- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163907956
作品紹介・あらすじ
森宮優子、十七歳。継父継母が変われば名字も変わる。だけどいつでも両親を愛し、愛されていた。この著者にしか描けない優しい物語。 「私には父親が三人、母親が二人いる。 家族の形態は、十七年間で七回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」 身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。
感想・レビュー・書評
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「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」
優子が高校の卒業式の日に担任の向井先生からもらった手紙の一節だ。この言葉に、この本の全てが集約されている
たくさんの信じられないようないろんな形の愛情がいっぱい詰まった物語だった
父親が三人、母親が二人。家族形態は17年間で7回も変わった
血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わったけれど、それぞれの愛され方で優子はいつも愛されていた
世間一般の常識から言えば、なんて不幸な子だとなるのだろう
級友は、家庭のことに踏み込むのはいけないことだと避けるし、担任は、「困ったことや辛いことは、話さないと伝わらないよ」と言う
最初は、こんなこと有り得ないという思いがぬぐいきれなかったが、梨花さんや泉ケ原さん、森宮さんの優子を思う愛の深さと、はちゃめちゃな愛情表現に私までもが魔法にかけられたように、いつのまにかこんなこともあるかもなと思い、やがて絶対あってほしいなと思うようになった
「娘を一緒に育ててほしい。娘の人生を作ってほしい」
と梨花さんに言われた森宮さんは、
「本当にラッキーだった。明日が二つ。自分の明日と自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくる。未来が二倍以上になるのが親になることだよ」
と、目を輝かせる
自分の子どもを持ったこともない森宮さんが精一杯優子を思い、森宮流で、その愛情をストレートに表現する姿に、いっぱい笑わされ、いっぱい泣かされた
次々と回されていったバトンは、最後、早瀬君と優子が作り出す大きな未来へと渡された
自分じゃない誰かのために毎日を費やすことは、その人だけではなく自分をも幸せにすることを教えてくれる
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『-子どもは親を選べない- 親を選べないなんて不幸だという意味だろうけど、親を選ばないといけない場に立つのだって、苦しい。』こんな悩みと向き合わなければならない主人公・優子。父親が3人、母親が2人、どうやったらそういう計算になるのだろうという複雑な家庭環境を背景に物語はスタートしました。
陸上のトラック競技で唯一の団体種目であるリレー。複数の人間が繋いでバトンをスタートからゴールへと届ける種目です。個々の力が全てであるトラック競技の中で複数の人間がバトンをゴールに送り届けるために、割り当てられたそれぞれの立ち位置で必要な役割を果たしていくことが求められます。オリンピックで日本チームがそのバトンの受け渡しの場面に注力し、それを如何に確実にするか、如何にスムーズに行うかに重きを置くことで成果を出したことが強く印象に残っていますが、この作品では優子に関わることになった5人の『親』がそれぞれに与えられた役割を果たし、丁寧に次に繋いでいく姿が描かれていました。多感な年頃でもある優子の人生を途切れさせることなく如何にスムーズに次に繋いでいくか、そして自身に求められている役回りはなんなのか、それぞれの立場で自問しながらも次の走者のことを、そして何よりもバトンが無事にゴールに送り届けられることを願って走り続けます。
一方でこの作品でのバトンはモノではなく人間・優子です。バトンも心を持っています。そんなバトンが自分を受け渡ししてくれる走者を思いやります。『思い出の中でしか会えない人が増えて行く。だけど、いつまでも過去に浸っていちゃだめだ…。』、でもこんな境遇にいつも優等生でいることなどできません。『誰が親だといいのか。そんなのわかるわけがない。』そう、こんな想像を絶する状況を第三者的に冷静に分析することなどできるはずがありません。『今より大事にすべき過去など一つもないのだから。』優子はそれぞれの走者と共に走る時間を何よりも大切にするようになります。過去の想い出に心囚われても、過去の幸せに夢を見ても何も始まらない、進まないからです。バトンを繋ぐリレーとはそういう競技だからです。
思えばこの小説の世界だけでなく、この世はありとあらゆるところでリレーのようなバトンの受け渡しが行われているんだ、と思い至りました。目の前で事故が起こって誰かが倒れるのを見た瞬間、その誰かの命を繋ぐリレーが始まります。救急車を呼ぶ人、電話を受ける人、救急隊員、病院に辿り着いてもそれぞれのプロが自身のベストを尽くして命のバトンを繋いでゆく。この作品を読むまでそんな風に考えたことはありませんでした。この世は、こうしている間にもどこかで大切にバトンは受け渡されていく。改めて人間社会って凄いなと思いました。
優子の『親が苦手って、そんな人いるの?』という、彼女の境遇からくる淡々とした生き方、考え方もあって物語は見た目静かに進んで行きます。走者はバトンを渡した後は、次の走者の走りを暖かく見守るだけ、決して手を出すことはありませんし、手を出すことはルール違反です。でもみんなバトンのことを忘れたりはしません。自身の役割が終わった後もバトンの受け渡しをずっと見守り、心の中でバトンが未来に受け渡されていくことに声援を送り続けます。
だからこそ、作品の最後で瀬尾さんが書かれた一文が深いところに響いてきました。
読み終えて、自分というバトンを今日まで繋いできてもらったことへの感謝の気持ち、そして今度は自分が明日にバトンを繋いでいくんだという自覚の芽生え、自分の周りに見えていた景色が少し変わったようなそんな気がします。
とても素敵な作品に出会えました。ありがとうございました。 -
なんだろう、なんだろう、なんでこんなに胸がいっぱいなんだろう。
優子ちゃんも松宮さんも、梨花さんも泉ケ原さんも、そして水戸さんも、みんなみんなみんな大好きだ。どうしてこんなにみんないい人なんだ。こんなにも誰かのために自分を差し出せる人ばかりなんだ。全日本いい人選手権大会を開いたら、このメンバーば絶対に入賞するよ。それくらいいい人ばかり。でもそのいい人加減がそれぞれに違っててそれがまた心地よくて。
あぁ、そうか。4人の大人たちがみんないい人なのは、そのいい人さを使いたくなるのが優子ちゃんだからなんだな。
実の両親の手から離れ、他人と家族として生きていかなきゃならなくなった彼女が身に付けたもの。それが大人にとっては無条件で彼女のために何かをしてあげたいって思わせるんだろうな。誰かと暮らしてもまた自分は一人になってしまうかもしれない。だから誰かに過剰に依存しない、クールにある程度の距離を保って親しくしていく。そんな彼女はそりゃ、放っておけないわね、オトナとして。
いや、でも誰もが彼女と暮らすことを楽しんでいるんだよね。義理と義務とか、そういうのじゃない。とにかく彼女と一緒に暮らしたいという思い。そこがすごく心に染みる。特に森宮さん!森宮さんの「父親」っぷりが楽しくて楽しくて。真面目で傲慢で一生懸命で真摯で優しくて温かくて。いやもうサイコーじゃないですか。こんな人がいたら即結婚しますわ、私。とにかく森宮さんと優子ちゃんのやりとりをにやにやしながら読んでいるのがすごくすごく楽しかった。
家族っていいなぁ、と心から思う。血の繋がりなんてどうでもよくなる。そもそも家族ってのは赤の他人が2人で作り出すものなんだから。一緒にいること。一緒にいたいと思う事。それが家族の基本。家族の在り方としてはとてもレアな形だけれど、だけれど、この「家族」はサイコーだ。家族との関係に悩む人がいたら、これを読むといい。悩むってことはなんとかしたいと思っているからだから。家族であるために、彼女たちがなにをどうしていたか。あぁ、いやいやいやいや、そんなこと考えながら読むことない。ただただ優子ちゃんと森宮さんのまじめでおかしなやりとりをにやにやしながら読めばいい。読み終わったときにきっと胸の奥に小さくて温かい何かがあるはず。それが家族のタネだね、きっと。 -
やだ、なんなの、凄くいいお話なんだけど~
今年の中で1番良かったと言ってもいいくらいに。
とっても心の中が温かくなったよ。
優子ちゃんみたいないい子は本当にいるかな~
実は私も4回苗字変わったけど(4回目は結婚して)、
突然他人が身内になるって抵抗あったし最後まで心は開けなかったよ。
優子ちゃんの周りの大人たちは、みんないい人で本当に良かったよ。
結婚式にはお父さんも来てくれて感動しました。
本当はちゃんと一緒に暮らして欲しかったけど、梨花さんの愛が大き過ぎたのね。
森宮さんもね。何でだろう?本当の子供じゃないのに。そう考えたら不思議な話なんだけど、素敵なお話にまとまっててとっても良い。 -
なかなかあり得ないハチャメチャ設定だけれどもラストは...泣けます! さすが本屋大賞受賞作品。それぞれの親のカタチ...血縁がなくても繋がれる。娘が旅立つとき、私はバトンを渡せるのだろうか...。
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瀬尾まいこ氏の作品は ファンタジー領域にある。
さりげない日常を切り取ったようでありながら、登場人物はいい人で いい人と巡り合って 平凡だが幸福な時間がそこにある。
『そして、バトンは渡された』
これなんて その際たるもの。
幼い頃に病気で母を失った優子だが、さまざまな事情で次々に交替していくどの親にも大事にされ、芯が強くモノに動じない現代的で生き生きとした女性に育っていく。
もうカンペキすぎ、ありえない(笑)
でも、道徳本のカンペキとはちょっと違う。
このふんわりと優しいお話の向こうには 強い願いと信念が くっきりと見える。
一人の子供がちゃんと成人するまでには それだけの育てる者の覚悟とエネルギーが必要なんだよ。
それは地味な毎日の積み重ねだけれども なかなか大したことなんだよ、と。
我慢も必要、努力も必要。
でも、それを唱えちゃうのは全体主義者のやること。どうすればたくさんの人に "やってみせるように”伝えられるか。
その手法が小説なんだろう。
よかったのはピアノ関連のところ。
優子は合唱祭のピアノ伴奏をする。
恒常的にピアノをさらっているわけではない彼女でも 練習すれば弾けそうな曲が選択されている。
森宮さんにプレゼントする曲も(え?ムリでしょ?)とは思わせない曲。
そういう地に足がついたディテイルが良い。
早瀬くんがピアノについて迷う時間も良い。
アートとしての演奏と、聴衆を楽しませるための演奏と、くっきり分けることはできない。
それでも、自分はなんのためにピアノを弾くのか?という問いと向き合うことは、将来にいきづまるピアノ・サイボーグをつくらないための課題。
動機を掘り下げることを厭う傾向が強い日本の教育への問題提起とも言えるかもしれない。
著者プロフィール
瀬尾まいこの作品






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夕べ、『傑作はまだ』も読了しましたが、すごく、よかったです。やっぱりほっとできる作品でした。
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