スクラップ・アンド・ビルド

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903408

作品紹介・あらすじ

第153回芥川賞受賞作「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して……。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞作品、やっぱりギリギリだった。登場人物・健斗が87歳の祖父の面倒を見ながら、祖父、母、恋人、社会と対峙していく様が興味深い。さらに祖父の「早う死にたか~」という言葉に対し、間接的な尊厳死を目論むという人の闇、社会の闇に、少し肯定してしまう自分もいた。戦時中生きてきた祖父、敗戦でスクラップされた日本、高度経済成長(ビルド)を生きてきた祖父。そして、現代に生きる健斗の人生もスクラップとビルドの繰り返し。生きたい、死にたくないの対比がスクラップとビルドという単語に含まれているのかな?ちょっとわかんない~④

    【ネタバレ】川上弘美「こういう家族、知っている(というか、自分の家族の中にもこれと同じような感じがあるなあ)と、確かに私は感じたのです。」「(引用者注:「火花」と共に)人間が存在するところにある、矛盾と、喜びと、がっかりと、しょぼい感じと、輝くような何か(それはとてもささやかなものですが)が、(引用者中略)たくさんありました。」  https://prizesworld.com/akutagawa/senpyo/senpyo153.htm

  • 第153回芥川賞受賞作。

    タイトルから経済ものかと思ったら、なんと介護もの。
    人を社会の部品として見て、高齢者をスクラップして、若者をビルドするという意味なら、かなりスパイシーなブラックジョークだ。

    読んで思ったのは、確かに「老い様」ってあるな、ということ。
    「早う死にたか」と毎日ぼやいたり、何かしてやるとやたら卑屈な感じで礼を重ねたり…
    そんな老人にはなりたくないなぁ…と。

    まあ、超高齢社会だからこそ、高齢者の精神的なサバイブはなかなか難しいのかもしれないけど。
    若いうちの積み重ねが人生100年時代のためにはとても重要、ということなのだろう。

  • 『火花』に続き、こちらの芥川賞もようやく読了。

    お笑い芸人である又吉さんの作品が
    「芸人とは何か、どうあるべきか」という骨太な作りとは対称的に、
    専業作家である筆者のこちらの作品の方が
    ひねくれたユーモア感覚が突出していて面白かった。

    タイトルは「スクラップ(解体する)=老人」 と
    「ビルド(構築する)=若者」の物語かと思いきや、
    読み進むにつれ、そんな単純なものではないことに気づいた。
    介護する側、される側の苦悩を描いたというシンプルな物語ではない。

    祖父の面倒を見る孫孝行という形式で物語は進行していくが、
    実は、孫にこそ「スクラップ・アンド・ビルド」が起こっている。
    祖父の介護をする過程で、孫は自らの人生を構築していく。
    無職で就職活動中の孫が、祖父の介護を通して社会復帰を目指す。
    それまでの甘ったれのクソガキから、
    責任ある大人へ成長していくというのがこの作品のメインテーマ。

    「早う死にたか」と口癖のように言う祖父と同居する孫にとって、
    本当の孫孝行とは何か、それは祖父を安らかに
    「死」に向かわせことだと確信し、
    社会復帰するためのすべての機会を祖父から奪い、
    寝たきりの状態に持っていこうと試みる孫。

    「わぁ、きれいになった、ありがとう」
    「楽させてやりたいから」はダブルミーニングだ。ああ恐ろしい。

    語り手でもある孫のフィルターを通してみる現代社会が
    とても偏屈でゆがんでいて面白い。
    すべてを見通せているように物事を饒舌に語るが、
    実のところ何もわかっていないところにリアリティを感じる。

    祖父の部屋のカーテンを全開にして、
    皮膚ガン発症をうながそうと試みる場面には
    思わず笑ってしまった。
    本人は確固たる理念を持ってやっているのにもかかわらず、
    客観的に観ると喜劇のよう。

    この全てを悟ったような幼い孫の思考を読者は笑い飛ばせるか、
    幼稚な主人公をどれだけ受け入れられるかによって、
    この作品の評価も変わるのではないかと思った。
    独特ともいえる、頭でっかちな思考や強固な論理を
    笑い飛ばすのが、この小説の正しい読み方のように思える。

    孫は祖父のために望みどおり安らかな死を叶えてやろうとするが、
    後半になるにつれ、
    実は祖父は「生」にしがみついていることに気づく。
    女性スタッフにセクハラしたりしてるのも「性」の執着。
    「性」は「生」であり、あくまで祖父の「死ぬ死ぬ詐欺」なのだ。
    死ぬ気など一切ない。
    祖父の「死ぬかと思った」は偽らざる彼の本音だろう。

    最終的には、実は弱い立場を演じることで
    居場所や自信を与えていた優しい祖父に孫は救われていた。

    「じいちゃんが死んだらどげんするとね」(P.112)の真意は、
    「今、お前には祖父を介護する役目があるが、
     祖父がいなくなったら介護する役目は終わってしまう。
     これからどうやって生きていくの?」にある。

    祖父は「花粉症で苦しむ無職の孫」に
    「祖父を介護する孝行な孫」というポジションを与えて、
    孫に手をさしのべていたのではないか。
    孫に「介護」という存在価値を与え、自己肯定感を与え、
    再出発してもらおうとするために、ずっと
    「要介護の祖父」という役割を演じていたのではないか、
    とも読み取れるが、実際のところ、
    その祖父の心情は作中には描かれていない。

    この語り手の孫以外の心情を描かずに
    物語を淡々と進行させているところが
    筆者の非常に巧みな部分だと思うし、作家としての力量を感じる。
    他人の言動と本心や意図は、結局のところ本人にしか分からない。
    想像を膨らませるしかないわけで。

    この部分を「あえて」筆者は描いていないので、
    急に物語が終了してしまって
    「結局何だったんだ?」とモヤモヤが解消せず、
    低評価にしている読者もいるかもしれない。

    「じいちゃんのことは気にせんで、頑張れ」(P.117) の言葉には、
    孫の幸せを心から願う祖父の心情が表れているように受け取った。

  • 黙々とある思いを達成すべくやることをなす。
    じいさんがなかなかしぶとい。

  • 近年目覚しい医学の進歩や、頻繁に更新される健康情報により、人の寿命は昔と比べ遥かに延びてきた。
    <不老長寿>は人類の果て無き夢であったはずなので、
    それって実に喜ばしい事!

    だが、それはもしかしたら…
    本当は不自然な事なのではないだろうか。
    まぁ、真意の程は定かじゃないし、
    恐ろしい『死』を遥か先延ばしに出来るのだから、願ってもない事ではあるが。

    ただ、物語は人の手を借りなければ生活できない老人と家族のリアルが描かれていた。
    主人公がまだ若く、健康な30前の男性である所も興味深い。
    人の尊厳重視の介護日誌は読む前から内容は知れているが、
    「人の手を借りなきゃ生きれないならもう死にたい。」とぼやく老人の意志を(本音)だと捉えてしまう青年のある意味純真さと、いやいやな介護から得られてしまう
    宝石の様な<真実>に心射抜かれてしまった物語。

  • 朝七時前に「殺せ」と母相手にわめき散らしてからおよそ九時間後の光景だ。健斗はしかしそれをおかしいとは思わない。柔らかくて甘いおやつという目先の欲望に執着する人だからこそ、目先の苦痛から逃れるため死にたいと願うのだ

  • 言いたいことはわからないでもないけど、表面的にしか捉えられてないと思う。合わなかった。

  • 「使わない機能は衰える」をテーマに、人間の生への執着を見事に描き切った秀作。

    登場人物達は、口は悪いけど悪人は誰一人いない。それでも「正義による悪意」がチラつくのは、誰もが忖度せず、真正直に人生を送っている証拠。面白かった!

  • 健斗は5年勤めた仕事を辞めて求職中であり、母と祖父と3人で暮らす。心身の不調を訴え、毎日のように「早う死にたか」とぼやく祖父を、孫の健斗はその言葉の通り叶えてあげようとある計画をスタートさせる。

    孫が祖父を死なせようとする考え自体は恐ろしく感じますが、健斗の行動には傍から見ればおかしく滑稽に映るものもあります。ところが本人は至って真剣そのもの。
    家という閉塞された世界で密かに実行されていく健斗の思惑。それに対する祖父の行動は本当の衰えか、裏をかいた作戦か?本当のところは本人にしか分からないという面白さと不気味さが混在します。
    又吉直樹さんの『火花』とともに芥川賞を受賞した話題作。

  •  無職の三十路前男が祖父の介護をする日々。
     心情として祖父に感情移入するところ、拒絶するところなど、筋トレで鍛えられた肉体以外は社会的弱者の語り手の複雑な意識の流れが非常によく浮彫にされており、非常に純文学らしい純文学だと言える。「火花」人気だけど「火花」の10倍はうまいし5倍は面白い。

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著者プロフィール

1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞しデビュー。「スクラップ・アンド・ビルド」で芥川賞を受賞。『メタモルフォシス』『隠し事』『成功者K』『ポルシェ太郎』『滅私』他多数。

「2022年 『成功者K』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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