ある男

著者 :
  • 文藝春秋
3.74
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本棚登録 : 5791
感想 : 640
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909028

感想・レビュー・書評

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  • 平野さんのファンなので、初版が欲しくて書籍は発売と同時に購入してました。
    しかもファンクラブ的なものにも入っているので、発売前にメールレターでも読んでました。
    再読して今頃ですが、ゆっくり大事にレビュー書いてます。。

    本作では、何をもって人間のアイデンティティーは証明できるのかということを考えさせられました。
    「私」を「私」として成り立たせているものは過去?
    未来の「私」も「私」なの?・・・

    結局自分の存在は、他人の記憶の集まりで成り立っていて、ものすごく不確実なところに立たされているのではないかと、そんなことを初めて感じました。
    私はAB型なのですが、子供のころはAB型イコール二重人格などと言われるので、それがあまり好きではなくて血液型は隠していました(笑)。
    でも、そういうのともちょっと違って、他人の記憶の集まりで私が出来ているとしたら、私に限らず誰もがみな、他人の数だけ自分が存在するんですよね。
    まあそれが、著者の「分人」につながる考え方ですけど、どう生きてきたか、どう死んでいくか、その軌跡も方向もひとつじゃないのかも、なんて考えると、ちょっとラクになるなあなんて思ったりして。

    やっぱり平野さんの作品は好みだなあ。。

    そうそう。当事者として心が強く揺さぶられる感覚はなく、常に俯瞰的な視点で読み進めた話ですが、一つだけ。
    悠人の成長には心がじんわり温まりました。がんばってね。

  • よかった。不気味さや結構怖い面もあったけれど、ある男の正体に迫る中で、自分自身のあり方まで自問し、変えられていく男の話でもある。
    序文の存在がまた主人公の城戸のその後を匂わせているし、フィクションの奥に隠された本当のことに興味が尽きないつくり。

    死んだ夫から知らされていた事実が全て嘘、本当の彼は何者か?というミステリ的な始まりなんだけれど、弁護士として追っていく中で、奇妙な共感や、同情、失望が城戸にもたらされていく。

    紛れもなく主役は城戸自身だけど、なかなか入り込んだ話で、哲学や社会、文学や芸術の効用まで高い知性と教養に裏付けされた物語が展開されます。

    ストーリーそのものが興味深いので、細かなことを気にしなくても面白いけれど、他人に成り代わることで本当のものをつかめることもあるのかな?とか、いろいろなことを考えさせられる内容でした。

    Xに関しても、当初は不気味に移る彼の人生があぶり出されるにつれ、言いようのない気持ちに何度も襲われる。

    途中からは、誰かの人生だからこそ、上手に歩むこともできるのかな?とか、今の自分の人生は誰かにとってなり借りたいものだったのかな?とか、必ずしも本物であることが幸福をもたらす訳ではないのではないか、また事実が知られるにはそれ相応の時があるのではないか、などなど哲学してしまう内容でした。

    何度も語られる在日三世の話にしても、Xとは違う方面で、出自がもたらす運命的なもの、レッテル、そういったものを違う方向から考えさせる材料になっています。

    作者の平野氏は大変なインテリなんだなという印象があるので、彼の構成の意図を把握するには何度か読まなければいけないかな、と思いますが、熟読にて値する内容だったと思います。
    近頃の作家さんでは珍しい濃い内容でした。

  • 初読みの作家さん。
    映画を観てから読んだ作品。細かいところは忘れていたけれど。

    谷口大祐を名乗る人の複雑な人生、谷口大祐だった人の行方。夫や父親が何者かわからないという不安。さらに弁護士の個人的な出自や家族関係もからんでくる。
    いろいろ重いテーマが出てくるし、文章も固いけれど、若干ミステリー仕立てというのもあり、読むのは難しくなかった。
    悠人くんが前向きに生きられそうなラストでよかった。
    導入部の作家の話は、なくてもいい気もした。

  • 現代の「社会」から「家庭」に至るまでの様々な問題が詰まっており要所要所で苦しくなったが、内容が深く、過去と現在を改めて考えさせられた。「ある男」はとてつもない不遇の末やっとつかんだ幸せを、不慮の事故で失うのはあまりにも不憫だとも感じたが、短くとも真の幸せを得ることができ、苦労が報われてよかったとも思える最後だった。なんだかんだ言っても「自分の人生」がいいと思える環境にいられることが幸せなのだとしみじみ感じた。

  • 著者の「日蝕」では挫折したので避けていたのだが、エッセイ「死刑について」を読み、少し興味をもったところ、この「ある男」が映画化されたこともあり、ようやく手に取ってみた。人にとって過去とは何なのか、人を愛するということはどういうことかを考えさせられるものだった。これを機に他の作品も読んでみたくなった。

  • このような事が実際にあるのか。あるとしたら、怖いような。

  • 面白かった!
    期待をかなり上回る面白さ。

    1人の女の人生の表側と繋がっていたのは、1人の男の人生の裏側、正確には別の男の裏側だった。
    ある男という表題にも納得。

    心情描写が上手く、行間に無駄がない。
    話しにぐっと引き込まれ、心を持っていかれる。
    素晴らしい文学作品。

    • yhyby940さん
      ありがとうございます。ご感想を書き込んでいただけたら嬉しいです。
      ありがとうございます。ご感想を書き込んでいただけたら嬉しいです。
      2023/08/20
    • ilemocさん
      本棚とコメント拝見しました。「いいね」を押しすぎてしまいすみません、コメント読んでたらついつい。読んだらコメント書かいてみますね!
      本棚とコメント拝見しました。「いいね」を押しすぎてしまいすみません、コメント読んでたらついつい。読んだらコメント書かいてみますね!
      2023/08/20
    • yhyby940さん
      「いいね」を、たくさん頂けるのは励みになります。ありがとうございます。
      「いいね」を、たくさん頂けるのは励みになります。ありがとうございます。
      2023/08/20
  • #3159ー216ー453

  • 平野さんの小説は
    『マチネの終わりに』『空白を満たしなさい』に続いて3作品目。続けてもっと読みたいと思った!

    繊細に人の心が描かれていて
    自分のかつての心の動きと
    重ねる事で自分を理解したり共感したり。

    何より 原誠の幼少期からの人生を思うと
    里枝との3年9か月の結婚生活で
    双方が幸せだった それが全てで
    原誠の「この世界に生まれたからには"普通に"生きたい」
    が叶っていたから 救われてた 良かったと
    感動せずにいられなかった

    城戸さんは美涼と進展するかと思った
    里枝家族の話で終わってた所から、城戸さんらしい紳士、聡明な態度だと思った。
    でも水族館の所で自分を客観的にみて「これが幸福なんだ」と言い聞かせてた所から、本当に心が望むものを押し殺してると感じた。結婚後は、子供がいて、一生一緒にいると誓った大人の決断を感じた。
    城戸は美涼が自分を想っていたと気づいてたはず。2人の大人の態度、言えば煮え切らない態度?が若い人のラブストーリーとは違うと思った。

    登場人物たちの未来の平穏と幸せを願うのと同時に、彼らの人生の一端に触れられて良かった!(戸籍交換で堕ちていってしまった人は同情するしかないが...)

    平野さんの本による読書体験 やめられない~
    平井堅の『ノンフィクション』がこの小説が映画化した時にぴったり!

  • 入れ替わった死者の過去を追う弁護士を書いているので、分類としたらミステリーなのだろう。とはいえ、ミステリーにありがちな無闇に感情を掻き乱すエンタメ本とは違う。
    在日3世の葛藤、犯罪の考察、幼い子供を持つ夫婦のすれ違いといった描写が丁寧で、立体的でいて、地に足のついた、実在していそうな主人公を作っている。
    主人公の魅力の一つとして、自身の考察に、文学や神話といった本を引用するあたりが知的なのだが、それをかっこよく見せたいからと意中の女性に揶揄してみせたり、稚拙さにうんざりすると描写する俯瞰的な冷静さが、しびれる笑
    平野啓一郎さんは初読みだったが、他の著書も読んでみたい。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平野啓一郎の作品

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