【第159回 直木賞受賞作】ファーストラヴ

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2962
レビュー : 405
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908410

作品紹介・あらすじ

2021年北川景子さん主演、映画化で話題!

第159回直木賞受賞作!
夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 第159回 直木賞受賞作

    夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。
    彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
    環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。
    環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。
    なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
    臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、
    環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
    そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?


    父親を殺した女子大生・環奈。
    事件に関するノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士・由紀。
    環奈の国選弁護人で由紀の義弟・迦葉。
    三人ともそれぞれが複雑で過酷な成育歴と家族。
    三人の親への思いが見え隠れする。
    三者それぞれの抱えてる葛藤…親への思い…家族の姿…。
    家族の物語。

    何故、環奈は父親を殺さなければならなかったのか?
    由紀と迦葉の間には過去に何があったのか?
    その二つの謎に引き込まれて行った。

    最近沢山の小説に登場している様々な形の毒親や性的虐待。
    この物語は、あー確かにこれも酷い性的虐待だって気付かせてくれた。
    読み進めれば進むほど虐待が作り出す心の傷の深さに
    何とも言えない気持ちなったが、これを文章にしてくれた事は良かった。
    わかり易いものではないけれど、年齢や形は違えども
    確かに嫌な気持ちになった事がある人が殆どではないかなぁ?
    環奈は本当に過酷で可哀相だった。
    もし自分の両親が環奈や由紀のようだったら耐えられない。
    家庭の中の闇を覗いた気持ちになりました。

    派手さはないが、行間にも静かな怒りを感じさせられました。
    家族って本当に難しいですね…。
    それぞれの家庭が普通って思っているかもしれないけど、
    それぞれ全く違ってて普通ってないと思う。

    最後に皆、ほのかに灯りがみえてホッと温かい気持ちになれました。

  • 島本理生さんの作品は8割は拝読しています。
    遅ればせながら直木賞受賞おめでとうございます。

    この物語は就活中の女子大生の聖山環菜が父親の那雄人を刺殺したという事件を、環菜の半生を臨床心理士の真壁由紀が本にまとめるために取材をしていく話です。
    主な登場人物は他に由紀の夫で写真家の我聞。我聞の弟(実は養子)で由紀の大学の同級生で弁護士の迦葉。迦葉は環菜の事件で環菜の弁護を担当しています。由紀の母。あとは環菜の母親。環菜の友人の香子などがいます。

    由紀に「殺人の動機は自分でもわからないから、見つけてほしい」と言った環菜。
    てっきりこのストーリーは殺人の動機探しのミステリーだと思い読みすすめました。
    しかしこのストーリーは、最後まで読むと、ミステリーではなく、むしろラブストーリーだったように感じられました。『ファーストラブ』というのはもちろん環菜の事件の動機に関係するキーワードだと思って読んでいました。実際ストーリーの後半で、環菜の12歳の時に大学生だった元交際相手も登場します。

    ですが、私はこのストーリーは殺人事件の真相を探る型をかりた、由紀と迦葉、そして我聞のラブストーリーにも思えました。
    大学時代の由紀と迦葉の関係は最近読んだ、どの小説の男女の関係よりもせつないものでした。後に迦葉は「あれは恋愛ではなかった」と兄の我聞に語っていますが、二人の関係の方こそが「ファーストラブ」ではなかったのかと思いました。お互いに孤独を抱えていた二人は、一緒に逃げまわり、人に聞かれると「兄妹です」と答えていました。由紀と迦葉の関係はとてつもなくせつなく、反対に兄の我聞と由紀の関係は太陽の明るい陽射しのようにあたたかく感じられました。

    余談ですが、『初恋』というタイトルのアルバムを発表されたばかりの歌手の宇多田ヒカルさんが、某TV番組のインタビューで「私にとっての初恋は男性ではなく、肉親でした」と語られていたのを思い出しました。
    環菜は、血縁のない父親にも、実の母親にも全く愛されませんでしたが、環菜にとっては父と母が初めて接した人間であったことは間違いのない事実であったのでしょう。

  • 様々な虐待の形。されている側はそれに気付いていないことすらある。
    しかし幼少期に受けた傷は深く、その後の精神や人格形成にまで影響が及んでしまう。環菜は様々な呪縛にがんじがらめにされていて、読んでいて辛くなる。
    裁判開始間際に自分の本当の心を取り戻せたのはよかった。
    傷を負った母親の娘がまた同じように傷を負ってしまうというのは、また何ともやるせないというか色々考えさせられる。。。

    読み終えて「ファーストラヴ」のタイトルを考えると、「どれのことを指しているんだろう」と色々考えられて面白い。

  • 第159回直木賞候補作品。女子大生の聖山環菜が父親を殺したという。理由は、わからないので見つけてほしい、とのこと。臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、弁護士の迦葉(由紀とは大学時代からの仲であり、主人の血の繋がりのない弟)とともに、理由を探る。環菜の過去が、明らかにしてゆくとともに、迦葉と由紀の中もどういったものだか非常に気になって。引き込まれました。もう少し早く会っていれば…、子供の声をきく機会なく救えなかった。環菜の過去も辛すぎる。この物語でもだれか耳を傾けている人がいれば、だ。臨床心理士の由紀も家族との問題があり(どの家庭にも程度の差こそあれ問題はあると思うが)、その輪郭も含め全体的にドロドロしさがなく、でも心をしっかり書きつつ流れるように書いていたのが素晴らしかったな(事件の不快感は別として)。ファーストラブというのは、初恋ではなく、親からの愛か? 最後の方は環菜の強さが見えよかったです。

  • 何をレビューしても、割と深くネタバレになる話なので、読む側で選択を。



    娘の父殺しの真相サイドと。
    彼女の臨床心理士と弁護人の因縁サイドと。
    三人が抱える闇が、それぞれ作用し合っていく。

    娘は父親との、息子は母親との出来事を、昇華しきれないまま大人になっていく。
    その間、救われることのないまま経過してしまったのが娘の環菜で、ある一点において救われたのが臨床心理士の由紀だと言える。

    その意味で、由紀にとって弁護人・迦葉と我聞の兄弟との出会いは大きい。
    迦葉については、同じ傷を抱え過ぎて上手くいかないパターンなのだけど、多分それは必要なことだったんだろうな。
    傷付いた由紀を抱擁出来た我聞さんについては、ただただ、神!と言わんばかりの男。尚且つ、イケメンときた。
    つまり、王子様なのだと思う。

    んー。
    そう読むと、この小説って性的に傷付いた美男美女の話になってしまったりする。
    美しいからこそ、変な目に遭う機会が多いのでは?というのは、偏見。
    だけど、そう思わざるを得ない理不尽な仕組みが、この世界にはあるとも言える。

    これが「醜い」加害者と、「美しい」カウンセラーの話だったら?
    いや、反対に冠を付けたって構わないのだけど。
    そこに同じ女性としての共感はあっただろうか。

    そのことと当事者が負う心的外傷を、本来は結びつけるべきではないのかもしれない。
    そして、由紀と迦葉のように、傷付いた者同士であるから、開かれた道もある。
    それは分かる。
    でも、「君は背負い過ぎているよ」なんて言って、傷付いた妻を優しく包み込んでくれる我聞さんが、実は最も背負っていたんだという結末は、理想的で哀しくもあるよね。

  • 「孤独と性欲と愛の区別は難しい」
    この言葉が印象的。比喩表現の説得力がすごい。

    見えない心への暴力、というのは気づきにくい分、長い年月をかけて深く深く心を蝕み、ある日想像もできない力に膨れあがって襲いかかってくる。しかし、ある時は「普通」と見せかけてしまう怖い側面もある。

    一見よくある残忍な事件に思えるが、臨床心理士目線で物語が進むため読者も冷静に判断しながら、逮捕された少女の真意に迫ることができるので、新たな考え方が身についた感覚になる。

    誰にも気づかれず、埋もれてしまった性犯罪は世の中にたくさんあるはず。この小説を読んで救われる人たちがたくさんいるのではないか。

    そして、自分にしかわかるはずがないと抱え込んでいることも、いつか人生において理解してくれる人に出会えるのかも、という希望も持てる。

  • 自分が辛いと感じたことを、「世間では、常識では、こうなのだから」という理由で『辛くない』と変換してませんか?
    それは、本当に我慢しなければいけないことですか?
    辛いと訴えたり、逃げたり、救われようとすることは間違ったことですか?
    と問いかけられているようだった。

  • 島本理生は間違いない。
    これまで、悶々として言葉にできない思いはストレスでしかないと思っていた。だから一刻も早く忘れることで、楽になれるのだと思っていた。
    けれど、彼女の文章が、それは違うのだと引き止めてくれる。そして言葉にならない悶々とした気持ちを、バシッと形にして、認めて、癒してくれる。

  • 登場人物に感情移入しすぎて苦しかった。一気に読んだ。
    本著のように、幼少期に負った傷を抱え込んだまま、それにすら気づかず、自分を責め続けている人が、1人でも多く自分を肯定できるようになってほしいと思う。

  • 母と娘の間に生じる違和感。
    母は自分の分身のような娘に、自分の過去を勝手に照らし合わせ、娘はそんな母を疎ましく思う。
    娘を持つ家庭なら、多かれ少なかれ起こることなのだけれど…。

    父殺しの容疑をかけられた娘・環菜が、逮捕された直後に問われた動機に対し「自分でも分からないから見つけてほしい」と言った。
    自分は嘘つきだ、とも。
    嘘のない真の動機を一番に見つけ出してほしかった相手は、因縁深くも嫌うことのできない母だったのではないか。
    母の愛情に飢えている「空っぽの人形」だった環菜の闇に光が射し込み、環菜自身が納得のいく答えを導き出せて良かった。
    モヤモヤしながら読み進めていた私もラストでようやく一安心。

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著者プロフィール

1983年、東京生まれ。2001年『シルエット』で第44回群像新人文学賞優秀作、03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞、15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞、18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。主な著書に『ナラタージュ』『大きな熊が来る前に、おやすみ』『あられもない祈り』『夏の裁断』『匿名者のためのスピカ』『イノセント』『あなたの愛人の名前は』『夜はおしまい』などがある。

「2020年 『2020年の恋人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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