虚ろまんてぃっく

著者 :
  • 文藝春秋
3.51
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903286

作品紹介・あらすじ

「日本社会の現状に対する鋭い洞察と、異議申し立て」(佐藤優氏)「近年の日本文学におけるもっとも高次な、また豊饒な果実の1つ」(若松英輔氏)と絶賛された傑作「ボラード病」で新境地を切り拓いた吉村萬壱氏。あれから一年、吉村氏の2005年以降の10の短篇・中篇を一挙収録した作品集。シュールな近未来ものあり、不条理な家族小説あり、不気味で、不穏で、グロテスク、吹き荒れる嵐のように暴走する想像力が、読者を真実の深淵へといざなう。鬼才の筆が炸裂する、圧倒的作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 行列
    「クチュクチュバーン」的不条理リアリアズムをシンプルに。寓意がちょっと鼻につくも、吉村ワールド全開で、気持ちいい(悪い)読書感が楽しめた。後ろ見ちゃダメなわけな。そういうルールってことな。

    夏の友
    ノスタルジーグロとでもいうべきか。主人公以外の登場人物の闇とその必然による地獄のような不幸が、どうしてかすっきりとしてしまう。

    虚ろまんてぃっく
    主人公は埠頭。構成が発明的で、最後に大笑いできた。
    メリットシャンプーを選ぶセンスがちょうどよい腐り庶民的。次作「家族ゼリー」に頭だけリンクする。

    家族ゼリー
    とりあえず感情移入して気持ち悪くなるわけで、そこには「娘」設定が無くて助かった。この家族に娘がいたら、完全な総当たり戦になる。基本ギャグ作品としてとらえるべきか。それにしてもくしゃみの匂いだのゴルフボール大の疣痔だの、よくぞまあ思いつくものだ。

    コップ2030
    2030年のディストピア。どうやらデジタルによって認知が破壊されているらしいが、壊れているのが主人公なので、文章描写も壊れるのだ。職員役は1984パロディだし、それを筒井風のメタ狂気手法でまじめにやっている感じ。なんのこっちゃ。

    樟脳風味枯木汁
    この辺になるとどうも「人としてどうも嫌だなと感じること」を苦労して探し出して綴っているような気がし出した。今回は老女性愛である。老女が決して上品ではなく、醜怪なキャラであるのも納得する。単にエロ小説ではないのだ。

    大穴(ダイアナ)
    「家族ゼリー」「樟脳風味枯木汁」とリンクしつつ、「臣女」のプリクエルともとれる内容。特に家の間取りや造作は「臣女」の舞台と一致している。同じように愛情の底深さが漂うにょだ。

    希望
    ショートショート。「行列」の別パターンのメモみたいなものかと。

    歯車の音
    老人偏愛性欲が露骨だ。幼少時に見たという祖母の陰部が繰り返し実体験として別稿で記されているが、そんなに強烈だったのだろうか。息子の罵詈雑言がおもしろい。半ば植物化したした父親への復讐譚であるが、嘗ての性交日記を耳元で朗読するなど、考えるだに恐ろしい。でも短編として良く出来ているよにゃ。

    大きな助け
    DV、児童虐待。とにかく胸糞悪くなるし、人類全体がクズ化していく様はどこかリアルだ。しかも爆笑してしまう。

    あとがきにもあるように宇宙人目線で人類のクズっぷりを抽出するというのは、確かに必要だし、読んでいる読者はそれが気持ちいいのだから、もっともっと欲しがるにょだ。

  • 10編からなる短編集。どの作品も人間のダークな部分をクローズアップして描かれていた。
    昨年、読んだ「ハリガネムシ」もいい意味での変態性が際立っていたが、それよりももっと増していた。

  • 表題の「虚ろまんてぃっく」の途中で、いったん挫折。

    そこで、ブクログのレビューを見て(今現在2レビューだけですが)、「家族ゼリー」をつい最後まで読む。オエっ。

    さらに途中飛ばして「大きな助け」
    とりあえず、読み終わる。

    帯に「不道徳きわまりない」「とてつもなく美学に反する」とあるが、うむ、確かに。

    でも、まだ読んでない吉村萬壱を読んでみようと思っている。

  • 現存する日本の作家で新刊が出たら矢も盾もたまらずみたいにがっつくのは吉村萬壱先生ただひとり。ほとんどは文芸誌掲載時に購入して読んでいたのだけど、再度こういう形で読むと一入。
    夏の友、大穴、大きな助け、が特にお気に入りで、大きな助けはすでに文芸誌のほうで何度も読み返している。読みやすい形状で手元に置いておけるということが嬉しい。コップ2030と大きな助けは私の地獄だ。

  • よくこんなひどい話を次から次に考えつくもんだと感心する。書く方も書く方だが、読む方も読む方だ。あとがきから先に読むべき。んーだーぷっぷ。

  • とんでもないものを読んでしまったかんじ。ああしんどかった。短編集でこんなに読むのに時間も精神負荷もかかる本ってそんなにない気がする。気持ち悪くてしんどくて、読み進めるのがつらかった。投げやりで暴力的な生き方…というより在り方か。生きるではないような。その場に在る時の感覚が、投げやりで、他者への軽蔑が徹底的。自分の欲望がそのままで、そこへの軽蔑も率直。あと、あとがきがとてもよかった。「この作者は駄目だ、と私は思った。精神の根っこが腐っているのかも知れない。」人間様だよ。んーだーぷっぷ!

  • ”これを書いた人間は少し頭がおかしいのではないかと思った”と、あとがきに吉村さんは書いている。
    自分も読みながら同じことを思った。これは頭がどうかしているな、と。

    たとえば、臭いがきついとわかっているものをわざわざ嗅いでしまうような感覚。絶対に不快になると知っているのにグロ画像を見てしまう気持ち。
    吉村さんの作品にはそういう種類の吸引力がある。
    人間が理性で隠している邪な感情や身体の恥部を、これでもかといわんばかりにネガティブな方向に炸裂させてくれる。その光景はもはや地獄であり、夢も希望もあるわけない世界なんだけれど目が離せない。

    今回の短編集で一番読むのがきつかった、『家族ゼリー』について。
    家の外で他人のフリをして性行為を楽しむ兄と弟。そしてその父親。母親だって負けていない。挙句の果てに家族四人で交わる地獄絵図。気持ち悪くてどうしようもない。ただただ汚い。

    連続する不快感をどこか心地よく味わっている自分に驚く。ランナーズハイみたいなものだろうか。
    読んでいる人間も少し頭がおかしいのだろうか。

  • 相変わらず、というか、やっぱり、というか・・・。
    とにかく人間性を否定したいのだろうか? かろうじて普通の話に見えた作品も、わずかに文末の言葉遣いがおかしかったり。

  • これを書いた人間は少し頭がおかしいのではないかと思った。書いた本人がそう思う
    くらいなので、読者はもっとそう思っているに違いない…。(あとがきより)

    十篇+あとがきからなる短編集。「大穴(ダイアナ)」という一篇が収録されていて
    この題が目に入った時には、数日前に読了した本との類似点に驚かされました。
    内容は似ても似つきませんがね!グロテスクな作品ばかりだけど、ほんの一欠片の生真面目さが垣間見える…気がします。

  • 家族ゼリーがびっくりするくらい気持ち悪かったけど、どれもものすごく面白い短編集やった。
    人の頭の中とか、その頭の中と外の境界がよくわからないとか、そういうものがわたしは大好きです。

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著者プロフィール

1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。1997年、「国営巨大浴場の午後」で京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年、『クチュクチュバーン』で文學界新人賞受賞。2003年、『ハリガネムシ』で芥川賞受賞。2016年、『臣女』で島清恋愛文学賞受賞。 最新作に『出来事』(鳥影社)。

「2020年 『ひび割れた日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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