美しい距離

  • 文藝春秋
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レビュー : 108
  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904818

作品紹介・あらすじ

死へと向かっていく妻に照射される夫のまなざし40歳代の妻は癌に冒され死へと向かって歩む。生命保険会社勤務の夫は愛する妻へと柔らかい視線を投げかける。人生考察の清々しさ。

感想・レビュー・書評

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  • 別サイトでおすすめしていただいた一冊。
    短いページ数に淡々と、だけど深甚な文章で綴られる夫婦の最期の時間。「未来があまりないことは知っている。未来が消える瞬間が来ることも知っている」けど「希望を失っていない」ことを、お医者さまをはじめ周りの人に伝えるのが難しいことが強く心に残った。本で読むのでなく現実で聞いたら、私もきちんと理解できないかもしれない。
    読後、タイトルにしみじみ感じ入った。
    それぞれの関係・想いにとっての、それぞれの美しい距離があるのだと。そしてそれは遺されたものにとって、かわらないものであり、日々、かわっていくものなのだと。

  • 初めての山崎ナオコーラ。去年のlifeで取り上げられていたこと興味を持った。現代小説はあまり追いかけていないが、とっても有意義な読書体験になった。

    妻が死病を患い、夫がゆっくりと看取っていく話。作品はシンプルに良かったんだけど、読みながら下重暁子の「家族という病」を思い出した。あれは一元的な家族という連帯的なイメージにうんざりして、家族の意味と個としての人間のあり方を問うたものだった。メッセージとしては同じではないと思うんだけど、イメージ的には近い感覚がある。

    戦後と高度経済成長が作り出した「日本」という大きな物語。そこでシンプルに作りだされた画一化された人生観が、個々の実存にぶつかり、ほどけて重力を帯びるような感覚。家族であったり、死であったり、概念としての抽象名詞が固有名詞化されていく。しかしその実存もあくまで個別的なので、それぞれが描く自己であったり他者の物語が棘のように刺激する。特に死という終局の実存だからこそ。

    この話のキーは「距離」。惑星間の距離の拡大から話は落ち込んで、人間の距離として進む。妻を愛する夫の敏感な心が、妻の死を目前により先鋭化される。思い残しと同時に、弱くなった妻を介護しながら満たされていく愛情。妻とそれぞれの距離を持つ人たちの物語の中での「死にゆく妻」に違和感を覚えながらも、それを受容しようと努める。作中、中ほどでの夫の言葉が印象的。「愛するということは相手を所有することではなく、相手のもつ社会を受け入れること」。

    そして妻は死んで、受け入れがたい葬式を終えて、一人になった。日に日に妻に対する実存感が薄れていきながら、仏壇に向かい合う心も言葉遣いも変わってしまい、距離は遠のいていく。しかしそれが悪いわけではない。愛したという実感が残っている。それも一つの物語である。

  • 夫と妻…物理的に遠く離れてしまっても、二人の関係は程よい距離感を保っている。
    この心地好さは二人にしか分からない。

    四十代初めの夫婦は連れ添って15年。
    子供はいないけれど妻はこだわりのサンドウィッチの店を持つ等、豊かな生活を送っていた。

    そんな妻ががんを患う。
    しかも助かる見込みはないという。

    妻も夫も、妻の病を冷静に受け止めていることに一番驚いた。
    確かに受け止めるまで葛藤はあったと想像する。
    けれどこの二人の病室でのやり取りはとても自然。
    妻は「死ぬまで修行中」と仕事のことが頭から離れずにいる。
    そして夫…。
    こんなに妻に献身的な夫は見たことがない位、常に妻に寄り添う。妻が少しでも楽に過ごせるよう考え悩む夫の姿が印象に残る。
    病に犯されて痛くても苦しくても、その瞬間瞬間を生ききった妻が羨ましい。

    「来たよ」「来たか」と入院中片手を挙げ合って挨拶を交わした同志の二人。
    この二人の関係を理解できない人は多いかもしれない。
    でもこれが二人にしか出来ない生き方だと思う。
    物語は淡々と進む。けれど山崎さんの言いたいことが心にじわりじわり染み込んできた。

  • 愛する家族を看取る人の心が本当によく書けていると思う。
    看取る間に必ず付き合わなければならない、介護認定の職員、看護師、医師、見舞い客、弔問客などもリアルに描かれている。心無いことを言われても、相手にも「物語」があるのだと納得しようとする語り手の心情もわかる気がする。
     しかし、実際の看取りはもっと激情も伴うと思うし、この物語の看取られる側の妻は、若く、病気の進行も早いけれど、長引けば家族はもっと疲弊し、場合によっては怒りや憎しみを抱くこともあるだろう。そこのところは美しくまとめられているなあ、という気はする。
     実際にがんの家族をを看取った人にこの本を読ませたいかと言われれば、ちょっと・・・と断るだろう。本当に「美しい距離」が感じられるまでにかかる時間は個人個人で違うから。

  • 末期ガンの妻とその夫の話。結婚しているといつかはこういう日々が訪れる。登場人物に共感できるかは人それぞれだが、気の持ち方として読んでおいて損はないだろう。

  • 泣いた、後半ずっと泣きながら読んでいた。
    ずっと「距離」がテーマだった。そして何度もこの夫から妻への美しい距離を感じたことだろう。美しい距離の選択に、矜持を持っていたのだろう。
    正直、「人のセックスを笑うな」は読むタイミングも悪く、挫折した。だけど、この本は読むタイミングも最善だった。美しき、文学が読みたかった。素晴らしかった。
    『配偶者とは、相手を独占できるものではなくて、相手の社会を信じる者のことなのだ。』

  • 死んでいく話

  • “「ありがとう」だの「幸福」だのの内情をこちらが勝手に推察し、本当の「ありがとう」、本当の「幸福」だけを求め、社会に役立つ自分に酔おうとしたばかばかしさよ。”(p.7)

    “配偶者というのは、相手を独占できる者ではなくて、相手の社会を信じる者のことなのだ。”(p.42)

    “ゴールの方向に生きているのかもしれないが、ゴールの瞬間だけが光っているわけではないと思う。”(p.114)

  • こちらの感受性の問題か夫に共感できない部分も。看る側と看られる側、取り巻く人間関係、それら距離の取り方はそれぞれで、正解なんて分からない。数多あるケースのひとつとして読んだ。

  • 妻の病と死という流れの中で、
    主人公が感じたことが淡々と、熱く語られています。
    妻のことを大切に想い、尊重し、
    でも深読みしすぎなんじゃないかと感じるところもありました。
    きっと、主人公と妻の間にも考えていることにずれがある。
    妻や他の人の心の中は最後まで語られないけれど、
    本当の人生もこういうものだなと思います。
    夫婦や親子や仕事仲間の心の中はわからない。

    妻の死後、急速に離れていく感覚は、わかる気がします。
    そして、最後まで読み終えてタイトルを見たとき、
    うまく言えませんが、ああ、このタイトルだ!と思いました。

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著者プロフィール

1978年福岡県生まれ。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞し、デビュー。小説に『ニキの屈辱』『美しい距離』『趣味で腹いっぱい』、エッセイに『母ではなくて、親になる』など。

「2019年 『リボンの男』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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