コンビニ人間

著者 :
  • 文藝春秋
3.62
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本棚登録 : 17229
感想 : 2363
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906188

作品紹介・あらすじ

第155回芥川賞受賞作!36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。現代の実存を問い、正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「おまたせいたしました。いらっしゃいませ。おはようございます」
    私は次に並んでいた女性客に会釈をする。朝という時間が、この小さな光の箱の中で、正常に動いているのを感じる。
    (中略)
    世界が目を覚まし、世の中の歯車が回転し始める時間。その歯車の一つになって廻り続けている自分。私は世界の部品になって、この「朝」という時間の中で回転し続けている。

     主人公古倉恵子は、アスペルガーなのかな?子供の頃から他人の気持ちが分からず、不可解な行動をしていることを“異常”で“治さなければならないこと”と言われる。例えば、公園で小鳥が死んでいるのを見つけたとき、皆は「お墓を作ってあげよう」と言うのに、恵子は「持って帰って食べようよ。」と母親に言ってギョッとさせた。「そのほうが父親も妹も喜ぶだろうに何が悪いのか」と恵子は思っていたのだ。だけど読者は気づく。公園の小鳥は死んだら可哀想と思い、養鶏場の鶏は食べるのが当たり前と思っているマジョリティたちは残酷ではないのか?と。
    「男子たちの喧嘩を誰か止めて!」と言われ、当事者の男子たちの頭をスコップで殴って喧嘩を止めるなど、恵子の中では真面目に人のためになることをしたつもりが“乱暴なこと”“歪んだこと”と思われ、学生時代を通じて、人と喋らず、自分を出さず、友達もいなかった。
    そんな恵子が唯一自分の居場所を見つけたのがコンビニだった。学生時代のある日、新オープンのコンビニ店員募集の貼紙を見つけ、応募し、笑顔の作り方から声の出し方、身だしなみ…何から何までマニュアル通りに“コンビニ店員”としての自分を産み出していった。
    マニュアルに合わせる生き方なら出来る。羨ましくさえあった。何故なら私はマニュアルを与えられたって笑顔を上手く作ることは出来ない。心のバリアが邪魔をしてしまうからだ。あ、いや違う。恵子は真面目なのだ。コンビニ店員でいるためには、ビデオのマニュアル通り顔の筋肉を動かして笑顔を完璧につくる。明日のコンビニでの仕事のために毎日体調を整える。コンビニの中ではどんな小さな変化もキャッチしてテキパキ動き、頼りにされ、仕事仲間の中でも浮かないように、他の店員の普段着を真似たり喋り方を真似たりして、自分の居場所を守る。そうして、18年間、36歳まで独身で同じコンビニのアルバイトだけを続けてきた。恵子はそれで幸せだったのに、周囲が認めない。結婚もせず、就職もせず、コンビニ店員だけを続けている恵子のことを仲の良い妹さえ肯定してくれない。
     カチッと揃った歯並びの良い白い歯を守ってくれる歯科衛生士さんのように、恵子はコンビニの中では、小さな隙間もキチッと噛み合うように仕事が出来る“地上の星”だと思った。
     “マニュアルさえあればそこに合わせていくことは出来る”。これも貴重な能力。勿論、恵子みたいな人がマジョリティであれば、“軍隊”が簡単に出来てしまうと思う。しかし、根拠のない自惚れ屋がマジョリティである世の中で、“変わらないこと”に何故か不安を覚える人間が多い世界で、恵子のように“変わらない”ことを変わらず続けられる人が“マジョリティ”の隙間を埋めていてくれる。これも神様の作った立派な生態系なんじゃないかと思った。
    コンビニ店員しか出来ない人の惨めさを描いた小説かと思っていたが、全然惨めではなかった。恵子の目を通したコンビニはテーマパークのように何十年間も人の期待を裏切らない完成された世界であり、そこに“歯車”として身を投じる恵子の姿も美しかった。

    • たださん
      まこみさん
      ふがふがしながら、ニュアンスで伝えまして、テコとへらだけ頑張って言葉にしました(^^;)
      まこみさん
      ふがふがしながら、ニュアンスで伝えまして、テコとへらだけ頑張って言葉にしました(^^;)
      2023/02/14
    • Macomi55さん
      たださん
      ふぇふぇふぇふぇふぇ…( ´∀`)
      たださん
      ふぇふぇふぇふぇふぇ…( ´∀`)
      2023/02/14
    • たださん
      まこみさん
      そんな感じです(笑)
      少しは恥じらいを見せろと、私自身に言いたい( ´艸`)
      まこみさん
      そんな感じです(笑)
      少しは恥じらいを見せろと、私自身に言いたい( ´艸`)
      2023/02/15
  • 仕事柄、発達障害の知り合いがたくさんいます。
    その方たちの生き辛さを知っています。
    マニュアル通りに動くことが心地よいのであれば、それを良しとする仕事に就くのが、職場にとっても本人にとっても利害の一致につながると思います。
    だけど、周りはそれだけでは許してくれない。
    「皆、変なものには土足で踏み入って、その原因を解明する権利があると思っている。」
    自分に合った職場で働きたいだけなのに、そこでうまくやっていくには、自分が発達障害であることをカミングアウトしなければならない、ということになると思います。
    皆さん、自分が周りとちょっと違うと理解していて、でもみんなとうまくやっていきたいから、だからこそ周りに変だと思われないように浮かないように努力しているのに、カミングアウトしなくてはいけない状況というのは本末転倒だと思うのです。
    でも知らないものを理解するというのはできないことです。私たちの無知が発達障害の方たちの生き辛さに繋がってしまっているのだろうな、と私は思います。
    発達障害の方たちからしたら私の言っていることもピント外れなのかもしれません。嫌な気持ちにさせてしまったとしたら、ごめんなさい。

  • 第155回 芥川賞受賞作。これまで読んだ芥川賞受賞作のなかでは、いちばん読みやすく共感できる部分が多かった。と、言うのも私自身がコンビニでアルバイトをしたことがある"コンビニ人間"だから(ちょっと大げさ?)…。頭の中で来客を知らせるチャイムの音が、バイトが終わっても何かの拍子に鳴り響く感覚が特に共感できた。懐かしい思い出である。

    • mayureneeさん
      その経験あります!わかります!
      その経験あります!わかります!
      2023/12/02
    • 借買無 乱読さん
      mayureneeさん
      コメントありがとうございます。
      コンビニバイトに限らず、職場で毎日のように聞く"音"は耳に残り、頭の中でグルグル再生...
      mayureneeさん
      コメントありがとうございます。
      コンビニバイトに限らず、職場で毎日のように聞く"音"は耳に残り、頭の中でグルグル再生されますね(^_^;)。
      2023/12/03
  • 『普通』って『常識』とおんなじように学ぶものだと思っていた。
    『みんな』のやっていること、感じていることを学びとり、それを実行する。
    『みんな』が引いたこと、やってないことはやらない。
    昔からずれてるとか言われていたので、それが『常識』かと思っていた。
    この小説が売れたのはそういう人が多数派だからだと思って
    たんだけど、そうでもないみたい(笑)

    そういう自分なので、主人公に感情移入というか肩入れして読んだ。
    ときおり突っ込みを入れながら。嬉々として。
    大人になって『ちゃんと普通にやってる』つもりでも
    「(嫌われものの)白羽さんとお似合いじゃん」
    と言われたり、飲み会に誘ってもらえなかったり...
    ばれてんじゃん、主人公。

    ヒーロー(?)の白羽さんは破壊力が強いな。
    かれの言ってることも分からんでもない。
    むしろ振りきれてるところが眩しい(笑)

    最後は余韻を残したハッピーエンドかなと思った。
    いろんな意味で『やべえ』小説でした。

  • 面白かった。まず、思ったのはコンビニは簡単そうな仕事だと思っていたけどなかなかハードな仕事だということ。コンビニに行ったら当たり前に「いらっしゃいませ」と言われる。でも、その裏側は練習をしているということ。そして、主人公は人と接することが苦手?だけど自分なりに頑張っている姿がよかった。同じコンビニで18年も働けるってすごい!

  • 直木賞かと思うぐらい、読みやすい文章と内容だった。作者自身が長年コンビニに勤めていた事があるため、コンビニ愛に溢れた内容だった。コンビニの日常が良く分かる作品。
    一方、主人公の古倉と白羽は普通とはちょっと異質な人間。彼らの普通と世間一般の普通は大きく乖離している。古倉は普通になろうと努力し、白羽は自分が普通と思い、周囲が異常と思っている。最近はこういう人達が増えて来ているのか、診断技術が向上したので増えたように見えるのか? 普通とは何かを含め、色々と考えさせられる作品だった。

  • 世の中の多くの人が普通だと信じて疑わないこと、そこから少し外れてしまう岩倉さん。
    長く一緒に働いて、岩倉さんとうまくやっていたはずの同僚も妹さえも、本当は岩倉さんのこと不審に思っていて、裏側を知り、人間の恐ろしさを実感した。
    そして同じように苦しむ白羽君とであい、協力して暮らす中で、自分の居場所にきづく。
    できることをして、生きる。
    自分を知ることが、幸せへの近道なのかな。




  • 読後、自分の立ち位置がぐらぐらと揺らぐような感覚に襲われた。淡々とした文章が読み易く、一気に読了したものの、何とも複雑な感情が渦巻いて、簡単に面白い/面白くないとジャッジできないような余韻を今も引きずっている。そういう意味では、これまで読んできた芥川賞受賞作ではインパクトの強い作品だと言える。
    コンビニのバイトを18年続けている、未婚36歳の恵子。「普通」であることがわからないから、何とか世の普通に合わせようと振る舞う彼女の行動に、結構共感しながらもチリチリと痛みも感じた。完璧なマニュアルの存在するコンビニでの仕事に安らぎを感じる、というところにも。私自身コンビニ仕事の経験はないけれど、事細かに描写されるコンビニのシーンが一番好きで、職場が自分の居場所…のような感覚がすごく理解できる。
    バイトの新入り男性・白羽が現れてから、恵子の歯車が狂っていくが、同時に自分の価値観も引っ掻き回され、何が正しくて何が間違っているのかがわからなくなっていく。白羽がなかなかに曲者で、彼と関わっていく後半は個人的には引く部分もあり。村田さんは初読みだったが、ここまで描いてしまうのかという彼女の思い切りの良さというかストレートさに戸惑いつつも、読むことを止められなかった。
    色んな角度から心をえぐられたにもかかわらず、もっと村田さんの作品を読みたいなという気になっている。

  • 村田沙耶香さんが、実際にコンビニで働いていた話は有名だが、何かのインタビューで、その際に人間を見るのが好きだと言っていた記憶がありまして(違ってたら、すみません)、そうした気持ちが本書にも入っているように感じられました。

    それは、好き嫌いのはっきりしそうな人物においても、どこかひどく憎たらしいというよりは、何か滑稽で笑える喜劇を見ているような感じが、すごく印象的で、そうした人達の視野の狭さや矛盾の多さには、フィクションならではの面白さがあったが、現代社会においては、これが実際にありえそうで笑えないところに、怖さもあるというか・・とりあえず、その中で最も際立っていた彼には、一度縄文時代にしっかり謝罪しろと言いたい。

    また、私もコンビニではないが、40代でサービス業のバイト(社会保険はあったが)だけで生活していたことがあり、本書の中の、世界の一部になっている方々には遠く及ばないかもしれないが、それでも、過去の自分を省みて、こういう立場にいたことに納得するものがあり、要は、人からどう言われようが、それを冷静に客観的に捉えればいいだけであって、それでその通りだと思うか、いや私はそうは思わないと感じるか、の問題だと思うのですがね。

    そうした視点で考えると、ある意味、最も幸せなのは、自分の中の手放せない大切なものに気付いた、恵子だと思いますし、既に、私はそうした自分らしさを大切にすることについて、村田さんの他の作品で教えられていたので、今回は物語の喜劇性を楽しんだ感じです。

    おそらく、村田さんの著作の中で、最も有名な作品だと思うので、これで初めて村田さんを知り、よりコアでディープな世界を覗きたい方は、他の作品も是非どうぞ。

    まだまだ、村田さんの世界は、こんなもんじゃありませんよ。

  • 読みやすくておもしろかったです。あっという間に読んでしまいました。
    普通ってなんだろう?って考えさせられます。
    亡くなってた小鳥を見つけお墓を作ってあげよう!でなくお父さんが焼き鳥大好きだから食べちゃおう!の発想やケンカを手っ取り早くやめさせるためにスコップで頭を殴って黙らせた。ちゃんと説明したのに職員会議...笑ってしまいましたが、言われてみればわからなくもない気がしてしまいました。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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