平成くん、さようなら

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909233

作品紹介・あらすじ

社会学者・古市憲寿、初小説。安楽死が合法化された現代日本のパラレルワールドを舞台に、平成という時代と、いまを生きることの意味を問い直す、意欲作!平成時代を象徴する人物としてメディアに取り上げられ、現代的な生活を送る平成は合理的でクール、性的な接触を好まない。だがある日突然、平成の終わりと共に安楽死をしたいと恋人に告げる。彼女はなぜ彼が安楽死をしたいかわからない、受け入れらないまま、二人は安楽死の現場を見たり、ペットの猫の死を通して、いまの時代に生きていること、死ぬことの意味を問い直していく――。

感想・レビュー・書評

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  • 社会学者である古市憲寿さんが書いた小説です。
    以前からテレビでみかける度におもしろいコメントをする方だなぁーと好感を抱いていて、独特な価値観にもめちゃくちゃ共感できる同じにおいの人間だと思ってました。
    初の単行本がでるとのことで、とても興味深く心待ちにしていましたが、これが大当たりでした。

    舞台はまさに平成が終わろうとしている日本。実在する有名人やテレビ番組、ファッションブランド、サービスや製品の名前がたくさん出て、現代のトレンドが嫌でもよく分かる。
    しかしこの世界では安楽死が制度として認められており、パラレルワールド、あるいは近未来のような日本だった。
    1989年1月8日生まれで「平成(ひとなり)」という名前をもつ平成くん。ゆとり世代やさとり世代といった"平成の代表"としてマスコミでひっぱりだこの彼は、「平成の終わり=自分の終わり」という考えから安楽死しようとしている。
    そうして安楽死の現場へも精力的に取材に出かける平成くんを、同棲中の彼女(平成くんは彼女と認めたがらない)である愛が、どうにか説得して食い止めようとする話です。

    安楽死が合法化されている日本、素晴らしいな。静岡にあるという安楽死のためのエンターテイメント施設"ファンタジーキャッスル"、行ってみたい。童話の世界の中に登場するようなお城の中で、パーティーを開くように死んでいけるって最高じゃない?死ってもっとハッピーなものであるべきだって私もずっと思ってた。
    クールで合理的でつかみどころのない平成くんが、嬉々としてその様子を語る姿がとても可愛かった。そんな平成くんを大好きで死んで欲しくないと思い悩む愛ちゃんも可愛い。
    というかこの小説全体が可愛い。チームラボボーダレスの表紙も可愛いし。性癖どストライクすぎた。
    Google Homeとスマートスピーカーという平成を代表するようなトレンドアイテムが、この小説の重要な鍵になっているのにも完成度の高さを感じた。
    「ねえ平成くん、」とどうしても呼びかけたくなる。

    平成生まれの私は、"平成最後の"という今年連日くりかえされる枕詞が嫌いだった。
    平成最後の夏って何?平成最後の夏だから何なの?毎年毎年の夏が二度と巡ってこない最後の夏なんだが?と思っていた。平成最後がナンボのもんじゃいと。
    だけどこれを読み終わって"平成最後の"が、どういうものなのか少し分かった気がした。時代が、終わるのだ。"平成"という時代として終わり、残り、保存され、歴史となって、語り継がれていく。
    平成という時代が、まさに終わるときに、平成という時代として、生まれるのかもしれないと思った。

  • 平成くんは安易に安楽死を求めているのではなく,事情があり,それが彼女との行為を嫌う理由でもある。猫の死も辛いのに恋人の死はなおさら耐え難い。残されたスマートスピーカーの声が虚しい。

  • テレビで見る飄々とした古市さんにしてやられた感!胸がぎゅっとなるラスト。恋愛小説としても素敵な作品。

    安楽死の是非を問うている。
    死の選択は、いつ、どの親から生まれるのかを選べないのと同じで、本人だけで決定できないものだ。
    生と死は、当人のあずかり知らぬところの領域。

    医療が発達し超高齢化を迎えたこの時代に、だれもが対峙しなければならない問題を提起している。
    都会的に、軽やかに。

  • 古市さんってこんな文章書くんだなって思った。TikTokやTwitter、OneDriveなど、現代(平成?)を象徴するような単語が使われていた。内容は面白かった。性描写がいかついのでばあちゃんに貸そうと思ってたけどやめます。

  • 女子に半ば無理やり渡されて読んだ。

    まさかのエロ要素に安楽死要素。

    どう解釈していいか色んな意味で分からなかった。

  • 話題の社会学者・古市憲寿さんの処女小説にして芥川賞候補作ということで、これは読まねばと手に取った次第。小説としての完成度が高いのはもちろん、平成という時代の空気感が非常にうまく描かれている。安楽死が合法化されたifの世界の思考実験も面白く、著者のやりたいことがすごく明確な1冊だなと思った。特に印象的だった3点について、思いついたことを書いてみる。

    《平成という時代の空気感》
    ファッションブランドや店舗名など、頻出する固有名詞が時代感を作り上げているといろんな批評で書かれていた。登場人物としても旬の人々が取り上げられており、そもそも主人公である平成くん自体、古市さんが自分自身を描いているとしか思えないほど「リアル」に寄せてある。政情についても「この国では、人が死んだ時だけは、あっさり物事が動くからね」などとシニカルな視点で語られ、平成という時代自体を舞台装置として遊んでしまう斜に構えたスタイルにこそ「さとり感」が溢れている気がして、すごくいい。

    最新ガジェットを当然のように使いこなす生活描写は、SFとまではいかない程度の近未来的なリアリティがある。「グーグルは僕そのもの」と語る平成くんがグーグルアカウントのパスワードを愛ちゃんに渡すシーンも、平成を描く物語だからこそ究極の愛情表現として機能している。そんなフィクションとノンフィクションの境界が絶妙な世界がしっかりと作られているので「時代の代弁者である平成くんが、平成という時代の終わりとともに自分を終了させる」という突飛なストーリー設定も、ありえなくはないかも…と思わせられた。

    《安楽死にまつわるifの世界》
    「安楽死」はこの小説の重要なテーマだと思われる。実際に、ある女性の安楽葬の光景やエンターテインメント型安楽施設など、安楽死が合法化された世界という舞台設定で様々なフィクションが描かれる。さらに社会学者である著者の豊富な知識によって、今現在行われている安楽死にまつわる論点がそのまま物語の肉付けとしてうまく機能している。ただ、安楽死そのものの是非を問うことにこの小説の焦点があるわけではない。

    本文中に「人間はまだ少しも死を克服できていない。不慮の事故ならわかるけど、寿命や本人が決めたはずの安楽死でさえ、その死に人は嘆き、苦しむ。」とあるように、平成という時代における「死」についての空気感は、近代までの日本の死生観からそれほど大きくは変わっていない。ただ、確実に延命技術や医療環境は進化しており、いわゆるパラダイムシフトの真っ只中にある平成という時代を描くため、道具立てのひとつとして「安楽死」が扱われているような気がした。

    取材を重ね、様々なデータを元に合理的な観点から「死」と向き合おうとする平成くんに対し、「私は平成くんのことをずっと忘れたくない。だって私の一部はもうすでに君なんだから」と、どこまでも人間的・感情的に「死」の悲しさを訴えていく愛ちゃん。それぞれの死生観をぶつけ合ったあとで生まれる物語のエンディングは、意外性もあって新しいなぁと思った。

    《どこまでもチャーミングな平成くん》
    物語は一貫して愛ちゃんの視点から語られている。その目線を通すからかもしれないが、平成くんがとてもかわいく思えてくる。本来なら、聡明で、合理主義的で、シニカルな男など憎たらしくて仕方がないだろう。実際、飼い猫のミライを愛ちゃんの許可を得ずに勝手に安楽死させてしまう平成くんはサイコパスと言ってもいいし、合理主義を完璧に実践してしまうと、こういった描写ばかりになる気がする。

    それでもなお平成くんがチャーミングなのは、平成くんが完璧ではないからだ。彼の中で筋が通っているはずの考えも、社会一般で通用するかといえばそうではない。むしろ、主張を重ねれば重ねるほど、屁理屈ばかりを言うダメな子のように見られがちだ。さらに、旧友の牛来くんによれば、平成くんは「ああ見えて、彼は直感と五感に左右される人間」なのだと語られる。確かに、合理主義に徹しきれない人間らしさが、物語の随所でポロポロとこぼれている。平成くんが死のうと思った本当の理由が終盤に明かされるが、そこすらも臆病さが先に立っていて、非常に人間くさい。そもそも、愛ちゃんを残して死ぬなどと一貫して頑なであるところや、最終的な(ある意味身勝手に思える提案による)落としどころなども、かなり独りよがりでわがままで、人間らしいといえば人間らしい。

    そんな平成くんも、愛ちゃんとのパワーゲームにおいては、彼女の感情のごり押しによって度々流されてしまうことがある。温泉で混浴を迫られると、文句を言いながらも結局愛ちゃんに負けてしまうし、タワーキングの部屋でのベッドシーンなどは、完全に補食される側に収まっている(おそらく、セックス描写に関しては肉食女子と草食男子という構図や、女性主導の行為によって現代的な性の解放を描きたかったのかな、と思う)。

    また、(スマートスピーカー的なキーワード効果を狙っているのだろうが)「ねぇ、愛ちゃん」「ねぇ、平成くん」とお互いに語りかける台詞も頻繁に出てくるように、平成くんの口調は穏やかで優しい。決して乱暴をしないし、汚い言葉は使わない。かといって、デートでエスコートをするわけでもない。旧時代的なジェンダーロールはおそらく意図的に排除されていて、「男らしさ」のようなキャラ付けから自由である平成くんにかわいらしさが付与されるのは、それほど不自然なことではない。
    ある意味こじらせ男子とも言える平成くんのキュートさこそ、この小説のいちばんの魅力だと思う。



    固有名詞やテクノロジーで平成という時代のアウトラインをなぞり、普遍的な「死」をテーマに平成を生きる人々の価値観を探り、平成くんと愛ちゃんという平成代表人物の生態をシニカルに描き出したこの小説は、一貫して「平成を描く」ことを念頭に書かれている。一方、2019年4月という平成の終わりも着実に近づいている。

    作中には、「殯(もがり)」という葬儀儀礼についての言及があった。「死者の復活を願いつつも遺体の腐敗、白骨化などの物理的変化を確認することにより、死者の最終的な「死」を確認すること」だそうだ。

    平成という時代が終わるこのタイミングでこの小説が読まれることは、平成を看取る僕らにとっての「殯」となるのかもしれない。


  • 安楽死をテーマに書かれた本の1つとして、ずっと読んでみたくて、やっと読めた。
    話の最後の終わり方が悲しかった。
    でもそういう生き方もありなのかもしれない。

  • テレビではよくお見かけするけど、はじめて古市さんの本を読んでみた。
    平成くんから安楽死を考えていると打ち明けられるところから始まる。色んな場合に「安楽死」が法的に認められている日本という設定は興味深かった。でもかなり不気味でこんな世界にはなってほしくないな。
    途中まで面白かったけど、終わりに行くにつれてストーリーが散らかってしまっているような印象があった。

  • 社会学者である古市憲寿さんのデビュー小説。第160回芥川賞候補作で、『ニムロッド』や『1R1分34秒』に敗れている。

    安楽死の認められる平行世界の日本で、社会的な成功を収めているものの、若くして死を希望する平成(ひとなり)君。彼は平成とともに生まれ、平成時代の終わりと共にこの世を去ろうとする。その彼女である「私」が平成君を死なないようにと説得する。はたして平成君はどうするのか。

    安楽死がひとつのテーマで、死を扱うわりにはタッチが軽かった。都会的で洗練された暮らしをさらりと描いたのかもしれないが、死と真正面から向き合っているかというと、どうだろう。薄めたビールみたいだと思った。

    なにかわからないけど何かが足りない。

  • 最後のシーンがとても非現実的でしかも未来的で綺麗で良かった

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著者プロフィール

1985年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。2011年に若者の生態を的確に描いた『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。18年に小説『平成くん、さようなら』で芥川賞候補となる。19年『百の夜は跳ねて』で再び芥川賞候補に。著書に『奈落』『アスク・ミー・ホワイ』『ヒノマル』など。

「2023年 『僕たちの月曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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