かくて行動経済学は生まれり

  • 文藝春秋
3.60
  • (17)
  • (36)
  • (33)
  • (5)
  • (4)
本棚登録 : 489
感想 : 37
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906836

作品紹介・あらすじ

データ分析を武器に、貧乏球団を常勝軍団に作り変えたオークランド・アスレチックスGMを描いた『マネー・ボール』は、スポーツ界やビジネス界に「データ革命」を巻き起こした。刊行後、同書には数多くの反響が寄せられたが、その中である1つの批判的な書評が著者の目に止まった。「専門家の判断がなぜ彼らの頭の中で歪められてしまうのか。それは何年も前に2人の心理学者によって既に説明されている。それをこの著者は知らないのか」この指摘に衝撃を受けたマイケル・ルイスは、その2人のユダヤ人心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの足跡を追いはじめた――。〈目次〉■序 章 見落としていた物語野球界にはびこるさまざまなバイアスと、それを逆手にとった貧乏球団のGMを描いた『マネー・ボール』。その刊行後、わたしはある批判的な書評を目にした。「著者は、野球選手の市場がなぜ非効率的なのか、もっと深い理由があることを知らないようだ」。その記事には2人の心理学者の名前が挙げられていた。■第1章 専門家はなぜ判断を誤るのか?あるNBAチームのGMは、スカウトの直感に不信感を抱いていた。彼らは自分にとって都合の良い証拠ばかりを集める「確証バイアス」に陥っていたのだ。彼らの頭の中では、いったい何が起きているのか。それは、かつてダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが直面し、解き明かした問題だった。■第2章 ダニエル・カーネマンは信用しないナチスからの過酷な逃亡生活を経たダニエルは、終戦後、独立戦争さなかのイスラエルに向かった。戦争中の体験から「人の頭の中」に強い興味を抱いた彼は、軍の心理学部隊に配属される。そこで課せられたのは、国家の軍事力を高めるべく、新人兵士の適性を正確に見抜く方法を作成せよという難問だった。■第3章 エイモス・トヴェルスキーは発見する高校卒業後、イスラエル軍の落下傘部隊に志願したエイモス。闘士として戦場を駆け回った彼は、創設直後のヘブライ大学心理学部に入学する。「CよりB、BよりAが好きな人は、必ずCよりAが好き」という人間像を前提とした既存の経済理論に疑問を持った彼は、刑務所の囚人を集めてある実験を行なった。■第4章 無意識の世界を可視化する人間の脳は無意識のうちにどんな働きをしているのか。その研究にとりかかったダニエルはやがて視覚に辿り着く。人の瞳孔は、好ましいものを見ると大きくなり、不快なものを見ると小さくなる。そしてその変化のスピードは、人が自分の好みを意識するより早かった。彼は、目から人の頭の中をのぞき始めた。■第5章 直感は間違える「人の直感は、統計的に正しい答えを導き出す」。長らく信じられてきたその通説を打ち破ったのは、ヘブライ大学で出会ったダニエルとエイモスの二人だった。たとえ統計学者でも、その直感に頼った判断はいとも簡単に間違うことを証明した二人の共同論文は、それまでの社会科学に反旗を翻すものだった。■第6章 脳は記憶にだまされる専門家の複雑な思考を解明するため、オレゴン研究所の心理学者たちは医師に簡単な質問をして、ごく単純なアルゴリズムを作成した。だが、手始めに作られたその「未完成のモデル」は、どの有能な医師よりも正確にがんの診断を下せる「最高の医師」になってしまった。いったいなぜそんなことが起きたのか?■第7章 人はストーリーを求める歴史研究家は偶然にすぎない出来事の数々に、辻褄のあった物語をあてはめてきた。それは、結果を知ってから過去が予測可能だったと思い込む「後知恵バイアス」のせいだ。スポーツの試合や選挙結果に対しても、人の脳は過去の事実を組み立て直し、それが当たり前だったかのような筋書きを勝手に作り出す。■第8章 まず医療の現場が注目した北米大陸では、自動車事故よりも多くの人が、医療事故で命を落としていた。医師の直感的な判断に大きな不信感が漂う中、医学界はダニエルとエイモスの研究に注目。医師の協力者を得た二人は、バイアスの研究を次々と医療に応用し始める。そしてダニエルは、患者の「苦痛の記憶の書き換え」に成功する。■第9章 そして経済学も「人は効用を最大にするように行動する」。この期待効用理論は、経済学の大前提として広く受け入れられてきた。だがそれでは、人が宝くじを買う理由すら説明できない。その矛盾に気づいたダニエルとエイモスは、心理学の知見から新たな理論を提唱する。その鍵となったのは、効用ではなく「後悔」だった。■第10章 説明のしかたで選択は変わる六百人中、二百人が助かる治療法と、四百人が死ぬ治療法。この二つの選択肢はまったく同じ意味であるにもかかわらず、人はその説明の違いに応じて異なる反応を見せる。ダニエルとエイモスが見つけたこの「プロスペクト理論」は、合理的な人間像を掲げてきた既存の経済学を、根底から揺るがすことになる。■第11章 終わりの始まり共同研究に対する賞賛は、エイモス一人に集中した。その状況に対し、徐々に妬ましさを感じ始めたダニエルは、エイモス抜きで新たな研究に取り掛かる。人が「もう一つの現実」を想像するときのバイアスに注目したそのプロジェクトが進行するなか、十年間に及ぶ二人の友情の物語は終焉へと近づいていく。■第12章 最後の共同研究ダニエルとエイモスの格差は広がる一方だった。そんな中、かつての指導教官をはじめ、彼らの研究は各方面からの攻撃に曝される。その反撃のため二人は再び手を組むも、ダニエルはその途中でエイモスと縁を切る決意を固める。二人の関係が終わったその直後、エイモスは医師から余命六か月と宣告される。■終 章 そして行動経済学は生まれた脳には限界があり、人の注意力には穴がある。ダニエルとエイモスが切り拓いたその新たな人間像をもとに、「行動経済学」は生まれた。エイモスの死後、その権威となったダニエルは、ノーベル経済学賞の候補者に選ばれる。発表当日、一人連絡を待つダニエルの胸には、エイモスへのさまざまな思いがよぎる。■解 説 「ポスト真実」のキメラ 月刊誌『FACTA』主筆 阿部重夫

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • マイケル・ルイスの『マネー・ボール』と、行動経済学の本であるダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』が面白かったので読んでみたが、途中で飽きてきて斜め読みしてしまった。
    本書の原文のタイトルは"Undoing Project"で、「あのことさえなければ…」と、すでに起きた事実を取り消し、やり直しをしようとする思考を表している。
    いろいろと考えながら読んだ箇所は、第8章~第10章くらいでした。以下のような内容のあたり。
    勝敗の確率が半々で、15000円勝つか10000円負けるかの賭けを一回だけしようと持ちかけると、たいていの人は断る。
    しかし、同じ人に同じ賭けを100回やろうと伝えるとほとんどの人が受け入れる。
    なぜか?このあたりの意思決定の人間の性質を考えると、何かリスクのある決定を前にして人がとる行動の予測精度がアップする?
    人は、後悔を最小にしようとする。何もしないことで現状維持できると思えば人はリスクを伴う行動をさけようとする。
    この本に関しては、じっくり読んでもあまり得るものはないと感じたので、(時間を無駄にしたという)後悔を最小とすべく斜め読みと読み飛ばしをした次第です。

  • 『マネー・ボール』や『世紀の空売り』 『フラッシュ・ボーイズ』などのベストセラーを出してきたマイケル・ルイスが取り上げたのが行動経済学である。現代の必読書『ファースト&スロー』の著者ダニエル・カーネマンとその研究を共同で行ってきたエイモス・トヴェルスキーを追ったものである。ダニエル・カーネマンに彼らについての本を書きたいとマイケル・ルイスがコンタクトしたのは『ファースト&スロー』が出版される前である。マイケル・ルイスの慧眼である。

    統計的手法による選手獲得で強豪チームに変わったアスレチックスを描いた『マネー・ボール』を世に出したとき、後にノーベル経済学賞を受賞するリチャード・セイラーとキャス・サンティーンが『マネー・ボール』に書かれているようなことが起きる理由についてはダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが何年も前に説明している、と書いたことから本書は始まった。

    「確証バイアス」「保有効果」「現在バイアス」「後知恵バイアス」など、プロスポーツの世界ではびこるバイアスをうまく避けることで有利な立場を得ようとする流れが『マネーボール』以降ベースボールを超えて広がった。そこで利用されているロジックの多くは行動経済学と呼ばれる新しい一連の学問領域から来ている。そして行動経済学はその多くをカーネマンとトヴェルスキーの二人の天才デュオに負っている。本書は、性格が全く異なるも互いに互いを高めあった二人のデュオを描いたものである。エイモスは陽気で楽観的、ダニエルは堅苦しく悲観的、そしてどちらも才気溢れていた。そしてどちらもイスラエルに住むユダヤ人であった。

    マイケル・ルイスはプロスポーツの戦略から行動経済学のことを知ることになった。しかし当然のことながら、行動経済学の射程は当然プロスポーツの世界にとどまっていない。そもそもの経済学における合理的な判断を行う個人という原理的な考えに疑問を突きつけた。大抵の場合人が意思決定を行う場合には効用の最大化を行うのではなく、後悔を最小にしようとすることを明るみに出した。そのために人は往々にして合理性を超えて現状維持を望むものである。このことは、人がプラスよりもマイナスの影響に敏感であることにもつながる。その点を意識すると説明の仕方によって人の判断は大いに影響を与えられることも明らかになった。行動経済学は、政府の各種施策、医療(証拠に基づく医療(EBM))、などにも広く影響を与えている。


    ダニエル・カーネマンは「自分自身の記憶」を信じていない。その注意深さが行動経済学の様々な発見につながった。

    夭折したエイモスはこういった -「人生は本だ。短い本がよくないということはない。わたしの人生はとてもいい本だった」。その楽観性が研究の幅と深さを拡げ、行動経済学という領域の確立と探索につながった。


    エイモスとダニエルの間での特にダニエル側の確執については彼らのような間柄と立場と知性であってさえもそのような感情を起こさせるものかと考えさせる。

    『ファースト&スロー』を読んだ人には特におすすめ。各種のバイアスやヒューリスティックスに関しては『ファースト&スロー』の方で確認するのがよいだろう。リチャード・セイラーやキャス・サンティーン(共著もあり)にも手を広げてもよい。マイケル・ルイスにも、さすがと言いたい。


    ----
    ■マイケル・ルイス
    『世紀の空売り』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163730907
    『フラッシュ・ボーイズ』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163901418

    ■ダニエル・カーネマン
    『ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093382
    『ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093390

  • マネー・ボールを書いた著者が、そのとある書評で、なぜ人は非効率な判断をしてしまうのか、すでに2人のイスラエル人心理学者が証明していると書かれていたのを目にし、ダニエル・カーネマン、エイモス・トヴェルスキーについて調べ、本にしたものです。そんな書評をトリガーにしてこれだけの本を書いてしまうなんてマイケル・ルイスという人は本当にすごいとしか言えません。

    この本は、行動経済学について解説した本ではなく、ダニエルとエイモスを中心にした評伝で、その中で彼らが展開する行動経済学の本質である、如何に人間は誤った判断をしやすいのかを判りやすく説明してくれます。

    人の思考性向を判りやすく説明してなるほどと思ったのは以下の通り。
    ・人は効用を最大にするのではなく、後悔を最小にしようとする
    ・それまでの状況を変える行動によってなにかを失った痛みは、それまでの状況を維持する決定によって生じたいたみより、はるかに大きい→だから人は現状維持を望む
    ・リスク回避はとは、後悔を避けるために、人がすすんで支払おうとする手数料と言え、いわば後悔の保険料である。
    可能性が低い方が感情は強くなる。大金が手に入る、あるいは失う確率が10億分の1と言われると、人はそれが10億分の1ではなく、1万分の1であるかのような行動をとる。
    ・人はものごとの本質で選ぶのではない、ものごとの説明のしかたで選ぶのだ。

    これは行動心理学とは関係ないですが、
    ・エイモスはよく言っていた。「悲観的だと悪いことを2度も経験することになる。一度は心配しているとき、2度目は本当に起こるとき」

    2人は、正反対の性格なのに、恋人以上に馬が合っていたからこそ、これほどの偉業を成し遂げたんでしょうね。こう

  • 行動経済学について読んでみよう。

  • なぜファクタ阿部がいる…というのは置いておいてもちょっとマイケルルイスにしては散漫な印象。直接の取材が限られるからか、あまり内面に踏み込んでこない。章が変わると主人公をごろっと変えるスタイルも上手くハマってこなかった感。うーん…

  • 2010年にデータ分析を武器にMLBの常勝球団となったオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンの物語「マネーボール」は経済に理論を持ち込んだ。しかし、その先人はイスラエル独立戦争のころから活躍していたダニエル・カールマンとエイモス・トベルスキーであった。イスラエル陸軍のアドバイザーとして、教育訓練や作戦に生きたデータ活用を経験した二人は、1976年ヘブライ大学からスタンフォードに居を移す。アメリカで行動経済学として二人の研究成果が注目されるまでには長い年月を要した。1996年にエイモスが死去し、2002年にノーベル賞を受賞。それからようやく、どうして人間は不合理な意思決定を行うのかの学問が花開くことになる。

  • 序章 見落としていた物語
    野球界にはびこるさまざまなバイアスと、それを逆手にとった貧乏球団のGMを描いた「マネー・ボール」。その刊行後、わたしはある批判的な書評を目にした。「著者は、野球選手の市場がなぜ非効率的なのか、もっと深い理由があることを知らないようだ」。その記事には二人の心理学者の名前が挙げられていた。

    第1章 専門家はなぜ判断を誤るのか?
    あるNBAチームのGMは、スカウトの直感に不信感を抱いていた。彼らは自分にとって都合の良い証拠ばかりを集める「確証バイアス」に陥っていたのだ。彼らの頭の中では、いったい何が起きているのか。それは、かつてダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーが直面し、解き明かした問題だった。

    第2章 ダニエル・カーネマンは信用しない
    ナチスからの過酷な逃亡生活を経たダニエルは、終戦後、独立戦争さなかのイスラエルに向かった。戦争中の体験から「人の頭の中」に強い興味を抱いた彼は、軍の心理学部隊に配属される。そこで課せられたのは、国家の軍事力を高めるべく、新人兵士の適性を正確に見抜く方法を作成せよという離問だった。

    第3章 エイモス・トヴェルスキーは発見する
    高校卒業後、イスラエル軍の落下傘部隊に志願したエイモス。闘士として戦場を駆け回った彼は、創設直後のヘブライ大学心理学部に入学する。「CよりB、BよりAが好きな人は、必ずCよりAが好き」という人間像を前提とした既存の経済理論に疑問を持った彼は、刑務所の囚人を集めてある実験を行なった。

    第4章 無意識の世界を可視化する
    人間の脳は無意識のうちにどんな働きをしているのか。その研究にとりかかったダニエルはやがて視覚に辿りつく。人の瞳孔は、好ましいものを見ると大きくなり、不快なものを見ると小さくなる。そしてその変化のスピードは、人が自分の好みを意識するより早かった。彼は、目から人の頭の中をのぞき始めた。

    第5章 直感は間違える
    「人の直感は、統計的に正しい答えを導き出す」。長らく信じられてきたその通説を打ち破ったのは、ヘブライ大学で出会ったダニエルとエイモスの二人だった。たとえ統計学者でも、その直感に頼った判断はいとも簡単に間違うことを証明した二人の共同論文は、それまでの社会科学に反旗を翻すものだった。

    第6章 脳は記憶にだまされる
    専門家の複雑な思考を解明するため、オレゴン研究所の心理学者たちは医師に簡単な質問をして、ごく単純なアルゴリズムを作成した。だが、手始めに作られたその「未完成のモデル」は、どの有能な医師よりも正確にがんの診断を下せる「最高の医師」になってしまった。いったいなぜそんなことが起きたのか?

    第7章 人はストーリーを求める
    歴史研究家は偶然にすぎない出来事の数々に、辻複のあった物語をあてはめてきた。それは、結果を知ってから過去が予測可能だったと思い込む「後知恵バイアス」のせいだ。スポーツの試合や選挙結果に対しても、人の脳は過去の事実を組み立て直し、それが当たり前だったかのような筋書きを勝手に作り出す。

    第8章 まず医療の現場が注目した
    北米大陸では、自動車事故よりも多くの人が、医療事故で命を落としていた。医師の直感的な判断に大きな不信感が漂うなか、医学界はダニエルとエイモスの研究に注目。医師の協力者を得た二人は、バイアスの研究を次々と医療に応用し始める。そしてダニエルは、患者の「苦痛の記憶の書き換え」に成功する。

    第9章 そして経済学も
    「人は効用を最大にするように行動する」。この期待効用理論は、経済学の大前提として広く受け入れられてきた。だがそれでは、人が宝くじを買う理由すら説明できない。その矛盾に気づいたダニエルとエイモスは、心理学の知見から新たな理論を提唱する。その鍵となったのは、効用ではなく「後悔」だった。

    第10章 説明のしかたで選択は変わる
    六百人中、二百人が助かる治療法と、四百人が死ぬ治療法。この二つの選択肢はまったく同じ意味であるにもかかわらず、人はその説明の違いに応じて異なる反応を見せる。ダニエルとエイモスが見つけたこの「プロスペクト理論」は、合理的な人間像を掲げてきた既存の経済学を、根底から揺るがすことになる。

    第11章 終わりの始まり
    共同研究に対する賞賛は、エイモス一人に集中した。その状況に対し、徐々に妬ましさを感じ始めたダニエルは、エイモス抜きで新たな研究に取り掛かる。人が「もう一つの現実」を想像するときのバイアスに注目したそのプロジェクトが進行するなか、十年間に及ぶ二人の友情の物語は終焉へと近づいていく。

    第12章 最後の共同研究
    ダニエルとエイモスの格差は広がる一方だった。そんななか、かつての指導教官をはじめ、彼らの研究は各方面からの攻撃に曝される。その反撃のため二人は再び手を組むも、ダニエルはその途中でエイモスと縁を切る決意を固める。二人の関係が終わったその直後、エイモスは医師から余命六か月と宣告される。

    終章 そして行動経済学は生まれた
    脳には限界があり、人の注意力には穴がある。ダニエルとエイモスが切り拓いたその新たな人間像をもとに、「行動経済学」は生まれた。エイモスの死後、その権威となったダニエルは、ノーベル経済学賞の候補者に選ばれる。発表当日、一人連絡を待つダニエルの胸には、エイモスへのさまざまな思いがよぎる。

  • 伝記

  • この本、図書館で経済学の棚にあったけど・・・どうなんだろう。内容的には文学(ノンフィクション)の棚の方がふさわしいんじゃないかなぁ。
    だって、これは完全にラブストーリーだと私は思った。
    行動経済学の開祖、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの二人の出会いと別れの物語。

    著者マイケル・ルイスも、「二人の関係は性的なものが介在されない恋人同士みたいなものだ」というようなことを書いていたが、本当にそうだと思った。(書かれていた箇所が見つからないので、申し訳ないですが正確な引用ではないです)
    起きている間はいつも一緒にいて、二人でこもる研究室の扉の向こうからはずっと笑い声が聞こえている。他の人は誰も共有できない二人だけの世界。

    こんな幸せな人生ってあるかしら、と読みながら思った。当時の奥さんはひそかに嫉妬していた、というが、そりゃそうだよなぁ、と思った。
    独力で偉業を成し遂げることももちろん素晴らしいことだと思うけど、以心伝心の親友と二人で毎日笑いながらアイデアを練り上げて、その結果、世界を変えてしまうようなすごいものが出来上がる、って最高じゃないかと思う。私も奥さんじゃないけど、いいなぁ、二人だけでそんな楽しいことして、と思った。
    そして、この二人ほどの偉業じゃなくても、古今東西の産業界を探すと、いろんな形(カップリング)の似たような疑似恋人関係ってけっこうあるんじゃないのかなぁ。
    それを幸せと言わずして何を幸せと言うのか、という感じ。

    初期値に推計値が左右されることに気づかない「確証バイアス」や、インプットのパターンに一貫性があると、理屈抜きで予測に自信満々となる「妥当性の錯覚」などは、用語は知らなくても、今はわりとみんな知っている脳のはたらき、という感じがするけど、ほんの4~50年前まではこんな風に誰も思いもよらないことだったんだ、とビックリした。こうして綺麗に整理されて説明されると、まるで自明のことのように感じるけれど、ここまでスッキリ説明されるまでには、二人の天才の頭脳による長い考察と研究が必要だったんだなぁ、と驚く。

    そして、この二人のバックグラウンドとして欠かせない、イスラエルという国の特異性も、読んでいて非常に驚かされた。
    ニュースで聞くイスラエルという国は、いろいろと遠すぎて私にはあまりピンと来ないのだが、こうして「誰かの物語」の背景として読むと、いろんな意味で分かりやすく、あらためてイスラエルのすごさに度肝を抜かれた。(この国に対しての「すごい」の意味はポジティブ・ネガティブ両方ある)
    なんか、うまく言えないけど、とにかく、いろいろすごい。

    この本は、マイケル・ルイスの中では、ちょっとわかりづらいというか、読みづらいなぁ、と思った。
    でも、たぶん、もともとマイケル・ルイスの文章というのはそういうもので、私が今まで読んだのは東江一紀さんが訳していたからスイスイ読めた、という部分もあるのかも、と思った。
    この本の訳も全然悪くはなかったけれど(東江さんと共訳されていた方だし)、でもところどころで、「ん?この指示代名詞は何を指すのかしら」と首をひねる箇所がいくつかあった。たぶん原文がそうなのかな。
    構成も、少々もたついている印象だった。

  • 行動経済学の始まりの物語。

    ・どんな分野の専門家でも、その人自身の頭の中でなぜ判断が歪められてしまうのかについては、すでに何年も前に説明がなされている。それを行ったのは、二人のイスラエル人心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーである。

    ・スカウトはほぼ一瞬で印象を決め、そのあとはそれに合うデータを集めてしまう傾向にあるのだ。これは”確証バイアス”というものだ

    ・悲観的だと悪いことを二度も経験することになる。一度は心配しているとき、二度目は本当に起こるときだ。

    ・人はものごとの本質で選ぶのではない。ものごとの説明のしかたで選ぶのだ。

全37件中 1 - 10件を表示

マイケル・ルイスの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×