ままならないから私とあなた

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904344

感想・レビュー・書評

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  • 私たちにはできないことがある、だから、私たちは別々の人間なんだと。そして、別々の人間だからこそ、体も心も重ね合わせたくなるんだと。(P.189)

    「偶然だったから、愛しいんだよ」(P.248)

  • 合理主義な私は限りなく薫ちゃんに近いタイプの人間で、だから、ユッコタイプの人が圧倒的に多い世の中を生きる薫ちゃんの苦労も、痛いほど共感できた。
    だからこそ、ラストでユッコが昔から感じていたことを伝えた時(きっと万人が肯定するであろう具体的事例含めて)、薫ちゃんが重ねるように真っ当な反論をしてくれたことが、少数派の私としてはすごくスッキリしたし救われた気持ちになった。
    ただ一点、薫ちゃんは最初からずっと勘違いしてたんじゃないかなと思う。
    ユッコは、ひかるちゃんが奏でるような曲を生み出せるアーティストになりたかったわけではなく、ひかるちゃんのように、自分にしか奏でることができない曲を作れるアーティストになりたかったはず。
    前者と後者は似ているようで全く違う。そこを捉え違えるほどまでサイコパスに振り切っていたからこそ、薫ちゃんは真の天才なのかもしれない。
    いずれにしてもこんなに価値観の違う二人が(だからこそなのか?)お互い折れることなく親友てあり続けていることがなにより素晴らしい。

  • とにかくレンタル業のインパクトが強過ぎて引きずる。昔、レンタル業の友人として結婚式に出るとか情報番組で見た気がするけど今でも需要はあるんだろうか。
    コロナの影響でそんな手段で繋げる必要すら無くなってしまったのだろうか。

    自分をさらけ出すなんて、あまり聞かない言葉になった。今では個人情報、個人情報。

    あまりに人との繋がりが生々しくて、苦々しい。
    事実を知ることが、人となりを理解していることにはならない。ことさら仲良しの定義にも当てはまらない。

  • 昔はなんでも分かり合えて、その人だけが真の理解者だと信じていたのに、少しずつ疎遠になっていくにつれてだんだん価値観や考え方の違いに気づき始めたり、あれって思うようなことが1つずつ増えていく様子がリアル 読んでいてわたしにも思い当たる記憶がいくつかあるからこそ、この2人には仲良くいて欲しいと願わずにはいられなかった
    最初に「昔はこうだった」といろんなことが不便だった自分たちの方が偉いと思いたいんだろう、とあったのがいつの間にか自分もそっち側に回ってしまっていることに時の流れを感じる

    話の中で光流ちゃんは私にしか生み出せない音楽を追求していたけど、薫ちゃんが作ったソフトは「光流ちゃんらしい」音楽を勝手に作成できてしまう ラストのようにソフトが人間を超えるようなことが起きた時、今まで勉強して培ってきた経験や知識は意味がなかったの?と思ってしまうし、そうなるのはなんだか味気なくて悲しい 誰かにしかできないから価値があると思いたいよ

    誰もが同じことをできて、できないことがない人間よりどこか優れている場所や劣っている場所があるからその人らしさが出るし、そこに人間は惹かれるんだと思う 
    思う通りにいかないから、自分でできないことがあるから努力してできるようになろうとするし、その人にしかないものを大切にしたい 

    最後、どこまでを技術に頼るかをきちんと線引きしていたらこうならなかったのかな

    「誰でも何でもできるようになったら、皆同じになっちゃうから。ままならないことがあるから、皆別々の人間でいられるんだもん」p,249


    「レンタル世界」
    雄太の「自分の底を見せれば相手も心を開く」っていう少し強引に思える考え方は、そうなのかもしれないけどそれが適用する人としない人がいるよね 基本的に「人の考え方を変えたい」っていうのは傲慢な考えで、他人を動かすことでさえ難しいのにその人の元となる染み付いた考えを変えるのはよっぽどの努力がないと難しいと思う 別の生き物だし 
    だからこそ雄太はレンタル業=「そこにあるべき自分をレンタルするもの」、社会ではその場しのぎも必要になるものだと割り切って考えられたらもっと楽に生きられるんじゃないかな

  • タイトル作とレンタル世界という二作。
    どっちもなかなか痛いところつくなぁ、っていう作品でした。

    レンタル彼女とかレンタル友達とか、わたしも否定的ではあるが、彼女のいうことも確かに一理あったなぁ。レンタルでの関係をみせることによって大切な関係を築く、とか、ひとは第三者の評価をあてにする的なところとか。レンタルの関係性も必要だな、って思えた。

    表題作は合理化ところとか人間的なもののぶつかり合い。まさかあんな形で友達に夢を潰されるとは、なかなか辛い結末だったな。しかもその友達は正しいことをしてると思ってるからね。
    夢を応援する、寄り添うって言って結局は自己満だしなぁ。でもそのうちこういうことって増えてくるのかな。利便性やITが人の夢を奪うこと


    2017.2.18

  • どちらのストーリーもおもしろかった。
    人の心の深いところを見せてくれるような、そんな作品。

    ままならない〜は、カオルの独特さにひやひやしたし、生きづらそうだけど、自分という芯をもってるのがすごいなあと。でも幸せなのかと言えばそうじゃない気もするし、、。

    また読み直したい。

  • 浅井さんの作品はいくつか読んできましたが、中でも1番好きです。2つのお話が入っていましたが、読後感にズッシリと来るものがあり、考えさせられるような内容でした。

    特に私は、1つ目の「レンタル世界」が好きです。先輩の苦悩を考えると胸が苦しくなりますね…見栄を張るためにレンタルするのもなかなか人間らしくて私は好きです(笑)

  • なんとも・・・・笑

    主人公が寛容ですごいなと思った。私なら中間の時点で親友に物申すだろうな。

    ラストは、「世の中こんなもんだよね。ほんと、ままならない」

    あんまドロドロしていなくてサクサク読めた。
    レンタル世界も面白かった。

  • どちらの作品もおもしろかった〜!
    「レンタル世界」は主人公が綺麗事ばかりで好きになれず、読み進めるにつれてイライラが募っていったけど、ラストはスッキリ。
    痛快、そしてそうくるか〜という展開。

    「ままならないから〜」は雪子と薫、どっちの言い分も共感できて考えさせられた。これからどうなるのかなぁと想像するのも楽しかった。
    朝井リョウさんの作品は読みやすいし、細かいところがリアルなので想像しやすいなあ。

  •  テクノロジーの進化で、できないことができるようになってきた。いろんなことが。
     それを突き詰めていくと、全部のことが誰でもできるようになるということだ。なんでも、かんでも。
     そうなったとき、人間と機械の違いはあるのだろうか。

     「ままならないことがあるから、皆別々の人間でいられるんだもん」

     私とあなたを隔てることは、私にできないこと、あなたにできないこと、できないことがあるからだ。
     そこでタイトルが生きてくる。ままならないから私とあなた。

     今まで、テクノロジーが人から仕事を奪うとか、技術革新で生活の質は向上しているとか、そういう議論は尽きない。
     それが良いとか、悪いとかを身近に落とし込んだ小説は読んだことがない。

     技術革新は敵か味方か。このまま進化の速度に身を任せていいのか。

     「レンタル世界」では、お金で人間関係を見せかけることの是非について、
     「ままならないから私とあなた」では、小学校からの薫と雪子の友情を通して人間と機械の違いについて考える。

     読みやすく考えさせられる二編。

著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

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