カブールの園

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 47
  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905938

作品紹介・あらすじ

サンフランシスコで暮らす移民三世のレイは、旅の途中にかつて日系人収容所であった博物館を訪れる。日本と世界のリアルがここに!「カブールの園」は、友人とITベンチャー企業を立ち上げた日系アメリカ人女性の物語。ヨセミテ国立公園にひとりで訪れるはずが、青いフォードを運転するうちに、かつて祖父母が収容されていた日系人強制収容キャンプの跡地に向かって……。「日系女性三代の確執の物語、あるいは、マイノリティとしての私たちのこと」と宮内さんも語るように、日本人とアメリカのセンシティヴな状況をクールな文体で描きます。「半地下」は、宮内さんが22歳の頃の処女作に手を入れたもので、ニューヨークの少年少女たちを描いています。「打算なしに、ただ裸で皆様の目の前に立つような作品」と宮内さんは言いますが、80年代という過ぎ去った時間への愛惜がこめられています。その瑞々しさには胸を打たれるのではないでしょうか。2017年、三島由紀夫賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫賞受賞作品。初めての純文学作品らしい。日系人強制収容所に触れている。

    「カブールの園」と「半地下」の2編。岸さんの『ビニール傘』と似たような雰囲気だけど、それよりもさらにドライ。私には難しかったのですが、宮内さんが書く世界観が好きでつい読んでしまう。この作品で宮内さんに引き寄せられてしまう理由がわかったような気がする。

    「カブールの園」は、PTSD治療のプログラムVR(バーチャル)で構築された楽園のようなもの。「治療の園」を自分の意思で抜け出して踏み出していく姿をただただ見守った。自分のルーツを知るために祖父母の知り合いに会い、実母からある指摘を受けて気づく、あの気づきのシーンがあってよかったな…と思った。母から言われるといのもいいと思った。その後の玲(レイ)がとても頼もしくみえた。それにしても主人公が女の子って珍しくて驚いた。

    「半地下」けっこう知らないことが多くて、帯には=22歳の頃の処女作に手を入れたもので、ニューヨークの少年少女たちを描いています= =「打算なしに、ただ裸で皆様の目の前に立つような作品」= とも書かれていると同時に =80年代という過ぎ去った時間への愛憎がこめられています。=とも書かれていた。
    ドラッグに対して「NO!」と、正しい主張や選択をしたはずなのに命を落としてしまった友人なども登場し深く深く考えさせられる。言葉と民族性の壁に阻まれてうまく意思疎通が取れなかったり切ないシーンが多かった。「半地下」…地上でもなく地下でもないその中間に位置するもの。普通でもなくアングラでもないどちらにも属せない。少数派。毎回思うけどタイトルのつけ方のセンスがいいと思う。

    次は『あとは野となれ大和撫子』、エンタメで高評価なので楽しみであります。

  • 表題作「カブールの園」では、日系人の世代間ギャップが、言語の役割である“伝達”と“伝承”という言葉に集約されていた。
    英語教育が声高に言われ、造語が多用されている現代では、同じようなギャップが日本国内ですらあるような気がする。

    「カブールの園」
    「半地下」

  • 子供の頃「ピギー(子豚)」と呼ばれて差別された女の子は母親には自分が楽しく暮らしているように見せたかった。大人になってIT関連の仕事についた彼女は、メンタルに問題を抱え、休みをもらって、親の過去を知る旅に出た。

    アメリカ社会で生きる日本人たち、自分のアイデンティティの問題もあり、住んだことが無い人には分からない辛さがあるのだろう。

  • ”ヨハネスブルグの天使たち” では ディストピアを描きながらもコスモポリタンな世界観を映していた宮内氏。
    マルチカルチャルな土台を持つからこその作品だったと思う。

    本作は、もっとストレートに1人の人間が日本と米国を内在させることの違和感を書き出している。
    表題作は 日系三世の女性が、子供の頃に受けた心的外傷の治療を受けながら ITベンチャーで頑張っているのだけれども、あるとき、上司にオーバーワークを指摘されて強制的に休暇を取らされる。
    その休暇の間に、戦時中の日系人収容所を訪れて、当時の人たちの選択や精神活動を知り、自分の心の傷の根っこや母親との関係を乗り越えていく。
    主人公が数学が得意なアジア人で、クラスメイトからひどいいじめに遭ってたわけだが、これは宮内氏自身の経験が元なんだろうと想像してしまう。。中学くらいで数学のできる日本人がいじめられる、あまりにも典型的なパターンなので。。
    それだけに、そのことを知る身としてはささるものがある。
    簡単にバイリンガル・バイカルチャーと言うが、どちらかが軸である、と寄りきれない場合の難しさよ .....

    半地下、はもっと過酷な設定。
    不法移民の幼い姉弟が NY の低所得者層が住む地域で生きて行く。
    NY に自分たちを連れてきた父はいない。
    これも、父親が少しも家庭に関与しない日本人的な設定か?
    幼くて右も左もわからないのに、ぽんっと言葉もわからない学校(社会)に放り込まれる心ボソさ ...

    どちらも言葉数も少なめで、情景描写なども薄い。
    もっと書き込んでくれたらと思うのだが、空気感だけはピンと伝わってくる。

  • 中編2編
    「半地下」が良かった.壮絶でありながら当たり前の学校生活の中に溶け込み,あちこちが痛いと言う感覚に包まれながら読み終わった.子供時代のヒリヒリするような友情(?)が印象的だ.父親は逃げたのか死んだのかがわからないのが気になる.そして,姉の献身ともいえる生き方が悲しかった.

  • 私の人生において、今日まで、日系アメリカ人のことを考えたことなんか、全くありませんでした。

    「カブールの園」とは、日系三世のレイ(玲)が受けているVR治療を、ボーイフレンドのジョンが皮肉って名付けたもの。
    カブールはアフガニスタンの首都で、イスラム教徒は豚を食べないので、そこの動物園には、豚がいる。レイは、小学校で豚の鳴き声をさせられていたのです。ジョンはVR治療に乗り気でなく、きみはきみのままでいいと言うが、母国人に、日系人の苦しみは分かるまい。まして、レイは、彼女の母と祖母を含めた三世代に続く苦しみを継承しており、それを如実に表しているのが、祖母や母が世話になったミヤケ氏(日系一世)の息子から、レイに託された「伝承のない文芸」です。これをレイは、ささやかな抵抗として翻訳します。その一部が以下になります。

    「親の文字がそのまま子の文字にならないという寂寥感は、自らの國土において、母國語の表現に生きるものには感じられない事実であって、異國における日本の文芸活動は、伝承のない文芸といえるのである。」

    これを読むと、正に、ジョンがレイを励ました内容に当てはまり、また、祖母の日本語の教育から逃げたレイの母の事実、母のために母の望む自分でいようと、自らを偽り、結果、母から逃げ出したレイにも該当し、自分の無力さを思い知らされます。これが三世代に渡る苦しみなのですが、ここで、思わぬ進展もあります。

    仕事仲間の気遣いで長期休暇を取ったレイは、当時、祖父母が収用されていた「マンザナー日系人収容所跡」を訪れた後に、ロサンゼルスに住む母の家に行き、そこの冷蔵庫に貼ってある詩を見つけます。
    加川文一の「鉄柵」で、内容の一部が

    「汝の敵を見失ふことなかれ 
     汝をも失ふことなかれ」です。

    なぜ、日本語嫌いだった母が、日系人の詩をと思うのですが、内容を見ると、やはり日系人としての意識を持っていたからこその、「汝をも失うことなかれ」だと思うのです。これが、レイの心にも響き、このあと、母と娘は和解します。
    母は、日本語嫌いというよりは、アメリカの何にでもなれる風土に憧れて、大いなる力に誘導されていたことに、祖母が生きている間に気付けなかった事を、悔やみ、レイは、小学校時代の虐めを、「人種差別」では決してないと断言したことが、最大の偽りだったことを実感します。それぞれをお互いの会話で確認しての和解となるのですが、レイは、苦しかったのだろうなと思います。想像になりますが、生まれてくるときに、家族のルーツは自ら決められず、既に決定されている。そのルーツが差別をされるような存在、それが祖母や母も含めた日系人全てのように認めたくはなかったのではないでしょうか。そう思うくらいなら、まだ、虐めと解釈したほうが辛くないという考え方が逆に私には、グサッときました。

    また、レイが物語の中で主題としていたのが、
    「わたしたちの世代の最良の精神とは?」でした。
    それの答えは、この先も分からないが、誰かにそれは宿っている。レイ自身は諦念を受け止め、ありうべき世代の最良の精神を守り通すこと。そのために、今の仕事で笑みを絶やさない。カブールの園が、VR治療から仕事に変わったことです。大学の友人達で始めた仕事は、日系人として要求されているわけではないけれど、レイは気にせず、楽しんで出来ているように、見えました。

    この作品を改めて振り返ると、まず、どこまでがフィクションなのかと思うような緻密な構成に感嘆しました。取材力がすごいのか、知識量が豊富なのか。
    とりあえず、VR治療はフィクションだと分かりましたが、他は、ドキュメントを読んでいるような、冷静で淡々としながらも、濃密な世界観を打ち出しています。加川文一や南加文芸は調べたら、本当に実在していましたし。そのリアルな世界での、日系三世代に続く苦しみを、変に感傷的にするのでなく、ありのままに書かれているのが、むしろ、痛々しく、じわじわと感動が内から湧いてくるのを、止められませんでした。

    表題作の他に、もうひとつ中編の「半地下」が収録されています。こちらは、父の借金のために、日本からニューヨークに連れてこられた、祐也の青春物語と姉との思い出話になっています。祐也はアメリカに馴染みますが、父が行方不明になり、姉だけが幼い頃の頼りだった祐也の記憶が、十数年後の姉の死をきっかけに思い起こされます。泣きじゃくる祐也を見て、それが私には、日本人としての意識を取り戻したかのように見えました。ちなみに、タイトルの意味は、祐也や姉にとって、英語と日本語は決して両立せず、常にそのどちらかだけあった様が、半分だけ地上(意識上)に現れているように捉えたのだろうと解釈しています。
    それとも、日本に帰国してからの、睡眠中に英語を無意識にしゃべってしまう発作を表しているのでしょうか? このとき、祐也は既に英語を話せなくなっているのに。いずれにしても深いです。

    どちらの作品も良かったのですが、とにかく表題作「カブールの園」が素晴らしかった。この作品に出会えて本当にありがとうという気持ちです。
    ここ最近、読んだ小説の中では、ダントツにずば抜けて、いちばんですね。


  • 旅先のホーチミンシティで読んだ。
    自分のいる場所と本の場所、グルグル回って、
    深く読めた気がした。
    自分の国籍とアイデンティティと、人生の、ちょっと切ない話。
    残るのは希望。

  • 表題作は,アメリカで生きる日系人の女性が,母親(いわゆる毒親)との確執を克服する話.
    もう一編の「半地下」はアメリカで孤児同然で生きる姉と弟の生活を弟の視点で描いた話.こちらはちょっと「青い」気がした.

  • 日系アメリカ移民の生き様を主題にした中編2編を収録。今までの宮内作品とはちょっと違う純文学テイスト。
    ちょっと俺にはなじまなかったかな、読めないことはないが、伝わってくるものが分かりにくく、読んでいても感情が動かなかったのが残念。

    決して駄作ではないと思うので、趣味趣向の違いなんだろうなぁ。

  • 文学
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著者プロフィール

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。2010年「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー。12年同名の作品集で第33回日本SF大賞、13年第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞をそれぞれ受賞。14年『ヨハネスブルグの天使たち
』で第34回日本SF大賞特別賞。17年『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞、18年『あとは野となれ大和撫子』で第49回星雲賞〈日本長編部門〉を受賞。近著に『超動く家にて』『偶然の聖地』『遠い他国でひょんと死ぬるや』など。


「2019年 『宮辻薬東宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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