銀の猫

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905815

感想・レビュー・書評

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  • 2023年のベスト本です。
    しんみりしたり、心が乱れたりと……
    年寄りの介護をする介抱人・お咲の奮闘物語です。

    時は、天保七年(1836)。江戸は本郷の菊坂台町に住む、お咲25才は、6年前に嫁に行った先の舅・仁左衛門の介護をしていたが、母親・佐和が仁左衛門からお金を貰っていたのが亭主と姑に知られて離縁された。その時に佐和が貰った金として30両の借用書を書いて半年に一度返済している。江戸時代、親の介護をするのは当主の務めとなっていたが。なかなか出来るものではないので裕福な家では、介抱人を雇った。お咲は、4年前から口入屋「鳩屋」で介抱人を始めた。

    【銀の猫】
    見所は、お咲の義父への想い。口入屋「鳩屋」の主人・五郎蔵とお徳夫婦に見守られて誠心誠意働くお咲は、引っぱりだこですが、妾奉公を繰り返してきた美しい母親・佐和のだらしなさに振り回されて悩む日々です。お咲は、婚家を出る時に、舅・仁左衛門から小さな銀で出来た猫の置物を貰い御守にしている。あとの「春蘭」で白翁が、お咲の「銀の猫」を見て、これと同じものを一度だけ大奥で見たと言ったことが気にかかります。

    【隠居道楽】
    見所は、嫁が義母の金を心配して…。深川佐賀町で干鰯商を商う「相模屋」の嫁は、元気すぎる義母・おぶんに困って目付役として10日間、介抱人のお咲を雇った。おぶんは、隠居金を生きているうちに全て使い果たすために動き回って道楽をしている。隠居金は、隠居するにあたってまとまった金を店から持って来たかねです。

    【福来雀】
    見所は、母娘の確執。師走(12月)。お咲は、足の骨を折ったお蔦を介助して神社に入ると、お蔦が「ふくら雀だ、験がいい」と、「総身の羽をああして膨らませて丸くなっている雀を、福来雀(ふくらすずめ)と呼ぶと。福が来る雀と書いて福来雀だよと」言う。お蔦の娘・染吉は、お蔦を憎くなるのが怖いとお咲に漏らす。

    【春蘭】
    見所は、抑圧された心の内側から出たものは…。天保九年(1838)、二月。武家の隠居の介護に行くと。隠居・白翁が、ラン科の春蘭(しゅんらん)を指して、別名で爺婆草という。「まあ、蘭の花はいずれも淫靡な形をしているものでの、春蘭も男とおなご、その両方の形を持っているように見える。ほれ、ここの雄蕊(ゆうずい:一般的には「おしべ」といわれる)を男性器に、ここの唇のごとき花弁はおなごの物に見立てられよう」と言われる。白翁は、小さい時を大奥で女として育てられた。ために発作が起きると女になる、我が身を花にたとえた。

    【半化粧】
    見所は、美しい佐和の肌が男を惑わす。そこになんとも言えない…。日本橋は通油町で「杵屋」という貸本屋を営む佐分郎太は、お咲と一緒に介抱先に行って、介抱人の助手として働き、その現場で見たことを「介抱指南書」として出版しょうと考えた。そんな時に、鳥居の外で咲く半夏生(はんげしょう)を見た相模屋のおぶんは、「こうして白く化粧して、虫を呼ぶらしい。だから半化粧という二つ名がある」と、お咲は、佐和の白い胸を思い出して、顔おそむけた。

    【菊と秋刀魚】
    この物語は、姉妹のせめぎ合いが見所です。白翁の紹介で大奥で50年務めたお松の隠居屋敷に行ったお咲は、お松70才と妹・お梅68才の間のただならぬ関係に気が付く。白翁屋敷の用人・大野に調べてもらうと、三年前にお松が、お梅に黙って遠縁の若夫婦を養子に迎える話しを進めて。その若夫婦に全財産を騙し取られて丸裸になる。お梅は、この若夫婦が屋敷に入ったら自分はどうなったのか考えるとぞっとする。そして、いまはお梅が、お松を養っているが。お梅が、目で全てを仕切る。

    【狸寝入り】
    此度は、みな丸くまとまるきざし…。白翁のはからいでお松とお梅の老姉妹が穏やかに話し出した。ただ白翁を看取ると決めている用人の大野が悩んでいる。遠縁の者から白翁が養子に取った当主に対して、白鴎を介抱しないのは孝に悖(もと)ると非難していることだ。お咲は、当主と大野の二人で白翁を看取ってはと…。

    【今朝の春】
    天保十年(1839)正月。お咲は、小さな時から一度として母・佐和に抱かれたことがない。我が子の抱き方がわからなかった、おっ母さん。大丈夫だよ。おっ母さんがもっと歳を取っていつか床に臥すようになったら、わたしがあなたを抱きしめるから。だからそれまでは、いっぱい母娘喧嘩をしょう。と、佐和を見ながら、こころのなかで呟く。

    雑誌「オール讀物」2014年6月号~2016年3月号までに連載された連作短編8話。

    朝井まかてさんの本を読むのは始めてです。

    【読後】
    こうもいろんな家庭内の出来事の内側を書いてあると、私の心が洗われるように感じ、また、胸の中が騒がしくなってくる。そして物語が進むにつれてお咲の心のなかで、葛藤が…続いて行きます。字が小さくて本当に読むのに苦労しました。20ページぐらいを読んだら10分目を休めての繰り返しで読みましたが、長くかかりました。誠心誠意お年寄りに寄り添うお咲を見ていると、本当に頼りになります。もう少しすると、私もお咲に介抱人(介護人)をお願いしたいと思っています。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    銀の猫《単行本》
    2017.01発行。字の大きさは…字が小さくて読めない大きさ。
    2023.02.22~26読了。★★★★★
    銀の猫、隠居道楽、福来雀、春蘭、半化粧、
    菊と秋刀魚、狸寝入り、今朝の春、の短編連作8話。
    図書館から借りてくる2023.01.31
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 江戸時代、平均寿命は50才くらいとか言われますが、50才を超えることができれば、その後は多くが長生きしたのだとか。歳をとって介護が必要になったら、庶民はたいてい、家族が仕事量を減らすなどして面倒をみることになるのですが、裕福な家は面倒を見てくれる介抱人を雇うこともあって、この小説の主人公・お咲は、その介抱人を生業にしています。理由は胸の内に秘めていますが、口では「母親の借金を返しているので、身入りのいい仕事しなきゃなんない」と答えています。

    介抱人の口入れ屋・鳩屋の主人夫婦や同僚、仕事で縁が結ばれた人々に囲まれながら、老いと向き合うお咲を通して、老いていく者、見守る者、それぞれの思いが描かれていて、身につまされました。

    お咲と同居する母親との間も、複雑で厄介です。私自身、若い頃は母親とはうまくいかなかったので、一日も早く家を出たかったことを思い出しました。(今は仲良しですけどね。)

    そして驚いたのですが、この本によると、江戸時代、親の介護を担うのは主だったんだそう。「主君に忠義、親には孝養を尽くすのが人の道」と説いて、親孝行を強いたのだとか。武士の場合は親の介護休暇が認められており、商人は番頭らにお店を託して介護に専心したのだそう。一方、主の妻女や孫は、家内を守るのが務めだったらしいです。いつの間に、嫁に押し付けるようになったんでしょうね?

    ちなみに、猫はタイトルになるくらいとても重要なポジションなんですが、本文中にはほとんど描かれていなかったです(名作『夏への扉』の猫的な感じ…)。

  • 朝井まかてさんの人情ものはいつだって心地好い。

    江戸で年寄りの介抱を助ける「介抱人」の仕事をしているお咲の物語。
    江戸時代に現代の介護士のような仕事があるとは知らなかった。
    江戸の町が長寿の町で、長生きする人が多かったことにも驚きだった。

    けれど江戸と平成、時代は違っても思うことは皆同じで、介抱する側もされる側も何かと大変だ。
    年寄りの症は一人一人異なる。生き方が違うように老い方もまたそれぞれ。
    若い頃から何かと苦労続きのお咲は気立ても良く気配りもできる女性で、そんな年寄り一人一人の気持ちに寄り添い、気遣いながらそっと手助けのできる素晴らしい介抱人。
    出来れば私も将来、こんな女性に介護を頼みたい。
    そしてお咲の周囲の人達の温かい繋がりにもほっとする。
    温かくて清々しくてしみじみ泣ける…そんなまかてさんらしい作品だった。

  • 時代小説で介護というのは珍しく感じ、それぞれの人の生活に引き込まれました。
    江戸時代、本当にこんな職業があったのか分かりませんが、とても興味深く読ませて頂きました。

  • すがすがしい!
    朝井まかてさんの小説の読後感はいつも
    そんな気分になってしまう。

    時代小説の設定ですが
    今も昔もありつづける
    介護の問題
    ここに書かれていることは
    そのまんま
    現代の問題でもある

    魅力的な主人公、介抱人・お咲。
    彼女を取り巻く
    魅力的な脇役たち
    スーパーマン、スーパーウーマンは
    誰一人出てこないけれども
    しみじみとした滋味があふれ出てくる

    あぁ 良かった
    そんな気分に浸りたい人に
    ぜひ!

  • 再読。嫌なキャラも朝井さんが描くと魅力的になる。一番好きな登場人物はおぶんさん。いい味を出してる。

  • 介護小説?母娘の確執小説?諸々の辛い人生のお話も、時代小説ならばそれ程辛くならずに読んでいける。ついでに江戸の風俗やしきたりのウンチクも織り込んで、読んで身につまされて知識欲も刺激されるお得な本でした。

  • 介護をする仕事が本当に江戸にあったのかは知らないが、舞台を江戸にしたことで重くなり過ぎずに済んでいるように思う。
    まかてさんお得意の江戸の人情もの、植物の話しもちょっと出てきて、まかてさん感満載。

  • 江戸時代版介護士ともいえる、“介抱人”として働く、お咲が主人公。
    気難しいお年寄りや、身勝手な身内等と真摯に向き合って仕事に励む一方で、美しい母親との確執で悩むお咲の心情が良く描かれています。
    江戸の介護事情も興味深く読めますし、爽やかな読後感が良いですね。

  • 世の中に 完璧な人などいない
    完璧な老後もないけれど
    それぞれの行く末を考える気持ちになります
    自分の最後を預けることが出来る人って
    なにがしかの縁がきっとあるんでしょうね
    しみじみとした よい小説でした

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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