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著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (417ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907598

作品紹介・あらすじ

滅びゆくイスラム帝国の王の”貢ぎ物”として連行された美しい少年兵の叫びが奇跡を起こす。舞台は、17世紀初頭、最後の輝きを見せるオスマン帝国。征服されたキリスト教国から、”貢ぎ物”のように王(スルタン)のもとへ連行された三人の少年たち。強制的に母国語を奪われ、イスラム教徒へと改宗させられながらも、故郷への帰還を諦めない日々――。宦官による王の暗殺計画、側近兵の反乱など、内部から崩壊しつつあったオスマン帝国の終焉に巻き込まれた少年兵は、ある戦闘の途中で、「謎の岩塩鉱」に転落。暗闇を彷徨う。同時に進行する物語の、もうひとつの舞台は、1915年、第一次世界大戦中のドイツ帝国海軍・Uボート。与えられた使命は、連合国軍の通商船の破壊。無差別攻撃を続けても、戦況は悪化し続けた。「Uボートは、一隻たりとも敵の手に渡してはならぬ。戦闘能力を失った艦は自沈せよ」機密を守るための”掟”に従って、敵艦の攻撃を受けたUボートを自沈させ、イギリス軍の捕虜となったドイツ士官捕虜を救出する極秘の作戦が発動した。敵の機雷網や爆雷を潜り抜け、決死の作戦を完遂できるか――。滅びゆくオスマン帝国を目撃した3人の少年と、黄昏のドイツ帝国・Uボート乗組員の運命が、交差するとき――。驚愕のラストシーンは必読。幻想小説の女王が紡ぐ、”数奇な運命”に翻弄された美少年たちの物語。

感想・レビュー・書評

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  • どうしたらこういう物語を紡ぎ出せるのかと、ため息が出るばかり。舞台の一つは、17世紀初頭、最大のそして最後の輝きを見せるオスマン帝国を統べるスルタンの内廷。もう一方は、20世紀初め第一次世界大戦中、ドイツ帝国陸軍が誇るUボートの艦内。この二つがどうつながるのかというのもお楽しみだが、何よりすごいのはその臨場感だ。どちらも生身の人間が生きる血の通った場として、目の前に立ち現れてくる。感嘆するしかない。

    著者の手にかかると、中世のヨーロッパ世界が、まるでそこに身を置いているかのように生々しく感じられる。それは、これまでの傑作群でよく知っていた。今回はそれがイスラム世界にまで拡張されていて、これがまた、本当にこうもあったろうかと思わせる迫力であった。

    人間の醜さ、卑小さ、愚かさが容赦なく描かれ、血や汚物にまみれる描写がしばしばあるというのに、全篇ノーブルな雰囲気を失わない文章の力は、いつもながら圧巻だ。円熟はしても、枯れることなどない、力のこもった一篇に降参。

  • 他からの圧倒的な力で人生を捻じ曲げられた少年たちの物語、とまとめてしまうことは出来ない途方もない話。
    最初のうちは17世紀オスマン帝国の歴史や文化が興味深く、この先どうなっていくのか、20世紀ドイツとどう繋がるのかが気になって没頭した。段々と書き手の内面に目を向けさせられるようになると、また前に戻って読み返したりと、じっくり堪能した。

    相手に対する複雑な感情が、普段表れていない分、ちょっとした描写や一言で気付かされてハッとする。
    運命をともにしてきただけじゃなく、あらゆる感情をもたらす相手はまさに「半身」だろう。

  • 第一次大戦中の1915年、イギリス軍に拿捕されたUボートを自沈させる任務を負ったドイツ人捕虜ハンス・シャイデマン。任務遂行後のハンスを救出するために敵地にむかった別のUボートにはハンスを「半身」と呼ぶ図書館司書ヨハン・フリードホフと、ハンスに引き取られた孤児ミヒャエル・ローエが同船していた。乗船前、ヨハンは海軍大臣にひとつの手記を託す。

    その手記で語られているのは1613年オスマン帝国に支配された欧州で、スルタンの強制徴募によって奴隷として集められた少年たちの物語。ゲルマン人商人の息子シュテファン、マジャール人貴族の息子ヤーノシュ、そしてミハイというルーマニアの農民の子供。彼らを含む大勢の少年たちはキリスト教からイスラム教に強制的に改宗させられ(つまり割礼され)シュテファンとミハイはやがてイェニチェリという奴隷からなる歩兵軍団へ、ヤーノシュは当時のスルタン=アフメト一世の宮廷へ出仕することになる。

    「U-Boot 一九一五年、ドイツ」「Untergrund 十七世紀、オスマン帝国」という二つの「U」が入り混じり語られる構成。U-BootはUnterseebootの略でドイツの潜水艦Uボートのこと。Untergrundは英語でいうUnderground=地下、地底などの意味。巻頭のエピグラフ「塩鉱で祈りを捧げると、神はよく聞き届ける。そう、ゲルマン人は信じていた。―タキトゥス―」が実は重要なヒントになっており、シュテファンとヤーノシュが地下の岩塩鉱に迷い込んだことが二人にある異変をもたらすことになる。

    300年を隔てた二つの物語に共通項を見出すことは比較的たやすく、シンプルに二つの時代の三人の登場人物がどのように繋がるのかという疑問に落ち着く。子孫なのか?輪廻転生的なことなのか?それとも・・・トランシルヴァニアやワラキア公という言葉が序盤で出てきたときにはもしや吸血鬼ものかと期待してしまったり(※違いました)

    スルタンに気に入られたばかりに数奇な境遇に置かれてしまったヤーノシュは内省的でクールなタイプ、唯一の理解者であるシュテファンに依存する気持ちが強い。一方のシュテファンは明朗快活系、年下のミハイの世話を焼くことでバランスを保っているところがあるが、ある女性をめぐってのミハイと共有した秘密、その罪悪感などから後の生き方に歪さを生じてしまう。

    皆川博子の王道ともいえる歴史の勉強もできつつその物語力でぐいぐい読まされ、ラストは二人の少年(青年)の歪な関係に悲しくも美しい終止符が打たれる、これもお馴染みの王道パターンだけれど、やはりグッとくる。

  • 早く読まなきゃ!

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    滅びゆくイスラム帝国の王の”貢ぎ物”として連行された美しい少年兵の叫びが奇跡を起こす。

    舞台は、17世紀初頭、最後の輝きを見せるオスマン帝国。征服されたキリスト教国から、”貢ぎ物”のように王(スルタン)のもとへ連行された三人の少年たち。強制的に母国語を奪われ、イスラム教徒へと改宗させられながらも、故郷への帰還を諦めない日々――。
    宦官による王の暗殺計画、側近兵の反乱など、内部から崩壊しつつあったオスマン帝国の終焉に巻き込まれた少年兵は、ある戦闘の途中で、「謎の岩塩鉱」に転落。暗闇を彷徨う。

    同時に進行する物語の、もうひとつの舞台は、1915年、第一次世界大戦中のドイツ帝国海軍・Uボート。
    与えられた使命は、連合国軍の通商船の破壊。無差別攻撃を続けても、戦況は悪化し続けた。
    「Uボートは、一隻たりとも敵の手に渡してはならぬ。戦闘能力を失った艦は自沈せよ」
    機密を守るための”掟”に従って、敵艦の攻撃を受けたUボートを自沈させ、イギリス軍の捕虜となったドイツ士官捕虜を救出する極秘の作戦が発動した。敵の機雷網や爆雷を潜り抜け、決死の作戦を完遂できるか――。

    滅びゆくオスマン帝国を目撃した3人の少年と、黄昏のドイツ帝国・Uボート乗組員の運命が、交差するとき――。
    驚愕のラストシーンは必読。

    幻想小説の女王が紡ぐ、”数奇な運命”に翻弄された美少年たちの物語。
    http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163907598

  • 本格的な戦争小説。

    引き込まれて、息つくことさえ忘れる。

    感嘆のため息で終える。

  • めくるめく壮大な歴史物語を、眩暈を覚えるほどの幻想感に痺れさせ、奇抜な展開で惑わせる【皆川博子】の長編小説。第一次大戦下の黄昏の「ドイツ帝国」と、煌びやかさと残虐さで17世紀に東欧に侵攻した「オスマン帝国」を、500年の時空を超えて交差させた、耽美的かつ勇壮な物語である。登場する若者たちの数奇な運命が帰結する最終章まで、飽きることなく惹きつけられる。(N図書館蔵書)

  • 17世紀のオスマン帝国、強制的に生まれ故郷から強制徴募された少年たち。そして一方、第一次大戦下、Uボートを自沈させ捕虜を奪還する計画が秘密裏に進行しているドイツ軍。

    関わりあるはずのない遥かな時代が、ふたりの青年により絡みつき結びつき、ひとつの宿命を手繰り寄せる…手練手管の巧みな皆川先生ならではの幻想と残酷と美意識が詰まった重厚な作品世界の一品。

    塩鉱での不可思議、ほかに代わりのない欠片同士なのに運命を共にできないふたりのあまりに永く哀しい生きざま、ふたりが見守りつづける「彼」の尊さ。それらが組み合わさって、苦しくともしんどくとも「この世ならざるものの残酷な導き」に酔わされて、読まされて、たまらない充足感が後に残ります。

    エピローグは茫漠としていて、答えは明確ではなありません。だからこそいろいろと想像をめぐらせて、彼はまだ現代をも「彼」を探し、「彼」とともに生きているのかもしれない、などと夢想するのでした。

  • 皆川さんの小説はこれがはじめて。独特の間がある文章。言葉の綱でぐいぐい引かれていくような感覚で読み進めた。オスマン帝国とドイツU-boat。魅惑的な題材。ラストは、読んだその時はえっ?これで終わり?という感じだった。でも、今思い返して見ると…他の方のレビューにもあるように確かにゾクゾクしてきた。ミステリーは謎を解き明かすだけじゃなく、謎は謎のまま、ふわりと終わるのも、更に謎が深まって、ぞくりとする謎の余韻を味わうことができるのだ。余韻に浸って、読後に気になった単語の意味を調べてしまった。U-boatはドイツ語でウーボートと読む、なのでタイトルもウー…など、など。

  • 皆川博子の最新作。
    新作が出るたびに驚かされる。何を言ってもネタバレになりそうなので詳しくは触れないが、ラストシーンは本当にぞくぞくした。
    矢張り皆川博子は唯一無二の作家だと思う。

  • 流石…という感じの流麗かつ読みやすい文章とプロット。こういう人が本当の作家といえるんだろうな〜などと思った。読後も美しいビジュアルが残像のように残る、映画のような作品。激しく心揺さぶられる話ではないけど、心のなかでずっと引っかかりながら考えていたことを言語化してくれているような面もある。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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