武満徹・音楽創造への旅

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 23
  • Amazon.co.jp ・本 (781ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904092

作品紹介・あらすじ

現代音楽の巨星・武満徹の幻の肉声が甦る!「ぼくはあの人にだったら、全部しゃべってしまおうと思っているんです」。立花隆による伝説の超ロングインタビューがついに書籍化。Ⅰ1食糧基地で聞いたシャンソン2敗戦とヤミ屋と貸しピアノ3下駄をはいた不肖の弟子4早坂文雄の棺5映画音楽のこと6「武満作品は音楽以前である」7瀧口修造と「実験工房」8ビリー・ザ・キッドをかけながら9浅香夫人との結婚10結核と貧困の時代11秘められた激情12黛敏郎からピアノを贈られる13「音の河」14ミュージック・コンクレートの夢15十八メートルの方眼紙16録音技術者の挑戦17死と向き合う日々-「レクイエムの発端」18幻の創作ノート19「ソン・カリグラフィ」と村上華岳20前衛音楽の共犯者たち21ヨーロッパ的、日本的22演奏家たちの抵抗23西洋近代の鏡24ジャズの影響と「リディア概念」25武満と安保闘争26革命のための音楽は可能か27ジョン・ケージ・ショック28偶然性の音楽から不確定性の音楽へ29芸術と美を求めて30六十年代の草月アートセンター31矛盾と葛藤32尺八奏者・横山勝也と琵琶奏者・鶴田錦史33海童道祖と「すき焼きの音」34鶴田錦史とは何者か35「一音成仏」と「さわり」36調性の彼方へ37天才指揮者、小澤征爾38「ノヴェンバー・ステップス」初日39世界音楽を発見する40宇宙的卵41「ノヴェンバー」以降の実験Ⅱ42突然の訃報に接し43「時間の園丁」44夢と作曲の関係45ブラームスを再評価する46F#の神秘47追悼演奏会と「秋」48国立劇場からの委嘱作品49宮内庁楽部の高い評価50雅楽の影響51「夢」と「数」、そして「水」52ぼくの音楽の作り方53私家版小説「骨月」54軽井沢と五線紙55名門オーケストラの反応56音に個性を取り戻せるか57パーカッションのための作品58ヒューエル・タークイという存在59静かに、同時に恍惚に60クセナキスと、バリ島で61オーストラリアへの旅62巨匠メシアン63日本的引き算のアプローチ64ジャスパー・ジョーンズのこと65いい演奏、悪い演奏66Family Tree

感想・レビュー・書評

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  • 新聞の書評欄を読み、買い求める。帯に没後二十年とある。もうそんなになるのか。

    「僕はこんな本を読んできた」で読んだと記憶するが、著者は作曲した作品を楽譜に書き上げ、友人を驚かせたエピソードがあった。音楽の才能という訳でなく、あくまで作曲の技法を習得しただけとあったが。そんな著者だからこそ、武満音楽の深くまで聞き進めていけたと思う。長期に至るインタビューの追加取材を重ね、家族や周囲への裏付け取材に当時の記録まで漁り、この稀有な作曲者の秘密に迫っている。

    例えば、十二音技法は本やレコードやのCDのライナーノーツには全ての音を等価に扱う技法とある。素人にはさっぱり判らない。本書では、数学的にテクニカルな作曲技法と説明されている。他にも、セリーやクラスターについても同様。ジャズのリディア概念からの影響は著者だからこそ聞き出せた話と思う。本当に、立花さんのインタビュ時の反応の速さは驚かされる。

    黒沢映画の作曲者、早坂文雄のこと、浪人姿の三船敏夫がノシノシ歩くシーンで流れる能天気な音楽。そして、シュールリアリストの瀧口修造からの影響。いずれも昔から不思議だった。読後は先人からの賦与が武満の肥やしになっていったことを知る。若き日の武満は風来坊。本来、生活実感から浮遊した感覚の人と知る。瀧口が若き芸術家の中心にあり、中でも武満とは父子のようであったことも。
    武満が生きた時代の記録としても貴重な証言集と思う。

    作曲者として世に知られた後も意外なエピソードは多い。ノベンバー・ステップスの初演のニューヨークフィルの演奏は必ずしも名演ではない。武満はオーケストラ団員一人一人に楽譜を書いている。レコードやCDでは判らないが、舞台の一部から音が広がっていったり、ある場所から別に音が流れたりするらしい。ああ、生で武満の作品を良い演奏で聴いたみたい。
    プレイヤーにCDを置くといつものように厳しい音が流れるが、改めて確かに哀しいような美しい芯があることを聴き取る。そして作曲者はそれを時に意志を持って、断ち切っている。

    個人的な話を少々。
    高校生の頃にFMからテープに収録した「グリーン」。ロックの楽曲に間でもナガラ勉強の邪魔にならず、かえって頭が冴えるような気がした。ダラけてベッドで横になり聴いたりもしたが、不思議に耳に馴染んでいった。「オーケストラってこんな凄い音がするんだ」と思いつつ浸っていた。
    大学からクラシックも聴くようになったが、最初は長調単調がはっきりしているロマン派は不自然に感じていた。
    今はクラシックも愛聴している。現代音楽も聴くけど、武満徹とその他の現代音楽と個人的な括り方をしている。

    この本が今後の武満研究の豊かな基礎となることを願う。そして、もっと武満作品をステージに掛けて欲しい。

  • 武満徹の音楽はよくわからないのですが、たまたま書店で見かけたら面白そうだったので購入。立花隆がまだまともな仕事をしていた頃の本というのもきっかけの1つ。
    武満徹へのロングインタビューを元に、関係者から裏どりしたり武満に取材し直したりと、ジャーナリストらしい取り組みで武満徹の音楽人生、そして戦後の現代音楽や世相を巻き込んで描かれている本書はまさに武満徹のみならず日本音楽界の青春であり、歴史でもある。その面白さは音楽がよくわからない私でもコーフンします。ビッグネームがガンガン登場しますし。
    しかし、武満の早すぎる死によって連載は中断し、18年もの月日が流れ、死を意識するようになった立花隆がようやくまとめたのが本書。この本をまとめておかねばと思った経緯はあとがきにあるが、亡くなった武満徹に対して、そして本を書くのを手伝ってくれた大事な人に捧げるレクイエムでもあるのだなあ、と思うとその点も感慨深い。
    しかし、やっぱり武満徹がなくなった後のインタビューを収録しただけの部分は、味気ないのが残念。

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001175736

  • 1996年の逝去から24年、四半世紀が過ぎようとしているが、日本人作曲家として未だに武満徹を凌ぐ名声を獲得した者はいないように思える。残念ながら、クラシック音楽の社会的地位が当時よりも低下していることを考えれば、これはつまり、彼を超える日本人作曲家が今後登場する可能性も低い、ということを示している。

    本書は、立花隆が武満徹自身への膨大なインタビューと、関連するドキュメントの徹底的な読み込み、さらには武満徹の関係者へのインタビューも重ね合わせ、「文學界」での6年近い連載をベースに、武満徹の偉業を振り返るという一冊である。徹底的な取材量で知られる立花隆だけに、アウトプットとしての本書は781ページ。参考文献などはないから、この全てが本文であり(写真等のページはあるが10ページ程度に過ぎない)、武満徹という作曲家を知るのに、これより優れた本はないだろう。

    本書を読んで最も印象的だったのは、後期の武満徹の作品における”フォーム”の重要性である。

    西洋のクラシック音楽で最も利用される”フォーム”の一つはソナタ形式である。これは以下の3つの構造から成り立っている。

    ・提示部:2つの主題(片方が男性的であればもう片方は女性的、というように対立的な性格付けをされるケースが多い)が提示される
    ・展開部:主題の変奏、フーガ、転調などの作曲技法を元に、主題が発展していく
    ・再現部:再度、2つの主題が戻ってくる。そして、対立的な性格を持つ2つの主題は、弁証法的に解決され、クライマックスを迎える

    武満徹はソナタ形式に代表される典型的な”フォーム”からの逸脱を志向した。しかし、弁証法という強いカタルシスをもたらす西洋音楽の”フォーム”に抵抗できる音楽世界を作るには、新たな”フォーム”を自ら作り出すしかない。それが後期武満徹の世界観となる。

    この初期と後期の間には、もちろん、彼の名声を一気に広げた「ノヴェンヴァー・ステップス」の存在がある。ここでは琵琶と尺八という邦楽器の力を借りることで、新たな音楽世界を作り出すことに成功したわけだが、このような特定の楽器及び奏者を触媒とする手法には限界もある。その思索が様々な”フォーム”に基づき作曲される後期作品へとつながっていく。

    例えば後期作品では、「海(SEA)」を題材として、E♭・E・Aの3音を”フォーム”として採用した「遠い呼び声の彼方へ!」などが挙げられる。そして、このような”フォーム”の存在は、リスナーにとってはどうでも良いことであり、ただ美しく強固な音楽世界を作りだすためのツールに過ぎない、という目線も重要であろう。

    初期から後期までの作風の変遷を追いながら、武満徹が成し遂げた偉業を理解することができる。お勧めできる人は極めて限られるであろうが、武満徹を知らなかったとしても、音楽の創作に関わる人にはぜひ読んでほしいと切に思う。

  • なんの折だったか、ふと立花隆氏って最近見ないけど(例によってオレが見ないだけの話だけど)、どうしてるのかしらと思って調べてみたら、思いがけず武満徹氏の本を出していることを知った。

    届いてみてびっくり、ゆうに780ページあり、しかも開いてみたら二段組、活字がページの隅までギッシリという大著であった。

    まあ、氏の著作はいずれも大著が多いが、これまでいくつか読んだ限りでは、長くても面白く読み通せるのが常である。テーマというか背骨がビシっと決まっているのと、文体(ロジック)がきれいなせいではないかと思う。

    そういうわけで、この本も大変面白く読んだ。

    「文學界」という雑誌にかなり前に(武満氏の存命中から)連載されたものだそうだが、綿密な文献検索とインタビュー(武満氏やその周辺の肉声)がほぼ切れ目なく混交した、リズミカルな文章で氏の足跡を追っていく。

    作曲家(音楽家)を志すきっかけとなった「蓄音機のシャンソン」のこと、街角でピアノの音が聞こえるたびに、その家に触らせてもらいに行ったこと、病気(結核)のこと、「デビュー作」酷評のこと、「ノヴェンバー・ステップス」の成立過程(と、前にも読んだ名手たちとのやりとり)、幅広い交友関係、音(だけでなくものごとの成り立ち)に対する鋭い感受性と洞察、そして何より「ノヴェンバー」後も含む、人生を通した音楽的な変転など・・・。これまで見聞きした内容がいかに点描に過ぎなかったと思わさる、その深掘りぶりには圧倒された。

    しかし本の2/3辺りまで来たところで、突如として武満氏が亡くなってしまう。インタビューが柱の連載ゆえ・・・というか、著者自身これからあれも訊こう、これも訊こうと思っていた矢先のできごとで、相当な衝撃を受けたらしい。一読者としても、その巨大な思索が永遠に喪われてしまったことに改めて思いを致さずにはいられない。

    そこから先は遺されたインタビューをテーマ毎に配置した記事になるわけだが、どうしても尻切れの印象は残ってしまった。

    ともあれ雑誌の連載は最後(がどこなのかはともかく)まで続けられた。単行本化もゲラ刷りの状態までは進んだらしいが、その後18年も寝かされたままだったのだという。それほど、立花氏のショックが大きかったのである。

    後書きに、出版がまた動き出した理由が書いてあった。

    ショックから立ち直れないまま長年原稿を寝かせてしまったが、取材の過程で知り合ったパートナーの女性(箏楽家)が2015年に癌で亡くなるのに及び、立花氏に本の完成を望んだというのである。

    そこから作業は一気呵成に進み、本は昨年上梓された。これでようやく武満氏と、(癌の戦友でもあった)その女性のもとに届けることができる・・・と結ばれる。

    最後に、すっかり泣かされてしまった。

  • 第一人者の筆による渾身のルポ。二段組770頁はさすがの読み応え。筆者が現代音楽好きで武満の音楽を初期から聴いてきて、相当、熱を入れて書いている。これだけのボリュームで抽象的な材料を扱っていて、いろいろな人物が登場するのに、一箇所も不明な文章がない!流石。
    武満が亡くなって出版する機を失ってから18年後の出版になったことについて、邦楽をするがん友の女性の死が関係したことに触れていて、人を動かすのは情であることを実感。

    武満の音楽家としての特異性は、一般的な西洋音楽の基本を学ぶことを殆どせず、映画の音響、生活音の音楽への組み込みなど、音そのものの探求から進んだことで、従来パターンにとらわれない音づくりになったのではないか。また詩人とのつきあいなど多くの文化人との濃い交流が成長に大きく影響している。現代詩人の瀧口とスケッチブックを交換しあう挿話など人間味溢れていて素晴らしい。
    戦後の何もない時代からのスタートで、みんなが試行錯誤しながら新しいものを求めていく熱気が伝わる。翻って今は既に何でも揃っているような気持ちから「求めていく」力が弱まっているなあと思う。

  • 厚い本でたじろいた。
    武満の代表作ノヴェンバー・ステップスは、ニューヨーク・フィルの創立125周年記念の委嘱作品だそう。
    現代音楽は難解で聞きずらいとの印象をこの曲は外した。
    尺八も琵琶も、こんな音が出るのか、出せるのかと驚くばかり。
    和楽器が珍しい外国人はもっと驚いたか、奇異に感じたか。

    武満はたくさんの映画音楽を作っている。
    映画は何でもできたらしい、音の実験をさまざま試したのだろう。
    「燃える秋」などメロディックで日本調、旋律がきれい。

    ロングインタビューをした二人は、お互い格別に気に入った間柄だったのだろう。
    気に入っているから、何でも聞け、何でも答える。
    読みやすい文章、構成だから、途中で嫌にならず読み続けられた。

  • 2018年6月10日に紹介されました!

  • 発売すぐ購入、放ったらかして早2年。
    なぜもっと早く読まなかったのだという濃密体験。
    西洋でも東洋でもなく、そのどちらも、すべてを、ただ音楽のみを探求した武満徹。
    周辺人物も、早坂文雄、瀧口修造、黛敏郎、一柳慧、湯浅譲二、谷川俊太郎、横山勝也、鶴田錦史、ジョンケージ、オリヴィエメシアン、ジャスパージョーンズ・・・
    立花隆にしか成し得なかった、日本の、いや世界音楽史に誇る大傑作。

  • 本書は100時間を超えるインタビューに基づき、781ページ、上下2段組という圧倒的な量をもって、武満徹の人生のほとんどを描いた。さらに言えば、本書は、立花が自身の人生では時間を配分できなかった現代芸術への憧れを、武満を通して生き直そうとした作品なのであろう。そう考えると、連載終了後18年目、武満没後20年目にして本書を世に問う意義が理解できると同時に、少し切なくなる。(岡ノ谷一夫)

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著者プロフィール

ジャーナリスト、作家。1940年長崎県生まれ。1964年東京大学文学部仏文科卒業後、文藝春秋新社入社。1966年退社し、翌年東京大学文学部哲学科に学士入学。在学中から文筆活動を始め、宇宙科学から生命科学、宗教から政治まで、幅広い執筆活動を続けた。主な著作に『田中角栄研究』『宇宙からの帰還』『青春漂流』『臨死体験』など。東京大学や立教大学では教鞭も取った。2021年4月30日、急性冠症候群のため死去。享年80。

「2022年 『いつか必ず死ぬのになぜ君は生きるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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