ふたご

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2568
感想 : 259
  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907147

作品紹介・あらすじ

大切な人を大切にすることが、こんなに苦しいなんて--。彼は私の人生の破壊者であり想造者だった。異彩の少年に導かれた少女。その苦悩の先に見つけた確かな光。執筆に5年の月日を費やした、SEKAI NO OWARI Saoriによる初小説、ついに刊行!【著者紹介】藤崎彩織(SEKAI NO OWARI)
SEKAI NO OWARIでピアノ演奏とライブ演出を担当。研ぎ澄まされた感性を最大限に生かした演奏はデビュー以来絶大な支持を得ている。雑誌「文學界」でエッセイ「読書間奏文」を連載しており、その文筆活動にも注目が集まっている。— ふたごのようだと思っている。 彼は私のことをそんな風に言うけれど、私は全然そんな風には思わない。 確かに、私は人生の大半を彼のそばで過ごしてきた。晴れた日も雨の日も、健やかな日も病める日も、富めるときも貧しきときも、確かに、私は彼のそばにいた。 けれどもその大半は、メチャクチャに振り回された記憶ばかりだ。(本文より)

感想・レビュー・書評

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  • これは「小説」だと思って読んでいてもどうしても目の前で苦しみ血を吐くようにあえいでいるのは紛れもなく画面の中で笑顔でピアノを弾いている金髪の彼女だ。
    テレビの中の彼らはとても楽しそうだ。独特の世界観を持った彼らの音楽とその映像はファンタジックでドリーミーでキュートだ。
    だけど、そんな彼らの中心で歌を歌う彼の眼はいつもガラスのように冷たく底が見えない。歌いながら時々見開くその目の向こうには何があるのだろうか、といつも思っていた。
    その目に映っていたものはなにか。その答えがここにあった。彼の世界は、十代の少女が背負うにはあまりにも大きくあまりにも深くあまりにも複雑だ。
    けれどなぜ、夏子はそんなにも月島に惹かれるのか。なぜそこまで傷つきながらも月島から離れないのか。2人はふたごのようだ、という。本当だろうか。私には夏子は月島の母であり、妻であるように見える。子どもを丸ごと引き受け飲み込むグレーとマザーであり、自分勝手な理論で振り回しながらも泣いてすがる夫を常に許す妻に見える。あぁ、違うな。彼女と彼は、同志であり戦友なんだろうな。この先何があっても共に闘い続ける仲間なのだろう。あの苦しい時間を共に過ごしたからこそ、いろんな思いを飲み込んで新しい関係へと一歩を踏み出せたんだろう。
    いやぁ、それにしても彩織さん、よくここまで書ききったよねぇ。この小説を書き続けた時間は自分を生きなおすのに必要な時間だったのだろうね。

  • 学生の頃は何も思わなかったのだけど、働くようになって、「秩序」の人を感じるようになった。
    なっちゃんのピアノからは、同じような感じを受ける。

    でも、それとは対照的に「混沌」を振りまく人もいる。

    私は職場にいると、この「混沌」の人が面倒だなぁと思ったり、羨ましいなぁと思ったりする。
    その基準は、他人を意識的に巻き込むか否かの違いのように思う。

    月島は、敢えて人を巻き込んでいくタイプだ。
    だから、きっと私にとっては面倒くさい。

    「秩序」のなっちゃんがどんどんと渦に飲み込まれていく。イライラする。だってあなたは「混沌」ではないじゃないかと思う。

    けれど、なっちゃんは逃げない。
    ピアノも手離さない。

    それが恋なのか、友情なのか、家族愛なのか、分からなくても、だ。

    月島がなっちゃんだけは、バンドに誘いたくなかったのは何故なんだろう。
    自分が出した答えの中では、二人は確かに繋がっているのかもしれない。

  • かなり前に読んだけど、もう一度読みたくなって久し振りに。

    私が初めてファンになったアーティストがSEKAI NO OWARIだった。様々な番組などで結成秘話を話していることもあったので知っている話も多かった。

    名前のつけられない関係。お互いがいないと生きていけない関係。私はとても憧れてしまう。

  • 文庫化するまで読まないぞ、という信念のもと、文庫化を待ち望んでいた作品。あらすじから、これは彩織ちゃんと深瀬さんの物語なのかな?わざわざ読まなくても話の内容はだいたい把握出来てしまうんじゃないか、と読みたいと気にはなっていてもなかなか手を出していなかった。彩織ちゃんの『読書間奏文』を読んだことで、早く小説も読みたいと思うようになった気がする。この人の言葉の紡ぎ方は好きだなと思って。大人になると主人公が同じように大人である物語を好んで読むようになった。同じことを感じて、追体験し、自分の経験にしたい。しかし、『ふたご』は中学、高校、大学と主人公が成長して現れて来る。不思議と自分よりも年齢が下な主人公と一緒に物語を追うことが出来た気がする。内容は裏切られずに、たしかにSEKAI NO OWARIのバンドメンバーの話であった。テレビ番組やインタビュー記事で話していた場面が出て来る度に再確認する。西山夏子、月島悠介と名は与えられているものの、きっとそうなんだろう。頭の中で再生されるアテレコも本人の言葉で再生されそうになる。(これは小説なんだから)と読みながら自分に言い聞かせつつ、読了。解説にもあったが、これを本人たち、実在するバンドメンバーだと知らずに読めたらどれほど良かっただろう、自分の想像力だけで描けたらどれほど良かっただろう、と思った。だが同時に、きっと「SEKAI NO OWARIのSaoriちゃん/藤崎彩織」が書いた本だと知らなければ手に取らなかったかもしれない。矛盾ははらんでいるが藤崎彩織という人がどのような背景を持って書いた小説なのかを自分が知った上で読むことができ、良かったのだと、きっと思う。

  • 直木賞候補になったので読んでみました。
    文章は私にはとっても読みやすかった。
    セカオワの事はほとんど知らず、自伝的小説だと他の方のレビューを読んで思わずウイキペディアで調べてみたりして。

    なるほど~確かに。
    私だったら月島みたいな人はちょっと苦手だけど、月島みたいな人がいたからこそ、こういう話が書けたし、今に至っているんだろうな。

  • この物語が、ほぼ実体験だということを知り驚いてしまった。
    こんなにも、過酷な青春時代を過ごしたこともそうだし濃密すぎる人間関係にももちろん驚いたのだけれど
    何より自分自身の身に起きた出来事を
    こんなにも客観的・俯瞰的に冷静に組み立て言葉にしたことに、私はあっぱれをあげたい。

    『セカオワ』のことはよく知らなかったのだけれど
    読み終わってすぐに『RPG』を聞いてみました。
    ヤバイ・・・ファンになっちゃうかも(笑)

  • 直木賞候補作になった作品という事で、手にとったものの、なかなか読む気にならず、積ん読状態だったこの小説。
    表紙を開くまでは正直期待はしていなかったのですが、読み始めた瞬間とまらなくなりました。

    SEKAI NO OWARIの事はネットで流れているような簡単な情報しか知りませんが、限りなくノンフィクションに近いフィクションなのでしょうか。

    実際にこんな青春時代を過ごしていたとしたら、なんて壮絶でドラマティックな人生。
    どこまでが本当にあった事で、どこからが虚構なのか。
    私小説ですね。良いと思います。

    運命というのはこういう風に抗えないものなのでしょう。
    主人公のなっちゃんの感情は特にリアルに響いて、魂の叫びを聞いている様でした。

    文章は変な癖がなく読みやすく明快、内容は重いのに重さを感じさせません。
    私は重い内容の小説を読むと、読後、何かどろりとしたものが自分に残ることが多いのですが、この作品はそんな事が一切なかったように思います。

    シンプルに小説として面白かったです。

  • 心理・自殺対策の領域で活動されている方が「精神疾患に苦しむ人と、近くで支える人の情景がありありと描かれている」とおすすめされたのがきっかけで手に取り、読み終えたのは2回目です。(前回は2019/04/05だそうな。)

    わたし自身、思い通りに動けず思い通りに休めない自分を忌々しげな目で見ている中で読みました。


    “ 「頑張れない人たちのことを、世間では『甘えてる』って言う。一日中忙しくて充実している人は、家で寝転がって過ごしている人の生活を見ると軽蔑したような声で『ヒマでいいね』って言う」
    言いながら、月島は嫌悪を顔に滲ませた。
    「でもさ、俺は思うんだよ。努力できる充実した人生と、ゴロゴロしながら今日も頑張れなかったって思う人生と、どっちか選びなさいって聞いたら、みんな充実した人生を選ぶでしょう」
    「そうだね」
    「人生上手くいってる奴らが、人生うまくいってない奴らに上から皮肉を言う言葉なんだって思う。甘えてる、って。だからって、俺の人生は甘えてないんだって言いたい訳じゃないけど」
    「分かってるよ」
    「今話したことは、甘えてるっていう言葉を使っている人たちへの非難じゃないんだ。俺にだってその気持ちはわかるし。ただ、思ったんだよ」
    「何を?」
    「頑張れた方がいいに決まってるじゃないかって」“


    苦しい状態にいる人の前進は、元気な人から見ると進歩していないように見えてしまう場合がある。ずっと同じところをループしているように見えて、共感が難しくなることもある。
    「支え手」でいる以外の時間をもつことの大切さも、夏子の大変さからひしひしと感じました。。

  • 「好き」「惹かれる」という感情の表現の仕方がとても純粋で大好きです。最後まで一気に読みました。

  • 率直に素敵だなあと思った、そして羨ましいなあと思った。
    繋がり方は少し歪んでるかもしれないけどそんな人に出会える人生なかなかないし、辛くてもとても大きなものだったろうなあと思った。
    そして普通にさおりちゃんと深瀬くんの話だろうなと。
    繋がり方が歪な分お互い離れたらすごく喪失感が大きいのかな。
    来世ではこんな人に出会いたいと思いました。

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著者プロフィール

藤崎彩織(ふじさき・さおり)
1986年東京都生まれ。2010年「セカオワ現象」と呼ばれるほどの認知を得た四人組バンド「SEKAI NO OWARI」でピアノ演奏とライブ演出を担当。2017年10月初の小説『ふたご』(文藝春秋)を刊行。『文學界』でエッセイ「読書間奏文」を連載中。2017年『ふたご』で第158回直木賞候補。

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