知性は死なない 平成の鬱をこえて

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 219
レビュー : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908236

作品紹介・あらすじ

世界史の視野から、精緻に日本を解析した『中国化する日本』で大きな反響を呼んだ筆者。一躍、これからを期待される論客となりましたが、その矢先に休職、ついには大学を離職するに至ります。原因は、躁うつ病(双極性障害)の発症でした。本書では、自身の体験に即して、「うつ」の正しい理解を求めるべく、病気を解析し、いかに回復していった過程がつづられています。とともに、そもそも、なぜこんなことになってしまったのか、と筆者は、苦しみのなかで、自分に問いかけます。ーー自分を培ってきた「平成」、その30年の思潮とは何だったのか。いま大学は、「知性」を育む場となりえているのか。喧伝される「反知性主義」は、どこから始まったのか。なぜ知識人は敗北し、リベラルは衰退したのだろうーー一度、知性を抹消された筆者だからこそ、語れることがあるのです。病を治すのも、また「知」なのだ、と。これから「知」に向かおうとするすべての人に読んでほしい、必読の一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • 読後感の著者の印象は、真摯な方だなと。
    こういう人が、まだインテリの中にいるんだな、少し驚きました。
    非常に自分の能力を客観的に見ているというか、
    その見方は、やはり、学問で培ったものかもしれません。

    非常に、著者の人柄に、好感を持つことができました。
    新進気鋭の学者だったので、著者の論文というよりも、
    一般書に目が行っていましたが、
    機会があれば、著者の論文にも目を通したいと思いました。

    大学は、著者曰く、また、多くの人が思っているように「斜陽産業」です。
    恐らくは、これから、淘汰と合併を繰り返して、あと20年もしないうちに数割は、
    無くなるでしょう。

    また、昨今発表された科学技術白書を見れば、
    一目瞭然、日本の研究・学問の凋落は明白です。
    一部の良心ある方は、指摘をしていますが、日本の教育機関は、
    学問や教育を行う場所ではなくなっているかもしれません。
    この著作の中にも、えっ、これが、大学人の話すこと、考えていることなのと、
    思われる個所が多数あります(著者の発言内容ではありません、著者が見た、
    教授会だったり、大学運営側の姿勢です)。

    現在、あの手をこの手を使って、
    国内、国外関わらず、学生を集めていますが、
    この本を読む限り、学校運営している職員側や、教授陣のレベルが、垣間見ることができて、
    これからも、日本の大学教育は、ますます下がっていくだろうなと思います。

    日本の大学生の質は、世界的に見て、かなり低いですが、
    その最大の指標が、1ヶ月に本を1冊も読まない学生は半数いて、
    学習時間は平均数十分という調査結果です。
    この結果を見ても、もう、日本の高等教育は、とっくに崩壊しています。
    これは、まぁ、大学だけじゃなくて、企業経営や多くの分野に及びますが。

    著者の自分の能力を失った時の絶望は、
    想像することができませんが、
    そこから、這い上がっていく著者の姿は、
    やはり、知性を感じさせるものでした。
    普通は、誰かのせいにしますが、
    あくまで、著者は、かなり客観的に自分の状況を把握しています。

    日本の自殺の理由の第一は、病気を苦にしてのものです。
    その病気が、自分の核となる能力を奪うものなら、本人のダメージは相当なものでしょう。
    準教授という肩書きが、何の意味もなさなくなるわけですから。
    多くの人は、肩書きを求めて努力をして、結果として、得ても、
    いつなくなるかわかりません。

    特に日本人は、自分の安定を、組織への所属におきます。
    組織への所属がなくなると、アイデンティティーや心の置き所がなくなり、
    精神疾患に陥る可能性の高い人が多数います。
    「この所属先では、そこそこだけど、もしなくなったら、何も誇れるものなんてないな」
    と思っている人は多数います。

    日本は、この20年、経済も全くだめ、教育も全くだめ、政治になると、絶望的にダメです。
    では、未来は?おそらく、多くの人が感じるているように、もっとダメでしょう。
    中高生の7割は、自分に自信もなく、つまり、自尊心が異常に低く、
    この国に希望もないという調査結果もあります。
    まさに、日本が、絶望の状態です。

    著者は絶望の中で、希望を見つけました。
    それは、この著作の中で、もっとも、良い箇所だと思います。
    人は、人生の中で、どこかで、絶望を感じることがありますが、
    それを共有する人がいるだけで、絶望を「絶望」と客観的に認識でき、
    共有性のおかげかわかりませんが、その状態から、這い上がるチャンスを与えてくれます。

    著者が、これから、どういう言論活動が可能なのかは、本人のみぞしりますが、
    その明晰な頭脳は、この絶望的な経験をして、より一層、役に立つと思います。
    是非、広範な活躍を期待しています。

  • 論拠に乏しい情報や内実を伴わない情報が蔓延している現代において蔑ろにされてきた「知性」について、大学教員時代に躁うつ病を患った著者が、これからの社会を変えていくためにそれをどのように活かすか、考察している。

    史実や現代社会論などの視座のほか、大学の現場で起きていた出来事や自身の疾病経験など多岐にわたる切り口から「知性」を見つめる展開が個人的に斬新であった。
    病気の症状として能力(≒知性)の減退を経験した著者だからこそ、その偏りや差異を前提とした社会づくりの提唱には説得力を感じた。

    これから求められる社会は万人の能力が高い社会ではなく、能力の高低を共有し、互いに心地よくいられる社会であり、その実現にこそ知性が必要となる、という考えには非常に共感し、また能力に自信のない私自身の肩の荷を少し軽くしてもらった感覚も持てた。

  •  『中国化する日本』などの與那覇潤が躁うつ病の闘病を経て出版。

     病気について書かれた本であり、それを受けての個人について書かれた本でありながら、現代社会を考える本になってる。これは非常に見事。
     與那覇先生には今後も執筆を続けてほしい。

  • 途中まで面白かったんだけど結論が腑に落ちず。もう一回読み直したい。
    ・平成は知性の崩壊の時代
    ・言語と身体の営みを再定義
     言語=知性的、身体=反知性的、ではない
     両方のバランスを取ることが、真に知性を取り戻すこと
    ・今のあり方を疑うことが知性の本来的な働きである
    ・能力主義批判(批判というより限界だーって感じ)
    ・得意なものを伸ばし、苦手を補い合う、みたいな話になったように思う

  • 「エクリチュールによってひき裂かれていく自己には、際限というものがないのです。こうして、身体を離れて無限に広がっていくかにみえた「自分」というものの輪郭が、あるとき、引っぱりすぎたゴムひもが切れたかのように、いきなり破綻してもとの身体の大きさまで縮んでしまう。 ーーそれが、おそらくは「うつ転」(躁状態からうつ状態への急変)なのではないか、というのが私の実感です」(p.128)

    「文学とは「理屈としては正しくても、すなおに身体がのみこめない」状況における、人間の苦悩や葛藤を活写するためにあるのです」(p.110)

    「私なりにまとめると、「提供する」という意味の動詞affordを名詞化したアフォーダンスとは、「能力」の主語を、人からものへと移しかえるための概念です。(‪⋯‬)「どれだけ大きな能力の差をカバーできるかで、そのものの価値をはかってみよう」と提案しているのです」(p.249-250)

  • 自由や人権といった、リベラルが掲げてきた価値自体が「それって、そんなに大事なものか?」「政策の邪魔なら、なくてもいいんじゃないか?」と広く思われ始めている。これは言語(理性・知性)と身体との葛藤。身体の言語への反発ではないか。。

    伊藤計劃の「ハーモニー」も読んでみたい。

  • 久しぶりに与那覇さんの本を読読んだ。
    共感しながら読めた。自分が普段感じていた事、考えていた事を的確に分析して考察し、表現されてる本に出会えてラッキーだったな。

  • 916
    闘病記の棚

  • 自らの鬱体験を率直に語りつつ、世の鬱に関する言説を分析してみせる第1~2章、躁鬱病を哲学的に解釈する第3章、また、反知性主義を言葉としての帝国と身体としての民族という枠組みで分析してみせる4~5章は面白かった。このあたりだけなら星5つ。第6章は能力やコミュニズムという概念のとらえかたになるほどと思わせる面があるものの、論の進め方やそこであげられる事例には、自分の感覚からするとしっくりこないものが多かった。何にせよ、頭のよい人だなと思った。

  • スティーブジョブズ単体であれば、ただの無能者。話し上手が存在できるのは、往々にしてまわりに聞き上手がいるから。あらゆる能力は、究極的には「私有」できない。その能力は私有財産のように、その人だけで処分できない。人が人といやおうなくつながる理由。だから他人を思いやり、大切にしないといけない、傷つけてはいけない。

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著者プロフィール

愛知県立大学准教授

「2015年 『「日本史」の終わり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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