天下人の茶

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 384
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903767

作品紹介・あらすじ

おのれと豊臣家の末路を見据えながら、鬼気迫る『明知討』を舞う秀吉の胸に、かつて自らが排した千利休の声が響く。「殿下、共に崖から身を躍らせましょうぞ」―-現世の天下人となった秀吉、茶の湯によって人々の心の内を支配した千利休。果たして勝者はどちらなのか。そして、利休の死の真相は―ー?細川忠興、牧村兵部、古田織部、瀬田掃部ら、千利休を継ぐ弟子たちを通し、二人の相克と天下人の内奥が鮮やかに浮かび上がる。今もっとも勢いある作家が写しだす、戦国を生きる人間たちの覚悟と懊悩、その美しさ。卓抜したストーリーテーリングで読ませる傑作長編!

感想・レビュー・書評

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  • 2016年、第155回直木賞候補作ということで、読んでみました~初読みの作家さん。
    なかなかの迫力です。

    茶の湯がなぜ、戦国時代の終わりに、あれほど持てはやされたのか?
    ふと一抹の疑問が浮かぶことがあります。
    織田信長が大名を支配するための新たな方策の一つとして、意図的に盛り立てたという。
    戦って奪い取った土地を恩賞として分け与えるのには、限りがあったからだと。

    秀吉も当初は千利休を重用しますが、しだいに葛藤が生じます。
    侘び寂びを追及した利休だけれど、秀吉の派手好みは認めていたという解釈をとっています。
    それは人真似でない本物の個性だから、のよう。

    利休は堺の商人であり、武家と深く交わり、茶の湯という芸術を追い求めた、多面性のある人物。
    多くの武家に気持ちのよりどころと安らぎを与えもした。
    弟子達にとっては、難解な発言をする厳しい師匠。
    牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川忠興。
    それぞれのやり方で、違う道を開いていく弟子達も、面白い。

    利休がかなり意図的に政治を操作したというストーリー。
    え、そこまで?という気もしますが~
    殺すか殺されるかという危機もある中を、何とかして生き残っていく戦国時代。
    皆が将来を真剣に見据え、天下のあるべき姿を思い描いていた時代だからこそ、そういうこともあり得たかも知れない!
    ぞくっとする面白さがありました☆

  • 史実を元にしたフィクションであるが、知られざる千利休の人生、戦国時代の天下を揺るがすほどの大規模な戦いが数々と行われていた中で、戦国武将らの癒しがお茶とされていたのである。秀吉と千利休との関係、天下統一の歴史では語られなかった、戦いとその休息とも言われる茶道との深い繋がり、利休が秀吉と明智光秀との戦史に残る事件に大きく関わっていたのではないかとされていること、茶道の普及と戦国政権との繋がり、茶道が時代の変遷とともに、脈々と進化しているのは感慨深い。

  • 利休の切腹で終わった、利休と秀吉との関係は濃密でありつつ謎が多く、数多の作家の創作意欲を刺激する。

    本書では、本能寺の変や中国大返し、文禄・慶長の役の黒幕として利休を描く。秀次切腹の裏にも茶人がいた。

    信長以降、戦国大名の間に茶の湯が流行し、茶人が政治に接近していた状況が可能にする想像だろう。

  • 豊臣秀吉、千利休、牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川忠興といった織豊時代の茶の湯に絡んだ登場人物の短編が重なることで、千宗易(利休)が茶の湯で何をしようとしていたのかという壮大なフィクションが描かれている。信長による「御茶湯御政道」、唐物から侘茶、商人の趣味から武家の精神修養・そして公家から庶民までの広がりの中での侘びの様々なあり方。戦乱の世から太平の世へ移る時代の中での、茶の湯や能楽の意義が、自分にとってとても新鮮だった。
    16-205

  • 千利休、結構好きっすw
    歴史、覚えるの苦手なんで、いろいろ読んでも、誰が誰を殺したとか、そうだっけ?とか思っちゃうんだけどww

    おのれと豊臣家の末路を見据えながら、鬼気迫る『明知討』を舞う秀吉の胸に、かつて自らが排した千利休の声が響く。「殿下、共に崖から身を躍らせましょうぞ!」・・・って、ホラーだよねぇ~?ww

    最初の方、わりと軽い感じだなぁと思ったけど、終盤はなかなかの読み応え!

    現世の天下人となった秀吉、茶の湯によって人々の心の内を支配した千利休。
    戦国時代が舞台だとすべて戦いになっちゃうのねー。
    何やっても常に命懸けって感じ、寿命も縮むってもんです。

    茶の湯文化を創出した男とその弟子たちの生き様もまた、武士たちに劣らぬ凄まじさを見せ、ドキドキ、ハラハラ、コワコワなのでありましたw

  • 利休の弟子たちの連作歴史小説。

    『天下人の茶』第一部  豊臣秀吉
    『奇道なり兵部』    牧村兵部  
    『過ぎたる人』      瀬田掃部
    『ひつみて候』     古田織部
    『利休形』       細川忠興
    『天下人の茶』第二部   豊臣秀吉
    の6編による構成。
    利休七哲の物語は短編として成立しているが、連作としては時系列的ではないのでもっと大胆な構成修正をした方が読みやすいと思いました。
    牧村や瀬田はほとんど知らなかったので、相変わらず作者は埋もれている歴史上の人物にスポットを当てるのがうまいと思いました。
    古田は「へうげもの」という漫画でもスポットが当たっている人物なので、漫画以外の描かれ方に興味を持ちました。
    全体構造としては秀吉と利休の関係性についての大胆な説を採っているのが面白かったです。

  • 千利休の死に関する大胆な仮説(ネタバレなので書かないが)をベースとした、利休と豊臣秀吉、そして古田織部、細川忠興などの利休の弟子たちをめぐるエピソードを描いた短編集。

    その「仮説」そのものは、史実的にはあまり価値のないものかもしれない。
    しかし本能寺の変から安土桃山時代の終わりにかけてを、利休の「侘茶」を軸にし、短編のそれぞれの主人公の視点から丹念に描くことにより、歴史のダイナミズムを上手く表現し、小説としては読み応えのあるものとなっている。

    因みに日経のブックレビューではべた褒め。
    http://style.nikkei.com/article/DGXKZO95817580W6A100C1BE0P01

    流石にそこまでではないと思うが、伊東潤のベストは間違いないだろう。

  • 千利休と秀吉の関係の物語。

    信長は所領や褒章として茶道具を使い、茶を政治の道具としていた。一方、秀吉のもと利休は茶道を民衆に開放し、草庵茶・侘茶を作りだす。
    しかし、茶席における平等概念により、武士と町人の境目が曖昧になると秀吉は利休を切り捨てた、というのか一般的な説明。

    この本では、利休こそが、戦国の世を終わらせるために明智光秀に信長を襲わせ、秀吉に光秀を討つように唆したグランドデザイナーであるとする。

    1576年から1615年までの話なので、500年ずらして現代にあてはめながら読み進むと、数十年の間に茶の湯のかたちが変わっていく様子がわかり面白い。

    利休の弟子たちのそれぞれの人生も面白い。
    利休なきあとに急速に広がるのが、古田織部により創設される武家のための豪華な茶道だが、家康により織部も排除される。織部亡き後は、小堀遠州によって武家茶道が栄えていくという後日譚も。

  • 「へうげもの」を読んでいるなら「天下人の茶」を読みましょう。
    「天下人の茶」を読んだなら「へうげもの」と読みましょう。

    どちらも、己の野心そのまま生き様になり、野心に振り回されて燃え尽き、苦悩と愉悦と達観に塗れた人生を送った愛すべきスキモノたちの物語です。
    いい。

    「天下人の茶」の方が、黒いですけどね。野心が迸った先にある色味が。それを前提に利休好みを鑑みると、彼の持っていた業の深さを思いしれます。
    『ひつみて候』の小堀遠州がいい。ぐつぐつと滾っているものを隠して、それが溢れ出す様がいい。いいねぇ。

  • 面白く読み通せた。へうげものと同じように利休が本能寺を画策したということになってるが、さらに秀吉までも傀儡としていたという設定。それを牧村兵部、古田織部、瀬田掃部、細川忠興などの視点から見ている。実は秀吉には数奇者の才があり、利休は黄金茶室も侘数寄の極みと気付いて他の弟子と違うように教えていたといった見方も面白かった。

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著者プロフィール

1960年神奈川県横浜市生まれ。私立浅野中学、浅野高校、早稲田大学卒業。日本IBM(株)入社後、おもに外資系日本企業の事業責任者を歴任。
著書に『戦国関東血風録 北条氏照・修羅往道』(叢文社)、『悲雲山中城 戦国関東血風録外伝』(叢文社)がある。
加入団体に『八王子城とオオタカを守る会』『八王子城の謎を探る会』『ちゃんばら集団剣遊会』『三浦一族研究会』等。
趣味 中世城郭遺構めぐり 全国合戦祭り参加 ボディビル エアーギター アマチュア・ウインドサーファーとしてソウル五輪国内予選に参加(8位) 「湘南百年祭記念選手権」優勝等各種レース入賞多数
*ご意見、ご感想等の連絡は下記のメールアドレスへ
jito54@hotmail.com

「2006年 『虚けの舞 織田信雄と北条氏規』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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