弥栄の烏 八咫烏シリーズ6

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906843

作品紹介・あらすじ

八咫烏の一族が支配する異世界・山内。「うつけ」の若宮と「ぼんくら」近習の少年・雪哉という若き主従の活躍を中心に、賢く華やかな宮廷の姫君、若宮を取り巻く護衛の青年たちが繰り広げる、お妃選びと権力争い、友情と断絶、成長と再生を描いた壮大な和風ファンタジー。一冊ごとに表情を変えながら読者を魅了、80万部を突破したこの物語の第一部完結篇「弥栄の烏」は、主人公・雪哉の弟が武官訓練所である剄草院に入学準備する場面から。その実力を認められ、全軍の参謀役にまでなった雪哉、敵対する勢力を抑えて朝廷の実権を掌握した若宮が治める山内を大地震が襲い、開かれた金門の扉の向こうには、山内を恐怖に陥れた「人喰い大猿」が現れた。ついに始まった、猿と八咫烏の最終決戦。若宮は名前を取り戻し、真の金烏となれるのか。山内は栄えるのか、それとも滅びに向かうのか―ー 松本清張賞を受賞したデビュー作『烏に単は似合わない』から5年。現・大学院生の著者25歳が作り上げる異世界和風ファンタジーシリーズ第6巻、堂々のクライマックス!

感想・レビュー・書評

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  • 八咫烏シリーズ第六作目にして完結編。

    また山内からの物語に戻った。
    このシリーズは、一巻と二巻、五巻と六巻がそれぞれ1つの事象を2つの側面から描くという手法を取っている。それが吉か凶かは、読者の好みに分かれるところだろう。
    とても面白い試みだと思うけれど、記憶力の衰えはじめたオバさんにとっては、ちと読みにくい感じである。

    完結編である本作は、山神、猿、八咫烏が今に至った経緯が明らかになる。神話と祭に絡めた筋はとても面白かったが、奈月彦と雪哉がそれまでの輝きが一瞬にして曇ってしまうというか、なんともなぁ〜。代わって真赭の薄と浜木綿がグーンと輝く感じ。とくに最後の章の浜木綿の語りはジーンと沁みた。

    全てを読み終えて、やはり五巻が…現代の日本との関わりまで持ってくるのは個人的にには、うーん。
    異世界ファンタジーはそのまま異世界の中で、せめて近世くらいの日本の歴史との関わりくらいにしておいて欲しかったかなぁ…あくまで個人的な欲望というヤツですが。
    2019.9.15

  • 八咫烏ファンがどよめいた前作『玉依姫』と表裏をなす一冊。
    第一部の完結編はワクワクのらせん階段が今まで以上にぐるぐる巻きになっている。
    いやいやいやいや、奥が深すぎるよ、山内!なんて言ってもこの奥行きの深さが八咫烏シリーズの醍醐味。
    読み終わった時、ビールを一気飲みしたみたいに「ぷはーっっ!」と叫んじゃったね。
    なんていうか、単純な烏王国物語じゃないところに心惹かれる。表面的ないい話で終わらない。自分たちの正義がいつも正しいとは限らないという、ね。
    はやく続きが読みたい。いったいどうなる。どうなる!

  • シリーズ5作目の『玉依姫』を読んでから本作を読むまでに、随分時間が空いてしまったことを後悔。
    もっと記憶が残っているうちに読むべきでした…というのも、本作は『玉依姫』と同じ時間軸を八咫烏サイドから描いているのです。

    八咫烏と猿と人間の関係、若宮の欠けた記憶の謎。
    これまでの伏線がこう活きてくるのか…と何度もうなってしまいました。
    猿との戦いの中で傷つき、命を落とす仲間たち…登場人物たちの痛みや悲しみが今まで以上に強くて、読んでいて辛かったです。

    読後、ここに至るまでの登場人物たちをもう一度見たい…と思い、シリーズ全巻をポチッたのでした。
    本作で完結する第1部をもう一度ふりかえって、外伝も読んでから、第2部を読みたいと思います。

  • これも1巻と2巻の関係みたく、5巻がsideAで本巻がsideBで烏側ストーリーだね。

    前巻は私にとって何事もなく通過したような物語だったので、逆に本作があることで前作を再び時系列を思い起こす事で前作の存在意義が出てきたかもしれない。

    雪哉の成長をこの巻でどう捉えるか賛否分かれそうね。

    ファンタジーとしては読みやすいと思う。

  • 八咫烏シリーズ6作目にして堂々の第一部完結。ワクワク、ハラハラしながら読み終えた。

    前作『玉依姫』で急展開をみた山神、猿の物語が、時間軸はそのままに、八咫烏側の視点で語られる。そして、『玉依姫』では謎のままで終わっていたことが見事に回収される。巻をまたいで別の視点から出来事を見る。この本シリーズに特徴的な語りが、世界観に厚みを持たせている。

    本巻では、雪哉に過酷な運命が待っている。彼は今後どうなってしまうのか。そして、真赭の薄である。初登場時はただの典型的な意地悪キャラかと思ったが、どっこいそんなことはなかった。この2人が好きなのは、シリーズを通じて変化、成長しているのがよく分かるからだ。もっとも、雪哉は成長というよりも本気を出してきたという感じなので、真赭の薄にエールを送りたくなる。

    多彩なキャラと世界観、早く二部を読み進めたい。

  • 奈月彦は山内の安寧の為、御供の世話に奔走するが、突然山神が化け物に。一方、山内では、猿の急襲を受け存亡の機に。

  • 八咫烏たちの物語も6巻目にして一旦の終幕らしい。まるで大奥かのように絢爛な宮中話は、因縁渦巻く抗争の終焉で終わった。

    1巻目と2巻目同様、5巻目と呼応する6巻目だったが、ちょっと前巻に状況を預け過ぎていて単巻としては説明不足感がある。

    八咫烏、猿、山神、そしてヒト、ファンタジックな絵巻としてはよくできているとは思うのだが、うーん、こうまとめるのか、と首を捻る。ミステリーから始まったのに戦記物として幕を引き、ワシには、物語の軸がブレて見えてしまった。それは主要キャラにも散見されて、ちと、釈然としない結末だった。

  • やられた。
    八咫烏シリーズ1と2がセットになっていて衝撃を受けたにも関わらず、今回が前巻との「セット」になるとは想像していなかった。
    前巻で急に「人間」が登場し、今までの登場人物たちが物語裏に隠れてがっかりしていたが、この作品で前巻と同じ時系列で八咫烏サイドのストーリーが展開される。
    玉依姫は読み直すことはないだろうと思っていたが、これを読んだ後では読み直さざるを得ない。

    これにて第一部完結。
    猿との争いは終わり、第二部が発刊されるとすれば今後の山内の在り方が主軸になるのではないだろうか。
    人間、天狗、そして八咫烏。
    それぞれが自己と他者をどのように認識するかに山内の未来がかかっているのだろう。

  • 前作の『玉依姫』でかなりガッガリしてしまったので、迷ったのですが、やはり文庫まで我慢できず、koboで購入。
    今まで、気持ち悪い人格の持ち主は、あくまで脇役たちだったのですが、今回は、金烏も雪哉も、ある意味すごいサイコパスで…。
    最初のうちは、バタバタ死んでいく烏たちの姿に、泣いたりしてたんですが、途中からちょっと引いてしまった。
    やっぱり、『玉依姫』からおかしくなった気がする。
    正直、奈月彦と雪哉だけは、そのままであって欲しかったなぁ。

    でもね…、壊れてしまう必要があってのことだと、分かっています。一度ぶっ壊すことで、彼らは成長することができるからです。

    今までの奈月彦と、雪哉は、彼らの一面を見せていたに過ぎなかったのです。もちろん、人間には、たくさんの顔がある。多面的な生き物ですから、そこを描く必要があったのでしょう。

    家族や身内には、すごく優しくて、何としても護ろうとする母のような性であったとしても、そのほかは一切構いもしない、無情な人間だっているでしょう。

    弾かれてしまったら、二度と彼の護りの中に入れてもらうことはできない。弾かれた方は、なぜ弾かれたのかも分からない。そこには、本人の独善的な価値基準があるだけだから、他人には、理解もできないでしょうね。

    しかも、本人は、その偏った価値基準は、何も間違ってないと、平然と思っている。周囲の人間も、同じように考えるに決まってる、考えるべきだと思っている。

    こういう人って、本当にいますよ。べき、で思考回路が固まっている人間ほど、狭量な生き物はいない。それがおかしいことに、本人だけは気づかないのです。

    そして、相手に斟酌せず、加害者に怒りしか覚えない人間もいる。
    悲しんでいる、苦しんでいる、喪ったことを許せない。
    加害者を恨んで、心の均整を取ろうとするのです。

    それは、仕方ないことではある。誰もが、きっとそのステップを踏まないと、先には行けない。
    でも、その怒りの下には、なぜ自分には何もできなかったのか、惨劇を防げなかったのか…という、自分の不甲斐なさへの悲しみが隠れていることが多いのです。

    怒りは感情に蓋をする。その下にある、自分の本音に向かい合う気力を、根こそぎ奪ってしまうのです。
    雪哉は、自分を一番許せなかったのでしょう。
    怒りは期待を裏切られた時に出てくる、防衛反応の一つとも言えます。雪哉は、自分に失望したのです。
    そういう自分から目をそらすと、怒りは外に向かってしまいます。この場合なら、猿に向かってしまったわけです。

    でも、彼らは、全てが終わった後、ひどく後悔に苛まれます。それは、きっと、何かを間違えてしまった、と思っているから。何か…それは、感情の発露の仕方といってもいいかもしれない。私たちも、怒りをそのままぶちまけると、だいたい後で後悔するものです。

    大切なのは、傷ついていると受け入れること。守れなかった、守り方を間違えたと、後悔している自分を受け入れて、許すことなのです。
    最後の数ページで、それぞれのやり方で、二人はそれを手に入れたように思います。
    気持ち悪い展開に、我慢した甲斐があったのでしょうか。

    と、ここまで分かってはいますが、それでも『空棺の烏』までの精緻な筆運びが、やはり欠けている気がするのです。1冊に詰め込みすぎ、語りたいこと整理しなさすぎ、と思います。
    なので、⭐︎ちょっと減らしました。
    著者なら、もっと書けるはずと思うのです。高校時代のプロットのままの、『玉依姫』の稚拙さに、引きずられてしまっています。

    第2部もあるとのこと。少し整理をして、ゆっくり時間をかけて、書いてくださるといいなぁと思います。期待しています。

  • 後味のあまり良くない終わり方。評価は分かれると思うが視点によって正義となるものが変わる、というテーマに沿った終わり方なのではないかと思う。
    私が気になったのは、「人の姿など要らなかった」とも若宮に語った大猿が、最後消えゆく間際に人の姿をとったこと。思うに、復讐心とはあまりに人間臭い感情なのではないだろうか?元々の猿としての姿に誇りを持ち、人の形を取らなかった彼女が最後の最後に人間の形で消えていったことに皮肉さを感じた。

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著者プロフィール

1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞受賞。デビュー作から続く「八咫烏シリーズ」は、松崎夏未氏による漫画化、中台翻訳など進行中。19年『発現』(NHK出版)刊行。

「2023年 『烏は主を選ばない(4)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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