スクラップ・アンド・ビルド

著者 :
  • 文藝春秋
3.18
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本棚登録 : 3585
レビュー : 572
  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903408

作品紹介・あらすじ

第153回芥川賞受賞作「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して……。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 『火花』に続き、こちらの芥川賞もようやく読了。

    お笑い芸人である又吉さんの作品が
    「芸人とは何か、どうあるべきか」という骨太な作りとは対称的に、
    専業作家である筆者のこちらの作品の方が
    ひねくれたユーモア感覚が突出していて面白かった。

    タイトルは「スクラップ(解体する)=老人」 と
    「ビルド(構築する)=若者」の物語かと思いきや、
    読み進むにつれ、そんな単純なものではないことに気づいた。
    介護する側、される側の苦悩を描いたというシンプルな物語ではない。

    祖父の面倒を見る孫孝行という形式で物語は進行していくが、
    実は、孫にこそ「スクラップ・アンド・ビルド」が起こっている。
    祖父の介護をする過程で、孫は自らの人生を構築していく。
    無職で就職活動中の孫が、祖父の介護を通して社会復帰を目指す。
    それまでの甘ったれのクソガキから、
    責任ある大人へ成長していくというのがこの作品のメインテーマ。

    「早う死にたか」と口癖のように言う祖父と同居する孫にとって、
    本当の孫孝行とは何か、それは祖父を安らかに
    「死」に向かわせことだと確信し、
    社会復帰するためのすべての機会を祖父から奪い、
    寝たきりの状態に持っていこうと試みる孫。

    「わぁ、きれいになった、ありがとう」
    「楽させてやりたいから」はダブルミーニングだ。ああ恐ろしい。

    語り手でもある孫のフィルターを通してみる現代社会が
    とても偏屈でゆがんでいて面白い。
    すべてを見通せているように物事を饒舌に語るが、
    実のところ何もわかっていないところにリアリティを感じる。

    祖父の部屋のカーテンを全開にして、
    皮膚ガン発症をうながそうと試みる場面には
    思わず笑ってしまった。
    本人は確固たる理念を持ってやっているのにもかかわらず、
    客観的に観ると喜劇のよう。

    この全てを悟ったような幼い孫の思考を読者は笑い飛ばせるか、
    幼稚な主人公をどれだけ受け入れられるかによって、
    この作品の評価も変わるのではないかと思った。
    独特ともいえる、頭でっかちな思考や強固な論理を
    笑い飛ばすのが、この小説の正しい読み方のように思える。

    孫は祖父のために望みどおり安らかな死を叶えてやろうとするが、
    後半になるにつれ、
    実は祖父は「生」にしがみついていることに気づく。
    女性スタッフにセクハラしたりしてるのも「性」の執着。
    「性」は「生」であり、あくまで祖父の「死ぬ死ぬ詐欺」なのだ。
    死ぬ気など一切ない。
    祖父の「死ぬかと思った」は偽らざる彼の本音だろう。

    最終的には、実は弱い立場を演じることで
    居場所や自信を与えていた優しい祖父に孫は救われていた。

    「じいちゃんが死んだらどげんするとね」(P.112)の真意は、
    「今、お前には祖父を介護する役目があるが、
     祖父がいなくなったら介護する役目は終わってしまう。
     これからどうやって生きていくの?」にある。

    祖父は「花粉症で苦しむ無職の孫」に
    「祖父を介護する孝行な孫」というポジションを与えて、
    孫に手をさしのべていたのではないか。
    孫に「介護」という存在価値を与え、自己肯定感を与え、
    再出発してもらおうとするために、ずっと
    「要介護の祖父」という役割を演じていたのではないか、
    とも読み取れるが、実際のところ、
    その祖父の心情は作中には描かれていない。

    この語り手の孫以外の心情を描かずに
    物語を淡々と進行させているところが
    筆者の非常に巧みな部分だと思うし、作家としての力量を感じる。
    他人の言動と本心や意図は、結局のところ本人にしか分からない。
    想像を膨らませるしかないわけで。

    この部分を「あえて」筆者は描いていないので、
    急に物語が終了してしまって
    「結局何だったんだ?」とモヤモヤが解消せず、
    低評価にしている読者もいるかもしれない。

    「じいちゃんのことは気にせんで、頑張れ」(P.117) の言葉には、
    孫の幸せを心から願う祖父の心情が表れているように受け取った。

  • 近年目覚しい医学の進歩や、頻繁に更新される健康情報により、人の寿命は昔と比べ遥かに延びてきた。
    <不老長寿>は人類の果て無き夢であったはずなので、
    それって実に喜ばしい事!

    だが、それはもしかしたら…
    本当は不自然な事なのではないだろうか。
    まぁ、真意の程は定かじゃないし、
    恐ろしい『死』を遥か先延ばしに出来るのだから、願ってもない事ではあるが。

    ただ、物語は人の手を借りなければ生活できない老人と家族のリアルが描かれていた。
    主人公がまだ若く、健康な30前の男性である所も興味深い。
    人の尊厳重視の介護日誌は読む前から内容は知れているが、
    「人の手を借りなきゃ生きれないならもう死にたい。」とぼやく老人の意志を(本音)だと捉えてしまう青年のある意味純真さと、いやいやな介護から得られてしまう
    宝石の様な<真実>に心射抜かれてしまった物語。

  • 数時間で読了。
    読むのやめようかなー…と思ったけど、数ページ読んで…うちの義祖母と同じだなーと…。仏壇に向かって毎日「死にたい、迎えに来てください。お願いします。」と神様にお願いしていた義祖母。「死にたい」と言いつつ「助けてくれ」って訴えているんだと見ていて思った。

    要介護5を毎日介護している方から見ると、なんか少し腹立たしく、でもついつい読んでしまったのは、なぜだろう。

    …高齢者も生きていくのが容易ではない。同じように(高齢者よりも、もっと)生きにくい若者多世代。結婚も子作りも、それどころではない、それでいて少子化問題とか本腰を入れない国へのパンチなのかな…。

    読んでいるうちに介護や彼女(亜美との関係が希薄だな…と思った)そっちのけで体作りにはげむ主人公が面白かった。が、きっぱりと共感は持てない!

    “再構築のため、徹底的に破壊しろ。”=50ページ=あたりは爽快だ。

    これかな…と思った部分は…
    “全世界的にそろそろ、宗教的理由や形骸化したヒューマニズムで誤魔化さないで、見たくないものを直視し実行に移さなければならない時期にさしかかっているのではないか。”=71ページ=が私に響くポイントになった。

    介護はプラスもマイナスもあり。プラスだから悪いとかマイナスだからダメとかはないと思う。その人の状態に合わせて足したり引いたりが重要になる。

    最後はさりげなく戦後の政府などに触れているし、きれいなようで不穏な?ラスト一文はどう受け取ったらいいのか…深く考えてしまった。(最後のページら辺は…ちょっと綿矢りさっぽい)セスナは何を示しているんだろう…。

    普通はスクラップしてからビルドだけど、これはビルド完了してしてスクラップをこれからど~する?のような…そんな暗示?のような気がしたり…。

  • 健斗は5年勤めた仕事を辞めて求職中であり、母と祖父と3人で暮らす。心身の不調を訴え、毎日のように「早う死にたか」とぼやく祖父を、孫の健斗はその言葉の通り叶えてあげようとある計画をスタートさせる。

    孫が祖父を死なせようとする考え自体は恐ろしく感じますが、健斗の行動には傍から見ればおかしく滑稽に映るものもあります。ところが本人は至って真剣そのもの。
    家という閉塞された世界で密かに実行されていく健斗の思惑。それに対する祖父の行動は本当の衰えか、裏をかいた作戦か?本当のところは本人にしか分からないという面白さと不気味さが混在します。
    又吉直樹さんの『火花』とともに芥川賞を受賞した話題作。

  •  無職の三十路前男が祖父の介護をする日々。
     心情として祖父に感情移入するところ、拒絶するところなど、筋トレで鍛えられた肉体以外は社会的弱者の語り手の複雑な意識の流れが非常によく浮彫にされており、非常に純文学らしい純文学だと言える。「火花」人気だけど「火花」の10倍はうまいし5倍は面白い。

  • 表紙とタイトルからは想像できなかったストーリーでした。
    もっと暗いお話かと思っていたので(暗いといえば暗いのですが)。

    みんな持ってる、「不安だけれど頑張ろう」という気持ち、人間の優しさ・脆さ・残酷さが良く表現されています。

    不安で、でも と肯定して、でも やっぱり不安で…

    心情だけじゃなく、介護や人の一生など考えさせられます。

  • 職を失った青年が祖父の介護をしつつ悶々とした日々をどのように“前向き”に過ごしているかを描いた小説。主人公も、祖父もキャラが立っているし、文章は短く簡潔でとても読みやすい。青年の悩みもよく伝わってくる。が、しかし、読者の心を揺さぶるほどかといえば、そうではない。良くも悪くも、大人の一般読者が想像できる範囲の思考や出来事に収まっているのは、著者が若いがゆえか。年齢を重ねたときにどのような小説が生まれるか期待したくなるという点で、芥川賞なのだろう。

  • 3.5位かなあ、芥川賞にしては読みやすいし意外と主人公の言ってる事わかる部分もあった。ただ「プラスの介護」を目指すようになる経緯はあんまりぴんと来なかったけど。

  • 150906読了。
    羽田くんは(私の方が年下なのに、デビューが若かったために作者をいつもくん付けで呼んでしまうんだけど)、17歳で文藝賞を獲った「黒冷水」の作者で、彼の作品を読むのはそれ以来だ。黒冷水の文体は、若くて粗くて物怖じしない、挑戦的そのものだ。私はちょっとその高校生男子なかんじが残る羽田くんにちょっと憧れて、またちょっと苦手であった。
    大人になった羽田くんの小説は、まあまあに落ち着いていて、一見ぬかりない。
    しかし、少し距離をおいてみると、自我を語る合コンでの暑苦しい男性に出会ったような、少し惜しい気もしてならない。芥川賞の選評で、島田雅彦が「主人公がちょっと天然」と書いていて、言い得て妙だと思った。
    過剰介護して同居の祖父を漸化式に死へ導く20代男性の話だけど、後半、食事の形跡や足音で、弱っているはずの祖父が異様に元気である様子が描かれているところがなにより不穏で、お気に入りのシーンだ。
    文藝賞作家らしい作品でとてもよかったし、まだ読んでいる最中の「火花」と比べると、簡潔で展開もあり頭に残るシーンもあり、個人的には羽田くんの作品が芥川賞でよかったと思う。

  • 今期の芥川賞受賞作。
    又吉直樹さんの「火花」ばかりが注目されていますが、こちらの作品も読みごたえがありました。
    もっとも、私は「火花」同様、「文藝春秋」9月号で読んだのですが。
    主人公の「健斗」は母と祖父の3人暮らし。
    祖父は介護が必要な状態で、口癖のように「早う死にたか」と云います。
    健人は献身的に祖父の介護をしますが、その目的は祖父の自立を奪い、「早う死にたか」という祖父の希望を叶えるところにあります。
    一方で母は、祖父が自分で使った茶碗を祖父自身に下げさせるなど自立を促す介護をします。
    ただ、母は常に祖父に厳しく、「健人」も祖父に対して時に声を荒げます。
    この3人の関係性が興味深く、ユーモラスな会話に思わず引き込まれました。
    読みどころはいくつもありますが、祖父の88回目の誕生日を祝うために、「健斗」の姉と1歳6か月の甥、母たち5人兄弟のうち末子である叔父が来た場面。
    食事が一段落して祖父は叔父に皿を下げさせようとします。
    母が「自分が使ったぶんは自分で持って行く約束でしょうが!」と叱り付けます。
    「誕生日なんだから、今日くらいはいいんじゃない」
    そう云いながらソファーから立ち上がった姉を「健人」は思わず叱責しそうになりました。
    以下、少し長いですが引用します。
    □□□
    素人は引っ込んでろ!
    これだから、目先の優しさを与えてやればいいとだけ考える人間は困る。
    被介護者の自立をうながす立場に立つなら姉も叔父も気安く手をさしのべるべきではない。
    苦痛なき死という欲求にそうべく手をさしのべる健斗の過剰な介護は、姉たちによるなにも考えていない優しさと形としては変わらないが、行動理念が全然違う。
    まず出口を見据え、自分の立場を決めてから出直してこいと思った。
    その点、祖父の自立をうながそうとする母とは介護のスタンスが真逆だが、被介護者のことを真剣に考えている点で健人には仲間意識がある。
    □□□
    被介護者とどう接するべきか。
    これは高齢社会ニッポンにとって誰しも避けて通れない課題です。
    そのあり方は、決して一様ではないと、この小説は教えてくれています。

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著者プロフィール

1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞。2015年「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞受賞。著書に『走ル』『不思議の国の男子』『隠し事』『ワタクシハ』『メタモルフォシス』他がある。

「2017年 『成功者K』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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