- Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163906119
作品紹介・あらすじ
連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。いま明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは――。啓子は何を思い、何と戦っていたのか。桐野夏生が挑む、「連合赤軍」の真実。
感想・レビュー・書評
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群馬県の山中に籠った連合赤軍の同志に対するリンチ殺人、その凄惨な現場から脱走した西田啓子(仮名)は、逃走中に逮捕され5年余の服役を経て40年、世を忍びひとり静かに暮らしてきた。やがて連合赤軍元最高幹部・永田洋子の獄中死を知らされ、東日本大震災の襲来と共に、思い出したくない過去の深い因縁に脅かされることに・・・。革命を夢見た女たちの生き様をテーマにした、高質で重厚な社会派心理サスペンス小説。
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あさま山荘事件を基にした小説ですが、登場人物の多数が実名であり、参考文献も非常に多い事から、アウトラインはかなり事実に即しているのだと思います。
世代では無いのでその時の空気感は分かりませんが、子供の頃はまだ連合赤軍や中核派といった極左への警戒感は強かったと思います。
あさま山荘事件に関わり5年の服役を済ませ、市井でひっそりと目立たず生きて行く事だけを願っている西田啓子が、姪の結婚や連合赤軍最高幹部の永田洋子の獄死を契機に、次第に過去について否応なしに向き合う事になる小説です。
リンチ殺人、死体の処分に関わったのではないかと思われる親族がいたとしたら、どうやって説明を受けても忌避感はぬぐえないだろうと、自分自身を鑑みて思います。
この本はフィクションですが、実際に有った事件を基にしているし、再現ドラマなどで見た事も有るので、人が人を支配して尊厳と命を犯すという行動が全く分からないという僕自分の姿勢ははっきりしています。
しかし、最初は崇高な目的の為に集った人々が次第に狂気に染まっていくのは、戦争や洗脳による事件などで良く見聞きします。人間の精神の脆弱さはいつの時代も変わりません。この後オウム事件も起こる訳ですが、そこにこの事件との類似は間違いなく見て取れます。
自分もこの集団の中に居たら罪を犯してしまったであろうと、容易に想像できます。
服役して罪を贖ったとはいえ、ずっと拭う事の出来ない過去を引きずりながら生きて行かなければいけないのは大変ですが、読んでいて感情移入出来ないのが面白かったです。言い方は難しいのですが、啓子は今でも間違っていないと思っています。それが周囲をイラつかせるんです。迷惑は掛けたけれど間違ったことはしていないという態度が、肉親の不信感を募らせています。わかるなー、こんな独善的な人だとちょっと付き合うの躊躇するかも。その冷静で冷たい感じが物語とマッチしていていい感じです。-
初めまして。父がアメリカ生まれで、当時アメリカでは赤軍のニュースを見なかったと言っていました。
確かに啓子は逃げていましたね。
姪っ子へも...初めまして。父がアメリカ生まれで、当時アメリカでは赤軍のニュースを見なかったと言っていました。
確かに啓子は逃げていましたね。
姪っ子へも冷たすぎます。
でも、ベースの跡地に行ったのは、彼女なりの禊というかけじめをつけて、罪に向き合う気持ちを感じました。
それも、あの手紙があってこそなのですよね。
ラストシーンは、ありえないと思いつつ、私は泣きました。2021/07/15
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嫌な女を書かせたら天下一品。
でも、なんだか物足りない。桐野さんでこのテーマなら、上下巻くらいにできたのでは?もったいない。 -
連合赤軍事件を新たな視点から描く。西田啓子は総括という名の下に行われたリンチ殺人を恐れ、ベースから脱走した。
服役後、啓子は身を隠すようにひっそりと生きてきたが、ある日昔のメンバーからジャーナリストが取材を希望しているとの連絡が。姪の結婚式、かつての恋人などと話し、啓子は過去に向き合うようになる。
永田洋子の死や東日本大震災など、現実の出来事を絡めてリアリティが増していく。甘いといわれればそうなのだろうが、ラストは期待が持てる形でよかった。 -
世の中白黒割り切れないこともあるが、この本を読んだ人にこれってハッピーエンド?と尋ねたい気持ちになった。相変わらず、重ったるい空気を書くのが上手い作家さん。連合赤軍の話だけど、その当時の話ではなく、生き残った人が今どうしているかという話だった。
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あさま山荘事件をリアルには知らない世代の私。
事件も触りの部分を知っているだけで、
どうしてこんな事になったのか、
その政治背景も彼・彼女らの心理も分からない。
過激なことを言ってしまうと、戦争へ行きそびれた世代の人たちなんだと私は認識している。
日本にこんな時代があったとはなぁ。
ラストは少し光が見えたような気がして救われる。 -
桐野さんの「抱く女」も読んでいて、同じ60年代後半から70年代という時代背景だが、個人の取った行動や感情はこうも違うものかと思った。「抱く女」の方が時代的には後なので、事件を受けてのしらけ世代ともいえるのかもしれない。
世の中を変えるため、よくするためだった革命が凄惨なリンチという結果に終わり、それがすべてではなかった良い面もあったとは死者の前に言うことはできない。けれど、何か訴えるものがあったからこそ赤軍に限らず、若者が学生運動に夢中になったことは確かだけれど、良い面を説明してくれる人はあまりいない。壊すのが楽しかった、壊してそのあと何も作り出せなかったとは聞いたことがある。
この小説は、最後の方で、女性の視点も加えた新しい共同体を作るという目的が赤軍にあったという想像を加えていて、その点がもし現実もそういう面もあったなら救いとなっただろうと思った。ひどく失敗したのではあるが。 -
⑪1970年代連合赤軍のなかで浅間山荘事件の前に行われた山岳ベース事件で脱出した啓子が主人公。過去を後悔しているように見えて、まだ自分の経歴や赤軍への甘い想いを捨てきれない感じがある。最後の落ちも良かった。
著者プロフィール
桐野夏生の作品






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