正解はない、正しいという言葉に気をつけなさい、とイタドリさんに諭された主人公が、ありふれた、でもそこにあったものに「美しい」をみつけた、気づいたところで、ユンディ・リーのピアノやパールマンのバイオリンに出会った時のことを思い出しました。その曲が聞きたい、じゃなくて、この音が聞きたいという気持ち。好きのこだわりという我はそのまま個性なのだから大切に磨くべきものです。そのために彼が伸ばし広げた枝や葉、磨く努力は、いつか森の輝きの一部になってゆくのかなぁって思います。

    ギリシャ時代は、天文学と音楽が文学だった。そして、星座と鍵盤の数は、おんなじ88っていうところは、
    空と大地が溶けあうようなドキドキを想いました。

  • もしかしたら、
    すごい世界に生まれついたのかもしれない。

    何もかもを与えられているんだ。
    ただ私が見つけられていないだけ…。

    そんな幸福感の中で、本を閉じました。

    高校生の時、学校のピアノの調律に偶然立ち会い
    衝撃をうけてその道をすすむことになる
    新米調律師のお話。

    フォローさせていただいている方々のレビューで
    ずっとずっと気になっていた作品ですが
    ピアノや音楽と縁遠い生活の私が理解できるのかと
    ちょっと不安が大きかったもので。
    (宮下奈都さんの作品も初読みでしたし)

    なんのなんの。全く問題ありませんでした。
    ピアノの調律の話であるのに、
    主人公の苦悩や、先輩調律師たち、
    調律してもらうピアノの所有者たちの話は
    私にも通じるものが沢山沢山あるんです。

    調律されて共鳴し連なっていくピアノたちのように
    私の心も自然と整えられて、いい状態のどこかへ
    繋がった感覚があり、とても気持ち良かったです。

    私自身…だいぶ歪んでいましたね。
    でもそれもピアノと一緒で
    生きていればここに居続けるだけで
    自然と起こってしまうこと。

    いい本を見つけました。
    歪んでもまたこの本に調律してもらえば
    いいんですから☆

    羊ってすごいんですね。素敵な字の元だなんて。
    …できれば未年の間に読みたかったなぁ…なんて。

    ピアノもすごい。
    調和のとれた森に会いに行きたくなります。

    コツコツコツコツやって、
    今年どれだけ溶けている「美しい」を取り出せるか。
    なんだか楽しみになってきました。

  • 漆黒の森に冒険に出かけ成長して行く。
    知らぬ間に鳥肌が立つ自然の香りがする美しい文面。

    裏方の調律師がピアニストをダイナミックに大海原に出航させる船頭の様だ。

    主人公の外村は、そんな大自然を相手に解答が難しい仕事を繊細な心でピアニストの船頭になる日が来るだろう。

    彼もまた、ピアノで食べて行くのではなく、ピアノを食べてやる調律師の未来が垣間見えた。

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著者プロフィール

1967年、福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、第3子妊娠中に書いた初めての小説『静かな雨』が、文學界新人賞佳作に入選。07年、長編小説『スコーレNo.4』がロングセラーに。13年4月から1年間、北海道トムラウシに家族で移住し、その体験を『神さまたちの遊ぶ庭』に綴る。16年、『羊と鋼の森』が本屋大賞を受賞。ほかに『太陽のパスタ、豆のスープ』『誰かが足りない』『つぼみ』など。

「2018年 『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。   』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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