隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

  • 文藝春秋
3.89
  • (40)
  • (82)
  • (42)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 983
感想 : 85
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906577

作品紹介・あらすじ

◎ピケティに次ぐ欧州の新しい知性の誕生◎オランダの29歳の新星ブレグマンが、「デ・コレスポンデント」という広告を一切とらない先鋭的なウェブメディアで描いた新しい時代への処方箋は、大きな共感を呼び、全世界に広がりつつある。最大の問題は、人間がAIとロボットとの競争に負けつつあること。その結果「中流」は崩壊し、貧富の差は有史上、もっとも広がる。それに対する処方箋は、人々にただでお金を配ること、週の労働時間を15時間にすること、そして国境線を開放することである。それこそが、機械への『隷属なき道』となる。【目次】■第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?産業革命以降の2世紀で、長く停滞していた世界経済は250倍、1人当たりの実質所得は10倍に増えた。これは中世の人々が夢見た「ユートピア」なのか?ではなぜ、うつ病が歴史上かつてないほどの健康問題になっているのか?■第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい生活保護や母子家庭手当て、就学援助、幾多ある福祉プログラムを全てやめる。そのかわりに全ての国民に、例えば一律年間150万円の金を与える。それがベーシックインカム。ニクソン大統領はその実施をもくろんでいた■第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させるベーシックインカムがなぜ有効なのかは、貧困がもたらす欠乏の害を調査するとわかる。貧困はIQを13ポイントも下げる。奨学金や有効な教育プログラムにいくら投資しても、そもそも貧困層にいる人は申し込まないのだ■第4章 ニクソンの大いなる撤退60年代初頭、ベーシックインカムは、フリードマンのような右派からガルブレイスのような左派まで大きな支持を得ていた。それを潰したのは一部の保守派が持ち出してきた19世紀英国での失敗だった。ニクソンに渡された報告書■第5章 GDPの大いなる詐術ロシア人教授クズネッツが80年前に基礎を築いたGDPは進歩を表す神聖なる指標だ。だがGDPは多くの労働を見逃し、医療や教育のサービス分野でも効率と収益に目を向ける。人生を価値あるものにする新しい計器盤を検討する■第6章 ケインズが予測した週15時間労働の時代ケインズは1930年の講演で、「2030年には人々の労働時間は週15時間になる」と予測した。ところが、産業革命以来続いていた労働時間の短縮は70年代に突然ストップした。借金によって消費を拡大させる資本主義の登場■第7章 優秀な人間が、銀行家ではなく研究者を選べば「空飛ぶ車が欲しかったのに、得たのは140文字」とピーター・ティールは揶揄する。過去30年の革新は富の移動に投資されてきた。優秀な頭脳が銀行員や会計士よりも研究者や技術者を選べば、才能はより社会に還元されるのだ■第8章 AIとの競争には勝てない産業革命時代、織物工は蒸気機関に仕事を奪われた。そして今、AIとロボットが「中流」と呼ばれる人々の仕事を奪う。その結果、富の不均衡は極大化する。今こそ、時間と富の再分配、労働時間短縮とベーシックインカムが必要だ■第9章 国境を開くことで富は増大する西側世界は途上国支援のために50年で5兆ドルを投じてきた。だが国境を開けば世界総生産は67~147%成長し、65兆ドルの富が生み出される。わずか62人が35億人の総資産より多い富を所有する偏在の要因は国境にある■第10章 真実を見抜く一人の声が、集団の幻想を覚ます1954年12月21日に洪水が来て世界は滅亡する。そう予言した主婦とそれに付き従った人々。その予言が外れても信者たちは信念を変えない。だが、一人の真実を見抜く人の勇気ある声が幻想を崩し、現実を変えることもある■終章 「負け犬の社会主義者」が忘れていることこの本で提案したのは、大きな路線変更だ。奴隷制度の廃止、女性の解放も、唱えられた当初は、正気の沙汰とは考えられていなかった。そうした「大きな政治」を左派は思い出し、右派も同調する変革へと進むべきだ■解説 欧州の新しい知性の登場 日本語版編集部

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「Humankind 希望の歴史」を読む前に、、、

    オランダでベストセラー AI時代の啓蒙書 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/534564

    「隷属なき道―AIとの競争に勝つ」書評 自由に使える金が給付されたら|好書好日
    https://book.asahi.com/article/11576288

    『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』ルトガー・ブレグマン 野中香方子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163906577

  • オランダの若き歴史家ルトガー・ブルグマンがベーシックインカムと国境の廃止によるユートピアの実現を論じる。
    すべての福祉を廃止し、国民全員一律にベーシックインカムとして年間約150万円の金額を支給しそれで生活させる。さらにすべての国境を廃止し、人、物、金が世界中に自由に行き来することができるようにする。これにより、世界の富が再配分され、ユートピアが訪れると説く。

    本書は非常に説得力があり、読みやすい。もし、これが実現すれば本当に楽園が訪れるかもしれない。
    筆者も現状ではこのような話は夢物語であるとは言っているが、200年前には奴隷制廃止や女性への参政権の付与などを論じれば狂人だと思われていた、この理論も将来的に見れば同じことになるだろうと予言している。

    しかしながらベーシックインカムを実施するには元手がいる。現在の日本で考えれば2018年の数字で、年金、医療費、介護費などの社会保障給付費の予算総額は約120兆円。これを国民全員(約1億2000万人)で公平に配分すると1人あたり約100万円となる。著者のブルグマンは適切なベーシックインカムの数字は年間国民一人あたり約150万円程度と想定しているので、現在の社会保障給付費だけではかなり足りない(でも良い線いってる)。
    ベーシックインカムが実現すれば、役所の福祉課や年金関連の部署も必要なくなり、その他の関連部署もすべていらなくなる。もしそのような部署等で働いている公務員をすべて廃止してその部分の人件費を回せば足りるかもしれない。

    家族4人の家庭であれば4人分のベーシックインカムは約600万円。十分に生活できる金額だ。一人暮らしであれば約150万円、これにちょっとしたアルバイトや仕事をして年に100万円くらい稼げば年収約250万円、贅沢をしなければ暮らせる金額だ。高齢者が受給する年金の平均額が約5万5千円、年間にすれば約66万円なので約150万円のベーシックインカムの方がずっと実入りが良い。

    どうだろう。これは悪くないかもしれない。ベーシックインカム目当てに子だくさんの家庭が増えれば人口減少も抑えられる。そして医療費が3割負担ではなく全額負担になるとしたら余計な医療費を払わないようするために、もっと健康に気を遣うようになるだろう。

    もちろん多くの国民が働かなくなればその分の所得税が入らなくなるので国家予算が減り、税収計算は狂ってしまうし、農業や漁業などの一次産業に従事している人が働かなくなったら農産物も魚も食べられなくなってしまう。う~ん。これは困る。

    やはりAIやロボットがもっと発展して人間の代わりに仕事をし、国家予算に充てられるような収入を得られるようになったときこそ、本当に人間が働かなくても良くなる時代が来るのかもしれない。

  • 読めば、価値観が変わる本。
    いくつかの偏見が補正された。

    先ずは生活保護について。アメリカのユタ州、オランダで行われたハウジングファースト戦略。先ずは住まいを提供しようという事だが、ホームレス支援の資金投資に対して2、3倍の利益を導くことがわかった。更にアメリカでのベーシックインカムの社会実験では、学業成績の向上や健康状態の改善に寄与。フリーマネーを与えると、特にそれが必要な人々は、酒やギャンブルに無駄遣いしそうだが、多くは自立するための資金にする事も分かった。工夫の余地はあるが、生活保護制度は必要だ。

    もっと大きな規模では、世界初の社会保障制度の一つである19世紀のスピーナムランド制度について。この制度はベーシックインカムに似ていた。結果は怠けの助長による労働市場の競争力低下を齎し、大衆はますます貧しくなったという。しかし、これは王立委員会の捏造報告書だった。結果として1834年にスピーナムランド制度は廃止され、貧困者の自己責任論が高まる。貧困者は救貧院に入れるしかないと考えられ、そこに押し込められ無機質な労働を課された。粉砕して肥料にするための骨をかじる、女性は妊娠しないように餓えさせられ、夫婦は別々に。子供も親から引き離された。1日に3杯の粥、玉ねぎを週に2回、薄切りパンを週に1枚。貧しい人々は失業を恐れ、雇用主は更に賃金を低く抑えることもできた。資本家に仕組まれた捏造報告書により、富の再分配を拒む強者の主張が勝った。実際にはスピームランド制度は貧困に対して効果的な手段だったにも関わらず、現世にも反省を活かせるはずの大いなる負の歴史である。

    いくらかの不平等がなければ社会は機能しないが、格差が適切な範囲を超えれば、裕福な人々も不幸になる。気分が塞いだり、疑い深くなったり、治安も悪化。社会的問題を背負いやすくなる。収入の不均衡は、結果的にすべての人の暮らしを不幸にする。

    イギリスの哲学者バードランドラッセルは書いた。「人間が幸せでいるためには、あれやこれやの楽しみばかりでなく、希望や冒険心や変化が必要だ。求めるべきは、完成したユートピアではなく、想像と希望が生きて動いている世界である」

    格差の固定は希望を齎さない。然るに、生産性を競い合い、勝者が弱者を押さえ込むようなイデオロギーは見直す必要がある。労働の仕方を教育する今の教育モデルに加え、余暇の時間をどう過ごすかを教えるモデルを取り入れ、労働すらエキサイティングな興行にできれば、それらの選択肢に合ったライフスタイルが描けはしないだろうか。その時には、楽しみの無い労働からは解放され、楽しみながら働く人々とベーシックインカムだけで楽しむ人々が共に生きるという時代が到来するだろう。

  • オランダのジャーナリストがベーシックインカムの導入を提唱しつつ、過去に存在した福祉プログラムがなぜ批判され頓挫したのか、若者が「価値あるものを作らずに金を儲ける」バンカーをめざすとはどういうことなのか、等々を語る本。
    非常に読みやすく、原著が日本だったらちょっと分厚い新書で出てたのでは。タイトルは高尚な感じですが、最初のオランダ語版では『ただでお金を配りましょう』だったとか。ちなみに日本語版サブタイトルの「AIとの競争に勝つ」というのは無理やりバズワードを呑み込んだなという印象で、本著第8章は「AIとの競争には勝てない」というものです(笑

    過去の事例を収集し、データを集め、整理されたロジックで、左側のスタンスの人には「最もお金をかけずに効果を上げる福祉で、被支援者の自立心を妨げない」、右側のスタンスの人には「ベーシックインカムが結果的に政府の歳出削減に繋がる」となり、読んでいると「早く導入すれば良いのに」としか思えなくなる本です。
    個人的には、工場などの効率化で作った時間の余裕を、医療や教育といった労働集約的な部門に活用でき、高齢者や弱者のケア、個々人に合った教育に注力できるようになるというのは夢がある話だと感じました。

    とは言え、じゃあなぜ世界中にベーシックインカムがすぐ普及しないのか、とも思ってしまう訳で。
    著者もその現実は理解しているものの、本著の最後に書かれたアドバイスは「同じ考えの人はたくさんいるよ!」「他人の常識に流されずに図太くなれ!」の2つで、ちょっと切ない気持ちになります。。
    まぁ、あとは世論の広がりや、政策(ひょっとすると政局?)や制度への落とし込みではないかと思うので、本著の範疇ではないのかもしれませんが。

    スーパー性善説な政策、面白いと思いますが、さてどうなるか。個人的にはやってみれば良いとも思うのですが。

  • 隷属なき道AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働
    著作者:ルトガー・グレグマン
    発行者:文藝春秋
    タイムライン
    http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698

  • ベーシックインカムと1日3時間の労働で、人類はやっていけるだけの豊かさをすでに手にしている。問題はその再配分だ。多くのバリアがその実現を阻もうとするが、正しいアイデアはいずれ実現する。奴隷解放や女性参政権や同性婚が、はじめどれほどバカげて見え、批判されてきたかを思えば、ベーシックインカムや国境の開放はあり得るアイデアだ。
    オランダのような風通しの良さからは最も遠く離れた腐海の底の国でもまた、本書が広く読まれ、ありだなと思う人が増えることを望みたい。

  • ベーシックインカムの実現可能性については、原田泰氏の著書を読んだのでもとより疑っていない。貧しい人々に現金を与えてもたちまち人口爆発とはならないのも、「滅亡へのカウントダウン」を読んでいれば自明のことだろう。カネを手にした(男性)ホームレスが酒や麻薬に走らない、という点にだけは万全の信を置くことができないが、「国境を開放しろといっても、それは徐々に行われるべきだ。一夜にして国境を全廃するようなことは不可能だし、すべきでもない」と言う著者の主張はおおむね穏当である。
    全体に普通のこと・当たり前のことを述べているだけのように、個人的には感じられた。肌ざわりは「格差の世界経済史」に近いが、あれよりはだいぶ読みやすい。ご丁寧に各章ごとに箇条書きの「まとめ」がついているのが、便利なようでもあり、胡散くさい自己啓発本のようでなんだかなあでもあり(笑)。
    著者も言うように、本書はユートピアに関する本である。そしてきっとそれこそが、閉塞感著しい現代の私たちには必要なものなのだ。
    「金色の夢、見せてあげる」この言葉に魅せられてから三十年。そういえば、最近聞かなくなったフレーズだなあと思い出した。

    2017/7/11〜7/12読了

  • ケインズやハイエクを渉猟しながら、AI以後の人間の『隷属なき道』を構想する、オランダ『デ・コレスポンデント』創設メンバーの書。説得的な定量データを示しながら、ユニバーサル・ベーシック・インカムは実現できると提唱する。

    GDPを算出するには、非常に多くのデータポイントを結びつけ、どれを参入し、どれを無視するかについて、数百の主観的な選択がなされる。このような方法論にもかかわらず、GDPはハードサイエンスと見なされ、そのわずかな変動が、政治家が再選されるか消え去るかを決めることもある。しかし、その見かけ上の正確さは幻想にすぎない。GDPは「測定」されるのを待っている確かな数字ではない。GDPを測定するというのは、思考を測定しようとすることなのだ。p118

    文筆家のケビン・ケリーが言うように、「生産性はロボットにまかせておけばいい。人間は時間を浪費したり、実験したり、遊んだり、創造したり、探検したりすることに秀でているのだから」p125

    ケインズ「孫の世代の経済的可能性」p131

    「オヴァートンの窓」p260

  • 労働時間の短縮、BIのメリット(コスト含)の他に、国境を撤廃することを提案しているのが新鮮だった。
    世の中のリベラルの思考に少しずつ近づいていく気を抱く。
    「思い出そう。奴隷制度の廃止、女性参政権、同性婚、いずれも、当時主張する人々は凶人と見られていたことを。だがそれは、彼らが正しかったことを歴史が証明するまでの話だった。」

  • 貧困はIQを下げる、生活に必須な仕事ほど給与が安い、優秀な頭脳がただお金を移動させるだけで何も生み出してない、ベーシックインカムの効果など
    確かにその通りで、明快によく書いたなあと感心しました。私自身よく知らずに思い込んでいた部分もあり反省しました。
    資本主義の次の社会を考える人に必須の書。

全85件中 1 - 10件を表示

野中香方子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャレド・ダイア...
フィル・ナイト
リンダ グラット...
ベン・ホロウィッ...
カルロ・ロヴェッ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×