極夜行

著者 :
  • 文藝春秋
4.10
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本棚登録 : 1118
レビュー : 142
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907987

作品紹介・あらすじ

探検家にとっていまや、世界中どこを探しても”未知の空間“を見つけることは難しい。大学時代から、様々な未知の空間を追い求めて旅をしてきた角幡唯介は、この数年冬になると北極に出かけていた。そこには、極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間があるからだ。極夜――「それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い漆黒の夜である。そして、その漆黒の夜は場所によっては3カ月から4カ月、極端な場所では半年も続くところもある」(本文より)。彼は、そこに行って、太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのかを知りたかった。その行為はまだ誰も成し遂げていない”未知“の探検といってよかった。シオラパルクという世界最北の小さな村に暮らす人々と交流し、力を貸してもらい、氷が張るとひとりで数十キロの橇を引いて探検に出た。相棒となる犬を一匹連れて。本番の「極夜の探検」をするには周到な準備が必要だった。それに3年を費やした。この文明の時代に、GPSを持たないと決めた探検家は、六分儀という天測により自分の位置を計る道具を用いたため、その実験や犬と自分の食料をあらかじめ数カ所に運んでおくデポ作業など、一年ずつ準備を積み上げていく必要があった。そしていよいよ迎えた本番。2016年~2017年の冬。ひたすら暗闇の中、ブリザードと戦い、食料が不足し、迷子になり……、アクシデントは続いた。果たして4カ月後、極夜が明けた時、彼はひとり太陽を目にして何を感じたのか。足かけ4年にわたるプロジェクトはどういう結末を迎えたのか。読む者も暗闇世界に引き込まれ、太陽を渇望するような不思議な体験ができるのは、ノンフィクション界のトップランナーである筆者だからこそのなせる業である。

感想・レビュー・書評

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  • "いったい自分はどこにいるのか。私は夢幻境を彷徨っているような気持ちになってきた。今は下っているように思えるが上っているのかもしれず、右手側が地形的に高く左手側が低いような気がするが、あるいはその逆かもしれなかった。"

    零下40度、数メートル先しか見えないような極夜に、ただひたすら歩を進める。
    探検の出発地点は緯度77度47分、世界最北の集落であるグリーンランドのシオラパルク 。10月下旬から2月中旬までの4ヶ月近くも太陽が姿を見せない極夜が続く、「極夜的にかなりグレードの高い場所」である(ちなみに北緯69度7分にあるカナダのケンブリッジベイは、極夜期間が1ヶ月ほどで、しかも太陽が地平線近くまで昇るので日中4、5時間は視界のきく明るさがあり、極夜的物足りなさを覚えたのだとか)。
    長く続いた極夜の日の出を見たい、本物の太陽を見たいという気持ちからここを探検地として選んだ。また、前人未踏の空白地帯はもう存在しないが、極夜探索を目的とする探検は今までなかった…そんな理由もあるらしい。

    角幡さんは変わった人だと前から思ってはいたけど、一日中太陽昇らない極夜に惹かれ、わざわざ極夜の時期に北極圏を探検しようというのだから、やはり常人の思考ではない。
    私なんて、日が短い季節が嫌いで、秋頃から憂鬱な気分になるし、11月から12月(ちょうど今!)は早く過ぎ去って欲しいと思っているのに。
    しかし、極夜を探検しようという発想は全くわからなかったけど、意気込んで挑んだ極夜行で不眠となり、胃痛など心身の不調を覚え、日中は落ち込んだ気分のままやる気が起きない、現地イヌイットにも見られる極夜病の症状に苦しむあたりはすごく共感できた。なんせ読むだけで極夜病になりそうだったし(笑)

    さて、この極夜行は、十分な期間をかけて準備してきた探検だったはずが、度重なるブリザードにテントごと吹き飛ばされそうになったり、あらかじめ運んで貯蔵していた食糧のデポが白熊に襲われ消滅していたり、月明かりに幻惑され獲物のいない奥地まで誘われたり、犬と共に飢餓状態に陥ったり…、幾度となく死の危険が訪れる。
    パートナーである犬との関係は、極めて原始的。名前は呼ぶ時に出てくるくらいで、地の文はずっと「犬」。痛々しいまでに健気で頑張り屋なのだけど、あくまでも主従関係がある。餌が足りなくなり痩せ衰える犬に悲哀を感じ、なんとか獲物をとろうと努力する一方で、飢餓が極限まで達したときには自分の食糧となることを妄想している。なんとか食われませんようにと犬が心配でたまらず、文章の感じからは多分大丈夫だったのだろうと思いつつも、最後のページで生存確認をしてしまった。

    角幡さんは素敵な写真も撮る方なのに、この本はなぜか写真が全然なかったのは少し残念。最初は撮影隊の同行もあったようなので、何か取り決めがあったのかもしれない。
    でも角幡さんは文章うまいので、この一冊で、極夜の始まりから終わりまで、「極夜感」を味わえる。内容はシリアスだったりコミカルだったりする。
    月明かりに幻惑されて、獲物を求めてどんどん奥の方まで進んでしまうも、全くいない。月に騙された!で思い出すのが敏腕すぎるホステスさんだったり。
    家族との電話では幼児言葉になっていたり。
    テントに打ち付ける大迫力のブリザードの描写を克明に書き連ねていたのに、最後の最後にやってきた最恐のブリザードには「語彙が尽きた。もうあとは想像にお任せ」とばかりに投げてきたり。
    脱システムだ本物の太陽だと思惑をつらつらと綴ってきて、極夜後の曙光を見たらどういうことになるのかなと思ったら、「****(ネタバレとなるため自粛)」と感動しすぎて言葉が抜け落ちちゃったり。
    随所でぷっと笑えます。
    最初の出産シーンはどういう意図で書かれたのだろうと思っていたら、最後につながって、なるほどと思った。

    そうそう、角幡さんはいつの間にか結婚されていたようで、探検中も家族への衛星電話をかけるなど、今までなら絶対しなかったであろうこともするようになり、「脱システム」の中途半端さが、かえっていいなと思った。
    運と決断力と実行力と、どれが欠けても生き残れないような探検に、これからもまた出かけて行くのでしょうが、家族のためにも生きて帰ってほしい。

  • 冒険自体は本当にすごいと思う。何ヶ月も太陽が昇らない極夜が続く北極圏への単独行。何度も危機に陥りながら生還し、太陽を仰ぎ見たときの感慨はいかばかりか、想像を絶するものがある。「生の実感」を追い求める姿に圧倒されてしまう。

    ただ、デビュー作から感じていた違和感が大きくなったというのが正直なところ。何と言うか、「昭和の男」的な、無神経でちょとマッチョな雰囲気が濃厚に漂う。新聞記者臭(オレの問題意識こそ何より大事なことであると迷いなく主張する感じ)もかなりある。

    同じワセダ探検部出身ということでつい比べてしまうのだが、高野秀行さんにはそういう所が全くないなあとあらためて思った。

  • 白夜の反対、数ヶ月間太陽が出ない北極圏の極夜の中を彷徨うという
    超難度の冒険に挑む角幡唯介さんのノンフィクション。

    角幡さんの本は「空白の5マイル」がとにかく最高だったけれど
    あれから時を経て、子供も生まれ、人生観が変わっていく中での
    この冒険はだいぶ意味合いが違うし、それが文体にも現れていて面白い。

    状況は過酷極まるし、ご本人も人生で一度あるかないかの
    冒険の集大成と位置づけているにもかかわらず、
    なんというか軽口を叩くようなノリで書かれている。

    角幡さんはとにかく作家としても素晴らしい表現力を持った方で
    極地での筆舌に尽くしがたい状況でも軽やかに文章にしてしまう。
    それが「空白の5マイル」で存分に発揮されていたのだけど、
    今回の冒険ではその表現の限界点を探るような趣が感じられた。

    とにかく光がずっとないわけで、目の前に豊かな表現ができるような風景は広がっていない。
    延々と夜が続くと人の精神は沈み、感覚も鈍くなっていく。
    そういうなかで、いったい作家は何を書くのか。

    そんな読み手の不安を一笑するような軽妙な語り口で、
    普通の人ならあっという間に死んでしまうような
    数々の絶望的な状況を描き出していくわけだけど、
    旅が終盤を迎え、その表現の引き出しをすべて使い切って、
    もう何も出てこないようなところでついに4ヶ月ぶりの太陽を目撃する。
    このカタルシスをなんと言葉にするのか。
    そこに表現の終着点がある。

    あー、凄さが凄い。


    もちろん冒険譚としてもとても興味深くて、
    太陽の代わりに月明かりを頼りに行動するわけだけど、
    その太陽とは全く違う運行の複雑さに辟易したり、
    距離感を失って、ものの大小も遠近の区別もつかなくなっていったり。
    星々の中に壮大な物語を見たり。相棒の犬を褒めたりけなしたり。
    自分がなぜこの旅をしているのか唐突に悟ったり。

    とかく僕らにとっては当たり前すぎて何かを思うことが難しい
    太陽が登るということの原始的な意味を、
    これ以上掘り下げることは出来ないところまで突き詰める。

    それをエアコンの効いた部屋にいる僕にも伝えてくれるんだから
    ノンフィクションというのは有り難いなあ。

  • ノンフィクション本大賞受賞作品。グリーンランドの最北の村より「極夜」を求めて旅をする。いや、極夜とその後の太陽を求めて。気温はマイナス40度前後、月がないときは全くの光なし。一匹の犬とともに暗闇を進む。ブリザードに襲われ、デポは白熊に荒らされ、何度も死を覚悟する。冒険を描きながらも、太陽と月について、犬について、人間について、心の内を描写する。ユーモアが散りばめられ、固くならずに読めた。途中、キャバクラのエピソードでたとえ話があったりね。周りの風景とともに、彼の人となりも物語の彩りです。地図上で空白のところがない今、極夜を行く冒険、ノンフィクションだと思うとゾクゾクした。よく帰ってこれました。

  • 読書会ですすめられて。
    最高ですわ。ノンフィクションってこんなに楽しいのですね。

    エアコンで温々とした部屋で読みましたが、寒さ、飢え、そして暗さ。文章からヒシヒシと伝わってきました。

  • 新聞記者を辞めてまで探検家の道を歩む著者が2回のチベット行きに続いてセレクトしたグリーンランドの北部に本当の闇と本物の太陽を求めた旅の記。軟弱者の私には冒険家 探検家の気持ちはなかなか理解出来ないけど、自己も含めての本物捜しの道程を歩む方策としての選択なのでしょう! ノンフィクションの良さが伝わってきました。

  • カナダ、シオラパルクをさらに北上したツンドラ地帯というところでは、3ヶ月も4ヶ月も太陽の昇らない"極夜"が存在するという。
    白夜は知っていたのに、恥ずかしながら極夜は知らなかった。太陽が沈まないところがあるなら当然その反対側では太陽が昇らないのだ。
    早稲田探検部OBの著者がその極夜を冒険したという本作は、第一回ノンフィクション大賞を受賞したニュースで知りました。極夜ってなに?!太陽が昇らない?!めっちゃおもしろそう!!と思って、ふだん冒険家のノンフィクションなんて一切読まないのに気になってしょうがなくなりました。
    意識高い系なのかな〜と思っていたら全然。野性味とユーモア溢れる文体で、最後までものすごく面白かったです。
    金と時間と体力を注ぎ込んだデポがことごとく白熊に荒らされてたり、予期せぬブリザードでテントごと吹き飛ばされかけたり、獲物がみつからずウヤミリックと一緒に餓死しかけたり、私がぬくぬく暮らしてる間にこんな冒険をしてる人がいたなんてとても想像できない。すごい。
    ウヤリミックを殺して食べる想像まで及ぶところはあまりにも極限すぎてハラハラした……2人のコンビが可愛くて好きだったから最悪の展開にならなくて良かった……。
    月と太陽の存在がこんなに身近に、生死の中に取り込まれてるってどんな風景なんだろう。太陽がない世界で、月、星、闇、風、氷、犬といった諸要素のひとつひとつに命運を委ねる日々。生きるための手段としての自然。もはや宇宙空間の探検。すごい。
    満月の光を美しすぎる八戸市議にたとえたり、刻々と欠けていく様子をクラブOのナンバーワンキャストAにたとえたり、生きるか死ぬかの状況を面白おかしく書いているギャップがたまらなく面白かった。ハプニングや計画通りにいかないのが冒険で、その冒険を楽しんでいるのがよく伝わってきます。
    そうして極夜行も終わりを迎えて、ようやく目にした太陽の姿が出産と重なるのは、これ以上ないほどぴったり。
    読んでいて私も角幡さんと同じように、すごい、でかい、あったかい太陽を感じているような気がしました。

    とにかくとても面白く、興味深く、物語を読んでいる時とはまた違う五感を使った読書ができました。
    冒険ってすごい。

  • 極夜という、究極の「闇」の世界を経験し、その果てに「太陽」を見た時、何を思うのか。

    筆者はこの問いに答えを出すため、「人生をかけた冒険」に出発します。
    事前に準備していた中継地点のデポ(食料や燃料の備蓄)が白クマに食い荒らされていたり、冒険の最初にブリザードによって六分儀を失ったり(このため、正確な現在地を割り出すことが困難になった)するなど、逆境に次ぐ逆境が襲い掛かる中、圧倒的な自然の中で数多くの発見に至ります。

    冒険の物語としても、極地の過酷な環境を描いたノンフィクションとしても、また人間の原初的な「生き方」や「本質」についての思想書としても読むことのできる、とても濃密な読書体験でした。

  • オープニングのシーン、必要か!?と最初は思ったが、極夜行がクライマックスに近づくにつれ、その必要性が嫌と言うほど分かった。
    緊張の連続を強いられる極限状況での、犬とのやり取りは程よく力を抜いてくれて、楽しく最後まで読み進められた。
    極夜行を追体験してみたい方は是非一読をオススメする。

  • 高緯度の冬になると、数カ月間、太陽は昇ることがなく、極夜と呼ばれる闇の時間が続く。著者は、GPSや電子コンパスなど最新グッズを使わず、そんな北極の極夜の旅に出かける。

    なぜ、そんな旅をするのか。現代社会システムの外をしばらく体験した後、久しぶりに昇る太陽を見たいから。そのときの自分の感情を知りたいから。と、著者は語る。

    生まれたばかりの娘と妻を残し、何度も日本と北極を往復して訓練と準備を重ね、自腹で機材や食料を揃える。他人から見れば、正気とは思えないが、これこそが冒険家の精神なのだ。「そこに山があるから」としか説明できない。

    極夜に挑む著者のパートナーは一匹の大型犬。ほぼ全編、暗闇と強力なブリザードの中、盛り上がるのは著者と犬との交流だ。著者の排便を好んで食べるカストロ犬はついに脱糞中の著者の肛門に突撃する。そんなエピソードの一方、食糧難に陥った著者は帰路の食料に犬肉を計算に入れる。

    極夜から昇る数カ月ぶりの太陽を見ることもいいが、犬を食べるのか、食べないのか。そこも大きな見せ場。

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著者プロフィール

角幡唯介

1976年北海道生まれ。作家、探検家、極地旅行家。早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中は探検部に所属。『空白の五マイル』(2010年、集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。『雪男は向こうからやって来た』(2011年、集英社)で第31回新田次郎文学賞受賞、『アグルーカの行方』(2013年、集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞受賞、『探検家の日々本本』(2015年、幻冬舎)で第69回毎日出版文化賞書評賞受賞、『極夜行』(2018年、文藝春秋)で本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞、大佛次郎賞を受賞。著書はほかに『漂流』(2016年、新潮社)、『極夜行前』(2018年、文藝春秋)、『探検家とペネロペちゃん』(2019年、幻冬舎)など多数。

「2020年 『そこにある山 結婚と冒険について』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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