そして、バトンは渡された

著者 :
  • 文藝春秋
4.25
  • (2466)
  • (1993)
  • (753)
  • (131)
  • (39)
本棚登録 : 18242
感想 : 2115
  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907956

作品紹介・あらすじ

森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。この著者にしか描けない優しい物語。 「私には父親が三人、母親が二人いる。 家族の形態は、十七年間で七回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」 身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 『-子どもは親を選べない- 親を選べないなんて不幸だという意味だろうけど、親を選ばないといけない場に立つのだって、苦しい。』こんな悩みと向き合わなければならない主人公・優子。父親が3人、母親が2人、どうやったらそういう計算になるのだろうという複雑な家庭環境を背景に物語はスタートしました。

    陸上のトラック競技で唯一の団体種目であるリレー。複数の人間が繋いでバトンをスタートからゴールへと届ける種目です。個々の力が全てであるトラック競技の中で複数の人間がバトンをゴールに送り届けるために、割り当てられたそれぞれの立ち位置で必要な役割を果たしていくことが求められます。オリンピックで日本チームがそのバトンの受け渡しの場面に注力し、それを如何に確実にするか、如何にスムーズに行うかに重きを置くことで成果を出したことが強く印象に残っていますが、この作品では優子に関わることになった5人の『親』がそれぞれに与えられた役割を果たし、丁寧に次に繋いでいく姿が描かれていました。多感な年頃でもある優子の人生を途切れさせることなく如何にスムーズに次に繋いでいくか、そして自身に求められている役回りはなんなのか、それぞれの立場で自問しながらも次の走者のことを、そして何よりもバトンが無事にゴールに送り届けられることを願って走り続けます。

    一方でこの作品でのバトンはモノではなく人間・優子です。バトンも心を持っています。そんなバトンが自分を受け渡ししてくれる走者を思いやります。『思い出の中でしか会えない人が増えて行く。だけど、いつまでも過去に浸っていちゃだめだ…。』、でもこんな境遇にいつも優等生でいることなどできません。『誰が親だといいのか。そんなのわかるわけがない。』そう、こんな想像を絶する状況を第三者的に冷静に分析することなどできるはずがありません。『今より大事にすべき過去など一つもないのだから。』優子はそれぞれの走者と共に走る時間を何よりも大切にするようになります。過去の想い出に心囚われても、過去の幸せに夢を見ても何も始まらない、進まないからです。バトンを繋ぐリレーとはそういう競技だからです。

    思えばこの小説の世界だけでなく、この世はありとあらゆるところでリレーのようなバトンの受け渡しが行われているんだ、と思い至りました。目の前で事故が起こって誰かが倒れるのを見た瞬間、その誰かの命を繋ぐリレーが始まります。救急車を呼ぶ人、電話を受ける人、救急隊員、病院に辿り着いてもそれぞれのプロが自身のベストを尽くして命のバトンを繋いでゆく。この作品を読むまでそんな風に考えたことはありませんでした。この世は、こうしている間にもどこかで大切にバトンは受け渡されていく。改めて人間社会って凄いなと思いました。

    優子の『親が苦手って、そんな人いるの?』という、彼女の境遇からくる淡々とした生き方、考え方もあって物語は見た目静かに進んで行きます。走者はバトンを渡した後は、次の走者の走りを暖かく見守るだけ、決して手を出すことはありませんし、手を出すことはルール違反です。でもみんなバトンのことを忘れたりはしません。自身の役割が終わった後もバトンの受け渡しをずっと見守り、心の中でバトンが未来に受け渡されていくことに声援を送り続けます。

    だからこそ、作品の最後で瀬尾さんが書かれた一文が深いところに響いてきました。

    読み終えて、自分というバトンを今日まで繋いできてもらったことへの感謝の気持ち、そして今度は自分が明日にバトンを繋いでいくんだという自覚の芽生え、自分の周りに見えていた景色が少し変わったようなそんな気がします。

    とても素敵な作品に出会えました。ありがとうございました。

  • 心を波立たせながら少しずつ読み進めましました。
    途中で何度も「もう読めない」と思いながらも、最後まで読んで本当によかったと思います。

    私事にはなるのですが、私も、主人公である優子と同じように、幼い頃から両親と一緒に暮らしていません。
    私がまだ幼い頃に死別をしています。

    父のことも母のことも全く記憶にありませんが、
    だからといって、別に不幸ではありません。
    手前味噌ながら、人よりも幸せな毎日を送っているのではないかとすら思っています。

    これは実際に私が当事者だからこそ言える言葉ではあると思うのですが「子どもは大人が思っているほど弱くはないし、色んなことを乗り越えている」のです。

    だからむしろ、親切な先生からの善意からくる同情的な声掛けの方が、幼い私の心を傷つけました。
    その言葉に悪意などないと分かっているのに、親切な人に言われれば言われるほどに、私の境遇は「同情されるべきものなのだ」と否定された気持ちになったからです。

    ――困った。全然不幸ではないのだ。

    この一文です。
    この一文に全てが詰まっているように思います。
    少なくとも私は、僅か2ページで続きが読めなくなるほどに、記憶と感情が濁流のように押し寄せました。

    作者の瀬尾まいこさんは、本当に凄い方だと思います。
    彼女もまた、なにか特別な事情のある幼少時代を過ごされた方なのでしょうか。
    優子の描写が、あまりにも私の感情と似すぎていて、驚きと涙の連続でした。

    本作は本当に素晴らしい作品です。
    読み進めるのがツラい部分もあると思いますが、少しずつ、休みながらでいいので、私と同じ境遇の方にこそ、ぜひとも最後まで読んでほしいなって思います。

    今のあなたが幸せなのは、あなたというバトンを、多くの人たちが次へ次へと繋いでくれたおかげです。
    いわゆる「普通の家族」ではなかったとしても、
    常に私は「幸せな家族」に囲まれて育ったのだと、あらためて思い出させてくれる本当に素敵な作品でした。

    • あぁ!行こう!さん
      なべさん、こんにちは。
      メッセージをいただき、とっても嬉しいです。

      本作は本当に素晴らしい作品ですので、機会がございましたら、ぜひ触れられ...
      なべさん、こんにちは。
      メッセージをいただき、とっても嬉しいです。

      本作は本当に素晴らしい作品ですので、機会がございましたら、ぜひ触れられてみてください。

      私もなべさんのレビューを楽しく読ませていただいております。どうぞこれからも宜しくお願い致します。
      2022/10/29
    • sugarさん
      あぁ!行こう!さん、こんばんは。
      とても有名な作品ですが内容は全く知らず、でもあぁ!行こう!さんのレビューを読んでこれは読まなければと思いま...
      あぁ!行こう!さん、こんばんは。
      とても有名な作品ですが内容は全く知らず、でもあぁ!行こう!さんのレビューを読んでこれは読まなければと思いました!
      素晴らしいレビューをありがとうございます。
      2022/11/10
    • あぁ!行こう!さん
      sugarさん、こんばんは。
      メッセージをいただき、本当に嬉しいです。

      もしかしたら私の特殊な生い立ちや経験によるフィルターがかかっている...
      sugarさん、こんばんは。
      メッセージをいただき、本当に嬉しいです。

      もしかしたら私の特殊な生い立ちや経験によるフィルターがかかっているかもしれませんが、それを差し引いたとしても、本作は本当に素晴らしい作品だと心から思います。

      私も、sugarさんのレビューを楽しく読ませていただいております。どうぞこれからも宜しくお願い致します。
      2022/11/10

  • どれだけ親が変わろうと、
    私は不幸じゃない。
    どの親も私を思ってくれている。
    私というバトンが渡される、だけ。
    前の人が次の人に、
    「幸せにしてあげてね」
    っと。

    最後に「私を幸せにして下さい」っと、
    バトンは渡された。


    凄くほっこりする作品だった

  • 「家族の絆」の意味を考える本になった。
    『家族』だから許される、『家族』だから甘えられると言われることも、この2人の間には、きっとないのだろう。娘のために何ができるか、父としてどのように接すべきか、娘は父の気持ちを察し、娘の立場で行動する。だから血の繋がった親子ならスルーしてしまうような感覚に反応し、その言動に反応し、受け止めようとする。
    本当の親子とは異なる種類の絆がそこに見える気がした。

    主人公・森宮優子は、2人の母に3人の父がいる。生まれた時は、水戸優子。母が亡くなり、父が再婚する。しかし、父はブラジルに転勤となる。父と義母は、この転勤が原因で離婚し、この時、義母の田中という姓を名乗り親子関係と継続する選択をする。義母の梨花さんの性格もおおらかで(と言えば聞こえはいいが)、血の繋がった親子にはない、友達感覚的な親近感を感じた。どちかと言えば、姉妹に近いのかもしれない。
    そして、梨花の再婚により泉ケ原となり、最後に森宮の姓に落ち着く。こうして優子の親リレーから、本作のタイトル『バトン』がついたのだと納得する。

    今回の名言はこの2つ!

    「いいんじゃない。親が何人いても!家族になれるんだったら」

    「自分のために生きるって難しいよな。何をしたら自分が満たされるのかさえわからないんだから。金や勉強や仕事や恋や、どれも正解のようで、どれもどこか違う。でもさ、優子ちゃんが笑顔を見せてくれるだけで、こうやって育っていく姿を見るだけで、十分だって思える。これが俺の手にしたかったものなんだって……」

    世の中、私も含めて自分のためだけに生きている人がどれくらい多いかとか。
    自分のことを考えるのに精一杯ではなく、誰かのことを精一杯に考える。それは、親かもしれないし、子供のことかもしれない、あるいは恋人のことかもしれない。
    そんな人がいることが改めて素敵に思えた。

  • やっと図書館の順番がきました。
    本屋大賞受賞、おめでとうございます。
    素晴らしい、レビューが沢山あるので、気がひけますが、一応、拝読した記念に書かせていただきます。

    まず、カツ丼とメロンパンの朝食で始まる、血縁のない育ての親の森宮さんと優子の間の空気間がなんてあたたかいのだろうと思いました。
    まだ37歳の森宮さんが、17歳の優子のために、他の二人の年輩の父親より、よい父親になろうと、手の込んだ料理を毎日作ったり、優子の友達をもてなしたり、ピアノを買おうとしたり、歌まで覚えて、色々とさりげなく頑張るところが、泣けます。
    優子が、高校を卒業するとき、担任の向井先生からもらった手紙に、「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」と書かれていますが、この先生の手紙に要はつきると思いました。
    優子は何度も戸籍上の親が変わっても、すべての親から(水戸さん、梨花さん、泉ヶ原さん、森宮さん)、離れて暮らすようになっても愛情を注がれ続けています。
    親が何度変わっても、必ずしも不幸でない。
    親の人数が多いというだけで、森宮優子は、とてもとても幸せな女の子でした。

    • まことさん
      ありがとうございます!
      夕べ、『傑作はまだ』も読了しましたが、すごく、よかったです。やっぱりほっとできる作品でした。
      ありがとうございます!
      夕べ、『傑作はまだ』も読了しましたが、すごく、よかったです。やっぱりほっとできる作品でした。
      2019/05/15
    • よろしくお願いしますさん
      まことさんのレビューを見て読みたくなりました
      まことさんのレビューを見て読みたくなりました
      2020/08/25
  • うどんは好きですか?

    うちは家族みんな好きなんですよね
    そしてうどんといえば讃岐うどん
    讃岐うどんといえば丸亀製麺ですよねw
    安くて美味しい!

    先日暑かったのでざるうどんなんかいいかな?と奥さんと一緒に行ってきたんですが
    奥さんはトマたまカレーうどん食べてましたw
    暑いときこそ熱いもの食べる派なんですよね
    自分は暑いときこそ熱いもの食べる…はぁあ?なので初志貫徹でざるうどんを食べましたよ

    もくもくとざるうどんを食べててふと顔をあげたら奥さんの服装が変わっててあれ?どうしたん?と思ったらいつの間にか紙のエプロンしてました

    『カレーうどんは渡された』なんちて

    さて『そして、バトンは渡された』です

    面白かったです
    変な設定と森宮さんのキャラクターが面白かったです
    面白かったですが感動はしなかったな〜
    なんでだろ?
    瀬尾まいこさんとの相性イマイチなんだよな〜やっぱ

    • 土瓶さん
      そしてうどんは
       
      いやいや、そんな簡単なわけはないぞ。
      …………………………。
      ダメだぁ。わからん。
      か、カレー。_| ̄|○
      そしてうどんは
       
      いやいや、そんな簡単なわけはないぞ。
      …………………………。
      ダメだぁ。わからん。
      か、カレー。_| ̄|○
      2022/05/26
    • ひまわりめろんさん
      作中森宮さんがドライカレーを作ってるのがヒントでした(そんなわけあるか!)
      作中森宮さんがドライカレーを作ってるのがヒントでした(そんなわけあるか!)
      2022/05/27
  • 親が複数人いるという設定の話なら、例えば伊坂幸太郎さんの「オー!ファーザー」とか映画なら「スリーメン&ベビー」というコミカルな話があるが、こちらはタイトル通り複数の親たちの愛情のバトンを受け取りながら成長する女の子の話。

    主人公・優子は第一章では高校三年生、18歳。
    彼女は姓が水戸→田中→泉ヶ原→森宮と3回も変わっている。実母は3歳の時に事故死、小5の時に海外赴任する実父と別れ、実父と離婚した継母・梨花と共に日本に残る。その後、梨花が2度再婚したために父親がさらに二度変わり、梨花は最後の父親・森宮と離婚し出て行ったために森宮と二人暮らししている。

    何とも波乱万丈の人生だが瀬尾さんらしく優子はその状況も飄々と受け止めている。
    何しろ自身は『全然不幸ではない』と思っているのだ。それも強がりなどではなく本当に。

    森宮は優子と20歳ほどしか違わないのだが、理想の父親になろうと奮闘している。料理が得意な森宮は始業式だのなんだのと御馳走を作り、やたらとお菓子を買ってきて二人で楽しそうに食べている。
    彼の目指す父親象はややずれているが、それもまた優子が暮らしやすくするための思いやりかも知れない。

    作家さんによっては残酷な虐待の話にも、あるいは逞しく生きていくノアール作品にもなりそうな設定なのだが、瀬尾さんはほんわか温かく描いている。
    行き当たりばったりで再婚離婚をくり返す梨花ですら、最後に『計画的な結婚』だったのだと分かる。
    冷静に読めば大人たちの事情に振り回される優子が可哀想な場面も多々ある。それでも彼女がひねくれずに育ったのはその大人たちが優子を大切に思っている気持ちが彼女に伝わるような、そういう接し方をしてきただからだろうと思う。大切に思うなら振り回すなよ、という矛盾はあるのだが。

    実父・秀平、一人目の継父・泉ヶ原、二人目の継父・森宮。そして優子が一番長く暮らした継母・梨花。それぞれの愛し方は違うが、皆自分なりの方法で優子を愛してくれた。
    個人的には物静かな泉ヶ原が一番すきだった。『そばにいる人が静かに見守ってくれることで得る平穏』を優子が初めて知った父親だった。
    だが物語としてはわいわい言ってちょっとズレている森宮が良いだろう。

    もう一人、学校の担任・向井先生も素敵な教師だった。最初は優子の境遇に心配していたようだが、『よくあるような親子関係なんて、目指さなくたっていいんじゃない?』と見守ってくれている。
    ちなみに解説の上白石萌音さんも向井先生推しのようだ。

    第二章、22歳になった優子は早瀬という同じ年の青年(彼もまた振り回しているような)と結婚することになり、親たちに挨拶に行く。
    その時の泉ヶ原も良かった。一緒に暮らしていた時は物静かだった彼が、優子の結婚を心から喜び、初めてお酒を飲む姿を見せている。彼の感激振りがいかに優子を大切に思っていたかが改めて分かった。

    最後のシーンはタイトル通り。様々なタイプの大人たちの愛情のバトンを受け取った優子は、早瀬と共に新しいスタートを切る。
    ところで森宮の次の『目指すもの』は何なのだろう。理想の父親の次は理想のお祖父ちゃんだろうか。

  • 最後、水戸さんに会えましたね…良かった。
    優子にとっては唯一生きている肉親である水戸さん。
    百通を超える手紙も読まれず、ブラジルから帰国しても一度も会えないままで、これでいいのだろうか…と思っていましたが、森宮さんの心遣いで会うことができ、本当に良かったと思います。

    優子の実の母親は他界し、父親も海外へ行ったきり一度も連絡は取れず、その後父親は2回替わっています。
    10代の多感な時期にそれだけの変化があっても優子は一度も誰かを恨むことはせず、悲観することも実の親がいる友達に嫉妬することもなく、まっすぐ育っていく。
    それはきっと優子が、親になった大人たちみんなに愛されていたからなのですね。

    また、この作品ではメールや電話のやり取りが一度もありません。手紙のみです。
    小さい頃にブラジルのお父さんへ宛てた手紙。お父さんから優子へずっと届いていた手紙。高校の卒業式の日、向井先生からもらった手紙。早瀬君から森宮さんへ(CDを添えて)、梨花さんから優子へ。たくさんの想いが手紙に乗せられていきました。
    これもバトンなのかなと考えつつ読みました。

    水戸優子、泉ヶ原優子、森宮優子、そして、早瀬。

    新しい名前とともに、優子はどんな未来を紡いでいくのでしょうか。とても楽しみです。





    • アールグレイさん
      かりんとうさぎさん、今晩は、そしてバトンのレビュー、私も読ませて頂きました。かりんとうさぎさんのは、いいね!を3つはつけないといけませんね。...
      かりんとうさぎさん、今晩は、そしてバトンのレビュー、私も読ませて頂きました。かりんとうさぎさんのは、いいね!を3つはつけないといけませんね。学生時代、感想文は得意でしたか?
      2021/03/17
    • かりうささん
      ゆうママさんこんばんは。
      そんな風に言っていただけてとても嬉しいです、ありがとうございます。
      きっと作品が素晴らしかったからだと思います^ ...
      ゆうママさんこんばんは。
      そんな風に言っていただけてとても嬉しいです、ありがとうございます。
      きっと作品が素晴らしかったからだと思います^ ^
      2021/03/18
  • 「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」
    優子が高校の卒業式の日に担任の向井先生からもらった手紙の一節だ。この言葉に、この本の全てが集約されている

    たくさんの信じられないようないろんな形の愛情がいっぱい詰まった物語だった

    父親が三人、母親が二人。家族形態は17年間で7回も変わった
    血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わったけれど、それぞれの愛され方で優子はいつも愛されていた

    世間一般の常識から言えば、なんて不幸な子だとなるのだろう
    級友は、家庭のことに踏み込むのはいけないことだと避けるし、担任は、「困ったことや辛いことは、話さないと伝わらないよ」と言う

    最初は、こんなこと有り得ないという思いがぬぐいきれなかったが、梨花さんや泉ケ原さん、森宮さんの優子を思う愛の深さと、はちゃめちゃな愛情表現に私までもが魔法にかけられたように、いつのまにかこんなこともあるかもなと思い、やがて絶対あってほしいなと思うようになった

    「娘を一緒に育ててほしい。娘の人生を作ってほしい」
    と梨花さんに言われた森宮さんは、
    「本当にラッキーだった。明日が二つ。自分の明日と自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくる。未来が二倍以上になるのが親になることだよ」
    と、目を輝かせる

    自分の子どもを持ったこともない森宮さんが精一杯優子を思い、森宮流で、その愛情をストレートに表現する姿に、いっぱい笑わされ、いっぱい泣かされた

    次々と回されていったバトンは、最後、早瀬君と優子が作り出す大きな未来へと渡された

    自分じゃない誰かのために毎日を費やすことは、その人だけではなく自分をも幸せにすることを教えてくれる





  • 本屋大賞受賞作です。
    母親が2人、父親が3人。
    名前が4回も変わってしまう女の子。
    本人のインタビューで「いい人ばかりが登場する物語を書きたかった」と言われるように、親になる人すべてがそれぞれの良さがあり、みんながよい親になれるように頑張っています。
    読後感もすごくよく、老若男女におおすすめの一冊でした。

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著者プロフィール

1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』など著書多数。唯一無二の、爽やかで感動的な作風が愛されている。

「2022年 『掬えば手には』 で使われていた紹介文から引用しています。」

瀬尾まいこの作品

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