【第157回 芥川賞受賞作】影裏

著者 :
  • 文藝春秋
2.70
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本棚登録 : 948
レビュー : 154
  • Amazon.co.jp ・本 (96ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907284

作品紹介・あらすじ

2019年10月めざましテレビで紹介され話題!
第157回芥川賞受賞作。大きな崩壊を前に、目に映るものは何か。北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の地で、ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、「あの日」以後、触れることになるのだが……。樹々と川の彩りの中に、崩壊の予兆と人知れぬ思いを繊細に描き出す。〈著者略歴〉1978年北海道生まれ。西南学院大学卒業後、福岡市で塾講師を務める。現在、岩手県盛岡市在住。本作で第122回文學界新人賞受賞しデビュー。

感想・レビュー・書評

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  • 東北生まれ、東京暮らしの一個人としての感想を書きたい。これは二つの大きな虚無感の波が、ぶつかって大きな渦になり、個人を飲み込んだ物語だと思った。

    ひとつには、都会人的な感性としてある、崩壊への憧れ。谷崎潤一郎が関東大震災に対して抱いていた希望や、ポストモダン的都市論の中で時折目にする、東京はいちど崩壊すべきという論調、またそれこそ当時の石原都知事が言った天罰という言葉......もっと言えばゴジラやナウシカ、その他世界系のファンタジーがその観点から考察されることもあるように、飽和した都会にあって、それを不可抗力的な巨大な力で破壊してほしいという隠れた願望は、東京においては100年前から連綿と続いているようだ。この物語の日浅はこの流れを汲む人間であろう。小説中にも、日浅は東北人だが東京での暮らしのせいか、東北の感性は持っていなかったと記述がある。もちろん今ではタブーとして多くの人が認識している考えだと思うし、当事者意識に照らして許せないと個人的にも思う。

    もうひとつは、東日本大地震が提示した、人間は結局一人で生きて死ぬんだという事実。もちろん一人一人の生活を助けるために社会は色々な援助の機構を持つ。震災時にあっても「絆」が声高に言われたように皆んな助け合った。私だって人の家の雪を掻いたし、自衛隊の方から水を供給してもらった。ただそれでもやはり、自分の命に責任を持つのは、あくまで自分をおいて他にないという事実はあまりに大きかった。「絆」はある種の逆説として、叫ばれる必要性があったとも言える。床一面の割れた皿を片付けること、水が無ければ汲みに行くこと、自分の家が危ないと判断すれば親戚の家で寝ること、全て自分で判断し、自分で行動しなければいけなかった。他の誰かがその判断をしてくれるわけではなかった。これは決して絶望ではなかったが、厳然たる事実として目の前に立ち現われた孤独ではあった。

    この二つの波、つまり崩壊への憧憬と、突如現れた孤独が親潮と黒潮のようにぶつかってしまった時、日浅は社会から姿を消してしまったのだろうと解釈した。

  • 映画化されるのを知って読んでみた、芥川賞受賞作とのことで期待していたががっかりだった。やたらと回りくどい表現を使ったり、場面展開が唐突だったり新しい作風に見せかけようとしているようだが、中身はペラペラだった、よくこんな小説を芥川賞に選考したもんだどうかしているよ。これで映画を見る気はさらさらなくしてしまった。

  • 自然描写の評判を聞いて読んでみました。
    うっそりとした、緑も影も濃い森。
    その中を流れる清流の白いきらめき。
    著者が描く東北の自然は確かに美しかったのですが、それ以上に気がかりを残す幕切れの印象が強かったです。

    東日本大震災で行方知れずになった友人の手がかりを求め、実家を訪ねた主人公に、友人の父親は「息子とは縁を切った、あれを捜すなど無益だ」と告げます。
    なぜそこまで…と戸惑っているところに、「息子なら死んではいませんよ」という父親の真意の読めない一言が加わり、もやもやとしたものがのどの奥にあるような感覚のまま読了。

    登場人物たちの乗っている車の種類、煙草やお酒の銘柄などは具体的な名前で描かれている一方で、ほのめかされたことがほのめかされたまま淡々と進んでいくぼんやりとした部分もあり。
    そのギャップがもやもや感をさらに膨らませているのかも…と、あとから考えてみたりもしたのでした。

  • 電光影裏斬春風。これに尽きるのかな。
    よくわからないままに読み進めるうちに、いきなり震災のことが出てくる。そして世界は反転する。
    感受性も表現も、使用される言葉も、読後に著者の年齢を見て、その老成さに驚いた。

    一切は空。の境地に憧れながらも、僕はまだそれを欲しくはない。

    和哉のエピソードには違和感しか感じなかったのだけれど、あれは必要だったのかな?

  • 雑誌(『文學界』2017年5月号)で読んだ。
    久しぶりに難解な作品が来たか、という印象を受けたが、それはある種の文体から受けた印象で、作品の内容自体は実際読み終えてみると(これは文學界新人賞選考委員の松浦理英子氏も言っていたが)例えば何か謎が残るとか、わざと矛盾点があるとかそういったことはない非常なシンプルな構成になっている。ただやはり、筆力のある文体と言って良いのだろうが、ある種「凝りすぎている」印象が強かった。最近の若手で同様に筆力のある作家の高橋弘希氏などと比べると、力が入りすぎている感じがした。他の人はどうなのかわからないし、最近小説自体読むのが苦痛な状態にある自分の問題でもあるのだろうが、文芸誌で30p、単行本で100p弱の作品だが、読むのに非常に疲れた。
    ラストに関しては、うまいところに収めたと思う。
    また、震災が絡む、セクシャルマイノリティが絡む、という作品ということだけ聞いていたので、どんなどぎついのが来るのかと思っていたが、そこを収めた筆致はやはり評価されれるべきだろう。
    ただ、津波のシーンや震災直後のシーンの描写などは読むのが結構辛かった。
    しかし、芥川賞か…。いや、不満はさほどないんだけど、だったら高橋弘希にもやってくれよ、と思ってしまうのであった。

  • 芥川賞受賞の本作、なんとも不思議な小説だった。リアルなんだか幻想的なんだか、美しさと暗さが共存し、時間軸もゆらゆらしている。著者はまた、意図的に読み方が難しい漢字を用いて読み仮名をふらず、読者に想像させているようだ。
    あらすじは、本社から盛岡市に転勤になった30代前半の独身会社員が主人公で、転勤先で同僚となった男性との交流。共通の趣味である釣りに一緒に出掛けるが、その同僚が転職してから、どうも行動が怪しい。本当のところは…、という内容。
    この本は賛否がはっきりと分かれるようだ。謎の複線の回収もなく消化不良になり、何がテーマなのかイマイチわからなかった。

  • よくわからなかった。
    なんで予約したのかもよく覚えていないです。
    賞を獲ったのはわかってるんですけどね。
    書評か何かで面白そう、と思ったんだろうなぁ…
    読み始めから難しい漢字が多い。
    不勉強だと言われればそうなんでしょうけど、
    辞書引きながら読めばいいんでしょうけど
    詰まりながら飛ばしながら読み進めました。
    結局どういう話なのかはよくわからなかったです。

  • 小説、引いては本の良いところとは人に想像の隙間を与えることだと私は思う。
    ゆえに、文章ですべてを語ってしまい空想させてくれないと息苦しさを感じる作品がある。

    この作品、その隙間が感じられる。人によっては、隙間ばかりに感じて物足りなく感じるほどに。

    主人公の謎。
    友人である日浅の謎。
    日浅の父の謎。
    人にまつわる謎は多い。

    一方、自然には謎が無い。
    自然にまつわる描写は、事実以外の何物でない。

    この謎を、どのように埋めるか自由ではない。
    ヒントはいくつもちりばめられているから。
    この隙間に、私は楽しみを見出す。

  • 一人称が「わたし」で、前置きもなしにゲイ設定は流石に主人公の性別で混乱する。

    行間を読めといえばそれまでだが、やや説明がしきれていない感じがあって、「その夜」っていつの夜?のような箇所が多かった。

    LGBTについて細かい説明もなしに出てくるので、みんなそれに混乱する。

    一つ感じたのは、私たちはLGBTが無いという前提で読んでおり、固定観念のもとに読書しているのだなと感じた。

    当たり前に主人公は男だと思っていたが、そういえばLGBTの描写以前に、男であるという描写はなかった。

  • 第157回芥川賞受賞。岩手の川での釣り、仕事の傍ら、シンプルないい川に通う。会社の釣り友だち、離職してセールス業、被災で行方不明、父親の語り。

    被災したのかどうかもわからないという状況がある、ということを知りました。

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