くちなし

著者 :
  • 文藝春秋
3.41
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本棚登録 : 629
レビュー : 116
  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907390

感想・レビュー・書評

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  • 彩瀬まるさん、初読。
    adajiette さんのレビューを読んで、読んでみようと思った。
    ファンタジーというよりも生々しく、SFというほどサイエンスではない、幻想文学という感じだった。

    七編の物語は、さまざまなかたちをした執着に囚われてしまう女たちの物語。
    あるいは、囚われるのが普通だったり美徳だったりする世界で、そうしない、できない女たちの物語。

    この中では普通すぎて(?)異質な『茄子とゴーヤ』が一番好き。茄子の紫、ゴーヤの緑、みょうがの赤紫の彩りが涼しげで、読後にも爽やかさを残して良かった。

    明らかにヒトではない生き物の世界の『山の同窓会』も良かった。
    産卵するたびに命を削るもの、卵を育てることに専念するもの、戦う生き物に変化するもの、そして一番姿形を変えず、変わらないからこそ長く生きて記録を残すもの。
    異生物の、種としてのあり方が語られているのに、クラスとか同窓会とかという私たちの世界の断片が放り込まれている違和感が、面白かった。

  • 彩瀬まるさんの作品はいつも、視覚・味覚・嗅覚・触覚を刺激する。本作は特にそうで、妖しくも美しい世界観が存分に堪能できた。
    表題作の、好きな相手の「腕」をもらい、ペットのように慈しみかわいがるという展開にぎょっとしたけど、別な生き物のような腕がだんだんと愛おしく思えてくる。このように、今回は動物などの生態に着想を得た、ちょっとグロテスクだけど幻想的な短編集。好みは分かれそうだが…かえって人の心の喜怒哀楽を際立たせているように思えた。設定が非現実的だからこそ、男女の心理描写をリアルに感じてしまう。不気味さ、妙ななまめかしさに初めは戸惑ったものの、いつの間にか彩瀬ワールドの虜になっている。
    高校生直木賞受賞、おめでとうございます。高校生が選んだということに驚いて選評を読んだが、この作品を推した高校生の慧眼、恐れ入ります。彩瀬さんファンとして・高校生の子を持つ母親として、胸熱でした。

  • 7編の短編集。なんともまあ、独特の不思議な世界。腕が取れたり、虫に体が乗っ取られていたり、化け物になったり。しかし、こういった世界をしっかりと綺麗に書き上げるから大したもの。最初読み始めて、腕が取れて…と予想外の展開に驚いたけれど、物語の世界へと引き込まれていった。愛がテーマかな。圧倒的な愛とか。愛・人間の本質とか。中でも印象に残ったのは「花虫」。読んでいると幽玄的な花が見えているように感じ、愛の苦しみもよく書けていた。「けだものたち」もよくこういった設定で書けるなあと驚き、こちらも想像が目に浮かび、印象的。

  • まるさんワールドの短編集。

    夢の中のような、異次元のような。
    架空のことなのに、そちらが真実のような。
    不思議な世界の隅っこに漂わせてもらった感じ。

    とにかく文章が美しく、
    人の恐ろしい部分も、汚い部分も
    全部がほんのりきれいなものに見えてしまう。
    それは錯覚なのだろうか。
    それとも…。

    知りたい、もっと知りたい。
    私の知りたいに、今一番近づけることの出来る作家さん。

    かなり現実とかけ離れたお話もあり、
    楽しめるかどうかは振り幅が大きいような気がします。
    こんどはどこへ?
    また楽しみになる一冊です。

  • 今まで読んだ彩瀬さんの本の中でも群を抜いて美しい。今年出会った作品の中でも一番好きだと言える、妖しさと美しさを兼ね備えている短編集。どれも幻想的で、一見感情移入できないようなありえない設定ばかりのようにも思えるけれど、読み進めていくうちに主人公の女性たちの感情が自分に流れ込んでくるような心地。人間の汚い塊をこの人はなんて綺麗に書き上げるんだろう、と何度ため息が出たことか。愛は美しいだけじゃない。おどろおどろしくもあり、醜くもあり、ときには人を怪物にしてしまうこともある。それでもそんな恐ろしい感情を繊細に綴っているのが『くちなし』のすごいところだと思う。
    『くちなし』や『薄布』は読んでいて、設定がどこか川端康成の『片腕』や『眠れる美女』に似ているなぁと思った。文章に現れる危うさを孕んだ冷たい愛情も、どこか似ていて好きだ。けれど七篇の中でもっともお気に入りなのは『愛のスカート』だった。七篇の中でももっともリアルで現実世界に近い。それぞれの登場人物の実ることのない、一方通行の愛情なのに、最後は読者の心すらも救ってくれるトキワのセリフが心にいつまでも残っている。

  • 「愛なんて言葉がなければよかった。そうしたら、きっと許してあげられたのに」
    ぽつりと呟く妻の寂しそうな横顔がいつまでも心に残る。
    例え心は離れても愛しい人の体の一部を保有したがる女達。
    そして愛は時に虫となり、また愛するが故に獣となり愛しい人を食す。
    彩瀬さんの愛は深く濃厚で、最初から最後まで圧倒された。
    自分の愛を貫く女達全てが愛しくて仕方がない短編集だった。

    この作品を読んでいて、昔読んだ新井素子さんの『ひとめあなたに…』を思い出した。
    愛する夫が自分を捨て愛人の元へ行こうとする。妻は夫の全てを自分のものにしようと夫を殺害し体を切り刻み、シチューにして食べようと料理をする。ユーミンを口ずさみながら…。
    愛する男を食す女は昔からいた。
    これぞ究極の「愛」なのかもしれない。

  • なんだろう、これはというのが正直な印象だった。不倫相手と別れるとき、相手の腕を割いてもらう、とか。運命の人に出会ったときの幸福感は、頭にとりついた寄生虫の作用で、とか。蛇に変身して、愛する男を食べてしまう女が普通にいる世界、とか。ファンタジーとかおとぎ話のようでいて、そうとれない。そこで描かれているのが、不思議な一要素をのぞくと、今現在自分が身を置いている世界と同じ感覚で描かれているからだ。そして、ちょっと違うところがあるからこそ、今、自分が感じているなにかが鮮明に浮かび上がってくる、というかなぁ。

    面白い、と一言では言い切れないんだけど、引き込まれた。夢中で読みふけるというより、二週間ほどかけて、少しずつ読み進めた。すこしの間、本を置いているんだけど、なんとなく気になり続けたような。

     はじめて読む作家さん。なんで、この本を読もうと思ったんだっけ。たぶん、どこかのレビューで知ったのだろうけど、そのきっかけすら、うろ覚え。そういう本に、不思議なくらい強い印象を持ったのだから、やっぱり本というのは縁なんだろうな、と思う。

  • 幻想的な小説とリアルな小説が入っている短編集で、どちらも良かったけれど「愛のスカート」と「茄子とゴーヤ」のリアル女性の気持ちがとても良かった気がする。幻想的な小説は最近よく読むし、自分も書くのでおなかいっぱいなところあったかも。「愛のスカート」の気持ちのベクトルがあっち向いてこっちに向かないみたいのとかめっちゃよくわかった。ほんまに好きなひとはこっちには来ないんだよね。そういうの痛くて、哀しい。「茄子とゴーヤ」の茄子色に染めてくださいって理容室で頼むのも、好きだった。職人気質な感じも、潔さも全部気持ちいいなと思う小説だった。

  • だいぶ前に session22 で取り上げていた作品。

    不倫相手との別れ際に、彼の腕をもらう女。
    自分にしか見えない花を咲かせる運命の相手。
    片思いのデザイナーの変人男を、支える女。
    好きな相手を食べてしまう変化する生き物たち。
    難民の子をおもちゃにする夫人。
    不倫相手と夫との事故死から立ち直りつつある未亡人。
    自分のもつ遺伝子に忠実に、社会のために役割を果たそうとする女 ......

    どれも孤独で、でもその寂しさと共生する強さを持つ女たち。 その地味で目立たない深い愛にはぐっとくる。

    くるけど ......こんなのわからない男がほとんどだよな
    もうわからない連中は絶滅すればいいのにと思ったりもして(笑)

    綾瀬まる、読んでる人を見つけたら、唇の端でニンマリしてしまいそう。

  • 初読み作家。短編集。全7編。
    第158回(2017年下半期)直木賞候補作品。
    不思議な世界観を織り交ぜ、愛を描く。ファンタジーとかSF的な要素も含め、幻想的な感じに仕上がっている。美しいことだけではなく、醜くもある感情を繊細に綴っていて、心の奥に問いかけてくる。現実的な設定ではないが、読み易かった。

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著者プロフィール

1986年生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞読者賞」を受賞しデビュー。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『神様のケーキを頬ばるまで』『桜の下で待っている』『朝が来るまでそばにいる』『森があふれる』等がある。自身が一人旅の途中で被災した東日本大震災時の混乱を描いたノンフィクション『暗い夜、星を数えて‐‐3・11被災鉄道からの脱出‐‐』を2012年に刊行。人を鋭く見つめながらも、繊細で美しい筆致で人気を博し、今最も注目されている作家のひとり。

「2021年 『不在』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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