熱帯

著者 :
  • 文藝春秋
3.80
  • (21)
  • (36)
  • (23)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 858
レビュー : 45
  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907574

作品紹介・あらすじ

世紀の奇書『熱帯』に惹かれ、秘密を解き明かさんと集まった“学団”によるソウダイなる追跡劇。世界の中心に横たわる謎、その正体は――? 読み出したら止まらない、ロマン溢れる冒険譚。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 文庫になるのを待ちきれず、単行本を手に入れました。
    森見さん、よくぞこんな遠い処まで私を連れてきてくださいました。読み終えたあと暫く現実に戻ることが出来ませんでした。
    内容に触れたくても触れられない。言葉にするとこの幻想的で摩訶不思議な世界がわたしの中から消えてなくなってしまいそう。そんな充足感と不安感がこんがらがったままの状態です。
    もうね、気になる人は読んでみて!なんて、無責任な感想しか書けません。
    でも、これだけは言っておきますね。
    滅多に出逢うことの出来ない物語。
    物語の重力に引き込まれ戻ってきた世界は、もしかしたら似て非なる世界かもしれませんよ……と。

    『この世界のどこかに穴が開いていて、その向こうには不思議な世界が広がっているという感覚。つねに「神隠し」が我が身に迫っているという感覚。それは不気味なものであり、なおかつ甘美なものだった。』
    登場人物の1人である佐山の言葉なのですが、きっと常々、森見さんも感じておられることなのでしょう。この作品から此方側へと、今まで以上にその感覚が色濃く伝わってきました。

    「物語ることによって救われる」のって、人間だけじゃなくて、きっと何十年、何百年、何千年……語り継がれていく物語自体もなんだろうなと思いました。

  • 久しぶりに森見登美彦氏の新刊をゲット、いそいそ読破。あれ、エッセイだったっけ、と思うような第一章からお馴染みの乙女大活躍な次章へ、とここまではいかにも森見節だったのだが、そのあとの展開が新鮮で本当に面白く、後半は読み止められず一気読みしてしまった。
    誰も最後まで読んだ者がいないという謎の小説『熱帯』をめぐるこの物語は、『千一夜物語』をモチーフに、語られる人が新たな物語を語り出す入れ子構造で綴られていく。皆が追う小説と同じタイトルの本書が入れ子の一番外側の箱となるわけだが、語られることで次々と開いていく物語の門、入れ子になったそれらがすべて大団円を迎えきちんと閉じられたかというと――「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」と言われる作中の小説『熱帯』同様、この『熱帯』も読み終えることはできていない、と言えるかもしれない。
    本は、物語は、語られることで生まれる。読まれていない本は砂浜に転がる貝のようにただそこにあって、けれど、一度本の扉を開き、その物語を読み始めれば、そこには卒然と今まで知らなかった世界が立ち上がり、その世界に生きる人々が息づいて動き始める。『千一夜物語』のシャハラザードは途切れることなく物語を語ることで命をつなぐが、物語の人物たちは、語られることで生きる。物語を生み出す語り手――創造の魔術を操る魔王の筆先ひとつで、世界は生まれ、あるいは滅んでいく。そんな「読むこと」「語ること」の力を描いたこの作品に、読む人であり語る人である作者の、読むこと、語ることへの畏れにも似た眼差しを感じた。
    一人の読み手、次々と物語の門を開いていく聞き手である私は、生まれ続ける物語、語られることを待ち望む物語の声にどう応えればよいのだろう。差し出された『熱帯』という入れ子の蓋、物語の門を語り手となって閉じることはできないが、「自分が夢中になって読んでいたものが現実には存在せず、ただ紙に文字を印刷して束ねただけのものだという事実」に驚嘆する心を忘れず、その魔術の不思議に打たれながら新たな物語を真摯に読んでいくしかない。本当に没入して本を読んだ時の、彼我の世界のいずれが現実か一瞬分からなくなるような、現実と非現実の境界を曖昧にさせる物語の力というもの。本書を読み終えた時にも感じたそんな体験の得難さを、これからも大事に味わっていきたい。
    最後に、読みやめられずお風呂に本書を持ち込もうとしてカバーを外した時、思わず「おおう」と声が出たので、単行本でお持ちの方はぜひカバー下の装丁も見てみてほしい。

  • 〈森見登美彦〉のエッセイ風に始まりながら、謎めいた本をめぐるフィクションの世界へともぐりこんでいく。
    不可思議で、謎めいていて、『熱帯』世界にたどりつくまでの前半が、とくにおもしろい。
    誰も最後まで読んだこののない、佐山尚一の『熱帯』の姿を追い求める、〈学団〉のやりとりがわくわくする。
    入れ子に次ぐ入れ子の構造は、かなり複雑だけれど、難解ではない。
    それぞれがからみあい、紡ぎ出す世界は、独特だった。

  • ――おまえはどこへ戻ってきたのだ?

    最後のほうに出てくるこの問いかけにぞわっとしました。
    熱帯にまつわる物語を追いかけるうちに、読者としての私もまた熱帯の世界に取り込まれていく感覚がすごかったです。


    「千一夜物語」を始め、色々な名作が作中で登場しますが、個人的に頭をよぎったのは荻原規子さんの「これは王国のかぎ」と、ヨースタイン・ゴルデルの「カードミステリー」でした。どちらも中高校生時代に夢中になって読んだ本で、入れ子式物語にハマるのは昔からなんだなぁと、妙に納得しました。

  • いやぁ。難解、難解。この本こそ、沈黙読書会に持っていってみんなでわいわい語り合いたい。

  • 入子状の物語についての物語、お話についてのお話、ひいては現実についての壮大な思索が果て無き迷宮になっていく、目くるめくような面白さを堪能しました。これまでの登場人物のすっとぼけた弁舌や言動の滑稽さを控えめにしてとにかくお話で魅せる小説にしたかったんだろうなあと推察します。前半と後半で大きく変わるので少し戸惑いましたがそれもまた仕掛けのうちなのでどう行き着くのかと、まんまと作者の術中にはまりページをめくる手が止まりませんでしたよ。前半で広げた風呂敷をどうたたもうかと試行錯誤しながら手探りで進んでたんじゃなかろうかと思ったのは確かですが、そう思わせるくらい突飛な飛躍をしながらもいつもの魅力的な京都がシームレスにつながっているので、これまた侮れません。ここ最近の森見さんの中じゃ一番面白かったです。

  • 森見作品は読むのが初めて。
    書評で奇想天外で引き込まれるという言葉に惹かれたら、
    本当に魔術のような物語で一日で読み終えた。
    作者自身と本の中の本「熱帯」の作者の物語、それに「千夜一夜物語」の延々と続くらしい物語…
    「入れ子構造」という言葉も初めて聞いたけれど、お話のマトリョーシカ状態にどんどんはまっていった。
    単純にのめり込んだ前半と比べると、後半は壮大でSFチックでもあり話を自分で整理しながらで読むスピードは落ちた。

    でも、想像力ってすごい力だ!
    文字が書かれた紙の集合体なのに、頭の中で妄想の世界が広がっていく。
    これこそ読書の醍醐味だ。

    京都へ行くと言った白石さんはどこへ行ったのだろうか?

  • うーん、評価が難しいなぁ。
    池内氏が熱帯の謎を解くために京都に行ってしばらくは読む手が止まらなかったのだけど、島が出てきた辺りからどー捉えて良いのやらで戸惑うばかり。
    でも、森見さんの作品ってことでOKなのかも。
    でも、やっぱりよくわからん。

  • 物語を読み進めるうちに、まさにこの主人公のような感覚になってくる不思議な本。一気に読んでしまった。

  • 「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」、あるいは「夜行」といった作品に通じる空気を纏った最新作。
    いわゆるアラビアンナイト、「千一夜物語」を重要なモチーフにして、物語の中に物語が、語り手の向こうにまた語り手が…、という構造に幻想的な描写が載せられている。
    読んでいる途中、私はミヒャエル・エンデの「はてしない物語」も想起したが、そんな現実世界とファンタジーの、さらには時空をもつなぐ連環性も備えている。

    誰も結末まで読んだことがない本、というツカミは非常に面白いし、序盤はその謎かけのパワーでグイグイと引っ張っていってくれるのだが、半ば頃から「この物語はどこに着地するんだろう…」という漠然とした不安感を抱かせる弛みが生じ、少し気を削がれてしまった。
    総体的に、張られた伏線がすべて回収されてそれこそ大団円、大きなカタルシスをもたらすような作品ではなく、なんとなく"雰囲気で"包まれ、押し通されているような印象を受ける。
    パラレルワールドにしてしまうのも、あるいは"逃げ"ではないか、と思われなくもない。
    著者の文章が性に合う向きなら興味を持って読み進められるだろうが。
    同じアラビアンナイトを下敷きにした小説としては、古川日出男氏の「アラビアの夜の種族」が挙げられるが、比類なき傑作と言って差し支えないあちらの完成度には残念ながら及ばない。

    また、吉田神社の節分祭を始め、どこかで読んだような構成要素がいくつか出てくるが、森見作品とその読者にとっては必ずしもそれがマイナスにならず、却って味わいを増している感はあるし、京都で大学生活を送った我が身には懐かしくもある、相変わらず。

全45件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

森見登美彦(もりみ・とみひこ)
1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。
2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2006年に『夜は短し歩けよ乙女』で本屋大賞2位、山本周五郎賞などを受賞し注目を集める。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で2010年日本SF大賞、2014年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、2017年『夜行』で第7回広島本大賞をそれぞれ受賞。
2010年に『四畳半神話大系』がTVアニメ化、2018年8月に『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメ化された。
『きつねのはなし』『新釈 走れメロス 他四篇』など、京都を舞台にした作品が多い。2018年11月に『熱帯』を刊行し、第160回直木賞にノミネートされた。

熱帯のその他の作品

熱帯 (文春e-book) Kindle版 熱帯 (文春e-book) 森見登美彦

森見登美彦の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

熱帯を本棚に登録しているひと

ツイートする