13・67

著者 :
  • 文藝春秋
4.23
  • (134)
  • (92)
  • (46)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 890
レビュー : 135
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907154

作品紹介・あらすじ

華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸!現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデェンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化件はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。〈目次紹介〉1.黑與白之間的真實 (黒と白のあいだの真実)2.囚徒道義 (任侠のジレンマ)3.最長的一日 The Longest Day (クワンのいちばん長い日)4.泰美斯的天秤 The Balance of Themis (テミスの天秤)5.Borrowed Place (借りた場所に)6.Borrowed Time (借りた時間に)

感想・レビュー・書評

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  • 何も言うことなし。とにかく読んで欲しい一冊。中国返還された香港の1967~2013年に起こった事件を解決する老教官クワンとその弟子ローの物語。久々に侠気あふれる小説が出てきたなあ。正義とは何か?考えさせられる。中国系の作品はあまり読んだことがないのでこれを機に面白そうなのを探したい。

  • 「人の命が何よりも大切」という考えで結ばれた天眼クワンと弟子ロー。1967~2013年のアイデンティティが揺らいでいた香港で警察官として事件を解決していく。

    本作は6篇の連作中編形式で2013年から時代を遡り、クワンを中心に過去を解き明かしていく。さらにローや他の登場人物達を過去に繋がり持たせることで物語りに厚みを持たせ、それが読み応えとなっているところが面白い。

    香港といえば中国に返還されたものの言論統制が年々厳しく、政府を批判した書籍が置かれていた書店の店主が捕まったなどのニュースが聞こえてくる。

    作者はそんな香港社会の現在の切実さも併せて訴えたかったのだろうと思う。

  • 一言でいえば「優れた社会派ミステリー」ということになろう。イギリス領を経て、中国に返還され、いずれにしても中途半端な形での主権しか得られない「香港」を六篇の中編を通して描きだしている。たまさか香港が「民主化」を求めて激しいデモが勃発し、市民と警察が日々衝突しているこのタイミングで本作を読んだからか、この作品に描かれたフィクションからは明確な香港の姿が立ち昇ってくる。
    一定の主権を得て、それなりの自由を持ちながらも、ひと握りの権力者によって民主的決定権を実質的に剥奪されている香港の現状は、すぐ近くにある極東の島国とも重なり合う。権力を手にした愚か者が、あらゆる公的なモノをほしいままにする有り様が本作には描かれている。それは、本当にわがことのような恐ろしさを伴っている。
    訳者は「市民と直接相対する国家権力は警察しかない」と書いていたが、本当にそのとおりだ。かつては漠然と怖い存在だった警察が、この作品に描かれた警察のように汚職まみれだとしたら、我々市民はいったい何をよりどころに生きればいいだろう、と考えさせられる。怖い存在たる警官は、それでもかつての幼い頃の自分にとっては、「正義の味方」だったはずだ。それが愚か者の権力者の軍門に下り、文字通りの「権力の犬」になり下がった社会――それに絶望した市民たちの精いっぱいの抵抗こそ、今の香港で日々展開されている過激なデモなのではないだろうか。
    本作は、香港の歴史とそれに続く「今の香港」をも描きだしているように思えた。そして、それはあたかも戦時下に「国家総動員法」という天下の悪法を作ってしまった国が、今、似たような法をいくつも作り、自分たちを徹底的に守る(もちろんここでの「自分たち」には、一部の「お友だち」を除く一般市民は含まれない)ことにのみ汲々とする現状を描きだしているような畏怖をも感じさせる。
    ただただ救いなのは、主人公たるクワンとその弟子ローの誠実さだ。そこに触れたとき、いつか香港にも、わが国にも、そのような救世主が現れることへのかすかな希望を覚えるのである。

  • 華文ミステリにこんな作品があるとは
     2013年から1967年へ遡りながら、香港警察の頭脳・クワンの人生と、香港社会の移り変わりを描く、本格×社会派ミステリ。本格ミステリの海外ランキングNo1の評判に相応しく、各中短編それぞれに様々な技巧を凝らしています。第1話から超展開ですが、それが真価を発揮するのは、"出発点"である第6話まで読み終えた時。思わず"最終地点"である第1話を読み返してしまうでしょう。
     ベストは「クワンのいちばん長い日」。これだけ詰め込んで中短編として纏めたのは見事としか言いようがありません。次点は「テミスの天秤」。

  • 一人の卓越した刑事の小編を通じ、2013-1967年間の香港の警察と社会が浮かび上がる逆クロニクル小説。

    よかった編(特に超面白い!と思った編)
    ・黒と白のあいだの真実
    オープニングでガツンとくる。華麗なる一族の密室殺人。そんな馬鹿な!な安楽椅子探偵。明らかになる過去の秘密と、その奥の黒幕のドス黒さ。推定無罪を打ち破る禁じ手に驚愕。いやぁ、これだけでメインディッシュじゃない?

    ・クワンのいちばん長い日
    愉快犯の仕業かと思われた劇薬散布事件は布石の一つに過ぎなかった。軽々と謎をすくい取っていく天眼・クァン。あっちもこっちもどういうことだ?が、説明されるとマジでーそうだったのかー!となる。そこまでするか、な慎重さで計画を練ったのに、更に上を行くレベルの高さ。ひゃー。

    ・テミスの天秤
    ポケベル!!懐か死ぬ!そんなデバイスあったねぇー。木を隠すなら森の中ってのは古典だけど、無関係の人間に躊躇しないところとか、綱渡りの大仕掛けを怖がらなそうなところとかがサイコパスだなーと。悪の経典みたい。そして大人の都合で闇に葬られようとする話を力業でひっくり返すクァンがこれまた格好よすぎて身悶えするよー。

    ・借りた時間に
    語りが三人称から一人称へ。これ”誰こいつトリック”よね?爆破テロを防ぐべく手がかりラリーを進むところが、うんうん王道だなあと。鋭い着眼点と回転の速さがこれクァンだよね、そうだよね?と思っていたら、終局になって明かされるどんでん返し。これが一番ギャー!?!って打ちのめされた。同時にあー、これが46年前の原点なのかと宿縁めいたものを感じる。変わってしまった関係と変わらなかった信念と。もう一度頭から読み直すと同じ話がより深く、ほろ苦い味に思える。

    総評
    久々文句なしに面白かった!香港に詳しければもっと楽しめるのかもしれないが、全然香港現代史が分かってなくても超面白かったです。現実の長期デモを見ても、香港人は熱いのかもしれない。日本だったら制度もメンタルもこんな風にはいかないな~という点も含め、海の向こうの物語は輝いて見えた。

  • 最後の最後に「おぉー!!」っとビックリ仰天でした。

    現在から過去へ。
    香港情勢と、クワンの警察人生。

    台湾小説は良く読むけど、香港の話しは余り触れたことが無かったので、凄く興味深く読めました。

    複雑な香港の社会的立場と
    その流れを生きる人々たち。

    正義や権力の中で名探偵と呼ばれ事件を読み解くクワン。

    香港の歴史に触れながら、ミステリーと言うよりは
    探偵小説かなぁ~て思います。

    どの話も巧みに捻っていて面白かった!!
    最後の「借りた時間に」の過去から現在に繋がる人間模様には、やられました。

  • うーん、上手いなぁ。
    バッターボックスに立ち、見せかけのボール球を楽々見逃し。その後に来る変化球をこれだ!と思いフルスイングするも見事に空振り。そして、思いもよらないところから飛んでくる球を呆然と見逃してしまう。

    この小説は、6編から成り、1人の警察官の人生を遡りながら、香港の歴史をなぞっていく。私には香港の歴史のことはよくわからないが、それでも、単にミステリに留まることなく、本書に深みを与える役割を果たしている。

    この壮大な物語を読んで、まず思ったことは、なぜ短編集なのかということ。長編だったらどれだけ面白いのかと興味を持った。しかし、この構成は長編を読むよりも価値があることかもしれない。それだけ見事だ。
    そして、翻訳モノが嫌いなミステリ好きな方にも是非読んでいただきたい。損はしない一冊だ。

  • 香港社会と香港警察の時代を追いながら、主人公ローとクワンの歩みを綴る社会派ミステリーで連作短編集。

    オールタイムベスト級だらけ。横山秀夫+連城三紀彦のよう。完成された警察小説、超絶トリックスターである。

    「黒と白のあいだの真実」
    あらすじだけでもうワクワクが止まらない。設定を生かしたロジック。どこに向かうか見守っていると…前代未聞の超絶ギミック。「戻り川心中」クラスである。はじめから勿体ぶらず、いきなり感情が揺さぶられる衝撃。放心状態で次の短編へ。

    「任侠のジレンマ」
    正義感の塊ロー。彼のまっすぐな若い血は、正しい道へ進んでいるのか?悩む彼に告げるクワン。構図の逆転。もはや芸術か。

    「クワンのいちばん長い日」
    作者の全部収束させたわというドヤ顏がみえる。詰め込みすぎな事件を見事な構成力でまとめあげた。脱帽。行き着く先が全く想像外だった…

    「テミスの天秤」
    読者が予想するのは、案外簡単なものである。ただ、どこまで先見できるか?全てを知った先には、胸の痛みが収まらない。

    「借りた場所に」
    短編が進むごとに社会派の一面。特に香港警察の汚職濃度が増していく。誘拐犯対警察。コンゲームものとして、傑作に値する。さらにそれ以外の価値も…

    「借りた時間」
    冒険ミステリ。ほかの作品とはまた違った感覚で、堪能。こんな作風もできるのかぁと感嘆したのも束の間、ラストにおける破壊力。全体をとおした上での、この終わりに満点以外考えられない。

    完成度でいえば古今東西の名作と肩を並べる。今後、語り継がれる海外ミステリ。発売年に読めた事はツイッターに大感謝である。


  • 凄い本を読んでしまった。物語は香港警察の伝説的な刑事、天眼、名探偵と謳われるクワンの人生を追う6つの中編で構成される。読者はまず第一話で度肝を抜かれる。そして最後の第六話でまた驚愕し、人生の哀しさを思う。著者はあとがきで、ミクロ的には本格、マクロ的には社会派のミステリを書いたという。まさに両者が見事に融合している。さらに、著者は、今の香港の警察がかつてのヒーローのような存在からかけ離れるたものになっていると指摘し、市民のために戦う警察のイメージはいつか復活するのかと投げかける。残念ながら、その後の雨傘運動、昨年から続く逃亡犯条例への抗議運動の中で、警察は市民に敵対し、あまつさえ発砲までして見せた。2013年以降の物語が紡がれるのか、それはどのような形になるのか、陳浩基の新作を追い続けたい。

  • この本は「第6回ブクログ大賞海外小説部門受賞記念」としてプレゼント企画があり当選し頂戴したサイン本になりました。結論から言うとラストを読むと最初のページを読み返しと「永遠に読めるミステリー小説」になり、その連続性の中に勇気づけられるメッセージをもらえる一冊になりました。

    特に1章の終わりと4章の終わりの「この作品カッコよすぎる!」という感動はとにかく色々な人に伝えたくなりました。

    内容は題名の「13・67」が表している1967年から2013年の香港警察を描いた社会派本格ミステリーです。全480ページにも及ぶ6つの本格ミステリーの中に「あなたが守りたいのは警察の看板?市民の安全?...あなたはどうして、警察官になったのか?」という質問に対し「命は道具に過ぎず罪を憎み、悪を懲らしめ、市民の安全を守るのが警察だ。」と気持ちよく答えてくれる凄腕警察『名探偵』クワンのお話が時間を遡りながら展開されます。

    「巨大な力...があれば...抜け穴が開けられる。」「『警察官』という身分の前に、まず『人間』としての自分を知っている。この点において...見込みがある。」と力に支配されず無私と市民の味方クワンが、どうしてこのような発言をできるようになったのか経緯がわかるため嘘くさくなく「ヒーローは本当にいるんじゃないか」と楽しく読み進めることができました。

    著者の陳さんは「香港の子供たちが香港警察をヒーローだと思ってくれるのか?私にはわからない。」と著者あとがきに書かれていましたが「陳さんにわからないとは言わせないぞ」と決意しました。私の中のSFではない真のヒーロー本が誕生しました。

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著者プロフィール

陳浩基(ちん こうき、サイモン・チェン、Chan Ho Kei)
1975年生まれの作家。香港中文大学計算機科学系を卒業。Webサイトのデザインやゲームの企画、脚本の執筆、漫画の編集者などを務める。
2009年、「藍鬍子的密室(青髭公の密室)」が台湾推理作家協会賞を受賞。2011年、『世界を売った男』が台湾の出版社が主催する公募の長編推理小説賞・第2回島田荘司推理小説賞を受賞。2015年、『13・67』で第6回ブクログ大賞、台北国際ブックフェア賞(小説部門)、第1回香港文学季推薦賞をそれぞれ受賞。

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