夏の裁断

著者 :
  • 文藝春秋
2.82
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本棚登録 : 786
レビュー : 102
  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903248

作品紹介・あらすじ

女性作家の再生の物語過去に性的な傷をもつ千紘の前にあらわれたのは、悪魔のような男性編集者だった。若手実力派による、鬼気迫る傑作心理小説。

感想・レビュー・書評

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  • 『匿名者のためのスピカ』よりもスッキリとして読みやすかった♪スピカはわざと、あーいう風に書いたのかもしれない。二つの作品で対になっているような気もした。この作品借りてよかった。つい語りたくなる。


    久しぶりに嫌な男、柴田が悪魔だったなー。本当はとても脆いくせに。(でも私もその自己破滅願望よくわかるよ。)


    島本さんのエッセイ2冊や阿部和重との対談『和子の部屋』を読んでいたので、取り巻く状況がよくわかったような気がした。


    わざと書いているのか、本心で書いているのか、病んで書いているのか、計算して書いているのか、書いて昇華しているのか…どうなんだろう。


    今ちょうど『その後の不自由』を読み終えた。依存症やDVにあった人たちが、嵐が過ぎ去った後をどのように過ごすのか、ニコイチ(“二人でひとつ”の状態)から、どういう風に他人との正しい(適切な)距離をとっていくのか。この本(『その後の不自由』)に書かれている回復の経緯と似たようなことを教授が言っていた。


    千紘は29歳。たぶん嵐の真っ只なかにいる。彼女に『その後の不自由』をおススメしたいと思った。私の20代、30代も嵐と回復の間を行ったり来たりしたから、自分の過去を見ているようで、少し懐かしさを感じた。ラスト読んだら、嵐も去りつつあるのかな、と少し安心した。


    本を読んでいて、こんなに激しい怒りを感じたのは久しぶり。柴田に腹立った。千紘にも少し腹立った。バラバラ同士のふたり。猪俣くんは健全なんだと思うけど、その健全さが正しいのか、つい警戒してしまう私は、まだまだ千紘寄りなんだろうなぁ。自分しか愛せないような…自分も誰も愛せないような、とにかくマイノリティーな恋愛っぽい。


    本を自炊(裁断)する。自分の作品も自炊する。張り裂ける心。「新しく生まれる」。再生。自分の殻を破る。新しい予感がする。次回作が楽しみ!好きだな島本さん。この作品…賞とってもおかしくないのに…と思った。

  • これを読んで、わたしは島本理生さんの描く純文学作品が好きなんだなって強く実感した。どうして彼女の描く男性たちは酷く歪んだ感性を持っていても読者を、や、わたし個人を強く惹きつけるのだろうか。ある意味で病的。
    柴田さんに傷つけられて千紘がいう
    ――ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちであった。これ見たことがある、とも。(p11)
    この作品は読者が精神的に健康か否か、幸せか否かで、はっきりと意見がわかれるとおもうのだが、わたしはこれを読んでわかると強く感じた。人を傷つけることが巧い男を知っている。その男から離れたいのに離れることができず、また惹かれてしまうことも知っている。間違えている方角だとわかっていながらもついていってしまう。そしてこういう男は決まって聞き上手だし、取り込むこともやりこむことも巧い。すんでのところまでまで近づき、突然糸を切ったかのように突き放す。
    ――「答えを求めてもない。彼らはなにも考えてない。ただ、あなたを刺激して、自分のほうに意識を向けたら満足して気分で突き放すだけ」思わずでも、と反論していた。「意味があるかもしれないって」「思いたいよね。でも、そんなもんないよ」(p74)
    千紘が自分へ向かずにいることに気づいている猪俣くんの
    ――「この世で自分だけが傷ついてるとおもってるだろ」「思ってるだろ。誰よりも傷ついてるのはあたしっていう自意識で生きてるよ。俺だって本当は言いたいことたくさんあるのを我慢して優しくしてるんだよ。千紘ちゃんのこと好きだから、仕方ないと思っていた。でも、あんまりだろ。俺と会ってた時期に千紘ちゃんはあの揉めた編集の男とも会ってて騒ぎ起こして。俺は、なんなんだよ。おまえにとってそんなに意味のない存在なのかよ」「なにが、違うんだよ。じゃあ説明しろよ」「俺だって、がんばったよ。それでも言われないと分かんないよ」「ごめん、本当に。思ってもないこと言った」(p92,p93)
    この、“思ってもないこと言った”ってすごく優しいなって思った。思ってることしか言っていないのに、その優しさにしびれた。つづけて
    ――「俺、千紘ちゃんのこと好きだった。でも、やっぱ、俺のこと好きじゃない?」「あげる。千紘ちゃんは否定するだろうけど、単純な話でさ、刺すくらい好きだったんだよ。その人のこと。でも俺のことは、たまになら会えるけど、毎日一緒にいたらうっとうしい程度なんだよね」(p97)

    そこからの、冒頭、千紘が柴田をフォークで刺した理由、時系列が定まり、うわーっと鳥肌立った。柴田の卑猥さに。怖い。とにかく怖い。本当にこの世にはこんなにも人を傷つけることを楽しんでいる人がいるんだなと思う。

    中身としてはふわふわしていて未熟だし、確かに島本さんにしては幼稚のようにも読み取れた。100頁少しの薄い本だけど一言一言を大切に読んだ。ドリーミーで少女漫画みたいな軽さもあるけど、わたしはこの作品をすごく好きだなと、島本さん好きだなって思いました。

  • 2016/12/01読了

  • 教授のことばひとつひとつが心に刺さる
    「選別されたり否定されす感覚を抱かせる相手は、あなたにとって対等じゃない」
    私もなんだかんだで柴田みたいな男に弱くて、勝手に好きになって、勝手に傷つくタイプだからなぁ
    201511

  • 島本さんは好きな作家さんですが、今回の主人公の千紘にはあんまり感情移入できなかった。

    精神的に不安定で、幼い頃のトラウマがある小説家の千紘は編集者の柴田に精神的に支配される。
    近づこうとすれば突き放されの繰り返し。

    柴田の目的なんてほんとわからなかったし、こんなに面倒な男に関わらずに、自分のことを好きでいてくれる猪俣くんを見ればいいのに。

    千紘はいつまでも柴田に執着する。

    幼い頃のトラウマでさえも自分を悲劇のヒロインにするための嘘かとも疑ってしまうし、柴田とのことは録音されたものがあるから現実だとしても、やっぱり被害者意識が強い千紘は、なんだかなーと思う。

    誰かに構ってもらいたい、愛されたいんだろうに、本当に自分を愛してくれる人のことは見られずに難しい相手に恋をするのは、千紘にはあわないなーと思った。

    少しでも千紘が変われるかなと思えたラストはよかったかな。
    個人的には猪俣くんのことを真剣に考えてほしい!

  • 理解し難い。
    特殊な状況すぎるのか?
    過去に何かがあり傷を抱えた人間が苦しんでいることはわかるけれど、どう対応していいものか。
    自分一人では立ち直れないだろうから、他人に甘えることも必要だとは思う。

  • 夏の鎌倉で、祖父の蔵書をひたすら自炊することとなった作家の千紘。
    それは、辛い男性体験との決別の作業のようでもあった。

    登場人物の誰にも共感できないですが、小説として読むには、とても興味深く、好きなテイストでした。

    柴田がとにかく最悪で。
    その柴田に、洗脳されるように振り回される千紘が、自分だったらありえないと思うものの、トラウマの結果なのかもと思わされます。

    現在と過去が、ある意味入り乱れて書かれているのですが、その表現の仕方に、私も振り回され、止められなくなりました。

    再生物語と言うほど、千紘は再生しないですが、最後に少しだけいい風が吹いている感じがして、ほーっと長い息を吐いて、読み終えました。

  • ん~~~~~~~~~~
    島本さんの良くないところが詰まったような本だな…
    初期の身勝手な主人公に近いような。。迷ってるのかな。なんか色々気負ってるのと投げやりなのが混ざった文章。
    私はもう島本さんは自分の書きたいものを書ききるのがいいと思うよ、どろどろしていても、身勝手でも、あの人が芯から書いているものには魂がゆれる瞬間がある。今までも、主人公にいらっとしながら、それでもぐらぐらゆれる瞬間があった。それで時々軽いのも書いてみたらいいよ。それで、よだかみたいな本をもっと書いてほしいな。
    今回はゆれる瞬間がなかったし、「夏の裁断」というタイトルにそぐわない。もっと裁断を生かしてほしかったな。そしてもっと島本さんらしい、じめっとした深い暗闇に連れて行ってほしかったな。変に人工的な暗闇に連れだされたような不自然な一冊だった。勿体ない。
    雑音は聞かないで、書くことやめないでね、本当に。

  • 芥川賞候補作となったものの、選考委員に酷評されたという。
    私は遠慮しておこうと思っていたのですが、なぜだか突然むしょうに読みたくなって手に取りました。
    自称男性恐怖症のメンヘラビッチ千紘と、その担当編集者である(瞳の奥に妙な影を映す男)柴田とのいざこざ。
    普段だったら☆1つとか付けたくなるような話でしたが、今の私にはどんぴしゃだった。まさにこういう病んでる恋愛小説が読みたかったんだ…。
    どこがどう良かった、というわけではないのだけれど、夕立がくる前の不穏な雲ゆきを感じさせる雰囲気。
    悲劇のヒロインぶりたい気分の人におすすめです。
    夏のはじめ、鎌倉の古民家で膨大な蔵書の背表紙をひたすら裁断する(自炊と言うらしい)っていうのは絵になるなぁ。憧れる。

  • 所謂、決別のお話。柴田と言う身勝手な人間と、主人公の心の迷いや葛藤、純真さが「本の自炊」と言う行為によって昇華されていく。

    それにしても経費で旅行に行こうとすると言う展開は、ありがち過ぎると思い少し笑えたが、なるほどこう言う男はよく居るのだろうなと思った。対等じゃない、けど心の弱さゆえに正しい形を成さない男女関係。それにもいつか終わりがやって来て、ざっくりと「自炊」される事になる。

    この辺りの迷いの無さが、前作と全く違っていて新鮮でした。前作の主人公ならこのままズルズル関係を持ちそうなものだから。柴田に好意を示された主人公の「吐き気がした」には、自炊の刃物を思わせる。その迷いの無さは「優しさ」や「弱さ」の裏返しなのだろう。

    一人の女性に遭った災難、それらの決別までを綴る様は「作家の執念」にも通じる所があると思う。この本が「存在している事」が一番の復讐であり、決別なのかも知れない。

    島本理生の書く男性は、弱っていたりろくでも無いのが多いが、それも「彼女」を際立たせる一環なのだろうかと少し考えた一冊。

    筆者のファンなら楽しんで読めるはず。

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著者プロフィール

島本 理生(しまもと りお)
1983年東京都板橋区生まれ。都立新宿山吹高等学校に在学中の2001年に「シルエット」で、第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。06年立教大学文学部日本文学科中退。小学生のころから小説を書き始め、1998年15歳で「ヨル」が『鳩よ!』掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞。2003年『リトル・バイ・リトル』で第128回芥川賞候補、第25回野間文芸新人賞受賞(同賞史上最年少受賞)。2004年『生まれる森』が第130回芥川賞候補。2005年『ナラタージュ』が第18回山本周五郎賞候補。同作品は2005年『この恋愛小説がすごい! 2006年版』第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」第1位、本屋大賞第6位。2006年『大きな熊が来る前に、おやすみ。』が第135回芥川賞候補。2007年『Birthday』第33回川端康成文学賞候補。2011年『アンダスタンド・メイビー』第145回直木賞候補。2015年『Red』で第21回島清恋愛文学賞受賞、『夏の裁断』で第153回芥川賞候補。『ファーストラヴ』で2回目の直木賞ノミネート、受賞に至る。

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