極夜行

著者 :
  • 文藝春秋
4.11
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本棚登録 : 767
レビュー : 98
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163907987

作品紹介・あらすじ

探検家にとっていまや、世界中どこを探しても”未知の空間“を見つけることは難しい。大学時代から、様々な未知の空間を追い求めて旅をしてきた角幡唯介は、この数年冬になると北極に出かけていた。そこには、極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間があるからだ。極夜――「それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い漆黒の夜である。そして、その漆黒の夜は場所によっては3カ月から4カ月、極端な場所では半年も続くところもある」(本文より)。彼は、そこに行って、太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのかを知りたかった。その行為はまだ誰も成し遂げていない”未知“の探検といってよかった。シオラパルクという世界最北の小さな村に暮らす人々と交流し、力を貸してもらい、氷が張るとひとりで数十キロの橇を引いて探検に出た。相棒となる犬を一匹連れて。本番の「極夜の探検」をするには周到な準備が必要だった。それに3年を費やした。この文明の時代に、GPSを持たないと決めた探検家は、六分儀という天測により自分の位置を計る道具を用いたため、その実験や犬と自分の食料をあらかじめ数カ所に運んでおくデポ作業など、一年ずつ準備を積み上げていく必要があった。そしていよいよ迎えた本番。2016年~2017年の冬。ひたすら暗闇の中、ブリザードと戦い、食料が不足し、迷子になり……、アクシデントは続いた。果たして4カ月後、極夜が明けた時、彼はひとり太陽を目にして何を感じたのか。足かけ4年にわたるプロジェクトはどういう結末を迎えたのか。読む者も暗闇世界に引き込まれ、太陽を渇望するような不思議な体験ができるのは、ノンフィクション界のトップランナーである筆者だからこそのなせる業である。

感想・レビュー・書評

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  • 冒険自体は本当にすごいと思う。何ヶ月も太陽が昇らない極夜が続く北極圏への単独行。何度も危機に陥りながら生還し、太陽を仰ぎ見たときの感慨はいかばかりか、想像を絶するものがある。「生の実感」を追い求める姿に圧倒されてしまう。

    ただ、デビュー作から感じていた違和感が大きくなったというのが正直なところ。何と言うか、「昭和の男」的な、無神経でちょとマッチョな雰囲気が濃厚に漂う。新聞記者臭(オレの問題意識こそ何より大事なことであると迷いなく主張する感じ)もかなりある。

    同じワセダ探検部出身ということでつい比べてしまうのだが、高野秀行さんにはそういう所が全くないなあとあらためて思った。

  • 白夜の反対、数ヶ月間太陽が出ない北極圏の極夜の中を彷徨うという
    超難度の冒険に挑む角幡唯介さんのノンフィクション。

    角幡さんの本は「空白の5マイル」がとにかく最高だったけれど
    あれから時を経て、子供も生まれ、人生観が変わっていく中での
    この冒険はだいぶ意味合いが違うし、それが文体にも現れていて面白い。

    状況は過酷極まるし、ご本人も人生で一度あるかないかの
    冒険の集大成と位置づけているにもかかわらず、
    なんというか軽口を叩くようなノリで書かれている。

    角幡さんはとにかく作家としても素晴らしい表現力を持った方で
    極地での筆舌に尽くしがたい状況でも軽やかに文章にしてしまう。
    それが「空白の5マイル」で存分に発揮されていたのだけど、
    今回の冒険ではその表現の限界点を探るような趣が感じられた。

    とにかく光がずっとないわけで、目の前に豊かな表現ができるような風景は広がっていない。
    延々と夜が続くと人の精神は沈み、感覚も鈍くなっていく。
    そういうなかで、いったい作家は何を書くのか。

    そんな読み手の不安を一笑するような軽妙な語り口で、
    普通の人ならあっという間に死んでしまうような
    数々の絶望的な状況を描き出していくわけだけど、
    旅が終盤を迎え、その表現の引き出しをすべて使い切って、
    もう何も出てこないようなところでついに4ヶ月ぶりの太陽を目撃する。
    このカタルシスをなんと言葉にするのか。
    そこに表現の終着点がある。

    あー、凄さが凄い。


    もちろん冒険譚としてもとても興味深くて、
    太陽の代わりに月明かりを頼りに行動するわけだけど、
    その太陽とは全く違う運行の複雑さに辟易したり、
    距離感を失って、ものの大小も遠近の区別もつかなくなっていったり。
    星々の中に壮大な物語を見たり。相棒の犬を褒めたりけなしたり。
    自分がなぜこの旅をしているのか唐突に悟ったり。

    とかく僕らにとっては当たり前すぎて何かを思うことが難しい
    太陽が登るということの原始的な意味を、
    これ以上掘り下げることは出来ないところまで突き詰める。

    それをエアコンの効いた部屋にいる僕にも伝えてくれるんだから
    ノンフィクションというのは有り難いなあ。

  • ノンフィクション本大賞受賞作品。グリーンランドの最北の村より「極夜」を求めて旅をする。いや、極夜とその後の太陽を求めて。気温はマイナス40度前後、月がないときは全くの光なし。一匹の犬とともに暗闇を進む。ブリザードに襲われ、デポは白熊に荒らされ、何度も死を覚悟する。冒険を描きながらも、太陽と月について、犬について、人間について、心の内を描写する。ユーモアが散りばめられ、固くならずに読めた。途中、キャバクラのエピソードでたとえ話があったりね。周りの風景とともに、彼の人となりも物語の彩りです。地図上で空白のところがない今、極夜を行く冒険、ノンフィクションだと思うとゾクゾクした。よく帰ってこれました。

  • 新聞記者を辞めてまで探検家の道を歩む著者が2回のチベット行きに続いてセレクトしたグリーンランドの北部に本当の闇と本物の太陽を求めた旅の記。軟弱者の私には冒険家 探検家の気持ちはなかなか理解出来ないけど、自己も含めての本物捜しの道程を歩む方策としての選択なのでしょう! ノンフィクションの良さが伝わってきました。

  • カナダ、シオラパルクをさらに北上したツンドラ地帯というところでは、3ヶ月も4ヶ月も太陽の昇らない"極夜"が存在するという。
    白夜は知っていたのに、恥ずかしながら極夜は知らなかった。太陽が沈まないところがあるなら当然その反対側では太陽が昇らないのだ。
    早稲田探検部OBの著者がその極夜を冒険したという本作は、第一回ノンフィクション大賞を受賞したニュースで知りました。極夜ってなに?!太陽が昇らない?!めっちゃおもしろそう!!と思って、ふだん冒険家のノンフィクションなんて一切読まないのに気になってしょうがなくなりました。
    意識高い系なのかな〜と思っていたら全然。野性味とユーモア溢れる文体で、最後までものすごく面白かったです。
    金と時間と体力を注ぎ込んだデポがことごとく白熊に荒らされてたり、予期せぬブリザードでテントごと吹き飛ばされかけたり、獲物がみつからずウヤミリックと一緒に餓死しかけたり、私がぬくぬく暮らしてる間にこんな冒険をしてる人がいたなんてとても想像できない。すごい。
    ウヤリミックを殺して食べる想像まで及ぶところはあまりにも極限すぎてハラハラした……2人のコンビが可愛くて好きだったから最悪の展開にならなくて良かった……。
    月と太陽の存在がこんなに身近に、生死の中に取り込まれてるってどんな風景なんだろう。太陽がない世界で、月、星、闇、風、氷、犬といった諸要素のひとつひとつに命運を委ねる日々。生きるための手段としての自然。もはや宇宙空間の探検。すごい。
    満月の光を美しすぎる八戸市議にたとえたり、刻々と欠けていく様子をクラブOのナンバーワンキャストAにたとえたり、生きるか死ぬかの状況を面白おかしく書いているギャップがたまらなく面白かった。ハプニングや計画通りにいかないのが冒険で、その冒険を楽しんでいるのがよく伝わってきます。
    そうして極夜行も終わりを迎えて、ようやく目にした太陽の姿が出産と重なるのは、これ以上ないほどぴったり。
    読んでいて私も角幡さんと同じように、すごい、でかい、あったかい太陽を感じているような気がしました。

    とにかくとても面白く、興味深く、物語を読んでいる時とはまた違う五感を使った読書ができました。
    冒険ってすごい。

  • 著者によれば「空白の5マイル」の続編がやっと書けたとのこと。

    おちゃらけた文体だが、全くの暗闇の中、月明かりと一頭の犬だけを頼りに歩き続けることの何と過酷なことか。
    ましてや旅の始めに特製の六分儀をなくし、食料のデポは白熊に食い荒らされ、凶悪なブリザードに何回も襲われるとなれば。

    極限体験を家にいながら疑似体験できる読書のありがたみを、つくづく感じる。

  • 太陽が全く昇らない極夜の時期に犬一匹とソリを引きながら旅をする。
    氷河を吹き降ろすブリザード。GPSなどに頼らない、昔ながらのルート確認。食糧の問題。

    月が出る期間があるとはいえ、極夜の時期は地元の住民でもメンタルが弱くなるという。
    そんな時期に大自然を冒険するのは酔狂としか言いようがないが、想像もできない世界がテンポよく語られてぐいぐい読み進めてしまった。
    南極に行くのは宇宙に行くより難しいという話を聞いたことがある。
    極夜の世界も同じだと思った。もちろん宇宙に行くことも難しいが。
    自分では経験できない世界を垣間見る、これぞ読書の醍醐味だ。

    太陽の恵みと文明の利器の中で安全に暮らすシステムから脱却を目指し、アナログな方法で極夜を体感する旅に出る。でも衛星電話は持っている。
    その矛盾にも触れられているが、全く別物だと思っていた家族を持つということと一人と一匹で暗闇を旅するということにつながりがあったというのが面白かった。

    過酷な状況の中、小さな幸運が積み重なりかろうじて生還したようにも思える。
    だがこの小さな幸運をつかみ取る判断力と経験が冒険家に必要なのだろう。

    写真は冒頭の薄明かりの中の美しいものが1枚だけだ。
    私は飢えたこともないしブリザードを経験したこともない。
    せいぜい吹雪いたスキー場でヘトヘトになりながらロッジに戻ったくらいである。
    それでも見たことのない絶景をなんとなく想像できるくらい引き込まれる文章だった。

    冒険もののノンフィクションはずいぶん昔に本田勝一のものを読んで以来だが、こんな面白いジャンルだったのか! と改めて読書の楽しさを思い出させてくれる一冊だった。

  • 「空白の五マイル」や「雪男は向こうからやってきた」なんかを読んだ時にも感じたことだが、凡人である私にとって、著者が随所で掲げる”脱システム”にまつわる理屈や、行動論理、あるいは感情面での動きなども含めてか、ところどころ反発というか、イマイチ共感できずに違和感を覚え、首を捻ったまま流れてしまう箇所があるにはある。
    やっていること自体は、ものすごい。
    後に「極夜行前」という前日譚も出版されてはいるが、本作中でサラリと書かれている事前の準備からして既に"探検"だし、もちろんこの本番の旅で味わう数々の窮地も恐ろしいことこの上ない。
    闇という根源的な恐怖の対象へ挑みかかった結果、被る心身の異常には、なるほどと頷かされるし、頼りにしていたデポが荒らされていることが分かった場面などは、近所の山に日帰りで出掛けた時に手持ちの水の量が減ってくるだけでドキドキする私からすれば、究極の絶望、死刑宣告以外の何物でもない。
    経験に裏打ちされた著者の自信には素直に舌を巻く。
    とはいっても、いつかこの人、探検中に死んじゃうんじゃないかな…という感覚もまた同時にあるのだが…。
    "思いついてしまった以上、それをやらなければいけない"、こんな強迫観念に憑りつかれてしまう探検家・冒険家という生き物にとって、その衝動こそが生、なのだろう…と想像するより他ない。

    犬とともに暮らす1人の動物好きとしては、極地における犬とのパートナーシップから受ける感銘も忘れられない。
    現地に生まれ育つ者が、生きるために余儀なくされるものとは違い、"探検"という意義を以て敢えて能動的に、語弊があるかもしれないが"道楽"に近いものとしてその環境に飛び込み、結果として巻き込まれる犬の命運には心から同情するし、翻弄されるその在り方に時に泣きそうになる。
    「俺はお前をパートナーにする。だがいざというときはお前のことを食う」、ネイティヴが余計な飾りなしに言った言葉ならばもっと素直に胸中に入ってきたのだろうが、前述のような意味合いもあって、ちょっと複雑な思いで受け止めたり。

    ところどころ挟み込まれる軽い下ネタのような戯言や、エッセイ然とした軽い描写は、端的にサブい、寒過ぎる。
    もちろん著者なりの様々な思いの濾過や他者との議論を経た上で、トータルとしてシリアスな論調の本作にこのような実験的な試みを乗せたのだろうが、結果は明らかな失敗だ、と断定させていただく、残念ながら。

  • まだ途中ですが、冒険モノ面白いです!

  • 2018年の読書生活で1番大好きな本になったのが角幡唯介さんの「極夜行」です。読むきっかけとなったのは本屋大賞ノンフィクション部門にノミネートされていたからです。

    この作品は太陽が地平線から姿を現さない漆黒の夜を月の明るさ星の位置とヘッドライトを頼りに旅するお話です。この脱システム化された世界から何を感じたかを書くことを目的にされたノンフィクションです。

    私が1番心に残った部分は「男という生き物は外側の自然に冒険やロマンを…結局は女のように妊娠出産を通じて肉体の内側でリアルな自然、リアルな生と死を経験できないかららではないか。」つまり、女は自然を経験できるが男は(女性ほど)できないとここに尽きると考えました。

    この作品を読み進めるにつれ(詳しく読んだ経験もないのですが、)紀貫之さんの土佐日記を思い出します。男性が女性の気持ちで書き女流文学の発達に大きな影響を与えた作品です。

    この本・著者に出会って、私がもし本を書くのであれば「極夜行」に向けて(おこがましい話ではありますが)「ありがとうございます」を表現できる本を書きたいなと考えるほど前進できた読書体験となりました。

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著者プロフィール

角幡 唯介(かくはた ゆうすけ)
1976年、北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。同社退社後、ネパール雪男捜索隊隊員。『空白の五マイル』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社)で講談社ノンフィクション賞受賞。

「2014年 『地図のない場所で眠りたい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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