- Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163904672
作品紹介・あらすじ
豪腕作家、伊東潤の新境地・社会派ミステリー長編連続殺人鬼を追え! ハーフの日本人と日系アメリカ人が一回きりのバディを組む。東京五輪直前の横浜を舞台に描く社会派ミステリー。
感想・レビュー・書評
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戦国時代がお得意の伊東潤さんによる、近代を舞台にしたミステリー。
東京オリンピック開催を翌年に控え、戦後の復興と戦後の景色が綯い交ぜになっている横浜。
見た目は白人のハーフだが日本人警察官のソニー沢田と、見た目は日本人だがアメリカ海軍憲兵隊のショーン坂口。
互いに身の置き場の無い人生を送ってきた二人が、連続女性殺人事件を追う。
戦前~戦後の時代、自分が何人か、どこの民族か、どの血を引いているのかというのはものすごく重要で、それが自分の身の置き場を決定し人生を決めるくらいの大きなことだったことはその時代を知らない私にも容易に想像出来る。
ましてや沢田は見た目は全くの白人だが日本生まれの日本育ち、母親は外国人相手の身を売る商売をしていた女で、それ故に子供時代からどこにいても疎外感をいだき続けている。その見た目を逆手に取って英語を独自に勉強し、その語学力で警察官になったが未だに自分の身の置き場のない辛さを味わっている。
一方の坂口は日系移民である祖父が、白人と日本人労働者との闘いに巻き込まれて命を落としたことから「白人には逆らわない」をモットーに生きてきた男。戦中もひたすらアメリカに忠誠を示し、日本人捕虜の尋問を担当するという辛い任務をこなして来た。
そんな二人が連続女性殺人事件、その容疑者がアメリカ海軍にいることを知りながらどうにも出来ないジレンマを抱えつつ、なんとかこれ以上の犠牲者を出さないためにタッグを組んで極秘捜査を行う。
伊東さんらしく読みやすい。アメリカ軍、引いてはアメリカ人に逆らえない日本社会、日本政府、日本人という当時の状況や、ハーフや日系人の置かれたどこに行っても疎外される状況を交えつつ、ずっと堪えてきた二人がこれだけはと懸命に闘う姿を描いているのが好感持てる。
ミステリーとしても一捻りあって工夫があったが、ラストはちょっといただけない。何となく薄ぼんやりとして解決してしまって、もう少しガッツリとことん書いてほしかった。そこはハードボイルドでもないし社会派ミステリーでもないのだから仕方ないことかも知れないが。
ただ個人的には沢田にはあの彼女と幸せになってほしい。この時代だけに色々ネックはありそうだけど。
見た目白人のハーフというと、五條瑛さんの鉱物シリーズに出てくる葉山を思い出す。鉱物シリーズのようにシリーズ化してみるのも面白いかも。どうも単発っぽいけど。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1963年横浜。東京オリンピックを翌年に控え戦後復興に沸き立つなか、横浜港で女性の他殺体が見つかる。腹部はネイビーナイフで切り裂かれ、爪には金髪が残っていたが、捜査員の前に立ちはだかるのは米軍の壁。
たとえ軍人が限りなく疑わしくとも政治的に日本の警察は捜査できず、犯人が本国に召還されるのを指をくわえて見ていなければならない現実。
戦後70年以上たったいま、その辺は真に解消されているのか・・・
外見は白人にしか見えないハーフの警察官・ソニー沢田と、外見は日本人の日系三世の米軍SP・ショーン坂口が組織の壁を越えバディを組んで捜査を続ける。
二人に共通するのは、どちらもそれぞれの住む世界で疎外感を覚えてきたこと。日本人にも白人にも差別され、どちらのコミュニティの一員にもなれない疎外感。日本人のよそ者を阻害する意識と白人の絶対的な白人優位の意識。これも表面上はどうあれ、根っこのところは今もあまり変わってない気がする。
事件を縦糸として、二人の男の内面を横糸として織り込まれていく物語は、昭和の郷愁と人間の醜さを描いて切なくなる。
タイトルに自分の生まれた年が使われているので手に取った作品は、戦後日本の姿と、今も変わらない問題を浮き彫りにした社会派のミステリーでした。 -
今日ではハーフタレントの影響もあり、混血である事はこの本の中に書かれているほど珍しくはなくなった。しかし、好奇の目で見られたり学生時代等に嫌な思いをする人は多い。
この本に出てくる2人の人間、白人系、日本国籍のソニー沢田とアメリカ国籍の日系人、ショーン坂口も戦後の混乱から国が立ち上がろうとしている時代においてそれぞれの肌の色、国籍、立場に悩みながら進んでいく姿と、そこに巻き起こった殺人というミステリー要素が加わって読み物としては楽しめるし、その当時の時代背景なんかも随所に盛り込まれていて、その時代を知らない人間にも引っかかりなく入る事ができた。
ただ、ラストがボヤッとしたまま終わってしまうのが個人的にはモヤモヤしてしまった。 -
あの時代小説の伊藤潤さんが現代(と言っても50年前)を舞台の本格ミステリに登場。
日米混血で見た目は白人そのものの神奈川県警外事部に勤めるソニー沢田と、血筋は純血の日本人だがアメリカへの移民三世で米軍横須賀基地犯罪捜査部のショーン坂口が殺人事件の謎の解明に挑む。
とかく漂白されて懐かしさだけが描かれがちな昭和の風景を克明に描写して当時の社会に残っていた貧富や差別感情を描いた作品。
この設定で続編は難しいと思うが、続きが読みたいぞ! -
横浜生まれ横須賀育ちの自分でも、へーっと、言ってしまった分描写が、良い。
長者町、ベース、三笠を思い出した。 -
東京オリンピック直前の横浜が舞台。敗戦の色を濃く残す横浜で連続殺人事件が起き、ハーフの警察官ソニーが捜査を始めるが。。。時代の割に読みやすくさくっと読めるけど、ストーリーはちょっと物足りなかった。
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この作者の現代ものはじめて読んだ。事件ものであまり好みではなかった。昭和東京オリンピック前ってこんなに戦後色濃かったのね。
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横浜を舞台に見た目は白人の日本国籍の刑事と見た目は日本人のアメリカ国籍の軍人が、共にoutsideとして苦しみ耐え抜いた環境を共鳴しながら、日本人女性の連続殺害を突き詰めていく。戦後、横浜でのアメリカ人の無法行為など細かい描写が時代背景をうまく浮かび上がらせ、自然とビジュアル化されます。
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1963年 東京オリンピックの開催を翌年に控え、日本国が奇跡的な経済発展を進めてきていた時代。
しかし、それはまだ太平洋戦争の敗戦から20年も経っておらず、太平洋戦争に続いて起きた朝鮮戦争、そして泥沼状態のベトナム戦争のための兵站基地として日本が機能していた時代。
多くの米軍人が、日本各地にあった米軍基地周辺を自由に闊歩している時代だった。
その横浜で起きた殺人事件。神奈川県警の捜査線上に浮かび上がるのは米軍人の影。
当時、米軍人が犯罪を犯したとしても、日本の警察にはほとんど何の対処も出来ない時代だった。
その時代に生まれ、米軍基地周辺で育った作者が感じてきた匂い、育ってきた世界が、やはり同じ時代に生まれ、基地の町で育った自分には、そこあるようにとてもリアルだった。
殺人犯を追い詰めていく県警外事課、そして海軍警察の日系捜査員。
平等を標榜しつつ、心の奥底に差別感情を持ち続ける米軍人と、過度に卑屈な日本人。それらハンデを乗り越えて、彼らがたどり着く真実とは....
横浜、横須賀という非常に馴染み深いエリア、そして、馴染み深い時代の物語ということもあってか、一気に読み終わりました。
面白うございました。 -
初読みの作家さん。
とにかく題名の年号のみに引き寄せられて読んだ。
プロローグと1章の1までで「つかみはOK!」というくらいに引き込まれた。
巻頭の地図は大変ありがたい。
自分の生まれた頃が、場所によってはまさかこんなにも「戦後」が色濃く残っている、というより存在している、そんな時代だったとは!ということに衝撃を受けた。
事件の真相については、主人公の2人より先に気付いてしまったのだが、謎解きというより、もっと深いテーマで書かれているので、その点は別に不満に思わなかった。
読みやすいのに、読み応えがあった。
また本書は4年前に書かれたものだが、白人が持つ差別意識がまさに本書に書かれた通りだということは、今年は特に様々な形ではっきりした。
個人的にも、横浜の舞台となっている箇所をたまたま昨年訪れていることと合わせて、
本書を読むのは今がタイムリーだった。(2020年6月 記)