海を抱いて月に眠る

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 98
レビュー : 15
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908120

作品紹介・あらすじ

親戚にも家族にも疎まれながら死んでいった在日一世の父。だが、通夜には、人目もはばからず棺にすがりつく老人、目を泣きはらした美しい女性など、子どもたちの知らない人びとが父の死を悼んでいた……。父の遺品の中から出てきた一冊のノート。そこには家族も知らなかった父の半生が記されていた。ノートから浮かび上がる父の真実の姿とは。そして子供たちに伝えたかったこととは?深沢潮さんは、2013年『ハンサラン 愛する人びと』で単行本デビュー。在日朝鮮人をテーマにした作品を次々に発表し話題を呼んでいます。本作は、日本海を泳いで渡ってきた(!)深沢さんの父親のエピソードを元に書き上げられました。深沢さんは、幼心になぜ戸籍にある父親の誕生日と、実際の父親の年齢が違うのか、たまに家族と食事を共にする身なりのいい韓国人は誰なのか不思議に思っていたと言います。その疑問に父親は答えることはありませんでしたが、ここ数年ポツリポツリと自分の過去について娘に語るようになりました。その一つ一つのエピソードは驚きに満ちていて、父は娘の想像を遥かに超える人生を送っていたことが明らかになりました。父親の話を知られざる過去の話を聞くことで、初めて父を理解できた気がする、と深沢さんは語っています。祖国を逃げ出し、日本では偽名で暮らすことを余儀なくされ、しかも常にKCIAの監視を受けていたそう。そのような境遇にありながら、一代で財を成した男の半生に、胸を打たれずにはいられません。家族とは何か? 在日とは何か? デビュー以来追い続けてきたテーマが結実した一世一代の勝負作です!

感想・レビュー・書評

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  • 在日1世である父は、家族には厳しく親族からも疎まれていた。だが、そんな父の通夜では、人目も憚らず柩にすがりつく老人、泣きはらした女性が父の死を悼んでいた。父はどんな人生を歩んできたのか・・・
    日本国籍をとり日本名で生きてきた息子・文山鐘明と韓国人であることの誇りを失いたくないと韓国名で生きてきた娘・文梨愛は父の死後、遺された手記を読んで名前も誕生日も偽って暮らしていた父の壮絶な生き様を知る。これは、在日韓国人の作者の実体験に基づく物語である。

    この本を読んで、今まで身近にいた在日の人たちについて、自分が何も知らなかったことを思い知った。
    在日1世、2世、3世と立場が違うとまた、生き方も様々であること、家族の中でも色々な考え方があること、それが、家族の軋轢になることもあること。。。
    だけど、それだからこそ「民族の誇り」というものを強く持ち続けているのかもしれない。
    日本に生まれ、日本に育ち、一時期アメリカに占領されたものの、国家分断もされず、民族を分かたれたこともない戦後日本の我々には持ちえないその誇りを、この作品の登場人物すべてに感じ、強く心を揺さぶられた。

    ニュースとして言葉だけは知っていた「金大中事件」や、韓国の民主化運動など、興味深い歴史も垣間見ることができて次のきっかけになる読書でした。

  • 梨愛の老父が亡くなった。
    朝鮮に生まれ、朝鮮人の誇りを持ちながらも、日本に移り住んでからは日本名を名乗って暮らし、頑固で、家族に理解されないままに生きた男だった。

    父親の激動の生涯を死後に知る娘と息子の現代のフェーズと、若き父が朝鮮から密航して日本へと向かう過去のフェーズが交互に描かれる。

    読んでいて、隣国であり外交問題でもよくニュースにあがる韓国、朝鮮半島の戦後の歴史を自分がまったく知らなかったことに驚いた。
    南北の対立とか、朝鮮特需とか、学校で通り一遍は学んだはずだけれども、こんなに辛く、凄まじい時代があったのかと改めて愕然とする。

    現代の、韓流ドラマやK-POP、ソウルの繁華街といったイメージからはまるで想起できない暗く重い歴史に、そしてその歴史に日本も関わっていたということや、それらの歴史を日本サイドの見方ですら学校で詳しく学んだ覚えがないということに、現在の日韓関係の溝のはじまりを知ったような気がした。

    自分の世代では、在日、とか、朝鮮、という言葉がかつて抱いていた負の意味も歴史も徐々によくわからなくなっているけれど、そうなるまでにどれだけの衝突や慟哭があったのか。
    そして今もなお、複雑な思いを抱えて生きている人がどれだけいるのか。

    雄鶏のように生きようとした一人の男の生涯を通して、日韓の歴史に触れる、そんな一冊だった。

  • 祖国を想い、活動に身を投じる気持ちの根元は、自らのアイデンティティーへの希求に他ならなかったのだろう。偽名で生きざるを得なかった悔しさはどれほどのものだろうか。
    僕は今までまったく何も知らず、知ろうともしなかった。それに、ここに書かれていることだけで知った気になるのも違うとは思う。でも、だからといってことさらに探って知る必要はなく、その事実が目の前にあった時に、なるほどそういう立場もあるのだな、と理解できる分別と見識を持ち合わせていたいな、と感じた。

    作中に、信頼できる日本人がまるで登場しないのが悲しかったな。

  • どんな話かは、だいたい聞いていたから、重そうだなと思い、なかなか本を開く気に慣れなかったんだけどさ。でも、読み始めたら、ほぼいっきに読み終えてしまった。小説を読むとは代理体験をすること、と聞いたことがある。ひとりの、近いけれど遠い、そして重くつらくもある人生をかいまみたような気がする。

  • フィクションという形はとっているが、史実をもとにして書かれているので、ぼんやりとしか知らなかった朝鮮半島の戦後から最近まで歴史がよくわかった。恥ずかしいけど、金大中拉致事件ってこういう背景で起こったなんて全然知らなかった。読めてすごく良かったと思う。

  • 父の葬儀に現れ嘆き悲しむ見知らぬ男女。
    在日一世として生きてきた父にはどんな秘密があったのか…

    故郷と本名を捨て密航して日本に渡った三人の若者。
    彼らを待っていた過酷な戦後混乱期の日本、そして祖国の分断。
    その中でたくましく生き抜いてきた在日韓国人朝鮮人たちが描かれる。

  • 著者の父親の経歴をもとにした小説。梨愛の父親が死んだ。90歳だったので世間的には大往生だ。秋夕(추석)の餅菓子(송편)を喉に詰まらせて亡くなったという。いつも早く食べて喉に詰まらせる癖があった父だ。韓国のしきたりにはうるさい父だったが、外に対しては日本人としてふるまってきた。そして文山徳允の通称名で生きてきた。父の葬儀に見知らぬ美しい女性が来て泣いていた。いったい誰だろう?父との関係は?また葬儀の終わりごろに80歳は過ぎているような老人が柩に取りついて泣いていた。アイゴー(아이고)、アイゴー。韓国語で、日本人にされちまって!と喚き散らしていた。一体あの女性は誰なのか?この老人は誰なのか?知っていた父とは違う父がいたのだろうか?梨愛は、まず弔問に来ていた女性に連絡を取ってみた…。そして自分たちの知らない父の半生が見えてくる。祖国と日本との間で翻弄され、過酷な半生を生きてきた在日一世の人生。

  • 在日朝鮮人の視点からみた戦後史。

  • 気難しかった在日韓国人の父の葬儀の際に、父の死を悲しむ見ず知らずの女性と、棺にすがりつくように泣く老人の姿があった。
    彼らは誰なのか。
    家族の知らなかった父の本当の姿とは。…

    在日韓国人の著者の父の経験を元にした作品とのこと。
    驚きと感動と、自分の不勉強とで、複雑な気持ちになりました。

    不器用なお父さんが生きているうちに、2人の子供が事実を知れれば良かったのにと思いましたが、実際には、著者がお父様の話を聞くことが出来た為この作品が生まれたのですから、そこは良かったのですね。

    朝鮮半島や在日韓国人の歴史など、私自身がまだまだ知らなけらばいけないことはたくさんあると思いました。

  • とってつけたような従軍慰安婦を匂わすエピソードに違和感というか不快感をおぼえはしたが、全体としては、胸を打つ内容である。

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著者プロフィール

深沢潮(ふかざわ・うしお)
66年東京都生まれ。2012年「金江のおばさん」でR-18文学賞受賞。13年『ハンサラン 愛する人びと』でデビュー。他の著者に『ランチに行きましょう』『ひとかどの父へ』『緑と赤』『ママたちの下克上』など。

「2020年 『黒い結婚 白い結婚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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