熱帯

著者 :
  • 文藝春秋
3.53
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本棚登録 : 2422
レビュー : 308
  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907574

作品紹介・あらすじ

世紀の奇書『熱帯』に惹かれ、秘密を解き明かさんと集まった“学団”によるソウダイなる追跡劇。世界の中心に横たわる謎、その正体は――? 読み出したら止まらない、ロマン溢れる冒険譚。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫になるのを待ちきれず、単行本を手に入れました。
    森見さん、よくぞこんな遠い処まで私を連れてきてくださいました。読み終えたあと暫く現実に戻ることが出来ませんでした。
    内容に触れたくても触れられない。言葉にするとこの幻想的で摩訶不思議な世界がわたしの中から消えてなくなってしまいそう。そんな充足感と不安感がこんがらがったままの状態です。
    もうね、気になる人は読んでみて!なんて、無責任な感想しか書けません。
    でも、これだけは言っておきますね。
    滅多に出逢うことの出来ない物語。
    物語の重力に引き込まれ戻ってきた世界は、もしかしたら似て非なる世界かもしれませんよ……と。

    『この世界のどこかに穴が開いていて、その向こうには不思議な世界が広がっているという感覚。つねに「神隠し」が我が身に迫っているという感覚。それは不気味なものであり、なおかつ甘美なものだった。』
    登場人物の1人である佐山の言葉なのですが、きっと常々、森見さんも感じておられることなのでしょう。この作品から此方側へと、今まで以上にその感覚が色濃く伝わってきました。

    「物語ることによって救われる」のって、人間だけじゃなくて、きっと何十年、何百年、何千年……語り継がれていく物語自体もなんだろうなと思いました。

  • デビュー作『太陽の塔』以来の森見作品。
    めくるめく世界を堪能させていただきました。

    ページをめくる毎に深く深く潜っていく感覚。
    謎が謎を呼び、誰かの語りが次の語りを呼ぶ。

    創作作業というのは潜水作業と似ている、と書いてあったのはどの本だったのか。

    あの世界でみた二両編成の電車にはきっと、長い長い失恋を終えた“彼”が乗っているんだろうと思った。

  • ひょっとして…という予感は、途中からありました。第四章の〈僕〉の夢に龍の根付が出てきたところで、予感は確信に変わりました。なんてこと! まさか、こんなカタチであのひとが主人公の小説が読めるなんてーー

    『熱帯』は2018年度直木賞候補になった小説です。きっと文学的に難しく語ることもできる作品なんだと思います。物語の入れ子構造は『千一夜物語』と同じだし、「本についての本」というコンセプトは『はてしない物語』に似ています。読みごこちは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』に近い気もするし、閉じた円環構造は『フィネガンズ・ウェイク』や『ドグラ・マグラ』のようです。

    でも、そんなことはどうでもいいのです。
    私にとって『熱帯』は純粋なキャラ萌え小説でした。

    森見作品の萌えキャラといえば、黒髪の乙女やアオヤマくんを挙げる人が多いでしょう。樋口さんや芽野と芹名も意外といい線いってるかも。でも、私にはひそかに愛する別のキャラがいます。初期の短編に一度出てきたきりの、名前もわからない青年。たくさんの奇妙な物語を語って人々を魅了しながら、本当の自分については語ることなく姿を消してしまった〈先輩〉ーー

    幻想小説の謎に答えなどありませんが、私には『果実の中の龍』(@きつねのはなし)の〈先輩〉こそ佐山尚一だと思えてならないのです。『熱帯』は、物語を創ることに取り憑かれた青年(先輩=佐山=森見)が、「物語とは何か」「創造するとはどういうことか」について、初めて本気で向き合った物語じゃないでしょうか。虚構の城に閉じこもることで自分を守ってきた男が、プロのクリエイターとして初めて、殻を打ち破って内面を晒け出した物語だと思うのです。彼らしく、複雑怪奇なフィクションの形をとりながら。

    だとすれば、『熱帯』は〈僕〉の成長物語とみることもできるでしょう。
    「僕はつまらない、空っぽの男だ。語られた話以外、いったい、僕そのものに何の価値があるんだろう」
    そう自嘲した物憂げな青年が、紆余曲折を経て、海に向かって両腕を広げ、
    「〈創造の魔術〉とは思いだすことなんだ」
    と過去を肯定できるようになるまで、生きる力を取り戻すまでの、長い放浪の物語だったのかもしれません。
    生き延びるために語り続ける、シャハラザードの末裔の物語ーー

    森見先生は「そんな風に書いたつもりはない」と仰られるかもしれません。「妄想もタイガイにしたまえ」と。しかし敬愛する先生の言うことでも、ここはゆずる訳にはいきません。異論はことごとく却下です。もし先生の意図が私の解釈と異なるというのなら、それは先生の意図の方が間違っているのです。

    私の『熱帯』だけが本物なのですから。

    • 地球っこさん
      佐藤史緒さん、こんにちは。
      いつもレビュー楽しみにしてます。
      佐藤さんのこちらのレビューを読ませていただいて、『きつねのはなし』が気になって...
      佐藤史緒さん、こんにちは。
      いつもレビュー楽しみにしてます。
      佐藤さんのこちらのレビューを読ませていただいて、『きつねのはなし』が気になって気になって、
      やっと読んでみました。
      読み始めたら一気でした。
      なるほど、佐藤さんのおっしゃる通り、あの「先輩」ですね。
      うわあ、ゾクゾクワクワクしました(〃艸〃)
      2019/03/04
    • 佐藤史緒さん
      地球っこさん、いらっしゃいませ。
      こちらこそレビュー楽しく読ませてていただいております!

      うふふ、「きつねのはなし」読んでいただけま...
      地球っこさん、いらっしゃいませ。
      こちらこそレビュー楽しく読ませてていただいております!

      うふふ、「きつねのはなし」読んでいただけましたか! 最新作が最初期の作品とつながってて面白いと思ったのですが、同じ意見の人がいなかったので、地球っこさんにご賛同いただけて嬉しいですー
      (*´∀`*)
      2019/03/05
  • 登美彦氏版の『千一夜物語』…おもしろくないわけないではないか!

    物語は『熱帯』という名の1冊の本から始まります。
    誰も読み終えたことがないという不思議な本。
    この本のことを語り始めた1人の女性の話は、やがて次々と語り手を変えながら読者を物語の奥底へと深く深く導いていきます。
    入れ子になった物語の中の物語…それはシャハラザードの語る寝物語のよう!
    毎晩こんな風に語られたら、そりゃ続きが気になって殺せないよな…とシャハリヤール王の気持ちを味わったのでした。

    謎に次ぐ謎、不条理で不気味な出来事…理屈では説明できない物語なのだから、もう語り手に誘われるままに流されていくしかないじゃない。
    物語に深く深く潜った先で胸躍る冒険を味わい、最後のページを閉じて一息ついたとき、これまでいた場所によく似た違う場所に来てしまったような感覚にどきどきしました。

    ううむ、やはり登美彦氏が好きだ…と想いを新たにした読後でした。
    これからも登美彦氏が導いてくれる世界に、諸手を挙げて飛び込んでいく所存です。

  • 自分好みの世界観とそうじゃない世界観、どちらもブレンドされたような物語。幻想的な雰囲気バッチリにそそられるも途中から一気に好みではない展開に置いてけぼり感。それでも垣間見える幻想さに惹かれ最後まで読まずにはいられなかった。今、一体どこの世界でどこにいるのか、まるで永遠に無限の迷路を彷徨っている感覚が終始つきまとう。そして本を閉じ真っ先に「熱帯とは?」と、こちらが問いかけたくなる摩訶不思議な物語。でも嫌じゃない。むしろこの世界、理屈抜きに好き。

    • sinsekaiさん
      俺も熱帯の世界に入り込む前のところまではワクワクが止まらなかったんですが…
      そこからは、ちょっとハードルが上がっちゃったかな、でも大好きな本...
      俺も熱帯の世界に入り込む前のところまではワクワクが止まらなかったんですが…
      そこからは、ちょっとハードルが上がっちゃったかな、でも大好きな本です
      2019/05/16
    • くるたんさん
      sinsekaiさん♪
      フォローとコメントありがとうございます♪

      たしかに途中まではひきこまれ、4章からはもうわけのわからない世界でしたね...
      sinsekaiさん♪
      フォローとコメントありがとうございます♪

      たしかに途中まではひきこまれ、4章からはもうわけのわからない世界でしたね。

      何一つ理解できなかった作品だけど、この世界を旅した感覚がただただ好きです♪
      2019/05/16
  • 読んだらなぜか誰もが最後まで読みきれないという本『熱帯』。作家・森登美彦は「沈黙読書会」で『熱帯』を知る人に会う。『熱帯』に関わる人の謎を巡る旅が始まる。
    千夜一夜物語に始まり、熱帯の世界、想像の世界、不思議で壮大な物語だ。不思議な世界をよく書き上げてますね。まず「夜行」を、そしてなんとなく万城目さんの「バベル九朔」(読んで思い浮かぶ世界の空気、イメージが浮かんだ)を思い出せた。
    好き嫌いもあるんでしょう、その世界は素晴らしかったけれど、少々しんどさを感じたのが正直な話。

  • 森見登美彦さんの作品を読んだのは3作目です。
    あらすじの紹介がとても面白くて、「これは絶対、読まなくちゃ」と思いました。

    第一章の「沈黙読書会」の小説家の森見の語り、第二章の「楽団の男」の白石さんのお話し、第三章の「満月の魔女」の池内氏の手記までは、非常にわかりやすく、誰も最後まで読んだことのない幻の小説『熱帯』とは何か、めぐる物語が本当に面白くて、最近読んだ小説の中で一番引き込まれました。
    ただ、第四章の「不可視の群島」から出てくる「僕」といういう一人称が誰なのか、私は読めば読むほどわからなくなっていき、理解力が足りないのか、物語も理解不能なところが多くなってしまいました。
    最後の「後記」を読むと、また、第一章、二章の記憶がよみがえり、こういう結末なのかとストンと納得しました。

    個人的に、昔住んでいた。京都の街の描写が多く、よく利用した、叡山電鉄の修学院駅、京大の前の「進々堂」のカフェなどはとても懐かしかったです。

  • 読んでいる途中でなくなった本「楽園」。同じ本を探し、内容を追い求めていく人たちと出会う中、徐々に本をめぐる話が明らかになると思いきや、ますます深みにはまっていく‥そんな感じです。
    次に次に登場人物から語られる物語が、重なっていき、どこいるかわからなくなっていくのも、おもしろく、3章くらいまでは、得体の知れない不安感もある。「夜行」でも感じた薄気味悪いとも言えるような感じが、自分には、合っていて、引き込まれた。
    最後までどこに連れて行かれるか、わからない感じのよかった。
    しかし、途中からその感じがなくなるようで、その辺も「夜行」と同じ感じで、少し残念だった。

    出てきた本
    完訳 千一夜物語
    ロビンソン・クルーソー
    宝島
    神秘の島 ヴェルヌ
    謎の物語
    アーサー・マッケン 怪奇クラブ
    ヴォイニッチ写本
    J.ポトツキ サラゴサ手稿
    プリズン・ホテル

    マシアス・ギリの失脚 池澤夏樹
    吉田健一 書架記
    谷崎潤一郎 蓼喰う虫
    スティーブンソン 新アラビア夜話
    稲垣足穂 一千一秒物語
    G.Kチェスタトン ブラウン神父の童心
    海底二万海里
    小栗虫太郎 黒死館殺人事件

  • 久しぶりに森見登美彦氏の新刊をゲット、いそいそ読破。あれ、エッセイだったっけ、と思うような第一章からお馴染みの乙女大活躍な次章へ、とここまではいかにも森見節だったのだが、そのあとの展開が新鮮で本当に面白く、後半は読み止められず一気読みしてしまった。
    誰も最後まで読んだ者がいないという謎の小説『熱帯』をめぐるこの物語は、『千一夜物語』をモチーフに、語られる人が新たな物語を語り出す入れ子構造で綴られていく。皆が追う小説と同じタイトルの本書が入れ子の一番外側の箱となるわけだが、語られることで次々と開いていく物語の門、入れ子になったそれらがすべて大団円を迎えきちんと閉じられたかというと――「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」と言われる作中の小説『熱帯』同様、この『熱帯』も読み終えることはできていない、と言えるかもしれない。
    本は、物語は、語られることで生まれる。読まれていない本は砂浜に転がる貝のようにただそこにあって、けれど、一度本の扉を開き、その物語を読み始めれば、そこには卒然と今まで知らなかった世界が立ち上がり、その世界に生きる人々が息づいて動き始める。『千一夜物語』のシャハラザードは途切れることなく物語を語ることで命をつなぐが、物語の人物たちは、語られることで生きる。物語を生み出す語り手――創造の魔術を操る魔王の筆先ひとつで、世界は生まれ、あるいは滅んでいく。そんな「読むこと」「語ること」の力を描いたこの作品に、読む人であり語る人である作者の、読むこと、語ることへの畏れにも似た眼差しを感じた。
    一人の読み手、次々と物語の門を開いていく聞き手である私は、生まれ続ける物語、語られることを待ち望む物語の声にどう応えればよいのだろう。差し出された『熱帯』という入れ子の蓋、物語の門を語り手となって閉じることはできないが、「自分が夢中になって読んでいたものが現実には存在せず、ただ紙に文字を印刷して束ねただけのものだという事実」に驚嘆する心を忘れず、その魔術の不思議に打たれながら新たな物語を真摯に読んでいくしかない。本当に没入して本を読んだ時の、彼我の世界のいずれが現実か一瞬分からなくなるような、現実と非現実の境界を曖昧にさせる物語の力というもの。本書を読み終えた時にも感じたそんな体験の得難さを、これからも大事に味わっていきたい。
    最後に、読みやめられずお風呂に本書を持ち込もうとしてカバーを外した時、思わず「おおう」と声が出たので、単行本でお持ちの方はぜひカバー下の装丁も見てみてほしい。

  • ――そもそも『千一夜物語』は、東洋と西洋にまたがって偽写本や恣意的な翻訳が入り乱れる、まるでそれ自体が物語であるかのような、奇々怪々の成立史を持つ。
    ――その胡散臭さも『千一夜物語』の魅力である。
    ――ようするに、この物語の本当の姿を知る者はひとりもいないのだ。


    本の中で小説が語られる、その中で物語が綴られ、さらにその中の登場人物が回想をする、さらに・・・

    というメタメタ小説。謎の本「千一夜物語」をモチーフに、摩訶不思議な小説世界を冒険するような本でした。
    ぼけっと読んでいると置いて行かれますが、メタ小説は好きです。
    森見登美彦らしい、面白い一冊でした。
    千一夜物語、読んでみようかな~。


    ―――「あらゆることが『熱帯』に関係している。この世のすべてが伏線なんです」


    表紙も伏線です。

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著者プロフィール

森見登美彦(もりみ とみひこ)
1979年奈良県生まれの作家で、京都を舞台にした作品が多い。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2006年に『夜は短し歩けよ乙女』で本屋大賞2位、山本周五郎賞などを受賞し注目を集める。2010年『ペンギン・ハイウェイ』で2010年日本SF大賞、2014年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、2017年『夜行』で第7回広島本大賞をそれぞれ受賞。2010年に『四畳半神話大系』がTVアニメ化、2018年8月に『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメ化された。2018年11月に『熱帯』を刊行し、第160回直木賞、2019年本屋大賞にノミネートし、第六回高校生直木賞受賞。

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