跳ぶ男

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 78
レビュー : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909509

作品紹介・あらすじ

藩の命運をかけ、少年は舞った。荒涼たる土地に生まれた十五歳が、芸によって摑んだ一筋の光。土地も金も水も米もない、ないない尽くしの藤戸藩に、道具役(能役者)の長男として生まれた屋島剛は、幼くして母を亡くし、嫡子としての居場処も失った。以来、三つ齢上の友・岩船保の手を借りながら独修で能に励んできたが、保が切腹を命じられた。さらに、藩主が急死し、剛が身代わりとして立てられることに、そこには、保の言葉と、藩のある事情があった――。直木賞作家の新たなる代表作!

感想・レビュー・書評

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  • 大名家の「能」を舞台とした時代小説。

    始めは戸惑う。とにかく能について延々と語られる。
    しかも舞う姿/謡う姿のような外見上のものでは無く、その精神世界・内面を言葉で表現しようとする。少し北方謙三に似た強く厳しい文体を使い、"軸""変われる者""能を能にしているもの"など、様々な表現で「能とは」を突き詰めて行くのだが、概念であるために(特に能に全く無知な私には)言いたい事が理解できているのか不安になる。
    先日読んだ『蜜蜂と遠雷』で恩田陸さんが音楽を言葉で表現しようとした試みを思い出す。

    主人公だけでなく端役に至るまで全ての登場人物が張り詰めている。それぞれが目指すことに真摯であり一点の緩みも無く突き進む。偏執的とさえ言える。そんな中、物語がどこに進むのか戸惑いながら読んだ最後の数10ページ、主人公が出す結論は圧巻。
    そんな真摯な人間ばかりなんて事は有り得ない。だからリアリティに欠けると言うことも出来る。しかし、そんな批判を超えて見事に物語は完成する。

    かつて葉室麟さんが作品の多くに和歌を持ち込んだことを思い出し、読みながらちょっと気になったのです。葉室麟さんの和歌は最初は特徴と言えたのですが、多作に走ってからはむしろ安易なマンネリ感の方が強かった。
    しかし、この作品の能はそれとは違うようです。執筆に2年、苦しみながら精緻に仕上げられた作品です。

  • カテゴリー的には時代小説なんだろうけど
    ファンタジー的な要素もある。
    (決して否定的な意味ではなく)

    賽の河原のような野宮と
    後半の江戸城中の対比、
    能のテキストの解釈など非常に
    興味深い。
    (能を観たこともない人には理解し難い気もするけど)

    ラストは鮮やか。

    重要登場人物の名前が
    全部、能の曲名なので重要度が最初に
    分かってしまう難点もあり(笑)

  • 何と言ってよいのか、どう説明したらよいのかわからない本である。
    「能」を語っているのか、「運命」を語っているのか、それとも「美」や「信仰」を語っているのか。
    言葉にすることで、そうでなくなってしまう何かがあることをどうやって言葉にするのか、ということについて考えさせられる一冊であった。
    それが、古典や伝統と対峙するということの醍醐味であるのかもしれないけれど。

    頭に浮かんだのは『華麗なるギャッツビー』であった。

  • 「ちゃんと墓参りができる国にしたい」との思いで
    藩主の身代わりを務める剛。

    内容が能なので、わかりにくかった。

  • 題材がシブい。
    男の友情に殉じる藩主の生き様。
    ラストもまた格好いい。

  • 何かの書評で絶賛されてたのに、まったく内容に関して忘れて読み始めたら、まさかの時代物。そしてまさかの能の話。そして、まさかの涙。退屈だと思ってた能を改めて見たくなりました。

  • 土地が狭く、墓地さえ作れない貧しい藤戸藩。
    道具役(能役者)の長男・剛は、嫡子としての居場所を失い、ひとり能の稽古に励む。
    その後、急死した藩主の身代わりとなるよう頼まれる。
    剛の能が評価されれば、将軍との「結び目」もあるかもしれない。
    貧しい藩が生き延びるため、剛は舞う。
    15歳で重責を担う。
    改めて厳しい時代だと思う。
    剛はどのように舞ったのか、観たかった。
    能について調べて、観て(動画)、再読。

  • 「能」がストーリーの全てに関わっているので、能の知識のない自分は読むのに難儀した。

  • 跳ぶ、とは能の所作の意。
    能役者の話なのだと思って読み進めると、藩主のお家騒動の話に進展していって驚かされる。
    16歳の主人公の、己の生き方を峻烈につきつめるストイックな姿勢が物凄い。
    物事を繰り返し繰り返し考えながら歩むべき道を慎重に選んでいく主人公の思考の過程がつぶさに書かれているため、行動に移した折の読者への説得力が強い。

  • まったく能を知らないからだろうか、能が藩を立て直す手段と成りうる設定が斬新というか独特という感想を持った。
    主人公・剛は亡き藩主の身代わりに抜擢される16歳。彼は貧しい藤戸藩お抱えの道具役(能役者)の長男だが、幼くして実母を亡くし、嫡男としての居場所を失い独学で能を学んでいた。彼には三歳年上で俊傑と評され「藤戸藩をちゃんとした墓参りができる国」にしたいと願う友・保が居た。能の師でもあった。ところが保は刃傷沙汰を起こして切腹。そこで、保の替わりに目付の又四郎に見込まれたのが剛だった。何故かというと、大名能を利用して藩を改革しようという思惑があったからだ。迷った末に剛は藩主の身代わりを受けようと決める。

    又四郎は剛に城での心得などを教え説く。その中で「藩士にとって大事なのは一に御家であり、御家をつないでこそ藩主である。忠義を尽くすべきは御家に対してであって主君ではない」という言葉が新鮮に感じられた。君主とのつながりこそが武士にとって一番と習ったのではなかったのか・・・。
    能が行き着くべきは酷い老いを越えてなお残る美というのを知ったのは嬉しい。一度は舞台を覗いてみたい。
    招かれて能舞台を演じることで、剛自身も成長を遂げ藤戸藩に生きる人々の苦しみを救いたいと変わる心情を説明するために、能は大きな役割を成す。そのために本文にはたくさんの能の演目やエッセンスが語られている。能に暗かった私は興味深く楽しく読めた。しかし、量が膨大で最後辺りは付いていく気持ちが萎えていった。もう少し刈り込まれた方が、ぴりっと締まるのでは?

    剛は「貧しい外様の国の藩主が将軍に貸しをつくり、参勤交代と御手伝普請の免除を引き出して、藩政改革へつなげる」解決方を見出した。それは大名能を利用するにはするが意外な方策! 保は「思い切ったことをする」と剛を推したが思わぬ収束に、読者はたじろぐだろう。「跳ぶ男」のタイトル通りの美しい舞に賞賛するけれども、同時に、16歳の若者に命を投げ出さねばならないような使命を課すなんて・・・。
    痛ましいとも思える。

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著者プロフィール

青山 文平(あおやま ぶんぺい)
1948年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。経済関係の出版社に18年勤務したのち、フリーライターに。
1992年、「俺たちの水晶宮」で第18回中央公論新人賞を受賞(影山雄作名義)。2011年『白樫の樹の下で』で第18回松本清張賞を受賞。評論家の島内景二氏は青山文平を60歳を超え遅れてきた麒麟児と呼んだ。
2014年『鬼はもとより』が第152回直木三十五賞候補となる。2015年、同作で第17回大藪春彦賞受賞。2015年『つまをめとらば』で第6回山田風太郎賞候補、第154回直木三十五賞受賞。以降、『半席』『励み場』『遠縁の女』などの作品を刊行。

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