宇喜多の楽土

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906522

作品紹介・あらすじ

父・直家の跡を継ぎ豊臣政権の覇者となった秀家。関が原で壊滅し、八丈島で長い生涯を閉じるまでを描く傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 宇喜多秀家といえば、関ヶ原の戦いぶりから勇猛果敢な武将かと思っていたが、この作品でそのイメージが一新された。
    『捨て嫁』で主人公である直家は、戦国の梟雄と言われていたが、民衆のための干拓を生涯の仕事としていたという意外な一面を持っていた。
    子の秀家は、楽土を作るという父の志を果たさんがため宇喜多家を受け継ぐ。
    いかし、彼の生きた時代はあまりにも過酷で、時代の波に翻弄される。
    関ヶ原の戦いに敗れ、八丈島に流されるが、そこでの生活が彼にとって安息の日々となった。
    『捨て嫁』のドロドロした読後感に比べ、この作品は一陣の涼風を感じさせてくれる。それはとりもなおさず、主人公秀家の性格によるものだろう。

  • 偉大な父と何かと比較され、戦国という激動の波に翻弄される宇喜多秀家。
    時流に逆らわずすんなりと流れに従うことのできる器を兼ね備えた家康のような男がいる一方で、時流に乗りきれず流れに逆らうことで己の信念を貫くことしかできない不器用な秀家のような男もいる。
    乱世を終わらせ、民が健やかに過ごせる「楽土」をつくる…亡き父と幼い頃に交わした約束を守るために。

    この時代に、常に国土と民の行く末を思いやる心優しき武将がいたとは驚きだった。
    しかもそれがあの豪傑・宇喜多直家の息子とは…。
    関ヶ原で負けてもなお「生き延びる」決断を下した男の信念に驚きを隠せない。
    流れ着いた最果ての地で、彼は父との約束通りの「楽土」をつくれたのだろうか。
    遠い地より見た江戸幕府…彼の目にはどのように映ったことだろう。
    新たな男の美学を見せつけられた。

  • 宇喜多秀家をえがく時代小説。
    ダーティで強烈だった父とはちがって、秀家のやさしさがさわやか。
    ただ、そのやさしさをつらぬき通すには、戦国時代は過酷すぎた。
    戦に明け暮れ、家中の騒動にくるしんだ、秀家。
    宇喜多の領地運営に専念させてあげたかった、と思う。
    父・宇喜多直家の人物造形からして、『宇喜多の捨て嫁』の続編という位置づけ?

  • 『宇喜田の捨て嫁』の続編とも言える、宇喜田直家の息子、秀家の話。
    直家が暗殺を武器に伸し上がったしたたかな男というイメージなら秀家は己の『義』を貫くため、世の中の流れや政治的な強者に抗い続けた男というイメージ。
    お家騒動を起こしたり関ヶ原後は逃げ回ったり、どうにも小者感が拭えなかった秀家だが、こうして描かれると、なるほど、彼なりの意思があったのだとも思える。
    秀家もあの世で喜んでいるのでは。
    徳川家康が『流されて生きてきた』のと対称的に、秀家が『逆らって』生きる様はなかなか興味深いものがあった。

    小早川秀秋のように秀吉の甥でありながら土壇場で寝返るような人間にはどうにも冷たくなってしまうものの、彼にも生き残りのための色んな考えがあってこそのことだろうし、秀家が懸命に己の『義』を貫こうと様々なものに抗って闘う様は日本人が好きなタイプではあるものの、反面、宇喜多家を崩壊させ多数の死者を出し家臣や領民たちの生活を苦しくさせてしまったことも事実。
    歴史の人物や事象の評価は見るもの見る側によって全く異なってしまうものだなと改めて思う。

    また関ヶ原後の落武者狩りで一度は見付かりながら何故か助けられるというエピソードにもこんなストーリーを考えられていたとは。
    父親の直家が夢を描き秀家が実現しようとしていた『楽土』がこんなところにあったという結末にも感心した。
    豪姫の、離れていても秀家と思いは一つという寄り添い方も素敵だった。

    木下さんは歴史の敗者や悪者とされる人々にスポットを当てるのが上手い。

  • 宇喜多秀家ーーですか......  
    影薄いよね、なんて言ったら歴史好きさんには絶対に怒られるだろうけど。
    父親の 宇喜多直家 の ”悪辣” インパクトに比べると ぼんぼんで 関ヶ原の西軍で敗けた人、他に目立った功績もない印象。
    てっきり 関ヶ原のあと 切腹だか処刑だかで死んでると思ってたし。

    や、それが、この人 八丈島に流刑だったんだって。
    知らなかったわ〜〜

    宇喜多の捨て嫁 https://booklog.jp/users/adagiette/archives/1/4163901507#comment
    で 父・宇喜多直家を描いた木下昌輝さんが、今作では 秀家を 長編で表す。
    幼少時の苦労をつぶさに描くあたりは 捨て嫁の手法と同じ。 なるほど なぜ 幼くして家督を継いだこの秀家が 秀吉に重用され 豪姫を娶ることになったのか? 
    考えてみると面白いものですね。

    お家騒動からの徳川・本多正信の介入をはねつけ、流れに抗って豊臣に与する秀家の心の底には、領民を思う気持ちが常にある .....
    干拓事業に力を入れたのも単純にアガリが増えることを望んだからであろうと言ってしまえばそれまでだが、 土地がふえりゃ みんな嬉しい win-win だよね。
    そのへん、戦国武将にしては経世済民の才があったのでしょうか。 

    関ヶ原のあと、なぜか島流しで生き残ったのも、やはりそれだけ殺してしまうのは惜しい器であったことは間違いないでしょう。

    木下さん流の (?) 血飛沫ぶひゃーっ は従兄弟の左京という人物が担当。。秀家のキャラと対比させるために置いたのでしょうが、ちょと頭のおかしい人どまりにしか見えず。個人的にはイナクテモヨカッタデース。

    地味に秀吉に尽くし抜きながらも、思慮深く 情も智もあり 腹も据わった 秀家。
    最後は ”楽土” のタイトルに収斂されていく美しさでした。

  • 初読みの作家さん。
    2112年『宇喜多の捨て嫁』でデビューし、そのデビュー作が2015年第152回直木賞候補となる。
    直木賞は逃したが、この年の高校生直木賞を受賞している。
    そして、『敵の名は 宮本武蔵』で2017年第157回直木賞候補、翌2018年第158回直木賞候補になったのがこの『宇喜多の楽土』。
    他に、山本周五郎賞、吉川栄治賞等々も受賞している。
    本よりも先に作家さんに興味を持つという、私には珍しいケース。

    『宇喜多の捨て嫁』では父、宇喜多直家が描かれ、『宇喜多の楽土』では、その息子秀家の生涯が描かれている。
    歴史の授業でも習った関ヶ原の戦い。
    宇喜多秀家がこれに敗れたことは知っていたが…
    その後のことは、習ったのかどうかも記憶になく…
    八丈島へ流され障害を閉じていたとは。

    戦国時代を舞台に描いた小説は、やっぱり面白い!

  • 歴史小説を読むたびに思う事。偉大な戦国武将を父を持つ二代目は、英才教育ゆえか真っ当な武士道精神の持ち主であり、心が真っ白で武士の鏡。この宇喜多秀家も然り。宇喜多直家の嫡男とは思えない。
    「宇喜多の捨て嫁」の方が夢中度は高いし徐々に興奮が高まったけど、こちらの本の方が余韻があった。宇喜多家に興味津々。

  • 宇喜多秀家って名前だけは知っていたけど、どういう人だったかは全く知りませんでした。こういう歴史物を読むと、学生時代(特に高校)にもっと日本史勉強すれば面白かったのかなと思います。物語は、”後半一気”でなかなかの力作でした。

  • 父・宇喜多直家に比べるとと、若干弱めなキャラクターの持ち主、宇喜多秀家の生涯。淀殿に秀頼の味方と認められて小柄を返してもらうシーンなんか、いいとこなのに故・前田利家の存在感に負けてるし。寧ろ従兄弟・左京亮の方が印象的だし。但し、生きた時代は父に負けない乱世だ!

    不可解なのが、秀家の大名復帰に対する豪姫の行動。
    関ヶ原の時とスタンス変わってない?変わったのか。。。
    戦国武将の妻って、旦那以上に苦労するんだ、きっと。

  • 「宇喜多の捨て嫁」で描かれた宇喜多直家、今作はその息子宇喜多秀家が時代・お家騒動に翻弄されながら楽土を築こうとした生き様が描かれている。

    民が幸せに暮らせる楽土を作るという父との約束を果たそうとした心優しき大名として書かれている宇喜多秀家。(歴史は疎いので習ったかもしれないけど宇喜多家のこと知りませんでした…)
    歴史の授業では数行のことを、秀家の実直な生涯の描写を1冊を通して読むことでこれだけ印象深くなるんですね
    秀家の生きた戦乱の時代に信念を通すことがどんなに難しかったか…結果のわかっている関ケ原の戦いを読んでいるときは悲しくもありました。

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著者プロフィール

1974年奈良県生まれ。2015年デビュー作『宇喜多の捨て嫁』で高校生直木賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞、舟橋聖一文学賞、19年『天下一の軽口男』で大阪ほんま本大賞、『絵金、闇を塗る』で野村胡堂文学賞、20年『まむし三代記』で日本歴史時代作家協会賞作品賞、中山義秀文学賞、’22年『孤剣の涯て』で本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。近著に『応仁悪童伝』がある。

「2023年 『風雲 戦国アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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