ある男

著者 :
  • 文藝春秋
3.79
  • (223)
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  • (48)
  • (12)
本棚登録 : 4041
レビュー : 422
  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909028

作品紹介・あらすじ

愛したはずの夫は、まったくの別人であった。「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作!弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    「人が他人になりきる」という点において、宮部みゆきの「火車」を彷彿とさせる作品でした。
    ちょっと文学的なアプローチが多い作品で、「なんかキザだなー」と読んでいて思う箇所も数多くあったので読み終えるのに難儀しましたが、ストーリー全体の完成度や登場人物たちの思考などの緻密さは、やっぱり「名作」といって過言ではないと思いました。
    (余談ですが、自身の以前の勤務地でもある宮崎県が本作品の舞台となっていたことが、なんだか親近感があって嬉しかったです。)

    作中通じて、主人公である弁護士の城戸の思案の深さと人としての脆さ、そして登場人物各々の心情などが台詞の一つ一つで垣間見る事が出来て、月並みな感想だけど何てゆうか本当に「人の考える事って十人十色なんだなー」と読んでいてしみじみと感じることが出来ました。
    ただ、城戸みたいに何事に対してもあんなにデリケートかつ奥深く受け止めたりする習慣が自分にないなと思って、読んでいてなんだか歯痒さを感じた。
    (僕自身考えが浅くポジティブな人間なので、ネガティブで思慮深い考えを持っている人の描写は、あまり受け付ける事ができない・・・笑)

    また、下記引用にも挙げているように、「国家は、この一人の国民の人生の不運に対して、不作為だった」という考え方に関しては、今までそんな考えを思いつかなかったなと新鮮に感じ、そういった意味でも本当に人によって色んな考え方があって興味深いなとも思いました。

    さて、結局この本が一番伝えたかった事が何なのか?
    と考えたところ、「愛に過去は必要なのだろうか?」という問いに帰結するのではないでしょうか。
    その問いの対象がこの本では、「ある男」というこの本のタイトルでもある「大祐(=原誠)」という一人の男でしたが、濃淡はあるにしろ、人には誰だって表立って他人に言えない過去を抱えて生きているモノだと思いました。
    そして同じく、濃淡はあるにせよ、人を愛するためにその相手の過去が気になってしまうのは人間の性なのかなと思います。
    そういった大義的な意味で、本書の重点的なテーマである「愛に過去は必要なのだろうか?」という問いはほとんどの人が過去に直面してきた問題だと思うし、そのときの状況や受け手によって回答が変わってくるんだろうなーと思考しました。

    そしてこの本のラストでは、「過去よりもその人と過ごした(=その人を愛した)時間やこれからの未来が続くだけで幸せなのではないだろうか」という結論に至るわけですが、そう思える家族がいるだけで、周りの人にそう思われながら悼んでもらえるだけで、自分の人生は幸福に満ちているのではないかなーと感慨深くなりました。

    前述の通り、やや文学的なアプローチが多くてちょっと蛇足が多いのじゃないかとヤキモキもしましたが、本当に読み応えがあり共感する箇所を多く、全体的に非常に完成度の高い1冊でした!


    【あらすじ】
    愛したはずの夫は、まったくの別人であった。

    弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
    宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。
    長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。
    ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。
    悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。
    里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。

    人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
    「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。
    人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。


    【引用】
    1.スティグマ:人の差別や悪感情や攻撃の材料にされるような特徴のこと

    2.マコトはチャンピオンになりたかったわけじゃないの。ただ、普通の人間になりたかったんですよ。
    フツーに、静かに生きたかったの。誰からも注目されずに、ただ平凡に。心の底からそう思ってた。
    けど、会長が一生懸命なのも知ってたし、辛かったと思う。

    彼はもう一度、机の上の里枝と一緒に写っている原誠の写真に手を伸ばした。
    「早死にしたのはかわいそうだけど、最後に幸せになって、良かったな」

    「心配してたみたいに、人を傷つけることもなく一生を終えて、それも本当に良かった。俺の言った通りだろうって、言ってやりたいですよ。
    ・・・あいつと今、話したいこと、いっぱいありますよ。会長も、きっと。」

    3.国家は、この一人の国民の人生の不運に対して、不作為だった。
    にも拘らず、国家が、その法秩序からの逸脱を理由に死刑によって排除し、現実があるべき姿をしているかのように取り澄ます態度を城戸は間違っていると思っていた。
    立法と行政の失敗を、司法が、逸脱者の存在自体をなかったことにすることで帳消しにするというのは、欺瞞以外のなにものでもない。
    もしそれが罷り通るなら、国家が堕落すればするほど、荒廃した国民はますます死刑によって排除されねばならないという悪循環に陥ってしまう。

    4.突き詰めれば、どれもこれも具体的に取り組むべき問題だよ。
    だけど、考えだすと、具合が悪くなるんだよ。自分の存在が、全く保障されていないみたいな苦しさを感じる。
    だけど、さっき話した人のことを調べてる間は、気が紛れるんだよ、なぜか。
    自分でもわからないけど、とにかく、他人の人生を通じて、間接的になら、自分の人生に触れられるんだ。

    「みんな、自分の苦悩をただ自分だけでは処理できないだろう?誰か、心情を仮託する他人を求めてる」

    5.ルネ・ジラール「三角形的欲望」:人間は一対一で欲望するのではなく、ライヴァルがいるからこそ自分もその相手をいいと思う感情。





    【メモ】
    p37
    「息子さん?・・・あ、いや、そっちじゃなくて、こっちです。大祐の遺影は、ないんですか?」
    「・・・それですけど。」
    恭一は、眉間に皺を寄せて、「ハ?」という顔をした。そして、もう一度写真に目をやって、不審らしく里枝の顔を見上げた。
    「これは大祐じゃないですよ」
    恭一は呆れたような、腹を立てているような眼で、里枝と母を交互に見た。そして、頬を引き攣らせながら笑った。
    「変わってるとか、そういうんじゃなくて、全然別人ですよ、コレ。」


    p85
    人生は、他人と入れ替える事ができる。
    そんな事は、夢にも思ったことがなかったが、彼女の夫は実際そうしていたのだった。別人の人生を生きていた。
    しかし、死は?
    死だけは、誰も取り替える事が出来ないはずだった。


    p146
    「普通の町で、日本人と同じように育ってきたから、いじめられた経験もないし。自分の出自を、最近までスティグマとしても大して意識してなかったんです」
    「・・・スティグマって、何でしたっけ?」
    「あぁ、スティグマって、人の差別や悪感情や攻撃の材料にされるような特徴のことですよ。
    それ自体は別に悪いことじゃないにしても。例えば、顔のあざとか、犯罪歴とか、生まれ育ちとか」

    「スティグマが強調されると、その人の持ってる他の色んな面が無視されちゃうでしょう?
    人間は、本来は多面的なのに、在日っていう出自がスティグマ化されると、もう何でもかんでもそれですよ。
    正直僕は、在日の同胞に、俺たち在日だしなって肩を組まれるのも好きじゃないんです。それは、俺たち石川県人だもんな、でも同じですよ。
    弁護士だろうとか、日本人だろうとか、何でもそうです。アイデンティティを一つの何かに括り付けられて、そこを他人に握りしめられるってのは、堪らないですよ」


    p243
    「会長は、マコトをどうしてもチャンピオンにしてやりたかったんですよ。辛い人生だっただけに、それを変えてやりたかったの。自信もつくでしょう?」
    「ええ。」
    「けど、マコトはチャンピオンになりたかったわけじゃないの。ただ、普通の人間になりたかったんですよ。」
    「・・・。」
    「フツーに、静かーに生きたかったの。誰からも注目されずに、ただ平凡に。心の底からそう思ってた。ホントに。けど、会長が一生懸命なのも知ってたし、辛かったと思う。」

    (中略)

    彼はもう一度、机の上の里枝と一緒に写っている原誠の写真に手を伸ばした。
    「早死にしたのはかわいそうだけど、最後に幸せになって、良かったな」
    「心配してたみたいに、人を傷つけることもなく一生を終えて、それも本当に良かった。俺の言った通りだろうって、言ってやりたいですよ。うん・・・あいつと今、話したいこと、いっぱいありますよ。会長と、きっと。」


    p252
    彼には責任があるのだとは、城戸も当然に考える。
    彼は、個人の自由意思を一切認めないといった極端な立場にまで、どうしても立つことが出来ない。
    しかし、小林謙吉の生育環境が悲惨であることは事実であり、彼の人生の破綻が、大いにその出自に由来していることは明白だった。

    国家は、この一人の国民の人生の不運に対して、不作為だった。
    にも拘らず、国家が、その法秩序からの逸脱を理由に、彼を死刑によって排除し、宛らに、現実があるべき姿をしているかのように取り澄ます態度を、城戸は間違っていると思っていた。
    立法と行政の失敗を、司法が、逸脱者の存在自体をなかったことにすることで帳消しにするというのは、欺瞞以外のなにものでもなかった。
    もしそれが罷り通るなら、国家が堕落すればするほど、荒廃した国民は、ますます死刑によって排除されねばならないという悪循環に陥ってしまう。


    p270
    「数奇な運命だけど・・・彼の人生が、あなたにとって何なの?」
    城戸は、妻らしい身も蓋もない問いかけに、自嘲的に言った。
    「さぁ、最初は何でもなかったんだよ。ただ依頼者の境遇が不憫で引き受けた仕事ってだけで。そのうちに、他人の人生を生きるってことに興味をそそられていって、彼が捨てたかった人生のことを想像して・・・現実逃避かな」


    p272
    「突き詰めれば、どれもこれも具体的に取り組むべき問題だよ。だけど、考えだすと、具合が悪くなるんだよ。自分の存在が、全く保障されていないみたいな苦しさを感じる。
    だけど、さっき話した人のことを調べてる間は、気が紛れるんだよ、なぜか。自分でもわからないけど、とにかく、他人の人生を通じて、間接的になら、自分の人生に触れられるんだ。」

    「みんな、自分の苦悩をただ自分だけでは処理できないだろう?誰か、心情を仮託する他人を求めてる」


    p294
    ルネ・ジラール「三角形的欲望」
    人間は一対一で欲望するのではなく、ライヴァルがいるからこそ自分もその相手をいいと思う感情。


    p347
    一体、愛に過去は必要なのだろうか?
    わからなかった。
    ただ、事実は、彼の嘘のお陰で、自分たちは愛し合い、花という子供を授かったのだということだった。

    「亡くなられた原誠さんは、里枝さんと一緒に過ごした3年9ヶ月の間に、初めて幸福を知ったのだと思います。彼はその間、本当に幸せだったでしょう。短い時間でしたが、それが彼の人生の全てだったと思います」


    p351
    里枝は顔を上げると、食器棚に飾られた父と遼の遺影を見つめ、家族4人の写真に目をやった。
    彼はもういない。そして、遺された2人の子供は随分と大きくなった。
    その思い出と、そこから続くものだけで、残りの人生はもう十分なのではないか。
    と、感じるほどに、自分にとっても、あの3年9ヶ月は幸福だったのだと、里枝は思った。

  • 読みたかった本。平野さん初読み。この人の書く人物たちは実在するような、読んでる自分も感情移入とは違い本当にその人になったような不思議な気持ちになり一気に読んだ。濃い読書体験。その後の話も知りたい。

    • もとさん
      感想読んで興味持ちました。今度読んでみます。
      感想読んで興味持ちました。今度読んでみます。
      2021/01/17
    • 111108さん
      つたない文章なのに興味持っていただいて嬉しいです。
      つたない文章なのに興味持っていただいて嬉しいです。
      2021/01/17
  • 『こんな人生』って、あるんだ。と、自分の今の生活の中では、想像の領域からもはみ出ている世界を知った気がした。想像すらできない世界、想像しなかった世界、そして本作の登場人物たちの心中を感じることで、自分の世界、視野、思考が広がった気がした。一方で、自分の置かれている境遇、世界がどんなに平穏なもので、それが素晴らしいかを改めて感じることもできた。その点で、私にとって本作は読書の凄さというのを改めて認識できる本であった。

    「愛したはずの夫は、全くの別人であった」愛した夫は、別人でもなく自分の夫ではあるのだが、亡くなってから実は戸籍上でのその人ではなかったということがわかる。では、いったい自分は、誰と結婚していたのか?それが誰であろうが、出会ってからのその人、個人を愛したであろう。とは、思うものの、確かにその個として愛したものの、出所不明となると、その愛にも揺らぎが生じるかもしれない。読みながら批判をする自分と同意する自分を認める。

    本作は戸籍を交換していた『ある男』の戸籍交換に至った経緯(と書くと、安直すぎるのだが)にたどり着く過程の中で、『その男』と『ある男』、その周りの人たちの心情を、綴った作品である。

    いつも思うのであるが、この作者の作品には、主人公の内面的な暗さや、環境における疎外感を感じる。また、その表現が絵画を見ているような緻密な表現であり、頭の中でそれが絵となり、色となる感覚がある。緻密な表現とは、表現を同じ意味の言葉を同じ方向から重ねたり、違う方向から言い換えたりと、状況、心情の描写が緻密であるということで、時には言葉で遊びすぎている感があり、ついていけなくなる時もある。それは、言葉で遊んでいるのではなく、表現の多角的手法であって、単に私がついていけないだけかもしれない。(そしていつもなぜか国家、国民的レベルの描写が登場しているように感じるのは、気のせいなのだろうか。)

    読後の満足感は高い作品であった。

    (以下は、すごくまとまった作品紹介だったので、自分用の備忘録としてです。)

    「弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
    宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。
    里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。

    人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
    「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。
    人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。(文藝春秋BOOKS 作品紹介より)」

    里枝の長男・悠人のことがずっと気になっていたところ、最後に里枝から悠人への説明があり、ホッとした。当然の流れではあるが、読者の心を読んでいるのがこの作者のらしいと思った。

  • 事故で亡くなった夫が、別人だった。本人の話していた過去とは別人だった夫の過去を妻は、かつて世話になった弁護士城戸に調査を依頼する。なぜ別人になったのか?その問いを探ることで、城戸は自分とも向き合っていくことになる。
    平野啓一郎作品は、はじめてで、何となく読んでいくのが難しいかなと思っていたが、実際に歯どんどん読み進めていくことができた。城戸の調査は、本人は引き込まれていくものの、本業の忙しさでけっこう間が空いた感じの調査だが、その中に城戸の出自もからめた問題の話が入ることで、より一層なぜ別人になったか、愛や関係性への過去の影響と言った点が、はっきりしていく感じだった。
    別人になった理由が、最近読んだ本で取り上げられていたものだったり、過去を変えようとするのも、たまたまちょっと前に読んだ話に出てきていたので、話全体が興味深く読めた。気になったのが、息子が自分の父親の名前が違うことで、苗字が違っていたことから、自分は何者かを母に問いかけるシーン。一度離婚で苗字が変わってという背景もあるが、苗字が何回か変わること(余り自分には縁のないものに変わる)による喪失感について考えさせられた。名や性というものが持つアイデンティティーに対する影響は大きいということだろうか。
    嘘の過去を話されていたこと、本当の過去を知ることで、相手に対しての想いがどうなるのか、自分に当てはめた時には、どうかわからない。冷淡な意味で受け入れそうな感じもあるが、やはり心のどこかでくすぶるのかなどと考えた。
    ただ、城戸を巡る関係で最後の方で明らかになるものは、なぜここで入るか?という感じがした。全体を通しての意味はありそうなんだが、きっちり読み解けないだけなのか?ちょっとモヤッとした。

    • まきとさん
      「全体を通しての意味はありそうなんだが、きっちり読み解けないだけなのか?ちょっとモヤッとした。」我流の解釈で、小説は自分とあてはめながら読み...
      「全体を通しての意味はありそうなんだが、きっちり読み解けないだけなのか?ちょっとモヤッとした。」我流の解釈で、小説は自分とあてはめながら読みます。ですんで、きっちり読み解けてないという読後感はいつも残ります。
      2020/10/11
  • 大好きな作家さん。
    雑誌にこの本が一挙掲載された時、すぐに書店に走って購入したにもかかわらず、ここまで温めてしまった(笑)

    何故なら、平野先生は大好きな作家さんなのだが、私の頭がバカ過ぎて、読むのに苦労するから(^_^;)

    そうこうしているうちに単行本が出てしまい、単行本を購入。

    やっと読み始めました(笑)

    この本はそこまで気合いを入れなくても、十分読みやすい作品だった。


    愛したはずの夫は、まったくの別人であった。

    弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。

    宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。
    里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。

    人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
    「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。



    さすがの平野先生。
    壮絶な物語だった。

    様々なテーマが入り組んでいて、アイデンティティだったり、差別であったり、夫婦の問題であったり、まぁとにかくこの先生の小説を読んだ後はいつも頭がいい意味でショートします(^_^)

    読後に色々考えすぎてしまうからなのかな?

    読めない漢字もあったし、調べた単語もたくさん。美しい表現がてんこ盛りで、とにかく上品。

    綺麗な小説でした!!

  • いま読み終わりました。「マチネの終わりに」で感動した平野啓一郎さんの最新作、本屋大賞ノミネート作。

    この作品は、実に実に深く深く「愛とは何か」を問いかけてきているような気がします。

    亡くなってすぐ、自分が愛していた最愛の夫が、実は全く正体不明の別人である事が発覚し、物語は始まっていきます。

    読んでいて、主人公のみならず、登場人物一人一人に自分を置き換えて考えさせられました。

    この生きにくい世の中を皆んなが懸命に生きてる。でも中には自分の努力だけではどうしようもない、出自、育った環境、、頑張れ!なんて、簡単に言えるものか、、他人事だからこそ、気楽に頑張れ!なんて言えるんじゃないか、、もし自分がその境遇だったらどうする? この想像力がないとほんとの意味での優しさとは言えない。

    この物語に出てくる登場人物も実に複雑で辛い過去を背負っています。それが故にこの物語のキーとなる謎が生まれていきます。

    死んだ最愛の夫は名前も出自も違う、全くの別人、、戸惑う家族に明かされる衝撃の真実、、それでも愛せるのか、いや愛していたと言えるのか、、

    最後に息子が死に向き合うために文学に没頭していった事、そして母親と始めて、真実を前に気持ちを出せることに涙します。そして、なくなった正体不明の夫の事を自分に置き換え、さらに涙が止まらなくなります。

    凄く深い愛の物語、おススメします。

  • こういう思索がぐるぐるする小説は好き。
    音楽と絵が多く登場するにもかかわらず、モノトーンな感じも好きだ。

    人を愛する意味を探索する物語。
    答えに、たどり着けたようなたどり着けなかったような、モヤモヤ感が、この小説の良さだと思う。

  • 結婚していた男は、“別人”だった…?
    なぜ男は、“別人”となったのか…

    死ねない、けれど“自分”として生きることもできないとき、人はなにを考え、何を選ぶのか。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    弁護士の城戸のもとに、かつての依頼者である里枝から、ある依頼が届く。

    里枝が再婚した夫(X)の死後、夫が“名乗っていた”人物と夫が、まったくの別人だったことがわかったのだ。

    混乱した里枝は城戸に相談し、調査を依頼するのだが…。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    “夫(X)”の正体を追い求めるミステリー、かと思いきや、この本の本題は“X”の正体を明かすことではありませんでした。

    しかしわたしは始め、この本の目的は“X”の正体を明かすことにある、と思いながら読んでいました。
    そのため、何が言いたいのかよくわからない序の章や、弁護士・城戸の人生にページをさかれ、なかなか“X”の正体にたどりつかないことに、少しいら立っていたのです。

    しかし、1/3ほど読み進めたところで出会った文章が、「この本はXの正体をつきとめるミステリーだ」という、わたしの思いこみを変えました。

    「死ねば、その瞬間から ー微塵の遅れもなく!ー この意識は絶たれ、その後二度と何も感じず、何も考えることが出来ずに、ただ時間が、生きている者たちのためだけに滞りなく過ぎていくことに、完全に無関係であり続ける。」(123ページ)

    この文章でわたしはようやく、“この物語はただのミステリー小説ではない”、と気づけたのです。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    死ねない、けれど“自分”としても生きられない。
    そんなとき、あなたならどうしますか…?

    “自分として生きたくない”とは思う、けれども“死ぬ”こともできない自分に絶望したことは、ありませんか。

    わたしはあります。

    “わたし”という名をもった、この“身体(イレモノ)”が、本当に疎ましく思い、この“身体(イレモノ)”から魂だけを無くす方法を、真剣に探しました。

    「人間の最後の居場所であるはずのこのからだが地獄だというのは、どんな苦しさだろうかと考えた。」(239ページ)

    何をきっかけとし、“自分の身体”を地獄と感じるのか。
    それは人それぞれ違います。
    “X”とわたしの感じた地獄もまた、違うものです。

    けれど、どんな地獄にいようと、やはり苦しいのです。
    そんな地獄のなかでさえ、死を選ぶことができないならば、どうしたらいいのか。

    死ねないならば、生きるしかありません。
    でもどうやって?
    “自分”として生きることは地獄でしかないのに?

    そうして“X”が、地獄のなかで選んだ生き方が、この本には書かれています。
    しかしその方法は、法律上はけっして許されるものではありませんでした。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    弁護士の城戸は、その選択をした“X”に、強くひかれ、憧れます。
    けれど“X”のような道を選べない自分であることに、城戸は苦しさを覚えていきます。
    城戸にできることは、カウンターで束の間、“X”になりきり、彼の人生を語っていくことだけです。

    この物語の本題は、“X”の正体を知ることではありません。
    “X”がなぜその行動をとったのか、それを通して、“自分”として生きるとは何なのかを、読み手に強く問いかけてくる、そんな物語なのです。

  • 次男を亡くした上に離婚、辛い過去を経て、ようやく穏やかな結婚生活を得た里枝だったが、夫「谷口大祐」の急死によって、彼が全く別人だったことを知る

    調査を依頼された弁護士城戸によって、物語は進められていく
    理枝の夫の正体は? 本当の谷口大祐は、今どこにいるのか?

    谷口大祐を調べていくことは、城戸にとって生きるために在日3世である自分のアイデンティティがどこにあるのかを自らに問いかけることでもあった

    調査の結果、父が死刑囚という事実を背負い、身を潜めるようにして生きてきた「原誠」という人間の辛く悲惨な過去が浮かび上がってきた
    自分も父のようにいつか人を殺すのではないかという遺伝の不安に慄きながら生きてきた原

    そして、他人として生き直すことを選択することに

    装丁の今にも崩れ落ちそうな頭を抱える男の姿がこの苦悩をよく表している

    原誠という体から抜け出し、自分ではない誰かになり、他人の過去で、自分の出自や過去を上書きし、他人として生きることでしか生きられなかった原誠

    何も多くを望んだわけではない。ただ、普通の人間になりたかっただけなのだ。普通に生きたかっただけなのだ

    胸が潰れそうに切なかったが、伐採した木の下敷きになって不慮の死を遂げる前の3年9ヶ月の理枝との結婚生活は、子どもも授かり、人に愛され、人を愛する喜び、生きる喜びを知った彼の人生の全てとも言えるものであっただろう
    それだけが救いだった

    最後にーーー
    弁護士城戸が、原誠の父の死刑について、言及したコメントには考えさせられた

    人生の破綻がその出自に由来するなど、一人の国民の人生の不幸に対して、国家は不作為にも拘らず、国家がその法秩序からの逸脱を理由に死刑によって排除する
    立法と行政の失敗を司法が逸脱者の存在自体をなかったことにすることで、帳消しにすることは欺瞞以外の何ものでもない

    人が人を裁くことの重さ・死刑の是非等、数多くの問題を含んでいる




  • 借り出しにかなり時間がかかった本、やっと順番が来た1日で読み終えた 笑。
    失意が続いた女性が我が子と2人 宮崎の故郷に戻り、そこで出逢った寡黙で飾らない男性を伴侶にやっと幸せな暮らしを得る。しかし不慮の事故で数年の幸せが突然に終焉し、しかも聞かされ知らされ信じていた名前も境遇も全く異なる人物だったと知らされる! 苦慮した彼女はかつて世話になった弁護士を頼り、物語はかの弁護士をストーリーテラーに展開する。そしてこの弁護士をはじめ人々は皆 心にかなりの荷物を抱えていることが明らかになりながらの過程に興味が尽きない。同じ作者の「マチネの終わりに」よりもこの作品の方が好みだった。

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著者プロフィール

小説家。1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒業。在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により芥川龍之介賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2020年より芥川賞選考委員。小説に『決壊』(新潮文庫、芸術選奨文部大臣新人賞)、『ドーン』(講談社文庫、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『マチネの終わりに』(文春文庫、渡辺淳一文学賞)、『ある男』(文藝春秋、読売文学賞)、『本心』(文藝春秋)、エッセイに『私とは何か――「個人」から「分人」へ』『「カッコいい」とは何か』(いずれも講談社現代新書)など。

「2021年 『三島由紀夫『金閣寺』 2021年5月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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