ユニクロ潜入一年

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907246

作品紹介・あらすじ

ワンマン経営に疲弊する現場を克明に描く潜入ルポルタージュの傑作!サービス残業、人手不足、パワハラ、無理なシフト、出勤調整で人件費抑制――。「(批判する人は)うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」 そんな柳井正社長の言葉に応じ、ジャーナリストはユニクロの店舗への潜入取材を決意。妻と離婚し、再婚して、姓を妻のものに変え、面接に臨んだ――。「週刊文春」誌上で大反響を呼んだ「ユニクロ潜入ルポ」をもとに、一年にわたる潜入取材の全貌を書き下ろした。読む者をまさにユニクロ店舗のバックヤードへと誘うかのような現場感に溢れたルポルタージュである。気鋭のジャーナリストが強い意志をもち、取材に時間をかけ、原稿に推敲を重ねた読み応えのあるノンフィクション作品が誕生した。序 章 突きつけられた解雇通知第一章 柳井正社長からの〝招待状第二章 潜入取材のはじまり イオンモール幕張新都心店①(二〇一五年十月~十一月)第三章 現場からの悲鳴 イオンモール幕張新都心店②(二〇一五年十二月~二〇一六年五月)第四章 会社は誰のものか ららぽーと豊洲店(二〇一六年六月~八月)第五章 ユニクロ下請け工場に潜入した香港NGO第六章 カンボジア〝ブラック告発〟現地取材第七章 ビックロブルース ビックロ新宿東口店(二〇一六年十月~十二月)終 章 柳井正社長への〝潜入の勧め〟

感想・レビュー・書評

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  • ユニクロにアルバイトとして潜入。

    アルバイトでも、ユニクロの精神にどっぷりになることが、新鮮だった。

    部長会議の内容が張り出され、柳井さんの考えが周知される。それをipadで見るアルバイト。

    ユニクロが経済活動を進めることがゆるぎない価値観となっている。ユニクロで働く皆が一つの価値観に向かって、少しの無駄もなく全力を出し切る。そういう考え方。

    一塊の商店を、グローバル企業にしたのだから、並大抵のことではないけれど、徹底して商いをする、この姿勢だからこそ、成長できているのでしょう。

    会社や企業活動は、お金を稼ぐことが正解であるから、色々歪な部分ができる。
    仕事を成功させることが尊い価値観。

    色々なメンバーがいる中で、その苛烈な精神について行ける人はどれだけいるのだろう。

    やりがい搾取という手法があるというのが面白かった。
    長時間労働を強いる為に、仕事をすることで自己実現ができると説得する。
    これも、各企業が多かれ少なかれプロパガンダしている部分んはあると思う。

    ただ、アルバイトにやりがい搾取をしようとするユニクロの徹底ぶりは凄い。

    変動する人件費のコントロールはアパレルにおける利益体質への課題なのだろう。
    ユニクロが最近セルフレジに力を入れているのは必須なんだなと、しみじみ感じた。

    過酷な現場を描写する作者の表現が深刻な暗い感じでなく、時にユーモアを感じるのが、この本を読みやすくしていると思う

  • 著者は、前著『ユニクロ帝国の光と影』や週刊誌への記事でユニクロから名誉毀損で訴えられ(被告は文藝春秋社)、2年の裁判を経て勝訴を確定させた。そのことも含めてユニクロと柳井社長には敵意を抱いていることを隠さない。その著者が、わざわざ形式的に離婚をして名前を変えてまでしてアルバイトとしてユニクロ店舗に潜入した取材記が本書だ。
    著者はこれまでもAmazonやクロネコヤマトにも体験取材をしたことがあるので、潜入取材自体は経験済みであるが、今回は訴訟も含めて思い入れのあるユニクロへの潜入記である。なかなか勇ましくてわくわくする。

    きっかけはプレジデント誌に載った柳井社長の漫画家の弘兼憲史との対談。そこで、自社のことを「限りなくホワイトに近いグレー企業」と評価し、「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかぜひ体験してもらいたいですね」と書かれたことに始まる。また、人権NGOのSACOMによるユニクロ下請け企業の潜入取材も刺激になったという。

    最終的にイオンモール幕張新都心店、ららぽーと豊洲店、ビックロ新宿東口店の三店舗で働くことになる。最後のビックロ新宿はオペレーションがまずく、また周辺と比べて出している時給が少ないことで人員確保が難しく、そういった点で問題はありそうだが、幕張と豊洲は普通の職場のようにも見えた。もちろんサービス残業はまだ残っているが、そこまで組織的なものではなく、昔と比べると当然だが労働条件は改善されたというので、横田さんも指摘はするものの実際は案外と拍子抜けだったのかもしれない。

    ユニクロでは、毎週月曜に行われる部長会議での柳井社長の発言が<部長会議ニュース>という形で全店舗に発信されて休憩室に張り出される。横田さんも色んな意味で楽しみにしていたそうだが、そういうトップからのメッセージが直接届いているところは素晴らしい習慣だと思う。ユニクロのやり方に反発を覚える横田さんも「毎日のように店舗で働いていると、いつの間にか柳井社長の言葉を実践している自分に気づくことがある」というので、企業体の指針としては実際に有用なんだと思う。そして、それがユニクロの強さの一つとなっているのかもしれない。

    ユニクロにとっても、横田さんのような正常で適切な批判者は、有益になっているのではないかと思った。


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    『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4167842017

  • 著者がユニクロを取り上げるのは、これが二度目。前作「ユニクロ帝国の光と影」では名誉毀損だと訴えられるもユニクロ側の敗訴。にも拘らず、柳井社長は雑誌のインタビューで著者に向けて挑発発言をする。「悪口を言っている人間はうちの会社で働いてみればいい」。

    この発言に激怒した著者は、「柳井社長からの"招待状"」と解釈し、合法的に姓を変え(妻と離婚し再婚、そして妻の姓を名乗る)、弁護士にも相談し、虚偽のない履歴書を作成し、2015年10月から翌年末まで、幕張新都心・ららぽーと豊洲・新宿ビックロ各店で時給約千円・交通費ナシのバイトとして潜入勤務。

    そこで見えてきた超躍進企業は、柳井社長の朝令暮改はいうまでもなく、人件費を削らないと倒産することを煽り、それを鵜呑みにする社員。その傍らにはファーストリテイリングの好業績を報じる日経が置かれていると言うのに。また、殺到する年2回の感謝際の対応に大混乱する現場。刃折れ矢尽き果て次々と脱落していくスタッフ。慢性的な人員不足から「お願いです!!」と悲鳴のような出勤要請が店長からLINEで送られてくる日々。これらの描写には鬼気迫るものがあり、そして、著者の怒りはカンボジアの工場を取材するに至り、ついに沸点を超える…。

    読み進むにつれ、本書はブラック企業の実録告発という社会派ノンフィクションの域を遥かに超え、フリージャーナリスト横田増生が柳井教に毒された巨艦ユニクロ帝国にペンひとつで闘いを果敢に挑む魂の書となっていることに気づかされる。

    著者は最後にこう語る。
    疲弊感漂う販売現場を知るべきは柳井氏である。彼こそいっそのこと潜入してみてはどうか。それが、ユニクロにとっての「働き方改革」の第一歩になるかもしれないと。

    頭痛クラクラの迫真ルポおススメです。

  • はじめから終わりまで圧倒的な面白さ。読む前から予想した通り、ユニクロはワンマン経営で貧乏人を搾取してぼろ儲けし続けるブラック企業でした!という内容だったが、筆者と社長の遠距離バトルのような形で描かれているので、単なる事実の羅列に終わっておらず、オチもついていて素晴らしい。インタビューを拒絶していても、「部長会議ニュース」でちょくちょく出てくる柳井社長の存在感や、ラストの株主総会での直接対決も良かった。

    第7章ビックロ・ブルースはブラックユーモアに満ちていた。さんざん人件費をケチってバイトをこき使っておきながら「感謝祭では文化祭や体育祭のように取り組んでいただきたい。お客様にはディズニーランドに来たように受け止めてもらいたい」と語る総店長に、頭の中でではあるが、マスオさんがちゃんと「正気か?!」と怒りのツッコミを入れていて頼もしさ100倍であった。自分だったら虚無感に襲われて無表情で聴き流しそうだが、これがまともな感覚だと思う。

    この手の宗教じみた上っ面だけの言葉はユニクロだけでなく、ブラック体質の集団では見慣れた風景だ。夢の実現とか、経営者マインドを持てとかマルチの勧誘でもよく聞くフレーズでうさんくささが半端ない。そんな、側から見れば正気を疑う文言でも、洗脳されると普通になるから怖い。バイトの男子学生がミニ柳井正になってる場面は一種のホラーだった。

    「やりがい搾取」とは搾取どころか従業員に対する詐欺行為なのではなかろうか?なんでオレオレ詐欺は逮捕するのに、ブラック企業の経営者は放置なんだろうと思う。巡り巡って損するのは国なのに。ユニクロ社長の途方もなく膨れ上がった総資産額は社会的に見てもバランスを欠いているとしか思えない。何のためにそこまで「個人」が溜め込む必要があるのだ?さっぱり分からない。月に私設宇宙基地でも作るつもりならまだしもである。

    人の人生を犠牲にしても、環境を破壊しても、金さえ儲けていれば絶対に正しいかのように誉めそやされるこの風潮は一体いつまで続くのか。

    ファストファッションが東南アジア近辺の人たちを24時間こき使って成立している事実に改めて思いを致す。産業革命初期の炭鉱労働者は過去の亡霊ではないのだなと読みながら思った。

  • 海外工場は余計かな、外国の話は陳腐で興味ない。むしろ国内潜入をもっと詳しく欲しかったな。まあ全体のバランスというか、ユニクロの告発本なら万遍なく押さえたい気持ちはわかる。あのユニクロ独特の社員洗脳ノウハウにもっと斬り込んで欲しかった。

  • 働くこと自体は楽しい。読んでいてなんども感じたのはこのことだ。ただ、そこに無理なシフトやノルマが入ってくることで、突然仕事は敵になる。
    著者がユニクロでバイトをしながら潜入捜査をしているところよりも、海外の下請け会社への締め付けは興味深い。ああ、噂には聞いていたが、下請けを搾取するというのはこういうことかと分かる。
    どこの会社も似たようなところはあるのではないかとヒヤリとする。
    大学受験改革で揺れる昨今、学校教育も文部科学大臣が柳井社長で、校長や委員会は店長に当たるだろうと思いながら読んだ。

  • 偽装離婚までしてのユニクロ潜入。まさか柳井社長も予想していなかったでしょう。
    実際に働いている人達に寄り添いながら、会社組織としての欺瞞を切る。ルポタージュとして読み応えが有るのはもちろん、ある意味エンタ-テイメント性まで備えています。
    会社にどっぷり漬かると、一般的におかしい事も当然に思えてきていいように使われてしまうのは何処の会社でも同じです。自分のいる会社がどんな事になっているのかは中からは分からないですから。
    ワンマン社長の気まぐれで振った旗の方向へ、躊躇せずダッシュしないと認められない会社、それがユニクロだという事が分かりました。創業祭、感謝祭という一大イベントも集金の為に社員の体力精神力を搾取するだけで、社員の時給や給料に反映されるわけでは無い。この大変さを歓びに換えろという言葉だけで発奮を促す。いやー、嫌な社長だ。これが日本を代表する企業のトップとは・・・。
    その中で、今までは中国が主だった製造が、人件費が安い国にどんどん仕事が流れ、劣悪な労働環境で搾取されている人々がいます。安さを追い求める事によって、より安い人件費を求めて「底辺への競争」が加速し、結果労働環境や自然環境、福祉などが最低限度へと突き進んで行きます。
    働いている人達の幸せを望まない企業はいずれ立ち行かなくなる時が来ると思います。特に昨今の働き方改革の流れの中では、体裁を整えるだけでは誤魔化されなくなるはずです。
    最後に著者が提唱している、社長がシークレットでバイトとして店舗に潜入して、実際の現場を体験するという案いいですね。ウィットの効いた嫌味のように見えて、とても建設的で実際的な意見だと思いました。

  • 一時期(多分この本が出版された頃)、ブラック企業という言葉が流行語のように巷にあふれていた。
    そんな頃『ブラック』であると糾弾されたユニクロに潜入取材をし書かれたノンフィクション。

    著者は社長のワンマン経営がブラックの原因であるとみているようだが、それだけなのだろうか。
    確かに極端な権力集中で、各店舗の店長どころか本部の役員ですら意見を言えないような雰囲気であるらしいことはわかる。
    そして、往々にしてそういう職場では、トップの逆鱗に触れないように事なかれ主義と、目に見える部分の体裁だけを取り繕うことが起こりがちである。

    実際、著者が経験した中でも、タックスフリー用のレジの案内を英語で書いたらどうだという案は却下され、日本語の「このレジはタックスフリー用ではありません」という案内が、普通のレジの脇に置かれただけということがあった。
    良い意見はどんどん採用しようという風潮がない職場は、世間の変化に対応しきれないのではないかな。

    国外の工場でのブラック案件についても、他国のアパレル企業が対応を発表している中で、ユニクロの対応はいかにも他人事だ。
    自社の社員やアルバイトに対して過剰要求(日常化する長時間労働や、サービス残業等)をしている企業が、自社工場ではない外国の工場の社員の労働条件なんて、当然他人事なのだろうけれど。

    例えば、忙しい時間帯や繁忙期などの時給を上げる、というようなことすらしないで、「やりがい」「達成感」をエサにどんどんシフトを入れていく。
    こういうのを「やりがい搾取」というのだそうだ。
    アルバイトの学生が欲しいのは、バイトのやりがいではなくお金だろう。
    しかし強引なシフトを強要され、学校に行く時間すらなくなったというのは、学生に対して企業の責任ってないの?

    著者が最初に潜入したのが「イオンモール幕張新都心店」ということで、娘が別の企業で働いていたこともあり、余計に心に迫るものがあった。
    当時、娘もバイト学生のやりくりがつかず、長時間勤務で休日出勤で、と、働きづめで、会うたび「つらい」と泣いていたことが思い出される。(違う業種なのに!)

    Amazonのレヴューを読むと、「こんなの普通じゃないの?」みたいな意見もあって、それほどにブラック業態が日常化していたんだなと思う。
    今はどうなんだろう?

  • 単行本のときに立ち読みで潜入の場面のみを読んだ。文庫本では、裁判、香港、カンボジア、株式総会についても記載されていた。フィールドワークの参考本として、潜入調査の部分だけを読むのもいいであろう。

  • 202002¥

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著者プロフィール

横田増生

一九六五年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。九三年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。九九年よりフリーランスとして活躍。二〇二〇年、『潜入ルポ amazon帝国』で第一九回新潮ドキュメント賞を受賞。著書に『ユニクロ潜入一年』『「トランプ信者」潜入一年』など。

「2022年 『評伝 ナンシー関』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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