夜の谷を行く

著者 : 桐野夏生
  • 文藝春秋 (2017年3月31日発売)
3.62
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  • レビュー :72
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906119

作品紹介・あらすじ

連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。いま明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは――。啓子は何を思い、何と戦っていたのか。桐野夏生が挑む、「連合赤軍」の真実。

夜の谷を行くの感想・レビュー・書評

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  • 連合赤軍事件を新たな視点から描く。西田啓子は総括という名の下に行われたリンチ殺人を恐れ、ベースから脱走した。
    服役後、啓子は身を隠すようにひっそりと生きてきたが、ある日昔のメンバーからジャーナリストが取材を希望しているとの連絡が。姪の結婚式、かつての恋人などと話し、啓子は過去に向き合うようになる。
    永田洋子の死や東日本大震災など、現実の出来事を絡めてリアリティが増していく。甘いといわれればそうなのだろうが、ラストは期待が持てる形でよかった。

  • あさま山荘事件の現場にいた、元活動家の女性が主人公。
    今は老いてひっそりと暮らす女性の元に当時の仲間だった男性から連絡がある。
    それを機に、彼女は元夫、自分の事を取材したいと言う男性、一緒にあさま山荘から逃げた仲間の女性と接触することになる。

    何となく読み始めて、これは元活動家の女性が、事件のあった頃の事を回顧する話だろう・・・と思っていたらそうではなかった。
    話の軸は現在の彼女で、それに昔の話がからんでくるというストーリー。
    そして、現在の主人公女性と言えば、老いてひっそりと淡々と暮らしていて、性格も特に過激だとかいう事もない。
    そんな女性の日常と心情が描かれているのがほとんどなのに、全く退屈することもなく読ませてくれた。
    私は桐野夏生さんが描くこういう何気ない日常の描写が好き。
    何でこんなに変わり映えしないのに面白いんだろう・・・と思う。

    読んでいて中盤あたりから私が感じたことは、
    「この主人公の女性が好きじゃない」ということ。
    それは後半に向かってじわじわと加速して結末では「嫌い」になっていた。
    読んでいて今身近にいる女性に重なってきた。
    頭が良くて立ち回りがうまい。
    だけど、その人は誰も好きじゃないし、だから誰にも好かれてない。
    この人って「こういう人なんじゃ・・・」と思って読んでいたら後半の登場人物によって私が思っていた通りの人物像が語られていた。
    魅力のない人間だと思う。

    結末は「ああ、そうか・・・」という話が用意されているが、それは私にとってはどうでもいい事だった。
    普通の人が経験できないような過去をもちながらも、それがある意味、「身になってない」女性の生き様の方に興味がわいたし、読んでいて静かにわくわくした。

  • アメトークで光浦さんの好きな本として紹介されていたので読んでみた。

    連合赤軍についてほぼ知識がないまま読んだのですが…

    いつまで罪を犯したことを引きずればいいのかとはよく思うけど…

    啓子は当時そういう思想の元で動き罪を犯してしまい、刑期を終えてるとはいえ、どこかその思想をまだ持っているんじゃないか?刑期を終えたんだからもういいじゃないと反省の色が見えずにいたような気がした。

    私も佳絵や和子と同じように感じているのかもしれない。

    2017.12.1 読了

  • 1970年代に世間を震撼させた、連合赤軍の大量リンチ殺人事件。その関係者として逮捕歴のある女性が、主犯格だった死刑囚の病死にともない、目を背けてきた過去と向き合うことになる。

    事件そのものは取材に裏打ちされたフィクションだが、主人公は架空の人物。でも、本当にいたのかと思えるほど、現実味を帯びていた。
    本作に限らず、作者の描く主人公の多くは自己中心的で共感するにはほど遠く、時には嫌悪感すら覚える場合もある。でも、読者に媚びないその姿勢が桐野夏生の魅力でもあり、だからこそ生身の人間臭さを感じるのだろう。

    暴走する仲間の行為に耐えきれず、山岳ベースから脱走後、逮捕、服役を終えた主人公は、周囲の視線に怯えながら孤独な老境を迎える。両親は心労から早死にし、妹も離縁され、自身も過去にとらわれている。が、苦しんではいるものの、積極的に暴力行為に加わっていないことを理由に、どこか罪の意識は薄いようにも思える。

    この事件について、リーダーの永田洋子死刑囚に対する、女性個人の資質として片付けた判決文に違和感を示し、男尊女卑に目を向けたのも、作者ならではの新しい視点だろう。
    さらりと描いている総括の場面や、子どもを産んで戦士として育てるなどという幼稚な考え方は、新興宗教の事件にも通じるところがあり、心底吐き気がした。

    あの時代、確たる志や思想からではなく、半ば勢いで学生運動に参加した若者も多数いたはず。それがエスカレートし、歴史に残るような悲惨な事件へとつながった。服役後は身心が病んで自殺したり、親類縁者とも絶縁してひっそりと生きている人たちがいるわけで、若気の至りでは済まされない将来が待っていることを、当時は誰も想像できなかったに違いない。20代の若者たちの暴走の末期には、何ともやりきれないものがある。

  • 連合赤軍の山岳ベースから脱走した女性・啓子が主人公。連合赤軍の関係者とは縁を切り過ごしていたが、一本の電話をきっかけに、昔の仲間に会うことになる。あの時、自分は何を考えていたのか。山岳ベースで起こったリンチ。明らかに間違えているのに、間違っていると誰も言わないことが恐ろしい。主人公には共感できなかったけど、一気読みだった。どうなるのかと思ったけど、希望のあるラストに救われた。

  • 史実を元に連合赤軍にいたという架空の女性の今を語ることで、あの連合赤軍にいた日々がどんなものだったのか、そして現代になった今、彼女たちはどう生きていくのかをリアルに感じることができた。桐野さんだからこその女性の描き方だなと思ったが、思ったより過激にならずソフトだった気がした。
    少しひっかかったのは、主人公である啓子が赤軍派に入って、危険な生き方をしてまでそこにいる理由がしっかりと語られていない気がしたこと。国に対する反発、反社会的思想など啓子の思いがイマイチ見えてこない。何となくそこにいてしまったという感じ。そのため子供を革命の戦士にと言われてもピンと来なかったし、赤軍派にいた過去により周囲に迷惑をかけても自分は悪くないと保身的になる姿には共感できるものがほとんどなかった。
    それとも赤軍派にいた女性はこういう感じだったと作者が作為的に作った主人公だったのだろうか。
    ひとつ印象に残ったのは姪が啓子をテロリストと言ったとき、なるほど今はそういう風に見えるのかと時代の変化を感じた。

  • 桐野夏生は色んな意味でドギツイ印象があったが、この著作は淡々と語られていて素直に面白いと感じた。時々の心情がよくわかる文章力は流石。自分自身が学生運動世代の次世代でドストライクではないので理解できない面もあるが、60~70年代の時代の空気感を感じられる良作。
    私の想像力が足りないのだが、古市氏が啓子の実の子供だったという最後の告白には推理小説的な要素も多分にあって楽しめました。

  • 桐野版『ノルウェイの森』と思った『抱く女』と同じくらいの時代を描いたもの。私はその時代の人ではないし、その関連書籍も読んでいないので深くは知らないけれど、すっと読めていった。桐野さんと同じくらいの年齢の方は、より深く読めるのではないかな。
    会話が多くサクサク読めていきますが、もう少しだけでも、心の中を深く描いても良かったのでは。しかし、生の人間をありのまま書いていたりで、まあこれはいいかな。
    桐野さんの中でも書くことにより、この時代のものを一つ終わらせたのでしょうか。

  • 連合赤軍の冷酷なリンチ事件。20代の若者が狂気に満ちた事件に関わってしまった経緯が少しわかった気がする。熱すぎる集団の心理はこわい…犯してしまった罪は重いけれど結末には救われました。読んでみて良かったです。

  • 連合赤軍事件で生き残った女性が主人公。もちろん架空の人物だが、綿密な取材に基づくリアリティはある。永田洋子の死、東日本大震災をきかっけに過去の記憶が主人公の封印されていた過去が甦っていく。そして、驚きのラストへ。

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