ファーストラヴ

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2301
レビュー : 329
  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908410

作品紹介・あらすじ

2021年北川景子さん主演、映画化で話題!

第159回直木賞受賞作!
夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 第159回 直木賞受賞作

    夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。
    彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。
    環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。
    環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。
    なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
    臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、
    環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。
    そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは?


    父親を殺した女子大生・環奈。
    事件に関するノンフィクションの執筆を依頼された臨床心理士・由紀。
    環奈の国選弁護人で由紀の義弟・迦葉。
    三人ともそれぞれが複雑で過酷な成育歴と家族。
    三人の親への思いが見え隠れする。
    三者それぞれの抱えてる葛藤…親への思い…家族の姿…。
    家族の物語。

    何故、環奈は父親を殺さなければならなかったのか?
    由紀と迦葉の間には過去に何があったのか?
    その二つの謎に引き込まれて行った。

    最近沢山の小説に登場している様々な形の毒親や性的虐待。
    この物語は、あー確かにこれも酷い性的虐待だって気付かせてくれた。
    読み進めれば進むほど虐待が作り出す心の傷の深さに
    何とも言えない気持ちなったが、これを文章にしてくれた事は良かった。
    わかり易いものではないけれど、年齢や形は違えども
    確かに嫌な気持ちになった事がある人が殆どではないかなぁ?
    環奈は本当に過酷で可哀相だった。
    もし自分の両親が環奈や由紀のようだったら耐えられない。
    家庭の中の闇を覗いた気持ちになりました。

    派手さはないが、行間にも静かな怒りを感じさせられました。
    家族って本当に難しいですね…。
    それぞれの家庭が普通って思っているかもしれないけど、
    それぞれ全く違ってて普通ってないと思う。

    最後に皆、ほのかに灯りがみえてホッと温かい気持ちになれました。

  • 何をレビューしても、割と深くネタバレになる話なので、読む側で選択を。



    娘の父殺しの真相サイドと。
    彼女の臨床心理士と弁護人の因縁サイドと。
    三人が抱える闇が、それぞれ作用し合っていく。

    娘は父親との、息子は母親との出来事を、昇華しきれないまま大人になっていく。
    その間、救われることのないまま経過してしまったのが娘の環菜で、ある一点において救われたのが臨床心理士の由紀だと言える。

    その意味で、由紀にとって弁護人・迦葉と我聞の兄弟との出会いは大きい。
    迦葉については、同じ傷を抱え過ぎて上手くいかないパターンなのだけど、多分それは必要なことだったんだろうな。
    傷付いた由紀を抱擁出来た我聞さんについては、ただただ、神!と言わんばかりの男。尚且つ、イケメンときた。
    つまり、王子様なのだと思う。

    んー。
    そう読むと、この小説って性的に傷付いた美男美女の話になってしまったりする。
    美しいからこそ、変な目に遭う機会が多いのでは?というのは、偏見。
    だけど、そう思わざるを得ない理不尽な仕組みが、この世界にはあるとも言える。

    これが「醜い」加害者と、「美しい」カウンセラーの話だったら?
    いや、反対に冠を付けたって構わないのだけど。
    そこに同じ女性としての共感はあっただろうか。

    そのことと当事者が負う心的外傷を、本来は結びつけるべきではないのかもしれない。
    そして、由紀と迦葉のように、傷付いた者同士であるから、開かれた道もある。
    それは分かる。
    でも、「君は背負い過ぎているよ」なんて言って、傷付いた妻を優しく包み込んでくれる我聞さんが、実は最も背負っていたんだという結末は、理想的で哀しくもあるよね。

  • 第159回直木賞候補作品。女子大生の聖山環菜が父親を殺したという。理由は、わからないので見つけてほしい、とのこと。臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、弁護士の迦葉(由紀とは大学時代からの仲であり、主人の血の繋がりのない弟)とともに、理由を探る。環菜の過去が、明らかにしてゆくとともに、迦葉と由紀の中もどういったものだか非常に気になって。引き込まれました。もう少し早く会っていれば…、子供の声をきく機会なく救えなかった。環菜の過去も辛すぎる。この物語でもだれか耳を傾けている人がいれば、だ。臨床心理士の由紀も家族との問題があり(どの家庭にも程度の差こそあれ問題はあると思うが)、その輪郭も含め全体的にドロドロしさがなく、でも心をしっかり書きつつ流れるように書いていたのが素晴らしかったな(事件の不快感は別として)。ファーストラブというのは、初恋ではなく、親からの愛か? 最後の方は環菜の強さが見えよかったです。

  • 登場人物に感情移入しすぎて苦しかった。一気に読んだ。
    本著のように、幼少期に負った傷を抱え込んだまま、それにすら気づかず、自分を責め続けている人が、1人でも多く自分を肯定できるようになってほしいと思う。

  • 自分が辛いと感じたことを、「世間では、常識では、こうなのだから」という理由で『辛くない』と変換してませんか?
    それは、本当に我慢しなければいけないことですか?
    辛いと訴えたり、逃げたり、救われようとすることは間違ったことですか?
    と問いかけられているようだった。

  • 島本理生は間違いない。
    これまで、悶々として言葉にできない思いはストレスでしかないと思っていた。だから一刻も早く忘れることで、楽になれるのだと思っていた。
    けれど、彼女の文章が、それは違うのだと引き止めてくれる。そして言葉にならない悶々とした気持ちを、バシッと形にして、認めて、癒してくれる。

  • これは聖山環菜の事件を通して、
    臨床心理士の真壁由紀と弁護士庵野迦葉の再生の話だったのだなと。

    同じ大学での複雑な関係、
    そして迦葉の兄我聞と結婚した由紀。
    気まずかった2人が1人の女性を救おうと協力し合い、お互いの気持ちも徐々に理解し合える。
    兄もそれに気づき、でも2人をきちんと理解してるから由紀を守れる我聞が優し過ぎて凄い。

    島本さんの本を今まで読む事がなかった。直木賞を受賞して読んでみようと思った。そういうきっかけで読みたい作家さんが増えていくのは嬉しい。

  • 島本理生さんの作品は8割は拝読しています。
    遅ればせながら直木賞受賞おめでとうございます。

    この物語は就活中の女子大生の聖山環菜が父親の那雄人を刺殺したという事件を、環菜の半生を臨床心理士の真壁由紀が本にまとめるために取材をしていく話です。
    主な登場人物は他に由紀の夫で写真家の我聞。我聞の弟(実は養子)で由紀の大学の同級生で弁護士の迦葉。迦葉は環菜の事件で環菜の弁護を担当しています。由紀の母。あとは環菜の母親。環菜の友人の香子などがいます。

    由紀に「殺人の動機は自分でもわからないから、見つけてほしい」と言った環菜。
    てっきりこのストーリーは殺人の動機探しのミステリーだと思い読みすすめました。
    しかしこのストーリーは、最後まで読むと、ミステリーではなく、むしろラブストーリーだったように感じられました。『ファーストラブ』というのはもちろん環菜の事件の動機に関係するキーワードだと思って読んでいました。実際ストーリーの後半で、環菜の12歳の時に大学生だった元交際相手も登場します。

    ですが、私はこのストーリーは殺人事件の真相を探る型をかりた、由紀と迦葉、そして我聞のラブストーリーにも思えました。
    大学時代の由紀と迦葉の関係は最近読んだ、どの小説の男女の関係よりもせつないものでした。後に迦葉は「あれは恋愛ではなかった」と兄の我聞に語っていますが、二人の関係の方こそが「ファーストラブ」ではなかったのかと思いました。お互いに孤独を抱えていた二人は、一緒に逃げまわり、人に聞かれると「兄妹です」と答えていました。由紀と迦葉の関係はとてつもなくせつなく、反対に兄の我聞と由紀の関係は太陽の明るい陽射しのようにあたたかく感じられました。

    余談ですが、『初恋』というタイトルのアルバムを発表されたばかりの歌手の宇多田ヒカルさんが、某TV番組のインタビューで「私にとっての初恋は男性ではなく、肉親でした」と語られていたのを思い出しました。
    環菜は、血縁のない父親にも、実の母親にも全く愛されませんでしたが、環菜にとっては父と母が初めて接した人間であったことは間違いのない事実であったのでしょう。

  • アナウンサー志望の女子大生が面接試験後に父親を刺殺し、世間を騒がせた。
    臨床心理士の真壁由紀は本を書くため、逮捕された女子大生・聖山環菜の心の闇に迫る。由紀の夫の弟、迦葉は国選弁護人の立場から環菜の過去を追う。

    微妙な関係だった由紀と迦葉のしこりが取れたころ、ついに環菜が自分の言葉で話し始める。

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    幼い頃に負った傷が癒えないまま大人になり自傷を続けた結果、人が死ぬ”事故”が起こってしまったということだと思う。

    環菜さんの心に闇が生まれた理由を見つけ出すために由紀さんと迦葉さんが活躍して、過去の様々な出来事を暴いていく様子はスリリングでとてもとても面白かった。
    漫画『エスパー魔美』でも性に目覚める直前の女の子が裸で絵のモデルになっていたけど、あれも虐待だなぁ…と思いながら読んだ。『エスパー魔美』、好きなんだけどなぁ。


    何年も前にお付き合いさせてもらった人との会話で、家族構成が話題になったことがある。
    今思えば適当なことを言っておけばよかった。でもその時の自分は、相手を困らせることを言ってしまった。受け止めてもらえるかもしれない、と甘えていたんだと思う。
    ”小さい頃、父親からつらい扱いをされたので、子どもができたら自分も同じことをしてしまいそうで怖い。だから子どもを欲しいと思えない”
    確か、びっくりドンキーで食事をしながら会話だったと思うが、すごく冷めた雰囲気にしてしまったと記憶している。なんであの時あんなことを言ってしまったんだろう、と未だに思い出すことがある。


    心に傷を負ったまま成長して、環菜さんみたいに自傷を続けて最悪の結末になることもあるだろうし、
    環菜さんの母親のように不発弾みたいな心の傷を背負ったまま人生を過ごす人もいる。

    こうやって書くと複雑な気分になる。
    自分は環菜の母親みたいな人間になるのかな。すごく嫌な人だったし、弱い人だったし、哀れな人に見えた。
    そうなりたくないな。
    自分が経験した嫌な想いを、他の人に受け継ぐ必要はない。素晴らしい人間になれないとしても、負の連鎖を自分で止めるような、そういう人間でありたい。

  • 母と娘の間に生じる違和感。
    母は自分の分身のような娘に、自分の過去を勝手に照らし合わせ、娘はそんな母を疎ましく思う。
    娘を持つ家庭なら、多かれ少なかれ起こることなのだけれど…。

    父殺しの容疑をかけられた娘・環菜が、逮捕された直後に問われた動機に対し「自分でも分からないから見つけてほしい」と言った。
    自分は嘘つきだ、とも。
    嘘のない真の動機を一番に見つけ出してほしかった相手は、因縁深くも嫌うことのできない母だったのではないか。
    母の愛情に飢えている「空っぽの人形」だった環菜の闇に光が射し込み、環菜自身が納得のいく答えを導き出せて良かった。
    モヤモヤしながら読み進めていた私もラストでようやく一安心。

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著者プロフィール

島本 理生(しまもと りお)
1983年東京都板橋区生まれ。都立新宿山吹高等学校に在学中の2001年に「シルエット」で、第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。06年立教大学文学部日本文学科中退。小学生のころから小説を書き始め、1998年15歳で「ヨル」が『鳩よ!』掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞。2003年『リトル・バイ・リトル』で第128回芥川賞候補、第25回野間文芸新人賞受賞(同賞史上最年少受賞)。2004年『生まれる森』が第130回芥川賞候補。2005年『ナラタージュ』が第18回山本周五郎賞候補。同作品は2005年『この恋愛小説がすごい! 2006年版』第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」第1位、本屋大賞第6位。2006年『大きな熊が来る前に、おやすみ。』が第135回芥川賞候補。2007年『Birthday』第33回川端康成文学賞候補。2011年『アンダスタンド・メイビー』第145回直木賞候補。2015年『Red』で第21回島清恋愛文学賞受賞、『夏の裁断』で第153回芥川賞候補。『ファーストラヴ』で2回目の直木賞ノミネート、受賞に至る。

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