最愛の子ども

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 457
感想 : 55
  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906362

作品紹介・あらすじ

日夏(ひなつ)と真汐(ましお)と空穂(うつほ)。夫婦同然の仲のふたりに、こどものような空穂が加わった。私立玉藻(たまも)学園高等部2年4組の中で、仲睦まじい3人は〈わたしたちのファミリー〉だ。甘い雰囲気で人を受け入れる日夏。意固地でプライドの高い真汐。内気で人見知りな空穂。3人の輪の中で繰り広げられるドラマを、同級生たちがそっと見守る。ロマンスと、その均衡が崩れるとき。巧みな語りで女子高生3人の姿を描き出した傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • テレビで村田沙耶香さんが〈おすすめの恋愛本〉として紹介してたのを見て読んでみた。これって恋愛小説なのか??との疑念はさておき、とてもいい作品だった。

    表面的には女子高生のたわいもない話なのかもしれないが、表現されていることはとても深く感じる。そもそも話は一部の事実を基にした想像上の物語、それを「わたしたち」という一人称を使うことで読書自身もその仲間にされていまっている感覚に陥る。

    一方で愛情と恋愛の未分化な感情、幸せな家庭とそうでない家庭、その子供達への影響、男子と女子、リーダー格とグループの雰囲気、こんな色々なテーマが散りばめられていて、それを「わたしたち」視点でまるで箱庭を覗くような感じで眺めている自分もいる。

    そしてそれらを表現する圧倒的に美しい文章。小川洋子さんや村田沙耶香さんの文章が好きな私にとって同じような素敵さがこの作品にはある。寡作な作家さんのようだが、他の作品も読んでみようと早速『親指Pの修行時代』を買ってきた!今から読むのが楽しみです。

  • 愛の物語であり、そしてその愛というのはちゃんと届かないことのほうが多いんだな、という当たり前の感想に。中盤から心を鍛え始める真汐が切なくて切なくて。小さなグループの中で自分が「じゃない」側だと感じたとき、始めからひとりだったときよりも深く孤独を感じるよね。すぐそこにいるのにとても遠く思える。そういう思いは何度もしたことがあって、多分そういう人は多くて、そこで心を鍛えようとするのは、真汐の誇り高さゆえだろうな。
    また、これは他者の記録という形をとっていて、家族三人の描写などは、あとから聞いた断片のほかはほとんど想像(というか、妄想?)だつりする。おそらく「主な登場人物」のパートでも「記録者」と位置づけられる恵文が主な執筆者なのではないかと思われるけど、主語が「わたしたち」であることに象徴されるように、視点は複数なのである。それぞれ、様々な思惑もあったものと思われるが、それでも「わたしたち」の調和を乱すことなく、「わたしたちのファミリー」のある結末を淡々と記録する。
    皆、人との関わりは至極慎重で、最も肉体的接触が多いだろう日夏と空穂もまた、節度を持つ。初期の松浦作品で過激な、痛々しい関係性を見てきた立場から言えば、これが年月というものか、と嘆息する。
    それでも、他者の目からすればあわいなどは無く、0か1かの選択しか無いのが、ただひたすらに口惜しい。目撃者たちだけが知っているのだ。
    「群像」2022年4月号には、瀧井朝世さんによる著者インタビューが掲載されている。メインはもちろん刊行したばかりの『ヒカリ文集』の関することだけれど、『最愛の子ども』に関する言及も多いので、必読です。

  • 物語についての物語。

  • ここまでモブ視点の小説を初めて読んだかもしれない。

    さらっと読むと百合風味青春小説。
    しっかり読むと庶民な少女たちによるアイドル少女たちを主役に据えた日常妄想日記であることがめちゃめちゃ居心地悪い。

    生々しいのは、他人の私生活を妄想をするうえで健全性が一応保たれていて、クラスのアイドルたちに憧れつつも人形扱いしてる自覚があるところなんだけど、
    加えて「私たち」が妄想に参加する対象でなく、アイドル少女たちの疑似家族愛かつ疑似恋愛をひたすら想像して愛しているところがすっごくオタクで、オタクな私は居たたまれない…。

    その居たたまれなさも含めて、とうの十代の少女たちの、生活や性愛への実感のなさが彼女たちのリアルって感じで面白かった。
    そして内面描写はすべて妄想という曖昧さを前提として、アイドルな三人(夫婦+愛すべき子ども)それぞれ魅力があってよかった。真汐すき。

    思い返してみれば、自分の学生時代の記憶も、なにが事実でなにが自分に都合のいい想像込思い出なのかはっきりしないし、
    こういった形で他人や過去を描写するのめちゃめちゃ誠実なのでは?という気になってきた。
    まぁ気持ち悪いですけどね。

    綺麗な文章で、こんな形のものを書くというのが、新鮮でよかった。
    わりと本たくさん読んでる人におすすめしたいです。

  • 松浦理英子さんの本は『裏バージョン』に続いて2冊目で、期待して読みましたが、その期待が裏切られることもなく楽しんで読めました。

    女子高生が主な登場人物で、どうして大人になってもこの頃の感情をこんなに瑞々しく書けるのだろう、と驚く一方でその文章に自分の高校生活の思い出が呼び起こされました。正確に言うと思い出という程のものではないけど、あの時感じた感情は今も持っているなとも思ったり、成長していないんだなと苦々しい気持ちになったりもしました。それくらいリアルに心情が描かれているし、もはや心情がメインでした。

    登場する女子高生は今で言う腐女子的感覚を持っている子達で、その子達の会話が独特だなと思うこともありましたが、そういう子達だからこそ自分の愛する対象の心情を深く(時には過剰に)察することが出来るのだと羨ましくなりました。

  • 視点の持ち主は「わたしたち」と語る。この感覚がとても高校生的で懐かしい。これより前でも後でもたぶんこの人称で書くことがそれらしくないだろう。
    この作者だから書ける話には違いない。ここまで抽象化し典型化し必要な要素をもれなくそろえる。ふわふわとした感触も、「現実の」家族のざらつきも。

  • 共学ながら男子クラスと女子クラスに分かれた高校、女生徒=「わたしたち」はクラスの個性的でアイドル的存在の3人(日夏=パパ、真汐=ママ、空穂=子供)を<わたしたちのファミリー>として愛でつつ観察している。閉ざされた平和な水槽のような世界、少女たちは自分たちだけにしかわからない言葉でひそひそといつも笑いあっている。

    きちんと名前のある大勢の少女たちの誰とも特定しない「わたしたち」という抽象的な語り手の視点で、彼女らの想像・妄想で補いながらファミリーの物語が紡がれる、この独特な語り口が、この物語をありがちな女子校もの、におわせ百合もので終わらせず、べたべたしない、さりげない距離感をもたせてあってさすが松浦理英子と思わされた。

    それでいて学園ものらしく、こんな子いるわけない、と、こういう子いた、こういうことあった、のちょうど良いバランスのキャラクターたちも秀逸。こんなに高尚ではないが、そういえば私自身も高校時代の友人たちとは疑似家族ごっこをして遊んでいたっけ。

    最終的には空穂の本当の母親が(溺愛、過干渉、そのくせ平気で暴力をふるい、娘の友人に嫉妬むきだし)少女たちの小さな美しい世界をゴジラのように踏み潰すことになるのだけれど、ひとりで地団駄を踏み大暴れしている印象のこの毒母と対照的に、少女たちは淡々としていて、いっそ大人たちより大人。

    「いったいどれだけ賢ければ波風立てずに生きて行けるのだろう。どれだけ美しければ世間にだいじにされるのだろう。どれだけまっすぐに育てばすこやかな性欲が宿るのだろう。どれだけ性格が良ければ今のわたしが全く愛せない人たちを愛せるのだろう」という、日夏の述懐が痛々しくも美しい。

  • そんな長い話でもないのに、読み終わるのに時間がかかった。つまらないということはなく、非常に興味深かかったが。生まれてくれば、必ず愛されるというわけではなく、最愛の子どもになるのにも才能がいるわけだ。


  • 高校時代の女子のみだった部活を思い出した。
    女の子しか周りに居ない環境だと、何故かスキンシップが濃くなる気がする。
    でもこの現象って大人になるとなくなるし(たとえ女子だけの職場でも)やっぱり思春期っていいなぁと思える。

  • 恋人同士がやるだろうことを一通りなぞっている
    村田さん「この光景は、不快でも快楽でもない無だった。道ある道を進んでいるつもりの人間こそ、一番難解な場所にいるのではないかと感じさせられる。」
    村田さん「わたしたちのの1人である美織の両親は道なき道の先にこんな人がいたらと、憧れてしまうような存在だが、彼らはこんなことを言っている。」
    地味でも人は日常の場で近くにいる誰かに影響を与えるものだよ。
    村田さん「読者である自分は、現実世界を担う破片でもある。目撃者でも読者でも無い、この世界の当事者としての自分は、彼女たちほど誠実に言葉を探すことができているだろうか。」

    槙野さやかさん
    完全に公平な関係には愛は存在し得ないのではないかと

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著者プロフィール

1958年生まれ。78年「葬儀の日」で文學界新人賞を受賞しデビュー。著書に『親指Pの修業時代』(女流文学賞)、『犬身』(読売文学賞)、『奇貨』『最愛の子ども』(泉鏡花文学賞)など。

「2022年 『たけくらべ 現代語訳・樋口一葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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