- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163907826
作品紹介・あらすじ
尊敬していた人物からの、思いもよらない行為。
しかし、その事実を証明するには――密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。
あらゆるところに〝ブラックボックス〟があった。
司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。
レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。
「この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に降りかかってくるか、だれにも予測はできないのだ。」(「はじめに」より)
〈著者紹介〉
伊藤詩織(いとう しおり)
1989年生まれ。ジャーナリスト。
フリーランスで、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど
主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信する。
感想・レビュー・書評
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【感想】
デートレイプドラッグとは、ある睡眠薬や睡眠導入剤のことを指す。薬局などで簡単に処方される一般的な薬だ。アルコールに入れると催眠作用や健忘作用が増幅し、接種すると意識を失うほどの強い酩酊状態に陥るものの、長く体内に残らないため検出されない。再び意識を取り戻したときはホテルのベッドの上だが、記憶は欠落しており、自分が強姦されたのかどうかはっきりしない。何人かの被害者は、短くてとぎれとぎれの覚醒した時期を覚えているが、それでも彼女たちの意識がないとき、彼女たちに何がなされたのか、誰がかかわっていたのか、何人の人がそこにいたのかを思い出すことができない。
そして被害者がこの手口の犯罪を警察に訴えても、「記憶がはっきりしない」という理由でほとんど却下されてしまう。
伊藤さんは山口氏がデートレイプドラッグを使い強姦に及んだと断言しているが、この証明が難しい。伊藤氏の主張が虚偽ではないと裏付けるための証拠、つまり医学的証拠は出ていない。また、犯行現場のホテルは監視カメラがついていない「ブラックボックス」の状態であったため、同意の上での情事かレイプかを断定できる根拠が薄い。女性である伊藤さん本人がレイプだと主張しているのだから、十中八九無理やり襲われたと見て間違いないように思えるが、裁判で争う以上、客観的な証拠を提示しなければならない。かつ、伊藤さんは当時の記憶を無くしている。「推定無罪」という原則が、被害者に相当不利に働くことを、改めて実感した。
それでも、伊藤さんは戦い続けた。
2022年7月7日、性暴力被害を認定した1月の東京高裁判決が確定。山口氏に約332万円の賠償金支払いを命じる判決が下った。一方、「デートレイプドラッグを飲まされた」と主張したことを山口氏への名誉毀損と認定し、伊藤さんに賠償金55万円の支払いを命じている。レイプはあったがドラッグは使っていない、という判決だ。伊藤さんとしては、やっと行動が実を結んだものの、「薬物を使ってのレイプ事件がまた繰り返される」という悔しさもあるだろう。ここら辺が落としどころなのかもしれないが、なんともやりきれない結果である。
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【メモ】
・それまでに何度かのぞき見た日本の報道現場は、完全な男社会だった。私が甘いのかもしれない。こんな風に踏まれても蹴られても、耐えるべきなのかもしれない。そのくらいでなければ、この仕事は続けて行けないのかもしれない。魔が差したように、そんな考えが頭をよぎった。しかし、そんなことを受け入れていたら、自分を失ってしまっていただろう。
・性暴力被害者を支援するNPOに電話をすると、「面接に来てもらえますか?」と言われた。どこの病院に行って何の検査をすればいいのかを教えてほしいと言ったが、話を直接聞いてからでないと、情報提供はできないと言われた。
この電話をするまでに、被害に遭った人は一体どれほどの気力を振り絞っているか。その場所まで出かけて行く気力や体力は、あの時の私には残されていなかった。そうしている間にも、証拠保全に必要な血液検査やDNA採取を行える大事な時間は、どんどん過ぎ去っていた。当時の私には、想像もできなかった。この事実をどこかで知っていたら、と後悔している。
電話での問い合わせに対し、簡単な対処法さえ教えないのは、今考えても納得できない。公的な機関による啓蒙サイトを作り、検索の上位に上るようにするだけでも、救われる人はいるのではないか。
・不思議なことに、私はこの当時から相手に対し、怒りという感情を持つことができなかった。怒り、不満といえば、その後の警察やホットライン、病院の対応に向けられた。父の言葉に、ある警察官に言われたことを思い出した。「もっと泣くか怒ってくれないと伝わってこない。被害者なら被害者らしくしてくれないとね」その後、精神科の先生に伺ったのだが、虐待された子どもは自分の受けた傷について話すときに、友達について話すような態度を取るそうだ。解離するのだ。
・「伊藤さん、実は、逮捕できませんでした。逮捕の準備はできておりました。私も行く気でした、しかし、その寸前で待ったがかかりました。私の力不足で、本当にごめんなさい。また私はこの担当から外されることになりました」
「ストップを掛けたのは警視庁のトップです」
・密室の中で起こったことは第三者にはわからない、と繰り返し指摘された。検事はこれを「ブラックボックス」と呼んでいた。
しかし、意識の無い状態で部屋に引きずり込まれた人が、その後、どう「合意」するのだろうか?こんなことを克明に証明しなければならないなら、それは法律の方がおかしいと思う。
ストックホルムのレイプセンターの調査によると、70パーセントのレイプ被害者が被害に遭っている最中、体を動かすことができなくなる、拒否できなくなる、解離状態に陥るなどの、「Tonic Immobility」と呼ばれる状態になる。「Tonic Immobility」を直訳すると「擬死」、つまり、動物などが危険を察知して死んだふり状態になることだ。しかし、日本における強姦罪の裁判で問われるのは、被害者が心の中で拒否していたかどうかではなく、「拒否の意思が被疑者に明確に伝わったかどうか」なのだ。
・この事件をよく知る警視庁担当記者の解説では、山口氏の逮捕状を取るまでの間、高輪署による捜査状況は、警視庁(刑事部)捜査一課にも報告されていた。準強姦の案件なのだから任意ではなく、強制性のある逮捕でなければ意味がない、という認識だった。ところが、「山口逮捕」の情報を耳にした本部の広報課長が、「TBSの記者を逮捕するのはオオゴトだ」と捉え、刑事部長や警視総監に話が届いた。なかでも、菅(義偉)官房長官の秘書官として絶大な信頼を得てきた中村格刑事部長(当時)が隠蔽を指示した可能性が、これまでに取り沙汰されてきた。
・レイプは魂の殺人である。それでも魂は少しずつ癒され、生き続けていれば、少しずつ自分を取り戻すことができる。人にはその力があり、それぞれに方法があるのだ。私の場合その方法は、真実を追求し、伝えることであった。
いくら願っても、誰も昔の自分に戻ることはできない。しかし今、事件直後に抱いたような、レイプされる前に戻りたいという気持ちは一切ない。意識が戻ったあの瞬間から、自分と真実を信じ、ここまで生きてきた一日一日は、すでに私の一部になった。今まで想像もできなかった苦しみを知り、またこの苦しみが想像以上に多くの人の心の中に存在していることを知った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本書を読みもせずに最低の評価をつけている痴れ者がいるので最初に書いておくが、著者が本書を世に問うたのは、何よりも、この種の卑劣な罪を犯した者が正当に裁かれず、また、不幸にして同様の犯罪に巻き込まれた被害者が救済されない実情をなんとかして変えたいと思っているからである。そして、権力者やその強力な後ろ盾を持つ者が法の目をすり抜けていくこの国の姿を、正したいからである。山口敬之氏の名前は無論本を通して出てくるが、それは、彼の所業を広く伝えることが、著者が本書を通して目指す大きな目的のために必要だからである。だから本書のタイトルは「腐った卑劣漢」ではなく、「Black Box」なのだ。
本書には、著者の生い立ちから、ジャーナリストを目指すに至った経緯、山口氏との出会い、その後の彼の行為、彼とやりとりしたメールの全文が書かれ、加えて、こうした犯罪に用いられるドラッグとその症状も具体的に紹介されている。これを読む限り、また、山口氏が公の場でまともに反論していない以上、著者がこのドラッグを使われたのは間違いないように思える。こうした薬物に対する注意がもっと喚起されてしかるべきだと実感させられた。
更に本書では、こうした犯罪に対する日本と諸外国の対応の違い、それを参考に、被害者をわずかでも救済する手立てが提唱されている。これこそが、著者が最も訴えたかったことだろう。
本書の表紙は、著者の顔写真である。被害者Aであることを拒否する凛とした姿勢と、Facebook等でお友達に向けての言い訳に終始し、公の場から逃げ回る山口氏の卑怯でみっともない姿は対照的である。そのFacebookにイイネ!などと反応する者もいる。確か、安倍昭恵とかいう名前の人だった。
山口氏の逮捕は決まっていたにもかかわらず、警視庁刑事部長中村格氏の判断で、寸前で取りやめとなる。著者は中村氏に取材を試みるがうまくいかず、一度は出勤途中の中村氏に声をかけているが、中村氏は「凄い勢いで逃げた」。「人生で警察を追いかけることがあるとは思わなかった」と著者は言う。
著者は自分が負った精神的な傷については筆致を抑え、必要最小限のことししか語っていないが、痛みの深さは行間から伝わってくる。山口氏と似た顔をみるだけで足がすくむ、こうした苦しみや悲しみを抱えたままで書いた本である。勇気、やさしさ、醜さ等、人のあらゆる要素が詰まった本である。襟を正して読みたい。そして、山口、中村両氏には、この本と真正面から向き合う責任がある。 -
元TBSテレビ報道局ワシントン支局長、ジャーナリスト山口敬之氏は、二回会っただけの詩織さんを「ビザの件で」と呼び出し、二件付き合わせ、おそらく彼女の酒に薬を入れ、ホテルに連れ込みレイプした。
会見を見、山口氏の本を読んで、「彼はそこまで悪い人には思えない」と私。
彼女の悪い噂なども入ってくるし。
でもこの本を読んで、この事件が事実であると確信しました。
悪い噂の多くはデマ。
詩織さんは正しく、山口は絶対に罰せられるべき。
また中村格刑事部長(当時)、逃げていないで真実を話すべきです。
中村氏に「私が山口氏を逮捕させなかった」と認めさせた、週刊新潮は素晴らしい!
ただ、レイプされただけでも傷ついている女性が、ここまで顔をさらして真実をさらすのは、並大抵のことではありません。
会見で堂々として見えたけど、相当なストレスにやられているのがよくわかりました。
それはそうでしょう。
でも詩織さん、あなたに勇気をもらいました。
「レイプはどの国でも、どんな組織でも起こり得る。組織は権力を持つ犯罪者を守り、「事実」は歪められる。キャリーさん(上司にレイプされ命を絶った女性)の身に起こったことは、決して珍しいことではない。
今までに一体、何人の人が、心を押し潰されたまま生きることを強いられたのだろう。
一体何人の人たちが、彼女と同じように命を絶ったのだろう。
事件後、私も同じ選択をしようとしたことが、何度となくあった。自分の内側がすでに殺されてしまったような気がしていた。
どんなに努力しても、戻りたくても、もう昔の自分には戻れず、残された抜け殻だけで生きていた。
しかし、死ぬなら、変えなければいけないと感じている問題点と死ぬ気で向き合って、すべてやり切って、自分の命を使い切ってからでも遅くはない。この(キャリーさんの)写真に出会って、伝えることの重要さを再確認し、そう思いとどまった。
キャリーさんの口からは、もう何も語られることはない。だが、一人のフォトジャーナリストのカメラを通して、彼女は強いメッセージを残した。私にはまだ話せる口があり、この写真の前に立てる体がある。だから、このままで終わらせては絶対にいけない。
私自身が声を挙げよう。それしか道はないのだ。伝えることが仕事なのだ。沈黙しては、この犯罪を容認してしまうことになる。」
私ももう一度頑張る。決心しました。(レイプではないです)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&id=4906919&from=home -
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拝啓 伊藤詩織様 | 差出人は25年前の最も有名なレイプ事件の被害者 | クーリエ・ジャポン(会員記事)
https://courrier...拝啓 伊藤詩織様 | 差出人は25年前の最も有名なレイプ事件の被害者 | クーリエ・ジャポン(会員記事)
https://courrier.jp/news/archives/142306/2022/01/27 -
フランス語翻訳者が指摘する日本の男女格差と「魔女狩り」の共通点 | 毎日新聞(有料記事)
https://mainichi.jp/artic...フランス語翻訳者が指摘する日本の男女格差と「魔女狩り」の共通点 | 毎日新聞(有料記事)
https://mainichi.jp/articles/20220624/k00/00m/040/264000c2022/06/26
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内容紹介 (Amazonより)
真実は、ここにある。 なぜ、司法はこれを裁けないのか? レイプ被害を受けたジャーナリストが世に問う、 法と捜査、社会の現状。 尊敬していた人物からの、思いもよらない行為。 しかし、その事実を証明するにはーー密室、社会の受け入れ態勢、差し止められた逮捕状。 あらゆるところに〝ブラックボックス〟があった。 司法がこれを裁けないなら、何かを変えなければならない。 レイプ被害にあったジャーナリストが、自ら被害者を取り巻く現状に迫る、圧倒的ノンフィクション。
ここに書かれていることがすべて真実なら 私ならとても生きていけないと思いました。
山口氏の言い分がわからないのでなんとも言えない。
読んでいてノンフィクション??まるで小説を読んでいるような感覚になった。
とにかく、子供には注意するように言わないといけないなと思いました。 -
日本の性犯罪に対する現状を
あらわにしたドキュメンタリー。
レイプ被害にあったのは著者本人。
あの記者会見の映像を私は覚えている。
なんと美しい人か、なんと勇気のある人かと思った。
性犯罪の被害者はもっと怒らなければならない、
というより
怒りを持っていいのだと、訴えていいのだと
怒ることが当然なのだと、
被害にあった人のサポート体制も含めて
そういう国になってほしい。
他国と比べても、
先進国とは思えないお粗末さである。
わたしにとって意味のある一冊であった。
伊藤氏の勇気に感謝。 -
ここに書かれている被疑者が逮捕を免れていることはもちろん問題外のありえないことだが、この本の価値は、それを指摘することにとどまらない。多くの男にとって重要なことが書かれている。
男はともすると、女性の尊厳を忘れ、知らずに傷つけていることがあるのではないか? 多くの男性が読むべき本である。 -
彼女に対するネガティブなコメントや報道を読んだ上で感想を述べる。「彼女の言葉は誠実で、発言は真実だ」
本書の発刊から3年も経ってから、twitterで彼女を応援するハッシュタグに促されて、本書を手に取った。
特にアマゾンのレビューで低評価をつけ、非難する人たちはなにがしたいのだろうか。
それらの声に屈せず、本書を残してくれた彼女に敬意しかない。 -
性犯罪の刑事事件としては不起訴処分になりながらも、先月、民事訴訟で勝訴を勝ち取った(上告の可能性もあるので係争中だが)タイミングで読み直してみた。改めて当事者視点というだけでなく、警察、検察、支援団体、関係機関の構造・仕組みの課題を明らかにする良書だと再確認。こういった類の著作にレビューはいらない。ただ、自身で触れてみて感じて、考えて欲しい...。
著者プロフィール
伊藤詩織の作品





