神さまを待っている

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909080

作品紹介・あらすじ

誰にも「助けて」と言えない。圧倒的リアリティで描かれる貧困女子の現実。文房具メーカーで派遣社員として働く二十六歳の水越愛。派遣期間の終了とともに正社員になるはずだったが、会社の業績悪化で職自体を失う。失業保険を受けながら求職活動をするがうまくいかない。家賃よりも食費を選び、ついにホームレスになってしまう。漫画喫茶に寝泊まりしながら日雇いの仕事でお金を稼ぎ、また前の生活に戻ることを目指して日々をやり過ごす愛だったが、同じ境遇の女性に誘われ「出会い喫茶」に行くことで、自意識が揺らぎはじめる。生きるために「ワリキリ=売春」をやるべきなのか。ここまで追いこまれたのは、自己責任なのだろうか。普通に大学を卒業し、真面目に勤めていた女性が、またたくまに貧困に呑み込まれていき、抜け出せなくなる。貧困女子に必要なのは、お金だけなのか?自らの体験をもとにした、著者渾身の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • いつ誰の身にも起きてもおかしくない身近な話しなだけに、読んでいて苦しかったな。
    若い女子の隠れ貧困は最近になって色んな記事を読むけど、派遣、ホームレス、今日を生き抜くためだけの収入と仕事。
    健康なだけ故に福祉に頼れない。
    サチのような子供を抱えた貧困家庭、ナギのように路上生活しながら生きて行く未成年者。

    時々、捨てるとこで捨てきれない愛のプライドにイラッとしたけど・・・愛は雨宮という「神様」が居てくれるだけで
    まだまだ、幸せでやり直せる。

    そんな「神様」さえ居ない人が、きっと沢山いるんだよね。
    貧困って、お金じゃなく孤独な事を言う・・・て、凄く心に響きました。

  • うつになり
    症状が少し落ちついてきたときから
    本を読みはじめました。

    しかし、当時はまだ
    気持ちが沈んでいる日も多く、
    選んだ本が読めないことも
    多々あり、

    本が読めない自分に
    落ちこんでいました。

    しかし、
    ブログでも以前書きましたが
    それは本が悪いわけでも
    わたしが悪いわけでもなく、

    本とわたしのタイミングが
    合わなかっただけなんだな、と
    少しずつ
    思えるようになりました。

    その頃よりは
    読める本も増えましたが、

    それでもときどき、

    この本はもう少し未来に
    出会い直そう、という本に
    会うことがあります。

    久しぶりに
    そんな感覚になった本が
    「神さまを待っている」です。
    ~~~~~~~~~~~~~~~
    派遣社員として働いていた
    主人公・愛。

    しかし正社員になれず
    契約を切られ、
    家賃をも払えなくなった愛が
    貧困の渦にのまれながら
    たどり着いた先は…
    ~~~~~~~~~~~~~~
    主人公が
    貧困にのまれていくさま…

    リアリティありすぎて、
    序盤から
    息をするのが苦しくなり、
    それ以上
    読み進められませんでした。

    これは自分に起こっていても
    まったく不思議ではない物語で、

    だからこそ
    読み進められなくなって
    しまったのです。

    真面目に生きてきても
    仕事を一生懸命していても
    自分ではどうしようもない
    苦しい現実が、ここにあります。

    「努力が足りないよ」
    「真面目にやってりゃ、なんとかなる」

    そんなセリフを言っている人に、
    黙ってこの本を
    つきつけたくなります。

    今のわたしには読めないけれど、
    でも、読みながら
    息ができるようになったら、
    そんな自分になれたら、
    もう一度出会いたい本です。

  • 女性の貧困がテーマ。YouTubeでベルさんが『夜が明ける』と引き合いに出されたから気になっていたんだけど、『夜が明ける』よりもリアルだし心理描写とかが心に刺さり、自分的にはこちらのが当たりだった……!もちろん、フィクションだからこそのご都合主義的部分があるのも否めないんだけど、それを差し引いても読んでよかったかなと思う(むしろこういうテーマには救いがないとやってられん!笑)
    愛みたいな『普通の大卒』って多いと思うんだよね。最初のアジフライのところから共感刺さりすぎて引き込まれてしまったよ。ていうか愛と私の思考と就職までの苦労が似ている気がするのよ…。転職にもほんと労力使うよね、ろくな資格ないと詰むよね、分かる…でもウリとか水系は違うよね分かる…みたいな。知り合いの結婚式の御祝儀に「うへぇ……」ってなるのも実はあるあるなんじゃないかなぁ。
    「神待ち」という言葉があることは知ってたけど、彼女達が自分なりの「神さま」にすがって生きる描写はやっぱり切ないな。

  • 若者の貧困、女性の貧困、そのリアルが描かれています。
    特に何かを怠ったわけではないのに、気づくと家をなくし、ホームレスとなった主人公。
    漫画喫茶で寝泊まりし、出会い喫茶の「茶飯」で糊口をしのいでいますが、どうしても「ワリキリ」には抵抗を拭えない彼女の有り様が、多くの読者にとって共感できるラインなのだろうと思います。

    ワリキリで体を売ることを、彼女は蔑むことはしませんし、そうでしか生きられない女性たちを否定もしません。
    けれども、「日雇いバイトよりもラクに稼げる」「働くのが馬鹿らしくなる」とズルズル深みにハマっていく姿が、痛々しく、また恐ろしくもあります。
    周りに助けを求めることができず、どうにもならないところまで行かざるを得ない、そしてその状況をきちんと(行政などの、本来支えるべきところが)把握出来ていない、というのが問題なのだろうと思います。

    貧困とは、お金がないことではなく、孤独であること、というのは正鵠を射ていると思いますし、ドキュメンタリーやルポよりも読みやすい小説という形式でこの話題が語られていることの意義も大きいと思います。
    できるだけ多くの人に、知って欲しいと思います。

  • この本は、今のリアルを表現してくれた本だと思う。
    テーマは、女性と貧困。
    社会で考えるべきことのひとつだと思えたよ。

    主人公は、愛ちゃん。
    大学卒業したけど、高望みのせいか、
    正社員での就職ができず、派遣で勤める。
    だけど、派遣も継続されず、そのままホームレスとなる。

    ホームレスといっても、公園などでは過ごさず、
    まんが喫茶のナイト料金で過ごす。
    だって、女性が一人で公園にいたら、怖いじゃん。

    短期の派遣で稼ぐも、そんなに稼げず、
    だんだん出会い系へと踏み込んでいく。
    だけど、茶飯(ごはんだけ)だけで、ワリキリ(売春)は
    しないようにするが…。

    なんて重いテーマなのか…。
    読んでて、どんどん深みにはまってく感じがリアルで
    それが、怖くもあったよ。
    いかに自分が恵まれてるのか、感じるし、
    もっと、たくさんの人に、そして本当に必要な人に
    「神さま」がいてくれればと思えたよ。

    重いテーマだけど、最後は明るい兆しが見えたのが
    良かったと思ったなぁー。

  • 普通の派遣社員で働いていた20代前半の女性が派遣切りにあい、貧困に陥っていく話。
    貧困になれて「当たり前」になっていく、これが普通、考えない方が幸せと思っていく。その心理描写に読んでいてとても辛くなった。

    まさか自分が…と思うけど一度、陥ると希望を持つと絶望の大きさに気づき死にたくなる。


    「貧困というのは、お金がないことではない。
    頼れる人がいないことだ。」

    ほんとこの言葉の通りだなぁと思う

  • 貧困、というとどうしてもアフリカやどこか遠い国のことをイメージしてしまう。
    でもこの小説に書かれているのは日本の、東京の、大卒の、26歳という若い女性の、貧困だという。
    正直ほとんど想像つかなかったのだが読んでみてなるほどと思った。就活が上手くいかずに派遣登録、契約更新されずに派遣切り。ハローワークの失業手当はすぐに切れ、選り好みばかりで次の仕事はみつからず、わずかな貯金も底をつけばあれよあれよという間に住む場所がなくなるのだ。
    主人公の水越愛は、親が離婚して母親と暮らしてきた。だがその母親も高校生のときに亡くなってしまい結局すでに再婚している父親とともに住むことになった。
    母と自分を捨てた父親に冷え冷えとした感情を抱いていた愛は、進学で上京して以来は実家に寄り付かず自分の力だけで生活してきた。そこにきての派遣切り。報われない人生で可哀想だったが、「これって誰にでも起こり得ることなのでは?」と気付いたら怖くなった。

    私にも覚えがある。機能不全家庭で育ったので、とにかく早く家を出たくて高校卒業後すぐ上京したのだ。
    無論お金のことも親には頼りたくなかった。高校3年間でバイトしまくってコツコツ貯めたお金で賃貸契約し、初期費用を払い、家具や家電をそろえた。そしたらあれだけあったはずの貯金はあっという間になくなったのだった。
    始めたばかりの仕事の給料は来月まで入らない。焦った私がしたのはキャバクラの体験入店で、手渡しでもらえた日当6000円分の安堵感は未だに憶えてる。あぁ良かったこれで明日のご飯が買えると思った。
    あのときの私だって、出会い喫茶で日銭を稼ぐ愛となんら変わりはなかったと思う。次の月には家賃が払えなくなって漫画喫茶に住んでいたかもしれない。

    "貧困というのは、お金が無いことではない。
    頼れる人がいないことだ。"

    最後のここが全てだと思った。
    助けて欲しいときは、助けて欲しいと声に出さなければならない。
    主人公には雨宮がいて本当に良かった。
    私たちは、ただお金をくれるだけの人のことを「神さま」なんて呼ぶべきではないのだ。

  • 期待を裏切らない読み応えのある作品だった。

    20分並んでようやく食べれる事になった数量限定の鯵フライだが、自分の席にだけソースがない。
    主人公、水越愛の未来を予測させる冒頭の鯵フライのシーンから惹き込まれる。

    普通に大学を卒業し文房具メーカーで派遣社員として働いていた26歳の愛。
    派遣を切られた事で、家賃が払えなくなり、瞬く間にホームレスへと転落して行く。
    実家はあるものの、最低の父親であるが故、頼る事が出来ない。

    自分の住む世界とはかけ離れている様でありながら、人生のどこかでひょんな事がきっかけで陥ってしまう世界の様にも感じる。
    実際、現実問題として、愛やマユ、サチ、ナギの様なケースは確実に存在しているのだろう。

    貧困女子の現実、絶望と希望の狭間で揺れながら苦しむ女性達の姿に心がひりついた。
    貧困というのはお金がないことではなく頼れる人がいないと言う事。

    「助けて」を言える相手の存在の重要性を痛い程感じた。

  • 大学を卒業したものの正社員になれず、派遣社員として働くも正社員への道が絶たれ、貧困生活を余儀なくされる主人公“愛”。
    漫画喫茶で寝泊まりし、日雇いバイトから出会い喫茶で働き、やがて身体を売るまでに至ってしまう。
    親友に助けられ、自立への一歩を踏み出すまでのストーリー。


    派遣社員時代に貯金が少なかったとはいえ、正社員にこだわらずバイトを掛け持ちしてでも、生活環境は変えるべきではなかったと思う。
    一つを失うと他のものも次々と失ってしまう怖さを感じました。

    親友の雨宮がいなかったらどうなっていたのか…

  • はじめての畑野智美さん。
    すごく好きでした。
    はじめての作家さんの本を読むのは最近の私にとっては冒険ともいえますがこちらは当たりでした。

    貧困女子という現代社会の問題を題材にし、
    リアルに描いてゆく。
    格差社会にまつわるお話が個人的に好きなのかもしれません。

    所詮学歴社会
    女は若さが金になる事実
    男はそれを買うため成り立つ需要と供給
    求職のある仕事と言ったら肉体労働やたまの事務仕事

    正直私の平凡すぎる職業や給与、生活に嫌気がさし、こういう世界にいる人に興味はありました。
    お金稼げるし!もしかしたらいい出会いがあるかもしれないし!毎日が小説みたいな日々で面白そう!と。

    確かに一冊の小説の充分な題材になるくらいの充実度でした。普通に過ごしていたら起こらないことばかりです。
    でもそんなに甘くないなというのも感じました。
    ホームレス生活、コンビニのパン生活、レイプのような客、今日を生きるので精一杯…
    私にはそれは耐えられません。


    でも。こういう世界って意外と若い女の子には身近だと思います。
    若さがかなりのお金になるなんていい話ですし。
    普通のアルバイトの何倍もの額です。
    この本を読んだら考え方を見直せるるのではないでしょうか。
    こういうのに全く興味のない子は知らなくていい世界なので読まなくてもいいと思いますが、少しでも興味ある人、または現在進行形でこういう仕事をしている子に読んでほしいです。
    こういう生活を否定するわけではないですが、考え方が変わる、いい本だと思います。



    とにかくこれは私好みの考えさせられる本でした。

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著者プロフィール

1979年東京都生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞。13年に『海の見える街』、14年に『南部芸能事務所』で吉川英治文学新人賞の候補となる。著書にドラマ化された『感情8号線』、『ふたつの星とタイムマシン』『タイムマシンでは、行けない明日』『消えない月』『神さまを待っている』『大人になったら、』『若葉荘の暮らし』などがある。

「2023年 『トワイライライト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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