赤い風

  • 文藝春秋 (2018年7月12日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784163908663

作品紹介・あらすじ

徳川綱吉の治世下、川越藩の領内では、牛馬のための飼料や堆肥のための草を採取する秣場(まぐさば)での、農民同士の諍いが何十年も絶えなかった。集団で襲われ、百姓が命を落とす悲劇までおきていた。

そんな中、新たに藩主についた柳沢保明(のちの吉保)は、諍いの場となっている荒涼たる原野を二年で畑地にせよ、という前代未聞の命を下した。そして、曾根権太夫ら側近の家老らを現地に派遣し農民を指揮させたが、やがて武士と農民の間には軋轢が生じ、二年での完成が危ぶまれていく。そんな中、保明は懐刀の荻生徂徠を現場に送り込み、事態の打開を試みるが……。

江戸前期、武士と農民が身分をこえて空前の大開拓に挑む力作歴史長編!

みんなの感想まとめ

江戸時代の川越藩を舞台に、武士と農民が協力しながら厳しい自然環境を克服し、開墾に挑む姿を描いた作品です。柳沢吉保の指導のもと、荒れた原野を畑地に変えるための試みが進む中で、農民同士の争いや身分を超えた...

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代に柳沢吉保が、領地である川越藩内で行った三富新田の開拓の模様を描いた歴史小説。水を引けず風の強い厳しい条件下、武士と百姓が力を合わせて開墾していった模様は感動的だが、悪人を懲らしめるところは話が出来過ぎの感あり。

    「(柳沢吉保から奉行への挨拶後)恐ろしい御仁よ。一切不服は申し上げませぬ、だと。つまりは不服に感じるような裁許を下すなということではないか」p49
    「とんでもないことでございます。上さまのお引き立てで大名の末席に身を置くようになりましたが、未だ殻の取れぬ雛同然。これから、これからでございます」p86
    「政にいたっては、なんの努力もせず、学びもせず、家柄を頼り、先祖代々を鼻に掛け、それが確実なものと勘違いをする輩がいかに多いことか。確かなものなどこの世にはない。世の道理を知り、才知を磨くことがなにより肝心、と荻生徂徠は啓太郎を諭すように言った」p263

  • 再読。

  • 柳沢吉保の治める川越藩の秣場での百姓間の争いを無くし開墾をする過程での,武士と百姓双方の立場を超えて連帯感が芽生えてくる様子が生き生きと描かれている.どうしようもない奴もいるが,百姓の正蔵や家老の嫡子啓太郎などいい男になっていく.ただ,最後の数ページはいらなかったと思う.

  •  「武蔵野」を題材にした作品で、史実を面白く学べたのは良かった。
     元禄7年(1694年)に、長年近隣で諍いが絶えなかった土地が幕府評定所の判断で川越藩領地と定められ、当時の藩主柳沢保明(のちの吉保)が新田開発を推進し、地元の筆頭家老曽根権太夫ら家臣、農民共々開発に挑む2年の日々を中心に描かれる「三富新田」誕生秘話的なお話。

     玉川上水から水を引くことを画策したり、地名が「立野」だったりするので、わが町と北の辺境の地の間の緩衝地帯である”立野町”あたりの話かと思ったら、もう少し北、入間~所沢界隈、今の三芳あたりのことらしい。

     中国は宋の時代の農地開拓に学んだという、農地を短冊形に区分けし、居留地、農地、その先に雑木林を設け、雑木林の落ち葉を利用し堆肥を育て農地の土壌改良を行い、雑木林は薪などの燃料、萱の材料などの利用にも充てる、個々の農地内での自然循環を生み出す方法だそうだ。
     わが町の細長い区分けも、その手法に則ったものだろう。この三富新田のノウハウが利用されたのかと思ったが、K村への入植は時期的には少し前か、ほぼ同時期(1657年明暦の大火後、1660~1700頃の村の成立、農地開墾)。要は、当時はやりの手法だったということなのかもしれない。

     そんな時代背景は面白いのだが、物語構成が、いただけない。
     主人公格の家老嫡男啓太郎と百姓側の正蔵の両輪で描く身分を越えた友情の物語にしようとした点は良し。そこに絡む、元は良家の出に違いないおそでのお姫様的存在も良し。博徒たちの暗躍、生類憐みの令を逆手に取った野犬による役人殺害やら、開拓村に忍び寄る悪の手もいい緊張感を生んでいる。悪人たちの中に、かつて正蔵の父を殺めた男がいるなどの世代を越えた仇討物語なども大河ドラマ的プロットでいい。

     が、これらの出し方、絡めかた、伏線の張り方、構成力、表現力不足なのか、素材はいいのに響いてこない。
     むしろ、終盤の唐突な赤穂浪士のエピソードの挿入で、新田開発から焦点がボケでしまい、終盤のエピローグの話までもが、煩わしく感じてしまう。

     新聞連載(埼玉新聞)のままなら、蛇足に継ぐ蛇足も止む無しだが、書籍化にあたり改訂はなかったものか?! と思ってあとづけを見てみると、よくある「・・・に連載していたものに大幅に加筆訂正を加え・・・」という文言がない!? そのまま、なのかっ!? 

     文庫化の折には、是非、改めて欲しいものだ。
     エピローグの新田開発から60年後の話は、冒頭にだろう(中島京子か朝井まかて的だが)。荻生徂徠の突然の登場も、なんとかして欲しいし、きっちり正蔵が仇討ちした感が持てるような大団円として欲しい。赤穂浪士は絡めなくても良いのでは?

     シロート目にも、稚拙な構成が気になる作品だった。素材はいいのに、もったいない。

  • 川越三富新田。柳沢吉保。徳川綱吉。
    為政者による机上の空論に終わるかと思われた。
    無理を強いられる民。
    秣場を畑地に開拓する。
    名を成したい武士と、土地を持ちたい百姓。
    利害が一致して、力を合わせて、困難に対応できたのかもしれない。

  • 埼玉新聞2017年6月〜10月に連載したものに加筆修正し、2018年7月文藝春秋から刊行。川越藩の原野を開拓する武士と農民たちの物語。展開が興味深く、面白い。池田美弥子さんの表紙絵に赤い風が吹いていてこれが楽しい。

  • 初出 2017年「埼玉新聞」

    水源が遠く、軽い赤土で、農耕に向かない武蔵野台地は永く牛馬の飼料等のための草刈り場で、境界がはっきりしないため近隣の村の争いが続いていたが、五代将軍綱吉の意向で川越藩主となった柳沢吉保は2年で開墾するよう命じ、家老の曽根権太夫は、失敗したら切腹する覚悟で、募集した入植者と一緒に開墾地に住み、苦労とを共にする。

    応募した中には、かつて近くに住み、父親が争いに巻き込まれて殺された正蔵と、殺した藤兵衛がいた。正蔵はかたくなで一本気で、家老の息子と対立するが、達成やがてお互いを認め合っていく。一方藤兵衛はいかさま博打で入植者仲間から土地を取り上げて小作化しようと図るが、吉保から派遣された荻生徂徠によって阻止される。

    その先の開墾が達成されていく様子が描かれず、達成後と赤穂浪士の討ち入りへの対応の話が加わるのは、いささか興がそがれる。

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著者プロフィール

東京生まれ。フリーランスライターの傍ら小説執筆を開始、2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞を受賞。08年には『一朝の夢』で松本清張賞を受賞し、単行本デビューする。以後、時代小説の旗手として多くの読者の支持を得る。15年刊行の『ヨイ豊』で直木賞候補となり注目を集める。近著に『葵の月』『五弁の秋花』『北斎まんだら』など。

「2023年 『三年長屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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