- Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163904818
作品紹介・あらすじ
死へと向かっていく妻に照射される夫のまなざし40歳代の妻は癌に冒され死へと向かって歩む。生命保険会社勤務の夫は愛する妻へと柔らかい視線を投げかける。人生考察の清々しさ。
感想・レビュー・書評
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「忌引き」という休みがあるが、死んでから休みをもらってなんになるのだろう。むしろ、死ぬ前に休みが欲しい。(P.65)
近いことが素晴らしく、遠いことは悲しいなんて、思い込みかもしれない。遠く離れているからこそ、関係が輝くことだってきっとある。(P.160)
今は、離れることを嫌だと感じている。でも、嫌でなくなるときが、いつか来る。そんな予感がする。(P.160)
淡いのも濃いのも近いのも遠いのも、すべての関係が光っている。遠くても関係さえあればいい。(P.164)
結婚し、親しい間柄でも死んでしまえば、距離は離れていく。心理的にも身体的にも。関係が薄く離れてしまうことに悲観的になるのではなく、離れていくものだと割り切り、その距離でさえ美しいと思わせてくれる作者の言葉。闘病をテーマにした小説は悲しくなるのに、なぜかこの作品は温かい気持ちになった。 感染症で遠く離れてしまった関係も、その距離だから輝くものがあると信じたい。
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大事な人を看取ったときの小さなことまでも思い出してしまったぐらい、繊細な心の揺れとか動きが伝わった。
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別サイトでおすすめしていただいた一冊。
短いページ数に淡々と、だけど深甚な文章で綴られる夫婦の最期の時間。「未来があまりないことは知っている。未来が消える瞬間が来ることも知っている」けど「希望を失っていない」ことを、お医者さまをはじめ周りの人に伝えるのが難しいことが強く心に残った。本で読むのでなく現実で聞いたら、私もきちんと理解できないかもしれない。
読後、タイトルにしみじみ感じ入った。
それぞれの関係・想いにとっての、それぞれの美しい距離があるのだと。そしてそれは遺されたものにとって、かわらないものであり、日々、かわっていくものなのだと。 -
妻の病気をきっかけに、いろんな価値観の違いを感じる主人公。それは、彼は彼の、彼女は彼女の、妻の母は妻の母の物語を歩んでいるからで、自分が感じていても他人はそうではないってことを自分自身との対話を通し感じている姿が心を打つ。自分はこう思うということを率直に、だけど優しく伝え、彼女はそうではないことを受け止める姿勢がいい。誰にでも言わなくていいこと、言わずにいたいこともあるだろうな。病状や医療費について隠さず話し、納得した上で進めたいっていう夫婦のあり方はいいなー。
未来のことを話さずにどう楽しんだらいいのか、という台詞が何度か出てくるけど、耳かきや顔を洗ってあげている時至福の喜びを感じているから、今ここを楽しむ事が重要と書こうとしてるのではないかな。とはいえ、今ここを見つめる事が楽しいと思える経験をしたことがあまりなければ難しいけど… -
末期がんの40代の妻を看病する(そして看取る)男性の話。
とてもリアルで、ドキュメンタリーを読んでいるようだった。「死の瞬間」もいたって静かに描かれていた。
心理が丁寧に丁寧に描かれていた。
血の繋がった親や子よりも、配偶者のほうが関係は近いらしい。親のほうが一緒に過ごした期間が長いのに、と男性は思う。
私だったら、そんな時に一番そばにいてほしいのは、配偶者かもしれないなと思う。
配偶者って不思議な関係だ。血も繋がっていないのに「家族」になる。しかも「一番近い」家族に。
毎日一緒にいる近さでも、もう2度と会えないくらいの遠さでも、濃くても薄くても、心地いい距離は人それぞれだ。関係さえあればいい。
これを「美しい距離」と呼ぶのかなと思う。
がんにはマイナスなイメージが多い。
けれど、ほかの病気にはない「死ぬための準備期間のある」病気という解釈には、確かに明るいイメージが持てた。
巻末の著者紹介に「目標は『誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい』」と書いてあって、いいな、と思った。
クロワッサンのサンドイッチが食べたくなった。 -
子供がいない、まだ40代の妻が癌で亡くなるまでの数カ月の過ごし方を丁寧に描いたお話。
あっけないお別れよりゆっくりお別れを覚悟してゆくのは別れとしては最善かもしれないけど、これは亡くなってゆく側の腹の座り方によるかもしれない。穏やかな夫婦の穏やかな関係だからこその綺麗なお別れ。
私はこんなに美しく最期を迎えられそうにないのであっけない方を選びたいと思った。 -
夫が妻に対して家族だからといって思っている事を何でも口に出すのではなくまず相手の気持ちを慮る、そして言葉を選ぶ。
その思いやりや配慮が本当に素敵な距離感で妻を心から愛していることが伝わった。
「死因は、妻と同じがんがいい」
このセリフがとても印象的だった。
衰弱していく様を間近で見てきたからこそ、この言葉はすごく重みがあって心にぐっときた。
多くの人は病気を患った人に対してステレオタイプな考えを持ちがちで、点と点を結びつけて物語をつくりたがる。例えば、「人間ドッグを受けていないからがんになった」「若いから進行が速かった」。「余命○ヶ月と言われていたのにそれ以上生きられた」、あるいは、「余命○年と言われていたのに、あっという間だった」。
周囲の人が勝手につくる物語に夫は内心不満に思っていた。それに私はとても共感した。何が原因かなんて一概には言えないし、勝手に物語を作って当てはめる事はただの自己満足でしかないと思った。
最善の経過なんて誰にも分からないし、2人が最善の道を辿ったともいえない。けれども、夫は、「最善の道を歩かなくて何が悪い。自分たちは、他の誰とも違う、自分たちだけの道を歩いたのだ。」と、自分を貫いていてとてもカッコいいと思った。最善を選択しなくてはいけない、その概念すら取っ払ってる事に私は本当に考えさせられた。
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ガンの妻に寄り添う夫目線の話だが死にゆく妻、ではなく「今日生きている妻」に淡々と会いに行く中で、少し傷ついたり誰かに腹を立てたりすることが丁寧に描かれていて引き込まれた。
夫婦とか親子じゃない小さな関係もちゃんとその人を作ってるんだよなぁ。