ファーストラヴ

  • 文藝春秋 (2018年5月31日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784163908410

作品紹介・あらすじ

夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?

臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。

みんなの感想まとめ

家族の絆や心の闇をテーマにしたこの作品は、女子大生・聖山環菜の衝撃的な事件を軸に、彼女の過去や心理状態を深く掘り下げていきます。臨床心理士の真壁由紀が環菜の周囲の人々と接しながら、彼女の心の葛藤や成長...

感想・レビュー・書評

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  • 第159回 直木賞受賞作

    夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。
    彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
    環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。
    環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。
    なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
    臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、
    環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
    そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?


    父親を殺した女子大生・環奈。
    事件に関するノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士・由紀。
    環奈の国選弁護人で由紀の義弟・迦葉。
    三人ともそれぞれが複雑で過酷な成育歴と家族。
    三人の親への思いが見え隠れする。
    三者それぞれの抱えてる葛藤…親への思い…家族の姿…。
    家族の物語。

    何故、環奈は父親を殺さなければならなかったのか?
    由紀と迦葉の間には過去に何があったのか?
    その二つの謎に引き込まれて行った。

    最近沢山の小説に登場している様々な形の毒親や性的虐待。
    この物語は、あー確かにこれも酷い性的虐待だって気付かせてくれた。
    読み進めれば進むほど虐待が作り出す心の傷の深さに
    何とも言えない気持ちなったが、これを文章にしてくれた事は良かった。
    わかり易いものではないけれど、年齢や形は違えども
    確かに嫌な気持ちになった事がある人が殆どではないかなぁ?
    環奈は本当に過酷で可哀相だった。
    もし自分の両親が環奈や由紀のようだったら耐えられない。
    家庭の中の闇を覗いた気持ちになりました。

    派手さはないが、行間にも静かな怒りを感じさせられました。
    家族って本当に難しいですね…。
    それぞれの家庭が普通って思っているかもしれないけど、
    それぞれ全く違ってて普通ってないと思う。

    最後に皆、ほのかに灯りがみえてホッと温かい気持ちになれました。

  • 島本理生さんの作品は8割は拝読しています。
    遅ればせながら直木賞受賞おめでとうございます。

    この物語は就活中の女子大生の聖山環菜が父親の那雄人を刺殺したという事件を、環菜の半生を臨床心理士の真壁由紀が本にまとめるために取材をしていく話です。
    主な登場人物は他に由紀の夫で写真家の我聞。我聞の弟(実は養子)で由紀の大学の同級生で弁護士の迦葉。迦葉は環菜の事件で環菜の弁護を担当しています。由紀の母。あとは環菜の母親。環菜の友人の香子などがいます。

    由紀に「殺人の動機は自分でもわからないから、見つけてほしい」と言った環菜。
    てっきりこのストーリーは殺人の動機探しのミステリーだと思い読みすすめました。
    しかしこのストーリーは、最後まで読むと、ミステリーではなく、むしろラブストーリーだったように感じられました。『ファーストラブ』というのはもちろん環菜の事件の動機に関係するキーワードだと思って読んでいました。実際ストーリーの後半で、環菜の12歳の時に大学生だった元交際相手も登場します。

    ですが、私はこのストーリーは殺人事件の真相を探る型をかりた、由紀と迦葉、そして我聞のラブストーリーにも思えました。
    大学時代の由紀と迦葉の関係は最近読んだ、どの小説の男女の関係よりもせつないものでした。後に迦葉は「あれは恋愛ではなかった」と兄の我聞に語っていますが、二人の関係の方こそが「ファーストラブ」ではなかったのかと思いました。お互いに孤独を抱えていた二人は、一緒に逃げまわり、人に聞かれると「兄妹です」と答えていました。由紀と迦葉の関係はとてつもなくせつなく、反対に兄の我聞と由紀の関係は太陽の明るい陽射しのようにあたたかく感じられました。

    余談ですが、『初恋』というタイトルのアルバムを発表されたばかりの歌手の宇多田ヒカルさんが、某TV番組のインタビューで「私にとっての初恋は男性ではなく、肉親でした」と語られていたのを思い出しました。
    環菜は、血縁のない父親にも、実の母親にも全く愛されませんでしたが、環菜にとっては父と母が初めて接した人間であったことは間違いのない事実であったのでしょう。

  • 直木賞受賞作で映画化もされたみたいですね。

    臨床心理は興味があるけど、なかなか人が人の心の状態を理解するって難しいよなぁ。そんな感想になる内容でした。

    いのちを大切に、何でも気軽に相談 かぁ、、
    「闇」の一言では片付かないよね、皆いろいろ抱えてんだから。

  • 第159回直木賞受賞作品。

    何故環菜は父親を殺さなければならなかったのか⁉️その理由がとても知りたくて始めから夢中になって、読み進めることができた作品でした❗️

    幼少期から酷い家庭環境にあった環菜の心の足枷が徐々に解放されていく一方で、由紀の心にも潜んでいた蟠りが、少しずつとけていく様子が、個人的にはツボにハマってとても面白く読むことができました❗️

    最後も心地良い終わり方で、島本作品の中でもオススメの一冊になりました❗️

  • 11日の本日に映画公開された作品の原作を読了。
    容疑者となった彼女の心理。そこまでの人格となった様々な環境。
    そして臨床心理士の由紀と弁護士の迦葉の関係。
    人間の心の複雑さが垣間見えた作品でした。
    難しい状況の中でも夫の我聞が優しく包んでくれてる様が心暖かくもなりました。
    容疑者環菜の勾留から裁判、判決までの物語。
    映画もまた見てみようと思います。

  • 【あらすじ】
    第159回直木賞受賞作。
    「動機はそちらで見つけてください」
    父親を包丁で突き刺し、死に至らしめた女子大生・聖山環菜(ひじりやまかんな)の異常な言葉は世間を震撼させた。裁判に先立ち、彼女の人生を題材としたノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士・真壁由紀(まかべゆき)は、本人との接見と周囲への取材により「真実」を見出そうと試みる。奇しくも、環菜の弁護を担当するのは、大学時代の知己・庵野迦葉(あんのかしょう)。二人の間には、何やら深い因縁があるようでーー。

    【短評】
    冷静に評価するなら、四点といったところ。
    「歪み壊れた心を取り戻すための第一歩」的な明確なテーマに沿って書かれており、過不足無く破綻無く物語として成立している。而、構成はかなりシンプルであり、順繰りに現れる証言を丁寧に辿って、迷うこと無く結末まで走り抜けた印象。もっと深みに嵌るような読書でも良かったかな。数珠つなぎに新証言を引っ張り出すことの繰り返しというと聴こえが悪いか。結果として、環菜が"落ちた"際の唐突さが際立ってしまい、彼女の心を揺り動かしたものが何なのか、やや判然としない部分があった。

    他方、由紀と迦葉に纏わる物語はかなり良かった。
    何かあることを匂わせつつ、引っ張ること引っ張ること。夫の我聞さんが良い人なだけに、かなりヤキモキさせられた。何を隠しているんだ、と言う興味が尽きず、頁を捲る手が止まらなかった。良いヒキである。

    五点にした理由は結びの文が余りに綺麗だったから。
    どんな文だったのかはぜひ読んで確かめて欲しいが、成熟した恋愛の極致のような、暖かで穏やかな言葉だったと思う。これを紡ぐことが出来るというのは、凄いことだと心から思う。

    【気に入った点】
    ●「動機はそちらで見つけてください」というのは良い掴みだと思う。事件自体はかなり地味なのだが、この一言に象徴されるちぐはぐとした感じは大変に好みだった。虚言癖と称される人物の意味不明さが凄く印象に残っている。心が砕けるってのは、こいうことなんだろうなあ。
    ●証言台に立派に立つ環菜の姿が印象に残る。前述の通り、その「契機」には疑問の余地はあるのだが、自己に向き合い、一生懸命言語化をする彼女の歩みには、身につまされるものがあった。
    ●結びの一文。なかなかに出会うことの出来ない美文だと思う。

    【気になった点】
    ●ミステリィとしてはかなり一本道。割とするっと「正解」に辿り着いた印象を受ける。題材を鑑みても、より「重い」構成でもイケたんじゃないかと思う。もう一段階深い絶望を見せてくれても良かった。

    直木賞受賞も納得の出来だった。
    一文に対する感動で評価を上げたのは初めての経験だ。それ程の衝撃だった。

  • 本書は『ファーストラヴ』と言う甘いタイトルに反して、テーマは重くて深い。
    父親を殺害した女子大生・環菜が逮捕された。臨床心理士・由紀がこの事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼される。担当弁護士・伽葉と共に事件の真相や動機に迫る。環菜の幼少期の関係者からの取材によって、本当の真相が紐解かれいく。

    精神的な性的虐待と毒親について考えさせられる作品。一見、父親との間に問題があるように思えても、その背景には母親との問題が潜んでいることもある。娘が母親との関係性の危うさに気づいていないことも問題である。

    環菜だけでなく、由紀や伽葉も幼い時期に辛い過去があり複雑なストーリー展開になっている。終盤につれてそちらの心境も整理されスッキリとしたラストを迎える。
    『ファーストラヴ』に込められてた意味を知ると切なくなった。初恋は綺麗な思い出だけでは無いなと。

  • 理解されにくい、こんな形の性的虐待もあることを知りショックを受けた。
    「家族」の在り方って、本当に難しいと最近つくづく思う。
    特に母親から受ける影響ほど大きな物はなく、時にそれは成長していく上で、人格を変えてしまうほどに。
    環菜の母親も、きっと自分の内面の闇を娘からつきつけれているようで、苦しかったと思う。
    ラストに、環菜も由紀も、葉迦も抱えていたことが少し楽になったようで良かった。
    我聞さんみたいな人に愛されたら、女性はすごく幸せだろうな。
    映画の方もぜひ、観てみたい。

  • 様々な虐待の形。されている側はそれに気付いていないことすらある。
    しかし幼少期に受けた傷は深く、その後の精神や人格形成にまで影響が及んでしまう。環菜は様々な呪縛にがんじがらめにされていて、読んでいて辛くなる。
    裁判開始間際に自分の本当の心を取り戻せたのはよかった。
    傷を負った母親の娘がまた同じように傷を負ってしまうというのは、また何ともやるせないというか色々考えさせられる。。。

    読み終えて「ファーストラヴ」のタイトルを考えると、「どれのことを指しているんだろう」と色々考えられて面白い。

  • 自分が辛いと感じたことを、「世間では、常識では、こうなのだから」という理由で『辛くない』と変換してませんか?
    それは、本当に我慢しなければいけないことですか?
    辛いと訴えたり、逃げたり、救われようとすることは間違ったことですか?
    と問いかけられているようだった。

  • 第159回直木賞候補作品。女子大生の聖山環菜が父親を殺したという。理由は、わからないので見つけてほしい、とのこと。臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、弁護士の迦葉(由紀とは大学時代からの仲であり、主人の血の繋がりのない弟)とともに、理由を探る。環菜の過去が、明らかにしてゆくとともに、迦葉と由紀の中もどういったものだか非常に気になって。引き込まれました。もう少し早く会っていれば…、子供の声をきく機会なく救えなかった。環菜の過去も辛すぎる。この物語でもだれか耳を傾けている人がいれば、だ。臨床心理士の由紀も家族との問題があり(どの家庭にも程度の差こそあれ問題はあると思うが)、その輪郭も含め全体的にドロドロしさがなく、でも心をしっかり書きつつ流れるように書いていたのが素晴らしかったな(事件の不快感は別として)。ファーストラブというのは、初恋ではなく、親からの愛か? 最後の方は環菜の強さが見えよかったです。

  • 感情移入できない自分は幸せなんだと思う。なんというか、画面の向こう側の話、という感じでした。
    本筋の裁判は(特にクライマックス)面白かったのですが、主人公を取り巻く人間関係が好きでないというか、理解し難い部分が多かったです。
    タイトルの「ファーストラヴ」の指すところが受け取り手によって様々だと思うのですが、私にはいまいちピンとこないまま終わってしまいました…。

  • 幼少期の性的虐待は、本人も何をされているのかわからない部分も多い。だから、大人になってからもそれがどんな影響を及ぼしているのかはっきりしないのかもしれない。
    弁護士と臨床心理士という立場で、深層心理に迫っていくところが面白くて、一気読みした。
    タイトルは、なぜ「ファーストラヴ」?

  • 「孤独と性欲と愛の区別は難しい」
    この言葉が印象的。比喩表現の説得力がすごい。

    見えない心への暴力、というのは気づきにくい分、長い年月をかけて深く深く心を蝕み、ある日想像もできない力に膨れあがって襲いかかってくる。しかし、ある時は「普通」と見せかけてしまう怖い側面もある。

    一見よくある残忍な事件に思えるが、臨床心理士目線で物語が進むため読者も冷静に判断しながら、逮捕された少女の真意に迫ることができるので、新たな考え方が身についた感覚になる。

    誰にも気づかれず、埋もれてしまった性犯罪は世の中にたくさんあるはず。この小説を読んで救われる人たちがたくさんいるのではないか。

    そして、自分にしかわかるはずがないと抱え込んでいることも、いつか人生において理解してくれる人に出会えるのかも、という希望も持てる。

  • 島本理生は間違いない。
    これまで、悶々として言葉にできない思いはストレスでしかないと思っていた。だから一刻も早く忘れることで、楽になれるのだと思っていた。
    けれど、彼女の文章が、それは違うのだと引き止めてくれる。そして言葉にならない悶々とした気持ちを、バシッと形にして、認めて、癒してくれる。

  • 何をレビューしても、割と深くネタバレになる話なので、読む側で選択を。



    娘の父殺しの真相サイドと。
    彼女の臨床心理士と弁護人の因縁サイドと。
    三人が抱える闇が、それぞれ作用し合っていく。

    娘は父親との、息子は母親との出来事を、昇華しきれないまま大人になっていく。
    その間、救われることのないまま経過してしまったのが娘の環菜で、ある一点において救われたのが臨床心理士の由紀だと言える。

    その意味で、由紀にとって弁護人・迦葉と我聞の兄弟との出会いは大きい。
    迦葉については、同じ傷を抱え過ぎて上手くいかないパターンなのだけど、多分それは必要なことだったんだろうな。
    傷付いた由紀を抱擁出来た我聞さんについては、ただただ、神!と言わんばかりの男。尚且つ、イケメンときた。
    つまり、王子様なのだと思う。

    んー。
    そう読むと、この小説って性的に傷付いた美男美女の話になってしまったりする。
    美しいからこそ、変な目に遭う機会が多いのでは?というのは、偏見。
    だけど、そう思わざるを得ない理不尽な仕組みが、この世界にはあるとも言える。

    これが「醜い」加害者と、「美しい」カウンセラーの話だったら?
    いや、反対に冠を付けたって構わないのだけど。
    そこに同じ女性としての共感はあっただろうか。

    そのことと当事者が負う心的外傷を、本来は結びつけるべきではないのかもしれない。
    そして、由紀と迦葉のように、傷付いた者同士であるから、開かれた道もある。
    それは分かる。
    でも、「君は背負い過ぎているよ」なんて言って、傷付いた妻を優しく包み込んでくれる我聞さんが、実は最も背負っていたんだという結末は、理想的で哀しくもあるよね。

  • 第159回・2018年上半期直木賞受賞作品
    女子大生の聖山環菜は、父親を刺殺した容疑で逮捕される。
    彼女は犯行は認めるが、動機については曖昧なままだった。臨床心理士の真壁由紀は、この事件のノンフィクションを書くことになり、弁護を担当する義弟の迦葉と、環菜の動機を明らかにしようとするが・・・
    性的虐待、歪んだ親子関係など、重いテーマではあるのは分かるが、問題がある登場人物が多すぎるような。そして、その対比というか、普通という概念をを夫・我聞一人の良心に背負わせるのに少々違和感を感じた。ラストは希望のもてる感じで良かった。

  • 著者の本は初読みとなりましたが、直木賞受賞作で、映画化作品。

    期待値上げすぎたかな^^;

    本作の主人公は臨床心理士の真壁由紀でいいと思う。

    そんな由紀に届いた依頼は父親を包丁で刺し殺した
    環菜を取材し、ノンフィクション作品としてまとめ上げるというもの。

    環菜の国選弁護人となったのは由紀の旦那の弟である庵野迦葉で、由紀の大学時代の同窓生。

    迦葉と共に環菜から話を聞いているうちに感じる違和感。

    臨床心理士として由紀は環菜の内に何が潜むのかを突き止めようとする。

    弁護人としての迦葉も環菜を弁護するうえで事件の真相を由紀と探ることに。

    徐々に明らかになる迦葉の子供時代。

    歪んだ家庭環境の中で育ったが故に起こってしまったと思われた事件は意外な結末を。

    複雑な人間関係が絡み合った表題からは想像もし得なかったほど重く、暗い世界観は独特の空気感と共に独特の読後感を与えてくれました。


    説明
    内容紹介
    ◆第159回直木賞受賞作◆

    夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。
    彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
    環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。
    環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。
    なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
    臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
    そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?
    「家族」という名の迷宮を描く長編小説。

    「この世界で、人はレールからはずれることができず苦しみ続ける。
    涙を流さずに泣くことの意味を、僕はこれからも考えていくと思う。」俳優・坂口健太郎
    メディア掲載レビューほか
    絶対君主"だった父を殺した娘が抱えていた思いとは

    手に汗握るミステリーである。しかも、島本理生だからこそ書ける類の。新作『ファーストラヴ』は、ある殺人事件の物語。いちばん分からないのが容疑者の心理、といえばホワイダニットものかと思ったが、またちょっと違うのだ。

    ある夏の日、血まみれの姿で歩いていた女子大生が殺人容疑で逮捕される。彼女の名前は聖山環菜(ひじりやまかんな)、包丁で刺されて死亡した被害者は彼女の父親で画家の聖山那雄人(なおと)。だが、奇妙なことに環菜自身が「動機が分からない」という。臨床心理士の真壁由紀はこの事件に関するノンフィクションの執筆を依頼され、被告の弁護人となった義弟の庵野迦葉(あんのかしょう)とともに、環菜や周辺の人々への面談を重ねていく。

    幼い頃から自責の念が強かった様子の環菜、家庭では絶対君主であった父親、娘を案ずるどころか裁判では検察側の証人に立つ母親。一体この家庭に何があって父殺しは起きたのか。面会での環菜の発言は漠然とし、母親や元恋人の証言とも食い違う。しかしその齟齬から、由紀は真実への手がかりを見出していく。心理分析のプロが探偵役だからこその謎へのアプローチだ。

    由紀自身も、実は父親に対して、ある出来事で許せない思いを抱いている。人を救おうと真実を追求する人間もまた、葛藤を抱く生身の人間なのだ。迷い悩みながらも公正な道を探す姿が、親しみと敬意を抱かせる。また、由紀と迦葉とは学生時代の知人であり、二人は過去に何かあった模様。後半に明かされる彼女たちの真実も胸に迫るものがある。そして終盤にはある人物が“覚醒"したかのような如才なさを見せるのが実に痛快。最後のページに至るまで、謎と真相の提示のタイミングが絶妙で、超一級品のエンターテインメントとして楽しめるのだ。

    ただし、途中から、私はずっと怒っていた。読み進めながら、自分の幼少時から十代の頃に至るさまざまな不快な出来事を思い出していたからだ。今思えば抱く必要のなかった、大人に押し付けられた罪悪感、反発することなど発想もできない抑圧感、あるいは性的な存在として見られることの気持ち悪さ、その他諸々(あまり書くとネタバレになるのでやめておく)。環境が違えば、自分も環菜になったかもしれないと思わずにはいられない。それくらい、本作は無力な少女の心の傷を鮮烈に描き出す。そこに寄り添う由紀の存在と言葉が心強い。こうした現実的な問題が極上の物語となったからには、同じようなことで傷ついた人はもちろん、傷つける可能性がある人にも、本作が届くといいなと、心底思うのだ。

    評者:瀧井 朝世

    (週刊文春 2018年06月28日号掲載)

    内容(「BOOK」データベースより)
    なぜ娘は父親を殺さなければならなかったのか?多摩川沿いで血まみれの女子大生が逮捕された。彼女を凶行に駆り立てたものは何か?裁判を通じて明らかにされる家族の秘密とは?

  • 母と娘の間に生じる違和感。
    母は自分の分身のような娘に、自分の過去を勝手に照らし合わせ、娘はそんな母を疎ましく思う。
    娘を持つ家庭なら、多かれ少なかれ起こることなのだけれど…。

    父殺しの容疑をかけられた娘・環菜が、逮捕された直後に問われた動機に対し「自分でも分からないから見つけてほしい」と言った。
    自分は嘘つきだ、とも。
    嘘のない真の動機を一番に見つけ出してほしかった相手は、因縁深くも嫌うことのできない母だったのではないか。
    母の愛情に飢えている「空っぽの人形」だった環菜の闇に光が射し込み、環菜自身が納得のいく答えを導き出せて良かった。
    モヤモヤしながら読み進めていた私もラストでようやく一安心。

  • 登場人物に感情移入しすぎて苦しかった。一気に読んだ。
    本著のように、幼少期に負った傷を抱え込んだまま、それにすら気づかず、自分を責め続けている人が、1人でも多く自分を肯定できるようになってほしいと思う。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。その他の著書に『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『2020年の恋人たち』『星のように離れて雨のように散った』など多数。

「2022年 『夜はおしまい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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