おもちゃ絵芳藤

著者 :
  • 文藝春秋
3.64
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906423

作品紹介・あらすじ

江戸っ子に人気を博した浮世絵。絵が好きで、絵を描くこと以外なにもできない絵師たちが、幕末から明治へと大きく時代が変わる中、西欧化の波に流され苦闘しながらも絵を描き続ける姿を描く長編書き下ろし小説。文久元年(1861)春。大絵師・歌川国芳が死んだ。国芳の弟子である芳藤は、国芳の娘たちに代わって葬儀を取り仕切ることになり、弟弟子の月岡芳年、落合芳幾、かつては一門だった河鍋狂斎(暁斎)に手伝わせ無事に葬儀を済ませた。そこへ馴染みの版元・樋口屋がやってきて、国芳の追善絵を企画するから、絵師を誰にするかは一門で決めてくれ、と言われる。若頭のような立場の芳藤が引き受けるべきだと樋口屋は口を添えたが、暁斎に「あんたの絵には華がない」と言われ、愕然とする――。国芳が亡くなるまで傍で画塾を補佐し、人徳もあったが、才能のなさを誰よりも痛感していた芳藤。才能に恵まれながら神経症気味の自分をもてあましていた芳年。画才だけでなく、時代を敏感に察知し新しいものを取り入れるセンスもありながら、結局は己の才に溺れた芳幾。そして〝画工〟ではなく〝アーティスト〟たらんとした暁斎。4人の個性的な絵師たちを通して、死ぬまで絵筆をとろうとする絵師の執念と矜持に迫る力作。

感想・レビュー・書評

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  • 自分と同い年の歴史小説家ということで興味が沸きました。

    幕末から維新にかけて、大きな変化が訪れた日本。
    浮世絵が廃れゆく時代を生きた、絵師たちを描いた物語です。
    歌川国芳のもとに絵を学び、河鍋暁斎、月岡芳年、落合芳幾などの当時も名の売れていた絵師たちと交流しつつも、世間からなかなか評価されなかった歌川芳藤が主人公。
    売れない絵師の葛藤を背負いながらも、最期まで絵師として生きた芳藤の不器用さと真っ直ぐさに励まされました。

    従来の時代小説よりもさらりした文体なので、構えずに読むことができます。
    物足りなさを感じる読者もいそうですが、時代小説に対してハードルを感じている若い世代に最初の1冊として紹介してみたいと思いました。

  • 芳年、芳幾、芳艶、暁斎、清親、、、
    歌川芳藤を通した「最後の浮世絵師」たちの群像というべきか。
    芳藤にはもう少し早く前向きになってほしかったな。
    あんたの名は150年たっても残ってるよ,と言ってあげたくなる。

  • ふむ

  • 才能の話。

    時代の変化に着いていける才能、
    追随せずに変化しないのも才能。

    芳藤、芳年、幾年、暁斎、それぞれに訪れる時代の評価。
    文明開花で揺れる時代を生きた浮世絵絵師たちの振舞いや苦悩を通して、才能や評価はその人物が置かれた時代や環境でそれこそ簡単に表裏変わるものだと、創作に関わる自分としては勇気をもらった一冊だった。

  • 文句なく五つ星を。
    時代は、幕末。大絵師歌川国芳が亡くなった日から始まる。
    売れる弟子を何人も輩出させた国芳に、影に日向に、ずっと寄り添うように、「国芳塾」をやってきたのは歌川芳藤。
    筆は丁寧だし技術も申し分ないが、華がないという、生意気な弟弟子がいうように、なかなか売れない。

    そんな芳藤が、幕末、明治を跨いで、浮世絵の運命を傍観者のように見つめる。

    弟子達の人となりを克明に映し出し、丹念に物語を編み出してゆく作者の文才にも唸る。

    この本はネタバレさせるには、あまりにつまらない。
    ぜひぜひ読んで、この浮世絵の運命を一緒に堪能して欲しく、おすすめしたい。

  • 時代小説に馴染みはないながら、縁があって読んでみた。図書館に何冊か並んでいたタイトルの中で、読みやすそうなものとしてひとつ、こちらを選択。
    主人公もいつか大ブレイクするのではとドキドキしながら読んでいたのが間違いだったが、鬱々とした雰囲気がありながらこの物語自体は凄惨なものではなく、これから読もうとしている「無惨絵」もちらりと登場したし、とりあえず良しとしたい。

  • 時代は幕末、江戸が終わり、明治がはじまる、江戸東京。
    浮世絵界の巨星、歌川国芳が没するところから物語ははじまる。

    遺された弟子の歌川芳藤は、自身の絵に華や才能がないことを感じながらも、師匠の遺した画塾を継ぎ、絵師としての仕事を続ける。

    自分よりも才能に恵まれ時代の寵児ともてはやされるおとうと弟子への忸怩たる思い。本来なら新人がやるような子供向け玩具の絵ばかりを依頼され、それでも手を抜くことなく丁寧な仕事を心がける真面目さ。文明開化が進み浮世絵が滅ぶのではないかという恐れ。死ぬまで絵師でありたいと思う矜持。
    変わりゆく時代の中で葛藤する男の姿が丁寧に描かれている。

    迷い、惑いながらも頑なに自分が良しとするものを目指す姿は、派手さはないけれど、ひとりの不器用な男の生き様として胸にしみる。

    たまたまこの本を読み終えてすぐに美術館で浮世絵を見る機会があり、芳藤が嫌った、新しい顔料の派手な赤がどういうものなのかを目で見ることができた。ああ、なるほど、と思う。
    物語を通して得た知識が自分のものの見方をほんの少し豊かにしてくれたように思い嬉しい。

    子どもが遊んだらすぐ捨てられてしまうおもちゃ絵ばかりを手掛けたために芳藤の作品は現存しているものが少ないらしいが、いつか実物を見てみたいと思う。

  • 江戸から明治へ激動の時代を
    不器用だけれども一本筋をとをして生き抜いた芳藤

    富や名声が欲しいのではなく
    ましてや誰かと比べるのでもなく
    ただ絵を描く事が好きなのだと
    少し遠回りはしたけど気づく芳藤

    あなたの絵はしっかり残っていますよ
    と教えてあげたいけど
    それは彼にとってはもはやどうでもいい事

    試行錯誤はしたけど道は間違わなかった芳藤
    なんだか羨ましい

  • 必要とされることと、自分なりの納得感。簡単には手に入らないが、いつか感じたい。

  • 幕末の浮世絵師。歌川一門。
    国芳、芳藤、芳年、河鍋暁斎。
    絵師の苦悩が読めた。文明開化、アーティスト。
    おもちゃ絵に邁進するのも一つの道か。

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著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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